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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.63 暑~い夏はこの文具で乗り切ろう!(その2)

文具のとびら編集部

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は、暑い夏に使いたい、おすすめの文房具をブング・ジャムのみなさんに紹介してもらいました。

第2回目はきだてさんおすすめの「海のクレヨン」です。

(写真右からきだてさん、他故さん、高畑編集長)*2021年11月9日撮影
*鼎談は2022年5月27日にリモートで行われました。

衛星画像から世界各地の海の色を抽出した異色のクレヨン

海のクレヨン1.jpg海のクレヨン」(スカパーJSAT)

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――では、きだてさんお願いします。

【きだて】俺は、スカパーJSATというところから出てる「海のクレヨン」という超絶おしゃれなやつ。実は以前から衛星画像の民間利用について取材をしたこともあって、いろいろと気になる製品ではあったのね。

【高畑】へぇ~。

【きだて】宇宙関連のサイトでお仕事もらってた時期があってね。青森で、人工衛星で田んぼを監視して作ったお米というのがあって、それのお話を聞きに行ったり。「青天の霹靂」というお米なんだけど、人工衛星からの映像で病害虫を察知したり、収穫のベストなタイミングなんかも分かるんだよ。青森産米で初めて「特A米」って最高ランクがついたんだけど、本当においしいお米なの。

【他故】ふむ。

【きだて】あとは、ホタテの養殖も、海水の温度を人工衛星から監視して、育てるのに最適な環境を見分けるとかね。他にも鉱物資源を探したりとか、とにかく人工衛星の画像を民間で利用するってのがいま色々と進められてるんだ。

【他故】はいはい。

【きだて】スカパーって衛星放送の会社でしょ。そのグループ会社のスカパーJSATというのが衛星画像の民間利用を進める会社らしいんだ。で、スカパーJSAT内のプロジェクトとして生まれたのが、12色セットのクレヨンというわけ。いかにもクレヨンっぽい原色が1つもないんだけど、これ全部が人工衛星から見た海の色という。

【高畑】うん。

【きだて】クレヨンってラベルに「○○いろ」って書いてあるじゃない。それに倣うと全部「うみいろ」なんだけど、実際には数字が8桁+8桁ぐらいの数字が並んでて。これがその色をピックアップした緯度と経度っていうのがシャレてるよね。

海のクレヨン2.jpg【他故】あ~なるほどね。

【きだて】普通に子どもに「海の色ってなにいろ?」って聞いたら、青色って答えると思うのね。でもこの12色の中には濁った赤茶色みたいな、海の色とは認識しづらい色もあって。でも「これも実は海の色なんだよ」ってGoogle Earthで緯度経度を入れて見せてあげたら、すごく興味持ってもらえそうじゃない。

【他故】はいはい。

【きだて】ちなみにこの赤茶色というのが、いま問題になってるウクライナの「腐海」と呼ばれる海でね。水深がめちゃ浅いので、夏場になると水が蒸発して塩分濃度がすさまじく高くなる。で、塩分濃度の高いところで大量発生する藻がβカロチンを生成するから、この赤茶色になるんだって。

【他故】なるほど。

【きだて】他にも、これはキリバス諸島の海の色なんだけどね。キリバスってもう間もなく国土が海に沈んじゃうと言われてて。実際に国内唯一の有人島は中央から海に沈んでいって、今はもう島のフチがドーナツ状に残ってるだけなのね。その島中央の海の色がこれです、っていう。大人が普通に聞いても「へえー、そんな場所があるんだ」って驚きがあるでしょ。そりゃ子どもと一緒に見ていったら、さぞかし面白かろうなと。

【他故】うん、面白いね。

【きだて】そういう意味では、教育的というかね。

【高畑】これは、「ほぼ日の地球儀」と連動してほしいね。

【他故】ああ、そうね。

【高畑】こういう企画があってくれるとうれしいな。緯度と経度が書いてあるけど、それを見ただけでピンとくる人は少ないじゃん。そこに、この間発表されてた、デンソーウェーブの細長いQRコードを印刷したらいけそうじゃん。

【きだて】あーはいはい。あれならクレヨンにプリントできるか。

【高畑】あの地球儀のARの中でそれをかざすと、「ここだよ」ってちゃんと教えてくれるとかさ。

【他故】でも、そのパッケージの中にあるQRコードを拾うと見られるんじゃないの?

【きだて】このQRは公式サイトに飛ぶだけ。

【他故】サイトに飛ぶだけなんだ。

【高畑】要は、このクレヨン1本1本の色がどこのなんだろうというのがさ、「ほぼ日の地球儀」でこの辺りだよというのが見られるとね。

【他故】このQRでは、そこまでの情報は見られないんだな。

【高畑】このサイトの写真も、下に地図もあるしすごいいいんだけど、グローバルな場所で「どこ」というのがイメージしづらいから。地理的感覚が分からないと、最近だってニュース見て、いきなりウクライナと言われても、「ウクライナってどこだっけ?」となるから。

【きだて】難しいのは、地球儀って解像度が低いじゃない。

【高畑】地球儀でこの色は見えないとして、地球儀上で「ここだよ」というのを指し示してくれれば。今は、いろんな情報が探すのが簡単になってるので、せっかく緯度と経度が数値化されているから。「ほぼ日の地球儀」で、かざすと出てくるコンテンツがあるじゃん。映像コンテンツみたいな。

【他故】あるね。

【高畑】そういうので出てきてくれると、「ああ、この海なんだ」とか「赤いのはこういう理由なんだ」というのがあると「へえ」って思う。そういうところに行くといいな。

【きだて】確かに、それはちょっと思うね。

【高畑】さっきの雨の日のインクも、すごいコンセプチュアルなアイテムだと思うけど、これも「海の色」と言いつつ、「こんなに色々とあるよ」というのもそんな感じじゃないですかね。

【きだて】実際に塗ってみて思ったのが、さすがに全色海の色だけあって、何色か適当にザーッと重ね塗りするだけで、ちゃんと水の表現になるんだよね。

海のクレヨン4.jpg【他故】へぇ、そうなんだ。

【きだて】ものすごく簡単。

【高畑】そういうものなんだね。

【きだて】ちょっと青系とか、それこそさっきの赤みたいなのを濁らせて入れても、ちゃんと水っぽくなるというか。

【高畑】これは、「おやさいクレヨン」と似てる気がするけど、同じところが作ってるの?

【きだて】多分、違うと思う。

【高畑】さすがに「おやさいクレヨン」は野菜の色素だけどさ。ニュースで見たときに、これは「海から抽出した色」って書いてあって、どうやって抽出するんだって思ったので。

【きだて】基本的に海水に色素はないからな。

【高畑】衛星から見ると赤いけど、手ですくったときに赤いわけじゃないじゃない。

【きだて】あと、なんか変なこだわりなんだけど、海の色のクレヨンだからってことで、油分に油分に魚の油を使ってるらしいの。

【他故】ほぉ~。

【高畑】「DHAがいっぱい含まれているよ」みたいな(笑)。

【きだて】ははは(笑)。

【高畑】よく、米の油を使うとかはあるけど。

【きだて】こだわりとしてマグロとかカツオの油を少し配合した、とはリリースに書いてあったよ。

【他故】あっそう、へぇ~。

【高畑】触ると鯖臭いとかはないの?

【他故】ははは(笑)。

【きだて】臭いはしないんだよ。

【他故】そこまではないよね(笑)。

【きだて】あんまりよく分からないこだわりだけど(苦笑)。

【他故】「食べても大丈夫」みたいな安全性の話とは違うの?

【きだて】一応、それ以外の油は、カルバナワックスと食用油って書いてあるから、口に入れても大丈夫だと思う。

【他故】うん。

【きだて】それは最近のトレンドというか、基本になりつつあるよね。

【高畑】今は、口に入れてやばいやつはクレヨンではないからね。

【他故】まあ、そうだろうね。

【きだて】そういえば最近、木材から抽出したクレヨンってどこかで出てなかったっけ? フェリシモ?

【高畑】それ見た。あれこそ「おやさいクレヨン」に近いんじゃないかな。色素として何から取るかという話じゃない。「木材から抽出したとは思えないカラーバリエーションで、何でも書ける」みたいなことが書いてあったけど、全部茶色だったというさ。

【きだて】まあでも、そういうストーリー性があった方が、楽しいっちゃ楽しいよね。

【高畑】子どもの時に、何でも描けるというのも大事なんだけど、大人になると「この絵を描くために全部の色が必要」というのは全然ないじゃん。それじゃなくて、クレヨンを買って、それで絵を描くというのが、「絵画を今から学びたい」だったら、「普通に、12色のクレヨンを買ってこい」と言えばいいじゃない。

【他故】うん。

【高畑】そうじゃなくて、大人になってから、色というものを、どう遊ぶかという。それは、他故さんのインクもそうだと思うんだけど。今さら何の色かというのをちゃんとやりたいんだったら、それこそ万年筆で、カラーンインクを集めるのは大変だけど、色相と彩度でどうにかするというのは、いくらでもあるけど。そうじゃなくって、「雨の色はこうだよね」とか、「海の色ってこうだよね」ということに思いを馳ながら、必ずしも「書きたい」絵に合わなくても、「描いていると気持ちがいいよね」っていう道具かなとは思うので、それは全然アリかな。

【きだて】この感じで他にもできないかなと思うんだけどね。

【高畑】「野菜から抽出」とか「木から抽出」だと素材の問題があるけど、衛星写真から採ったのなら別にできなくはないじゃん。

【きだて】まあ、どうにでもなるんだろうな。

【高畑】だから、きだてさんだったら、何をテーマに色を集めるかだよね。

【きだて】うーん。

【高畑】それこそ、鉄道会社の色とかあったじゃない。今回は、あえてそれを衛星写真にしたところがあれだと思うけど。「きだてさんプロデュースクレヨン」だったら、何の色にしたいかというところだと思うんだよ。

【きだて】う~ん、衛星写真となると、「海のクレヨン」以上のインパクトはない気もするんだよ。難しいね。

【高畑】衛星写真じゃなくてもいいんだけど。色って、もはや色素と彩度と明度の話ではないと思うんだよ。だから、何をもって色をコーディネートするかとかを詰めてきたところにセンスが問われる感じかな。何だったらいいんだろうね。

【他故】何だろうね?

【高畑】「何でもいいから、プロデュースしたら作ってあげるよ」って言われたら、どうする?

【他故】「何でもいいから」(笑)。

【高畑】「好きなもの何でも作るよ。色を選んで」って言われたら、何の色で作ったら面白いかな。

【きだて】とりあえず、色のバラエティがなくても、ストーリー性があればウケるというのが分かってるので。とはいえ何だろうな?

【他故】何だろうね?

【きだて】う~ん、今パッとは思い浮かばないな。そういうストーリー性の色の極北は、全12色が肌色の色鉛筆とかあるじゃない。

【高畑】あれはすごいよね。肌色はいっぱいあるからね。

【きだて】それこそ、クレオラが何年か前にクレヨンで肌色シリーズを出してたね。色鉛筆だけじゃなくて。そこまで政治的じゃなくていいんだけど、何かメッセージ性があってバズりそうな色は何だろうね?

【他故】メッセージ性か、何だろうね?

【きだて】ムズいな。

【高畑】そういうところでいくと、これは上手いんだろうな。上手いことテーマを見つけたなという感じだね。もちろん、自分たちが衛星を使っている会社だからこそだけど。

【きだて】自分たちの強みで、上手いこと作ったという気がする。

【他故】そうだね。

【きだて】パッケージもおしゃれなんだよ。

【高畑】あー、パッケージの表紙に穴があいてるんだよね。

【きだて】中の写真の色が透けて見えるという、この辺の上手さもなんだけど、本当におしゃれなのを作ったなと。

海のクレヨン3.jpg

【高畑】「文房具総選挙」の大賞はそれなんでしょ。

【他故】そうそう。

【きだて】さすがにこれは1位になるとは思ってなかったので、ビックリしたんだけど。

【高畑】こういうのは票が集まるんだよね。他のに比べて「おっ!」て思うから。

――でも、クレヨンの色がきれいですよね。

【きだて】うん、良い色ばっかりで、結構深いグラデーションになってるのが面白いよね。これは、重ね塗りして海っぽくするのがおすすめ。

【高畑】それで描かれた作品って、どこかに出てたりするの? 描いたものがアップされたりするといいよね。

【きだて】「海のクレヨン」のサイトに、クジラの絵があるんだけど。

【高畑】せっかくだから「こんな絵が描けるよ」って載せてほしいよね。コレクションとして置いておくだけじゃなくて。

【他故】でも、ギャラリーのページがあるね。

【きだて】そう、チラッとだけあるね。

【他故】それで、下の方に「もっと見る」というボタンがあって、それをクリックすると、「ユーザー」から寄せられた絵というのが、5点ほど出てくるね。

【きだて】それをもうちょっと見たいね。せっかくだから、海の絵がもうちょっと載ってると面白いな。

*次回は高畑編集長おすすめの「クラッシュメトリック スイッチペン」です。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」が好評放送中。ラジオで共演しているふじいなおみさんとのユニット「たこなお文具堂」の著書『文房具屋さん大賞PRESENTS こども文房具 2022』が発売中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


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