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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.99 ブング・ジャム注目の"切る"アイテム その1
本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は、ブング・ジャムのみなさんに注目の“切る”アイテムを紹介してもらいました。
第1回目は高畑編集長が紹介する「サクサ」です。
(写真左からきだてさん、高畑編集長、他故さん)*2024年11月9日撮影
*鼎談は2025年5月31日にリモートで行われました。
はさみ界の大発明!
――今回は、刃物系の気になるアイテムをご紹介いただきます。まずは、高畑編集長お願いします。
【高畑】コクヨの「サクサ」です。
「ハサミ〈サクサ〉」(コクヨ)*関連記事
――「サクサ」はリニューアル版ですよね。
【高畑】リニューアル版です。実はそれが2つあるんだよね。
【きだて】カーブ刃タイプと直線刃タイプだよね。
【高畑】そうそう。で、非常に分かりにくいのは、コクヨはこれを新しい名前ではなくて、「サクサ」がそのままリニューアルされたというかたちにしてるんですよね。なので、「特別な新しい製品『ハコアケ』ができました!」みたいな話とは全然違っていて、あくまで「今まで通り『サクサ』です」みたいな顔をしているっていうのが、今回ちょっと変わってるんですけど。だから、「サクサ」がリニューアルされて2つになってます。1つは、「サクサ」で今まであったいわゆる“ハイブリッドアーチ刃”っていう、先端部分がちょっとクイッと開いているタイプですね。
【他故】はいはい。
【高畑】もう1個、“ストレート刃”っていうのが新しく出ていて、こっちは本当に普通のまっすぐなはさみ。という風に2種類出てるんだけど、今回特に紹介したいのは、ハイブリッドアーチの方の刃かな。ハイブリッドアーチ刃は、見た目はこれまでの「サクサ」と分からないぐらいほぼ同じなんだけれども、よく見るとこの刃がハンドルに埋め込まれている状態が若干斜めに入ってますよっていうところなんだよね。
【きだて】分かりづらいけど、気付くとなかなか面白いビジュアルだよね。
【高畑】そうそう。「傾斜インサート」っていう風にコクヨは呼んでるけれども、真上から見ると刃がちょっとねじれてるというか、ちょっとだけ斜めに刺さっているっていう状況なんだけど、それ以外のところはこれまでの「サクサ」とほぼ同じはさみです。たったそれだけなんだよね、違いはね。なんだけど、これが案外大きな違いで、パッケージには「コクヨのすごく切れるはさみ」って書いてあって(笑)。
【他故】ええっ(笑)。
【高畑】いや、「これまでのだって切れただろうよ」っていう話なんですけど。このパッケージにも傾斜インサートのことをちょこっと触れていて、「利き手問わず」って書いてあるんだよね。そこがまあ大きなポイントで。左利き用のはさみっていうのを、はさみメーカーはよく用意したりするんですけれども。
【きだて】そうだね。
【高畑】これは左利き用のはさみを用意せずに、右利き用のはさみなんだけれども左利きの人でも切りやすいかたちになってますよと。で、何が違うかっていうと、そもそもはさみって、真正面に向かってるときにはちゃんと切れるんだけど、ちょっと傾いたりしたときに、傾いて大丈夫な向きと傾くとダメな向きがあって、普通右利きの人ははさみを持ったときにちょっと手が開くというか、手の軸に対して外に開く(時計回りに少しひねる)角度で持ちがちなんだけど、この状態だとすごくよく切れるので問題ない。でも、これを内側に倒す(反時計回りにひねる)方向に傾けると、すごく切れが悪くなってしまう。刃と刃の間に紙が入り込んで切りにくくなる。
【他故】ああ、そうかそうか。
【きだて】布とか薄いフィルムみたいなコシのないものほど、よくそうなるのよね。
【高畑】そういうことだね。特に、左利きの人が持ったときに、右利きの人と同じように外に開いて持ってしまうと、右の人が持ってるときと反対側に刃が傾いてしまう。反時計回りに傾いてしまうのよ。ただでさえ左利きの人っていうのは、刃と刃をすり合わせる力が弱くなりがちなんだけども、その上でさらにそれが切りにくい方向に傾いてしまうので切れにくくなる。なので、最初からちょっとだけ時計回りに刃を傾けておくことで、手の傾きをキャンセルしてよく切れるようにするっていう。まあ、ちょっとしたトリックみたいな話なんだけれども。これをすることによって、左利きの人が持ったときにも切れない方向に傾かないので従来より切れやすくなる。これで左利きの人でも、普通の右利き用はさみに比べたらよく切れるよということになった。
【他故】なるほど。
【高畑】子ども用のプラスチックはさみとかでやるとよく分かるんだけど、はさみって真正面っていうか、紙に対して直角に立ってるときは割とよく切れるんだけど、これが左側に傾くと途端に切れなくなるっていう現象が起こるんだよね。そういうのを起こさないようにするっていうのを、はさみの側でやってるということだね。
【他故】へぇ。
【高畑】すごいのは、はさみの左利き問題っていうのはずっと昔からあって、左手用のはさみを用意するだったり、すり合わせをきつくして左手でも右手でも関係なくするとか、いろんな方法があったんだけど、これは小さな工夫というか、ちょっと傾けただけなんだけど、左利きでも切れるようになるというのがすごいところで。で、見た目変わらないし、右利きの人が使う分には何ら困るところがない。一般的な左利き用のはさみって、右利きの人が持つと全然うまく切れないんだけど。
【他故】ああ、そうね。
【高畑】このはさみはそうじゃなくて、基本構成は右利き用なんだけど、左手でで持っても大丈夫だし、右利きの人がこれまで通りに使えば、意識せずに使えるよというのがいいところかな。
【きだて】結局のところ、はさみっで切ろうとするときは、切っ先からの切り線を見たいんだよね。だからどうしても、体に対してはさみを開いてしまうという。
【高畑】そうだね。
【きだて】その辺りを物理的に解決するやり方としては、わりと力尽くというか暴力的なんだけども、まぁ正しいよねっていう。
【高畑】暴力的なのかな。それは分かんないけど、上手いというか。これまではユニバーサルデザインとかっていうと、何かヘンテコな、例えばカスタネットのかたちにしましたとかで、それって右利きの人もそんな使いやすくなってないじゃん。どっちでも平等には使えるけども、平等に不便みたいな状況っていうのが起こってしまったりとか。あと、逆に左利き用のものを用意した場合は、右利きの人が使えないので、両方用意しておかなきゃいけないから2丁用意しないといけなかったのが、1丁でカバーしつつも不便なところがないのがいいかな。あとこれは、説明が要らないんだよね。
【きだて】普通に使うだけで効果が出るやつだからね。
【他故】そうだよね。
【高畑】傾斜インサートってパッケージの裏には書いてあるんだけども、それって気がつかなきゃ気がつかないでいいです、よく切れるねでいいですよっていう。ほら、つい「ここがすごいんです」って書きたくなっちゃうところを、裏にちっちゃく書くだけにしてあるあたりが、まあ大人だなって感じもするし、そこが今回面白いなと思うんですね。
【他故】うんうん。
【高畑】あとこれ開発する時に、「インクルーシブデザイン」って最近よく言われるけれども、障害とかいろんな特性を持ってる人と一緒に、デザインをしていく最初の段階から、そういう人たちにも参加してもらって一緒に考える。そのことで、例えばデザイナーが考えた「こういうのがいいんでしょう」ではなくて、実際当事者的にはもっとこう、みたいな意見をくみ入れてデザインしていく。まあ割と最近のデザイン手法としてはよく言われるんだけど、それが上手くかたちになった商品かなという感じはします。
【他故】ああ、なるほどね。
【きだて】2000年代頭のユニバーサルデザインブームのときって、結局のところ誰に対しても平等に使いにくいデザインになっちゃったものも結構あったじゃない。
【高畑】そうね、それはあったよね。多分デザイナーっていうか設計者か誰かが考えた「手が不自由な人にはこういうのが使いやすいんだよね」っていう押し付けがちょっとあったじゃない。
【きだて】何がそうだったとは言わんけども、あったよ。
【高畑】別にはさみに限らずなんだけど、いろんなものでユニバーサルデザインっていう名前になったときに、「どっちも使えるように工夫しました」っていうその工夫がすごい目立っちゃう感じで。でも逆にいうと、その工夫がすご過ぎて、もう普通のはさみじゃなくなってるとか、普通の文房具じゃなくなっちゃってて、特別な何かになっちゃってたんだけど。これは見た目があまりに普通過ぎるところがいいかなと思いますね。
【他故】今までのはさみと印象変わんないもんね。
【きだて】洗練されすぎちゃったせいで、俺としてはむしろ不満というかさー。
【他故】特徴が見えなさ過ぎて(笑)。
【きだて】あのユニバーサルデザインブームの頃は、おかげさまで結構な数の文具をこう、イロブン棚へ収納することができたんだよ。ウハウハだったなぁ。
【高畑】それはイロブンとしてだよね。
【きだて】もちろん。だから、そういう意味だけで言うとやっぱりつまらないんだけど、とはいえ道具の有り様としては正しい方向でしょ。さすがコクヨはその辺りもきちんとやってるなという感じ。
【他故】うん、すごいな。
【高畑】これは一応、「利き手問わず」ってちっちゃくは書いてあるけど、あんまり過度に「左も」っていうことではなくて、「これ一丁買っときゃいいですよ」っていう、「これがスタンダードですよ」っていう風にさらっと言ってくるところがすごいなって思いますね。
【他故】うんうん。
――傾斜インサートを開発した人が、左利きじゃなかったでしたっけ?
【高畑】あ、そうなんですね。
――開発秘話にそのことが載ってたはずですよ。
だから当事者が開発したということになりますね。
【高畑】もちろん、自分が当事者だったらそれこそ早いんだけど。まあ、そういうのはちょこちょこあるけどね。それこそ油性が嫌いなのに油性のボールペンの担当にされたから、低粘度油性ができたみたいなのがあるじゃないですか。本人が切実さをもって作るっていうのは、1番分かりやすくていいかなとは思うけど。
【きだて】うん。
【高畑】はさみに関して言うと、プラスの「フィットカットカーブ」が出てきた時に、本当にすごいなと思ったんですよね。カーブさせることで、常に同じ角度で刃が当たるようにするっていう、その発想で切りやすくする。「フィットカットカーブ」も、使い方について何にも説明要らないし、これまで通り使えばいいしで。ちょっとかたちを変えただけだから、ものすごいコストアップもしてないしみたいなところで、普通のはさみがアップグレードしてるので、本当にすごいなって思ったんだよ。だから、はさみで何百年ぶりの革命って思ったんだけど、これもそれに匹敵するぐらいすごいんじゃないのかって僕は思うんだよね。ここをひねるっていう発想が本当になかったんじゃないのかなと思うので、これは左右の使い方を変える方法としては、めちゃくちゃ画期的なんじゃないのかなと僕は思う。だから、「フィットカットカーブ」以来の大発明なんじゃないのかなって思いますね。
【他故】なるほどね、そうか。
【きだて】右利きの人間にとって、じゃあ普通のはさみなのかというと、意外とそうでもなくて、薄物切りがすごい良いのよね。パッケージフィルムを切り損じにくいって言ってるけど、薄くてコシのないものを着るときって刃と刃の間に滑落することで切れなくなるみたいなのが結構あるわけじゃない。それが傾斜インサートで、上手くきつく締め付けてあるようなかたちになるので、滑落が起きにくいのよね。
【高畑】うん。
【きだて】だから、それこそプチプチのシートみたいな、ああいう普通のはさみだと結構切りづらいものでもかなり切りやすいってのはあるよ。
【他故】こういうのって、言われて試してみないと分かんないものだけど、本当に切りやすいんだね。びっくりだな。これティッシュとか普通に切れる。
【きだて】それこそティッシュなんか、1枚でも普通に全然切れるし、ちょっと傾けてもやっぱ切りやすいっていう。滑落しにくいのはやっぱすごいよ。
【他故】それはすごいね。
【きだて】紙工作のすごい人は、使い込みすぎてカシメがゆるゆるになったハサミをわざわざ取って置いて、握ったときに手の力で刃を斜めに傾けつつ切る、みたいなこともしてるんだよ。
【他故】おお。
【きだて】そういう技術を最初から製品の機能として実現してある。
【高畑】紙工作の人の普通のところがあんまり詳しくないから、そこがよく分からないけど、そういう感じなのね。
【きだて】傾斜インサートに近い状態を、ゆるいハサミと手の力でやってるんだ。
【高畑】斜めにひねって使うみたいな感じなのかな。
【きだて】そうそう、手の中でひねりを入れてたっていう。
【高畑】なるほど。
【きだて】そういう達人のテクニックが、物理的に最初からインストールしてあるっていうのもなかなか面白い。
【高畑】そういうコツみたいなものを、このはさみの中に取り込んでしまっているから、使う方としてはあんまり何にも考えないでいいじゃないですか。特に何も考えないでいいっていうところなので、そこは本当に上手くできてるなっていう気はするね。
【他故】うんうん。
【きだて】ただ、製品の段階で最初から至れり尽くせりでやってくれるから、熟練者の間に伝わるコツみたいなのが、次第に継承されず忘れられていくのかなという気はするけども。
【高畑】ああでも、それこそマニュアル車でエンジンの回転数を合わせてからクラッチを外してギア入れるみたいな。ギアを入れるときに回転数が大体合ってないとはまりませんみたいなのってさ、別に今そんなのはもうオートマチックで、それすら要らない。シフトノブさえ要らないみたいになってるけど、「じゃあ誰困ってんの?」て言ったら誰も困ってないっていう。
【きだて】そうなー、それはまったくその通りなんだ。
【高畑】そういう問題ではあるよね。そのこと自体を上手く楽しむ。逆に言うと、今その細かな違いを生かしていくような使い方をしてる人にからしたら、これだと自動的過ぎて困るみたいな何かがあるかもしれない。俺には分かんないけど。
【きだて】多分ないんだよ。
【高畑】普通に使いやすいので。若干、最初だけ気になる人は気になるかも。普通のはさみよりも若干刃が斜めになってるし、ハンドルを開いたときにちょっとだけハンドルが斜めに動くので、そこは気になる人は気になるかもしれないんですけど。でも、それがじゃあずっと気になるかといったら、まあ慣れるので。すぐにただのはさみになる。
【きだて】正直、俺も一瞬だけ「うん?」ってごく微妙な違和感があったんだけど、でももう 1 回切ったら全然平気になっちゃった。
【高畑】そうなんだよね。使うと普通のはさみなので、すごい色々工夫をしているんだけれども、「よくできた普通」っていうのができてしまった感じがするので。
【きだて】コクヨは「HASA」の時もそういう「よくできた普通」みたいな感じのことを言ってたけど(*関連記事)、そういうの好きだね。
【高畑】「HASA」001から003に関しては、これまでの伝統的な作り方のいいところというか、もう本当にセオリー通りなんだよね。過去これまでに作られてきたはさみの作り方を、事務用はさみとかで値段安くするために端折ってましたみたいなところを、「端折りません、ちゃんと作りますよ」みたいな感じで、必要な部分には必要なだけ手間をかけたりとか、材料を十分いいもの使ったりとかっていうのをやっていりということなので、あれは王道中の王道というかど真ん中だったと思うんですけど。今回のサクサは、ちょっと新しいトリッキーなやり方を入れてはきているんだよね。
【他故】うん。
【高畑】多分この勢いでいくと、これからのコクヨのはさみ全部をこれにしてもいいやぐらいの勢いで、この斜めになってるっていうのはもう普通でいいんじゃないのかっていうぐらいの雰囲気に見えるので。だから、もしかしたらこれから何年かしたら、コクヨの普通のはさみっていうのがみんなこれになっちゃってる可能性はある。
【他故】ははは(笑)、そうだね。
【高畑】前よりよく切れるようになってるみたいな。「フィットカットカーブ」も、プラスのはさみはみんなこれになっちゃったけど、誰も困ってないものね。
【きだて】そうそう。ただね、傾斜インサートとはともかくとして、実は「サクサ」はストレート刃の方がよくできてるなと思ったのよ。
【高畑】ストレート刃の方は、むしろ従来的な意味でちゃんとした普通のはさみなんだよね。
【きだて】ちょっと感動したのが、プレスリリースにも書いてたけど、先端までチョキンって切り切ったときの、その切った先っぽの紙の方が割れることあるじゃない。
【高畑】そうそう、それは2段刃付けをしてありますよっていう話だよね。
【きだて】そうそう。先端が崩れないあの感じって、紙工作をするときにすごい助かるのよね。
【高畑】それはそうだね。
【きだて】それこそ2段刃付けをしてあるようなやつって、クラフト用の小さいはさみってそういうの結構あるんだけども。
【高畑】だから、先端まで薄く切りたいものっていうのは、基本的にはみんなここが斜めに傾斜してて薄くなってるんだけど、事務用はさみっていうのが先端まで厚みを等しくしてる。それは事務用はさみが、安全性もそうだけど、元々が板からのプレスで抜いてるから、刃を付けるときにここを斜めに削るっていうのが、別工程が必要になるからやってなかったっていうことだよね。
【きだて】それを1,000円以下のはさみでやってくれるんだっていう。
【高畑】「HASA」の002もそうだよね。普通のはさみとしてやってきてますよっていうのは、確かにそうだね。
【きだて】紙工作はさみとしてはめちゃくちゃコスパが良くて驚いたんで、俺の中では今回のストレート刃の評価はかなり高いよ。
【高畑】「フィットカットカーブ」もそうだし、「サクサ」のハイブリッドアーチ刃もそうなんだけど、先端まで力が入りやすいようにっていう意味でここからクイッと曲がってるけど、逆に言うとこれのせいでまっすぐ切るのはコツがいるというか、割と難しくなってるんだよね。きだてさんが言う紙工作みたいなので、狙ったところを特に直線でまっすぐ切り抜きたいみたいなときに、刃のカーブが逆に邪魔っていうのもあるから、そこはストレートの普通の刃の方がいいよねっていう。
【他故】ああ、そうかそうか。
【きだて】わざと結構深めにはさみを入れて、先端まで切り終わらずに途中で刃を止める、みたいな切り方をするんだけどさ、こういうカーブ刃でそういうのを切るときって。それもなかなか面倒くさいので。
【高畑】紙の下にある方の刃が真っ直ぐの方が、下支えしてる紙がたわまないので、割とキレイに狙った通りに切れていくよねっていう。そういう意味で、1個に絞りきれないというか、アーチ刃だけにしちゃったらいいのかって言うと、きだてさんが言うみたいな細工をしたいとか、細かな作業をしたいっていう人にとってみると、これではないよねっていうところで、ストレート刃が要るっていう話だね。
【きだて】カッティングシートの切り抜きとかめちゃめちゃ楽よ、あのストレート刃は。フィルム部分がはさみ先端の切り終わりで伸びないから。
【他故】へえ。
【高畑】だから、用途によってある程度何種類か必要になってはくるから、両方あるっていうのはすごくいいと思うんね。事務用のはさみっていったときに、ちょこちょこ何か細かいものを切り抜いたりとかしてますみたいな人にとってみると、昨今のカーブ刃っていうのは全体的にちょっと使いにくい部分もあるかな。キビキビといくにはちょっとねっていうのは確かにある。
――傾斜インサートは、ストレート刃には使ってないんですよね?
【高畑】使ってないです。きちんと真っ直ぐ切りたいっていったときに、ねじれてない方が切りやすいんでしょうね。それはそうだと思いますね。
――ストレート刃は、今回のリニューアルで出てきたんですかね?
【きだて】そうそう、この同じ紙パッケージで出てきてるよ。
【高畑】リニューアルする前の「サクサ」には、確かストレート刃はなかったんじゃなかったっけ?
――ハイブリッドアーチ刃しかなかったのかな?
【きだて】そうそう、「サクサ」と言えばハイブリッドアーチ刃だったからね。
【他故】そうか。
――それがウリでしたものね。
【高畑】だから、それに対応してるのが「HASA」003のストレートのちっちゃい刃で。
【きだて】それで002が大型刃で、001がカーブ刃か。
【高畑】001に対応してるのが今回のハイブリッドアーチ刃の方で、ストレート刃は003だね。003が出た時も、やっぱりそういう細かい作業をしたいという工作用には、001がどんなに切れても、それよりはコントロールしやすい003 の方がいいっていうのがあって。そういう意味ではそうだね。
【きだて】コクヨも、刃の開発まで止めずにちゃんとやってるのは偉いね。
【高畑】ここはやっぱり、プラスとコクヨのプライドの張り合いもあるだろうし。
【他故】まあね。
【高畑】本質的なところをついてきてる新しさ。はさみの根幹みたいなところに、何か新しいネタを持ってくるっていうのは本当すごいなと思うな。
【他故】すごいよね。よく思いつくな。
【高畑】本当にそれは思う。これを思いついたっていうのはすごいなって思うのね。「フィットカットカーブ」が出た時も、散々「すごい」って言ったけど、これも散々「すごい」って言うぐらいすごいなと僕は思ってるんですよね。はさみがこの時代になってさ、「フィットカットカーブ」だけでもすごいって思ったけど、ここへ来てもう1回行くかっていう。
【きだて】ハイブリッドアーチ刃が最初に出た時って、「4倍切れる」って言ってたじゃん。「フィットカットカーブ」の「3倍切れる」に対抗して。
【高畑】そこはね。
【きだて】なんか小学生のケンカみたいなことやってんなーと思ってたんだけど、今やそんなのからは解脱して、すごく面白いもの作り始めてるなっていう。
【高畑】すごいよね。
【他故】本当にね。
【高畑】本当にすごいと思う。だから、本質的に文房具が進化するっていうのが、まだここへ来てあったっていうのが、ここしばらくの商品の中で行くと「キレーナ」もすごいなと思ったけど、本質的には、「キレーナ」以上にエッセンシャルな部分の発明だなと思ったので、すごい事がまだできるんだな。革命的。まあ地味なんだけどね。
【他故】どうしても見た感じ、地味だからね。
【高畑】これのパッケージがさ、脱プラで紙箱にしたからなんだけど、ここの斜めってる部分を見せたいから、後ろに窓が開いてるんだよね。ブリスターで見せたいところだけど。紙パッケージってやっぱり分かりにくいから、環境っていうところは理解できるんだけど、でもお客さんとしては分かりにくいなと思う。だけど、すごくよく頑張ってはいるよね。一応、原寸台でここがちょっとでこぼこしてんだよね。原寸台でまるであるかのように一応してあったりとかさ、そういうのが頑張ってるなという気はします。
【きだて】まあ、紙パッケージの見せ方も、まだちょっと進化の途中なんだろうけども。
【他故】どうなんだろうね。
【高畑】さっきの「HASA」001とか002とかは贅沢な作り方をしていて、お金を出しても本当にいいものが欲しい人には、いいものを届けますよっていうのも1つの正解だとは思うんだけど。ただ、今回のこのはさみは、値段が普通じゃないですか。はさみとして普通じゃないですか。
【他故】うん。
【高畑】もちろんチタンが高いとかはあるんだけど、普通にそれぞれのグレードは普通のはさみの価格帯で出してきているっていうのが、それもすごくちゃんとしていて、いいなって感じです。
【きだて】うんうん。
【高畑】展示会の会場でこれを見たんですけど、見た瞬間に1人で大興奮してた。「わぁすごい!」とか言って(笑)。
【他故】ははは(笑)。
【高畑】何か、文房具界発の醍醐味的な面白さがあるね。
*次回は「フィットカットカーブ ツイッギー キャップレス」です。
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プロフィール
高畑 正幸(たかばたけ まさゆき)
文具のとびら編集長。学生時代に「究極の文房具カタログ」を自費出版。「TVチャンピオン」(テレビ東京系列)の「文房具通選手権」では、3連覇を達成した。サンスター文具に入社し商品企画を担当。現在は同社とプロ契約を結び、個人活動も開始。弊社が運営する文房具のWebマガジン「文具のとびら」の編集長も務めている。著書は『究極の文房具カタログ―マストアイテム編―』(ロコモーションパブリッシング)、『究極の文房具ハック』(河出書房新社)、『そこまでやるか! 文具王高畑正幸の最強アイテム完全批評』(日経BP社)、『文具王 高畑正幸セレクション 一度は訪れたい文具店&イチ押し文具』(監修/玄光社)、『究極の文房具カタログ』(河出書房新社)、『文房具語辞典』(誠文堂新光社)と、翻訳を手がけた絵本『えんぴつとケシゴム』(KADOKAWA)。新著は『人生が確実に幸せになる文房具100』(主婦と生活社)。
https://bungu-o.com/
きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/
他故 壁氏(たこ かべうじ)
小学生のころから文房具が好きで、それが高じて文具メーカーに就職。ただし発言は勤務先とは無関係で、個人の見解・感想である。好きなジャンルは書くものと書かれるもの、立つ文房具と薄いペンケース。30分間文房具のことしか語らないトーク番組・775ライブリーFM「他故となおみのブンボーグ大作戦!」パーソナリティ。たこなお文具情報室所属。
「他故となおみのブンボーグ大作戦!」番組ホームページ https://daisakusen.net/
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