1. 連載企画
  2. 【連載】月刊ブング・ジャム Vol.58新春スペシャル ブング・ジャムの2022年文具大予測!?(その1)

【連載】月刊ブング・ジャム Vol.58新春スペシャル ブング・ジャムの2022年文具大予測!?(その1)

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は「新春スペシャル」として3日連続で、ブング・ジャムのみなさんに「2022年の文具はこうなる!」という予測を語ってもらいました。

第1回目は文具王・高畑編集長の2022年予測です。

写真右からきだてさん、他故さん、高畑編集長*2021年11月9日撮影
*鼎談は2021年12月5日にリモートで行われました。

五感に訴えるパーソナライズ

文具王.jpg
――あけましておめでとうございます。

(一同)おめでとうございます!

――みなさんには、新年一発目の恒例ということで、2022年の文具界の予測をしてもらいます。業界的な予測はもちろん、個人的な抱負をお話いただいても構いません。まずは、文具のとびら編集長の高畑さんお願いします。

【高畑】僕が思う今年の予測は「五感に訴えるパーソナライズ」だと思います。

【きだて】ほう。

【高畑】一昨年は「色がくるぞ」と言っていて、去年は「質感の年」ということで、素材とか仕上がりが注目されると言ってたんだけど、それに関してはほぼほぼ外してなかったと思うんですよ。

――はい、そうでしたね。

【高畑】去年は素材感を訴えてきたものがすごく多かったなと思うんですね。まあ、「サクラクラフトラボ006」が分かりやすい感じではあるけど、材料を選べますよという感じになってきたりとかしてたじゃないですか。それ以外にも、材質系にこだわったものが多かったかなという気はするんですね。

【他故】うん。

【高畑】それがベースにあって。それで、年末頃になって気になったのが、セーラー万年筆が出した「エボナイト彫刻万年筆」。これは同じエボナイトなんだけど、表面の削り方が3種類あるんですよ。それで、表面の削り方によって、持ったときの感触というか、見た目の質感も違うし、手触りも違うしみたいな感じで、同じ素材なんだけど、表面の仕上げのパターンで全然違う感じになりましたよ、みたいなのがあったじゃない。

――はい。

【高畑】そのあと、パイロットの「ドクターグリップCL プレイバランス」は、中の重量バランスを変えられるということで。単に重心位置が前か後ろかという問題だけでなく、どこにどのくらいの重りが入っているかというのが意識されるようになってきているよね。しかもそれが、好きなように交換できるようになってきましたよと。

【他故】そうね。

【高畑】あとは、ぺんてるから“音ハラ”でノック音を軽減できる「カルム」というのが出てきて、音に注目するというのと、シボ加工されたグリップというのがあって、手触りにも注目しているわけだよね。これまでの色というのは、視覚的な要素だったんだけど、それが触覚だったり聴覚だったりに訴えてくるようになりましたよという。

【きだて】いろいろと面白いものが出てきたよね。

【高畑】あと重量も、単に重さではなくて、重量バランスで。振ったときの抵抗感が違うよねということで、モーメントみたいな話になってきているので、その分布に変わってきている。見た目で分かりづらいというか、より感覚的な部分。五感を使って理解するようなかたちのものに変わったのかな。持ってみないと分からなかったり、触ってみないと分からないところ。味覚や嗅覚にはこないと思うけど、少なくとも触覚とか聴覚とか、体感としての抵抗感というところに、すごいみんなが注目するようになってきた気がするので。

――なるほど。

【高畑】しかもそれが、選べるとか組み合わせるとかができる。つまり、材料があって、色があって、今度はそれが自分に合わせていけるようになる。製品の種類で選べるのか、同じ製品だけどラインアップで選べるのかとか、五感で選べるようになってくるんじゃないのかなというのが、今年の大まかな流れかなと思います。

【きだて】とはいっても、感覚的な部分に訴えかけるのって、実は結構なギャンブルじゃない。

【高畑】そうだね。

【きだて】例えば俺は「ユニボールワンF」にいまいち乗り切れてないんだけど、それはワンFが「これがベスト!」ってアピールしてる重心位置に、俺がハマってないからなんだよね。だからそういう意味で、文具王が「選べる」というのは正しいと思う。

【高畑】そうそう。

【きだて】感覚的な部分って完全に好みの問題になっちゃうので、合わないと思ったら直感的にハネられちゃう可能性が高い。なので幅を広く取るためにも、メーカー側は選べるセットを作らないと怖すぎるんだよ。

【他故】ああ、なるほどね。

【高畑】きだてさんの好みの重心バランスになっている「ユニボールワンF」が必要なのかもしれないし。

【きだて】例えば、グリップを外して、ネジの位置を調節することで重心変えられるとか、そういうギミックなんかが出てきそうな気がするんだけど。

【高畑】それの一番簡単なやり方が、「ドクターグリップCL プレイバランス」だと思うんだよね。重心を自分で前にやったり後ろをやったりして探してねという。それが完成型ではないと思うんだけど、自分に合った筆記具というのを、よりとんがった方向というか、自分に合った方法で選べる方向に行ってもおかしくないかなという気がするんだよね。


【きだて】前から、グリップに焦点が当たるという話をしていたじゃない。それも多分、その一環なんだよね。触感というか手触りの部分で。

【高畑】「カルム」のシボシボは、好き嫌いがあると思うんだよ。それが、セーラー万年筆のエボナイト万年筆みたいにすると、あのシリコンの仕上げ一つで持ち心地が全然違って、「俺はすごい好き」とか「俺は嫌い」とか、あときだてさんがよく言っている「俺は滑る」みたいなのが、質感とかデザインでカバーできるのかもしれないし。そこら辺は期待したいなという気がするんだよね。

【きだて】選べることで、メーカーはそのコストを払っていけるのかというのがあるんだけどね。

【高畑】そう。選べることに対して、どこまでコストを払うのかとか、どういう風な提案の仕方をするかだよね。その種類を用意するのか。別にいじって返る必要はないんだよね。種類がいっぱいあってもいいし。

【他故】ああそうだね。

【高畑】その見せ方が、昔メーカーにいたときに、色は全部黒で質感の違うペンケースを5種類出す提案をしたことがあって。ペンケースの素材が、ナイロンだったり、ターポリンだったりとか、五感に訴えるラインアップするという提案だったんだけど、今はそれが充分分かるようになってきたんだよ。だって、「6色全部黒でしょ」というのがアリなんだから、全部違う素材感なり触感なり仕上げ感みたいな感じで横並びにするみたいなのが、これからの選択肢としてあってもいいのかな。

【きだて】そういう意味では、寝心地で選べるサンスター文具の「ネムミ」というペンケースは先を行ってたな。

【高畑】思い出した、それだ!

【他故】ははは(笑)。

【高畑】多分、そういうことだよ。「ペンケースは寝心地で選ぶんです」といって、それってすごいことだなと思ったんだけど、そうだよ。この間から気になってたのは、そういうことだったんだよ。

【きだて】結局のところ、そうなってくると、感触ってどこに集約されるかというと、官能性の部分じゃない。

【高畑】そうだろうね。

【きだて】いかに気持ちいいか、という話であって。誰だって、わざわざ気持ちの悪いものを選ばないんだから。手触りが気持ちいいとか、音が気持ちいいとか。ノック音がしないボールペンがあるんだったら、逆にノック音が何遍聞いてもゾクゾクするぐらい耳に気持ちいい音のやつとかさ、そういうのが出てきてもおかしくないんだよね。

【高畑】そうだよ。

【他故】あれはあるよね。アリだよ。

【きだて】ASMRとして成立するようなノック音とかだってアリなわけじゃない。

【高畑】あれもあるじゃない、筆記音とか。万年筆なんかでも紙に擦る音がする方が好きという人もいるんだよ。

【他故】ああ。

【高畑】カリカリ、サラサラ音がしている方が好きという人と、しない方が好きという人に、万年筆なんかでも分かれていて。

【きだて】そうだよね。

【高畑】要はその違いが、さっきの手触りだけじゃなくて、ノックの音だったり、ノックしたときのカチッという感触が強いのがいいのか、フワッとしているのがいいのかもしれないし。そういうバリエーションが、「カルム」みたいに「全部静かです」というパターンで出たかと思うと、あるメーカーからは「ノックするのを楽しもう」というのが出るかもしれないし。それが1個の商品ラインアップで出てくるかどうかは分からないけど、少なくとも選択肢が広がる。今までやらなかったような手触り感だったり、今までやらなかったようなことだったり、そういう系のものが出てくる可能性があるんじゃないかな。

【他故】この間見てきた「ドクターグリップデジタル」という製品があるんだけど、あれはワコムの専用アプリで動かすときに、筆記音が鳴るんだよね。

【きだて】へえ、凝ってるな。

【他故】ボールペンで書いた音、シャープペンシルで書いた音、万年筆で書いた音が出るんだよね。

【高畑】ああ、それも面白いね。

【他故】そういうのも今後出てくるなというのはすごく感じるね。

【きだて】そこも官能性に関わる部分だよね。

【他故】官能性だよね。

【高畑】それを選べるわけじゃん。パーソナライズできるわけじゃん。わざわざなくてもいい音を足したわけで、それを選べるようにしてあげて、その人の使い心地を作るというのは、多分そういう系のことなんじゃないかな。

【他故】「ドクターグリップデジタル」は、実際に先っぽのチップも違うしね。何種類もあって、書き心地も違うんだよ。

【きだて】チップが選べるのか。タブレットに書いている、ペンから伝わってくる感触と、聞こえてくる音にズレがあると、なんか酔いそうだなと思って。

【他故】あ~。

【きだて】サラサラ書けてるのに、カリカリ音がするみたいな。

【他故】組み合わせがね。

【高畑】それも、「俺はこの組み合わせが好き」というのがあるんじゃない。タブレットに貼るシートもさ、紙の書き心地とかあるじゃん。

【他故】ペーパーライクのやつとかね。

【高畑】上質紙っぽいやつとか、ケント紙ぽいやつとか。そういう意味でいくと「ペルパネプ」がそういうのをやろうとしてたじゃない。

【他故】うん。

【高畑】あれも、ある種の五感系のパーソナライズの一つの在り方だと思うんだよ。そういう意味では、すでに出てるといえば出てるんだけど。要は、あの手の組み合わせの楽しみ方だったりとか使い方によって、五感に対して「あなたはどれ?」という方向にいくような気がするんだよな。ラミーも「サファリ」と「アルスター」は一緒だけど、「アルスター」はアルミ軸になってるじゃない。あんな感じでできるんじゃないか。

【きだて】うーん。

【高畑】それこそ、予測を当てにいくなら、抗菌とかエシカルとかSDGsとかいっぱい出るとは思うんだよ。予想としては、絶対に来る方向性としてあるんだけど、ただつまんないじゃんと思ってて(笑)。

【他故】ははは(笑)。

【きだて】何だろうな、エコ技術ってそこからの発展性がないんだよな。

【高畑】それは、責務としてやるものではあるので、ゴロゴロゴロっと出てくると思うんだよ。SDGs対応とか、エシカルな素材を使いましたとか、リフィルを回収してどうこうとか。三菱鉛筆はリフィルの中芯を紙で作ってたし。

【他故】紙筒でね。

【高畑】そういうのは、企業の購入には影響すると思うけど、普通のパーソナルなユーザーにとってそこまで興味を惹くものではないと思うので、僕的には五感にフィットするものが出てきてくれたら面白いなと思う。きだてさんが「手が滑る」と言っていた筆記具のボディが、ものすごく持ちやすくなってくれたらうれしいじゃん。「持ち心地最高!」ってきだてさんが言うようなやつが出てくれたらいいと思うし、それはあり得るな。

【きだて】それは、大体「プニュグリップ」付けちゃえば一緒だから(笑)。

――きだてさんにはそれがあるか(笑)。

【高畑】多分、きだてさんは自らそれをやってるんだよ。きだてさんみたいに自分でできる人はそれでいいと思うけど、それをメニューとして用意するようになるんじゃないかな。

【他故】そうだろうね。

――「プニュグリップ」だって、大人用が発売されましたからね(こちらを参照)。

【高畑】そう。それだって欲しい人がいたからだよね。それはそれでいいと思う。「カルム」が年末ギリギリで出たけど、「カルム」はすごい野心的だと思うんですよ。次に来るのは音と手触りと言っているわけですよ。それがすごいなと思っていて、次はそっちの勝負になってくると思うんだよね。このままいくと、どんどんピーキーになっていくんだろうね。

【他故】ふふふ(笑)。

【高畑】差別化といっても、この先これ以上便利になりようがないじゃない。便利な方向じゃなかったら、感性に訴えかけるしかないじゃん。エモいところに訴えかけるしかないんだけど、それが色だと一番簡単じゃん。素材の色を変えるだけだから。次に素材でちょい難易度が上がって、その先を考えると五感の部分だと思います。

【きだて】ひょっとしたら、マナー講師方式で色々とやってくるんじゃないかと思うんだけどね。

【高畑】えっ、どういうこと?

【きだて】「ブレン」なんかでもそうじゃん。「今までのペンはブレてました」って。だから「ブレないのが気持ちいい」って。

【高畑】そう、それだよ!

【きだて】「今までのマナーは間違ってました、新しいマナーはこれです」って、勝手にマナーを作っちゃう系の。

【高畑】それそれ。今までは、みんな自分で合わせてたわけだよ。それが「あなたに合わせて」ということで、パイロットが「ドクターグリップCL プレイバランス」で、「重量バランスを選んで下さい」とやったので、重量バランスを選びたくなるじゃない。「俺に最適なのはこっちかな」と思うようになるじゃん。あと「音ハラ」ね。「急にそう言われてもさ」っていう(笑)。

【きだて】火のないところに煙、ってわけではないけど、種火を大火事ぐらいには言ってそう(笑)。

【高畑】「ブレン」がブレないって言うからブレるのが気になるみたいなところがあるし、「カルム」がうるさいって言うからうるさいのが気になるというのがあるので。これからいろんなところで小さな差別化を図るために、それをわざわざ大きく見せる必要が出てくるので、「今までこんなにうるさかったんですよね」と言うようになるよ。

【きだて】手法として、「今までのは気持ち悪かったですよね」と言う方が楽なんだよ。気持ち悪い方が人の印象に残ってるから、それを否定する方が楽なんだよ。

【高畑】そうだね。

【きだて】だから、そういうマナー講師方式はこれからも出てくるだろうよ。官能的になればなるほど。

【高畑】何か物理的な正解があるわけではないし、要は20枚綴じが40枚綴じになりましたという話ではなくて、「えっ、こっちの方が好きじゃないですか、気持ちよくないですか?」みたいな話にならざるを得ないので、これから先はユーザーの人にちゃんと支持されるかどうかということになると思う。だから、より難しくはなってくるよね。評価が二分するというのも全然出てくるんじゃない。

【他故】出てくるだろうね。

【高畑】誰が書いても良いものではなくて、というのは出てくるんじゃないかな。

【きだて】逆に、評価が分かれる方が本当は望ましいというか、それだけユーザーのリテラシーの高まりではあるので。無関心では終わらなかったというか。

【高畑】無関心よりはね。メーカーとしては、みんなに買ってほしいというのはあると思うけど。でも、それが分散せざるを得ないので、その1個1個をちゃんと掴んでいかないと。そのためには新しく、今の小ロット生産の技術だったりとか、そういうものも出てくるかもしれないし。ナイキのクツみたいに、ネットで注文した組み合わせで買えるとかになるのかもしれないし、そこのやり方は分からないけど。でも確実に、より「その人の好みは何ですか」ということになるんじゃないのかな。メーカーとしては、より親切になるしかないものね。

【他故】多分そうだよね。

――メーカーは大変ですね。

【きだて】それがまとめか(笑)。

【高畑】だって、「300円台で作れ」とか言われるわけでしょ。

【他故】そうそう。大変だ。

【高畑】メーカーじゃなくてよかった。

――まあ、それだけ文具の世界が成熟してきているということですか。

【高畑】成熟しきっているところなので、言ったらあれだけど、ここから先はない需要を掘り起こしていくしかないので。ドライに考えたら、新しい文房具がなくても困らないんだよね。正直な話。その中で、インクを楽しむとかが出てきている。だって、万年筆のインクなんてあんなにこだわらなくても別にいいじゃん、というぐらいインクの種類も多いし、それをどう楽しむかといって一点もののガラスペンがあちこちから出てきているというのは、まさにそういうことだと思うんだよね。成熟して趣味になってきて、実際のところはデジタルに持って行かれているところがあるので、単純に機能性で今後勝負していくよりは、より感性に訴えかけていくところで勝負するしかないんじゃないかな。

【他故】う~ん。

【高畑】より質感があったりすることでのブラッシュアップが重要になってくるのかなと思う。

*次回は他故さんの2022年予測です。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」が好評放送中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


「ブング・ジャムの文具放談・完全収録版~2020年Bun2大賞を斬る!~」〈前編・後編〉をコンテンツプラットフォームnoteで公開中。

【文具のとびら】が気に入ったらいいね!しよう