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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.55 芸術の秋に使いたいおすすめアイテム(その3)

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。

今回は、“芸術の秋”にぴったりのおすすめアイテムをブング・ジャムのみなさんに紹介してもらいました。

第3回目は、文具王おすすめの「ミニスケッチブック」(アピオ)です。

写真左からきだてさん、他故さん、高畑編集長*2021年6月30日撮影
*鼎談は2021年9月27日にリモートで行われました。

超ミニサイズのスケッチブック

文具王1.jpgミニスケッチブック」(アピオ)

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――色鉛筆は使ってみると楽しいですよね(こちらを参照)。

【高畑】彩色も練習が必要なので、なかなかね。というのはあるんだけど。

【他故】練習というか、楽しく塗る習慣がつけばいいんじゃないなかと、僕は思うんですけどね。

【きだて】絵が苦手な人間は、そういう楽しみすらできないんだよ。

【高畑】それでだよ、次はでかい絵を描くのをやめませんか的な話だよ。

【きだて】なんだよ、すげぇシームレスに自分のターンに入りやがったな(笑)。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】アピオの「ミニスケッチブック」。これがいいなと思ったんだよ。小さいスケッチブックなんだけど、リング四つ分なので、横幅は4㎝ぐらい、縦がリングまで入れると5㎝で、4㎝の正方形がギリ入るぐらいのすごい小さいスケッチブックなわけですよ。それで、ここにプラのテンプレートが付いていて、あてると紙面の中に四角が書けるので、なんとなくポラロイドみたいな画面になるよという。

【他故】あ~そうなんだ。

【高畑】でも、ポラロイドより全然小っちゃいよね。

【他故】うん、小っちゃいね。

【高畑】まあ、切手よりは大きいという感じかな。

【他故】大きい切手もあるからね、というぐらいの大きさかな。

【高畑】証明写真ぐらいの大きさか。大体、4:3だとそんなぐらい。だから、証明写真ぐらいの大きさの絵が描けるスケッチブックで、めっちゃ小っちゃいんだけど。それでさ、外で絵を描くのって憧れない?

【他故】いや、分かるよ。

【高畑】スケッチブックと色鉛筆とか、ミニ絵の具セットを持って、どこか旅行に行った先で風景かなんか描いてくるのって、めっちゃ憧れません?

【きだて】優雅でございますわな(笑)。

【高畑】あれカッコいいじゃん。

【きだて】図画工作の授業から屋外写生が苦痛だった俺にとっては、「おカッコよろしいですな」という僻み根性しか。

【高畑】いや、屋外の写生大会のときは、画板を持ってある程度の時間をかけて「描くぞ」というものだからそうなんだけど、大人のやつはさ、要は「トラベラーズノート」とか「モレスキン」に描くとか色々あるわけだけど、旅行に行った先々で見つけたものを描くというのは、ちょっとカッコいいですよ。それをやろうとしていた時期があって、スケッチブックを持って旅行に行くということがあったわけですよ。

【他故】うん。

【高畑】旅行に持っていくのって、ハガキサイズかそれより一回り大きいサイズのスケッチブックを持っていくことが多いと思うんだけど、ハガキ1枚分の絵を描くのって、よっぽど慣れている人じゃないと、すげえ時間がかかるのさ。

【きだて】う~ん、分かる。

【高畑】あれだと、「旅行に行ってササッと描きました」という感じじゃなくなるし、そんなに時間取れるかといったら、上手い人だと5分、10分で描けるんだろうけど、それはごく慣れた人で、そこに至るまでにはやはり訓練が必要なわけじゃない。俺はそこまでは行ってないので。描こうと思ったら、時間をかければ描けないわけじゃないけど、それじゃ何しに旅行に行くのかという話で、旅行のついでじゃなくなるんだよね。

【きだて】そうだね。旅のついでで空き時間に、という感じにはならないよね。

【高畑】全然そうならないんだよね。「それは無理」みたいなのがあって。だから、手帳に絵を描くとかもあんまりできないなと思ってたんだけど、その原因がスケッチブックのデカさにあるというのが、これを見たときに「ああそうか」と思って。

【他故】ははは、絵が小さければいいんだと(笑)。

【きだて】それは真理だと思うよ。絵って、号数が上がれば上がるほど、解像度が求められるじゃない。

【他故】まあ、そうだね。

【きだて】号数が小さいと、解像度が低くてもゆるされるんだよね。

【高畑】そうそう、そういうこと。だから、上手いか下手かじゃなくて、描いているだけでそれっぽくなる。描けることって、目の前に見えている建物とか食べ物とか、そういう何かなわけですよ。ここに描けるものなんて大してないから。そうなったら、10分で描けることになるし、これ小さいから旅のノートに貼ったりしてしまうと、もちろん上手い人はめちゃくちゃ上手いんだろうけど、要は下手バレしにくい。

【きだて】うん。それは納得できる。

【高畑】それは、大きければ大きいほど、それをある程度説得力を持たせて見せるために必要なエネルギー量が、ドーンと上がるわけじゃん。これだと、絵を塗る面積は普通のものより10分の1以下で済むわけだから、ちょこちょこっと描いて「雰囲気分かればいいや」だったら、描けなくもないかなと。なので、このぐらいだよね。それこそ他故さんが言っていた「敷居を下げる」というときに、「小さくすればいいのか」というのが、この製品を見たときの発見だったんですけど。

【他故】ははは(笑)。

【きだて】あとね、絵の下手な人あるあるなんだけど、広い画面にすごいちまっとした絵を描いちゃうというのがあるんだよね。

【高畑】ああ、なるほどね。

【きだて】四つ切りの画用紙なのに、できあがりの絵がB6より小さいぐらいになっちゃうという。その辺のバランス取りが下手なのよ。

【高畑】断裁するとちょうどいいみたいな。

【きだて】そうそう。昔っから「紙を広く使え」と延々と言われたんだけど、どうしてもダメでさ。

【高畑】大きい絵って難しいじゃない。

【きだて】難しいんだよ。だから、確かに小さいスケッチブックってアリだなと。

【高畑】余白を上手に使うとかはないんだよ。余白がないから。

【きだて】そうだね。

【高畑】食べてるものだったり、見ているものだったりを、真ん中にドンと入れればいいわけですよ。まあ、言っても昔のプリクラぐらいの大きさの絵ですからね。そのぐらいのことを描けばいいのかなと考えると、ちょっと気楽になるかなと。

文具王2.jpg
【他故】小さいのは気楽だよね。

【きだて】初手から余白がないというこの設定はとてもいいね。

【高畑】この大きさだったら、普通にポケットに入るわけじゃないですか。それで、簡単にシャープペン1本でもいいし、他故さんみたいに色鉛筆でもいいし、それは遊び方だと思うんですけど。

【きだて】どうだろうね、水彩色鉛筆で描くにはちょっと小さ過ぎるかな。

【他故】色鉛筆で水彩を使うって考えなければいいんだろうし。家に帰ってから、水彩っぽくしたいといって塗るのはいいんじゃない。

【高畑】水彩といっても、面でベタっと塗らなくて、ちょんちょんなんだよね。

【他故】そうそう。

【高畑】単純に作業時間が短くて済むので、それこそカフェなんかで「ちょっと時間があります」というときに描くんだったら、これなら何とかなるかもしれないな。どんなに頑張っても、ハガキサイズは無理だったので。

【きだて】うん。

【高畑】「トラベラーズノート」の隅の方に、これぐらいの大きさで描けばいいじゃんと思うかもしれないけど、最初からこれぐらいの大きさしかないというのが大事なんだよ。

【他故】そうそう、分かる。

【高畑】広い面に上手に小さい絵を描くというのができるんだったらいいけど、そうじゃなくて、「こんだけ」って決めて、しかもわざわざテンプレートが付いているので、これで枠を切って、「この中」って決めて描くといいのかな。

【きだて】そのテンプレがあるのって面白いね。

【他故】テンプレ付きはいいね。

【高畑】これを作った人のサイトを見ると、この人はめっちゃ描ける人なので、この小ささでもすごく絵は上手いのさ。そういう人はいるんだけど、まあ、別にそこまで上手くなくてもいいかなというのがあって。

【きだて】そうかー。そう言われてみれば、俺ですら「そのサイズならできるかな?」って気にはなるね。

【高畑】そうそう、そうなってくれるといいし、別に失敗しても小さいじゃん。失敗が小さくて済むから、嫌なものを長く見る必要がない。

【他故】ちぎって、ポイッと捨てちゃえばいいしね。

【きだて】そうだね。作業時間少ないから、ダメージも少ないしね。

【高畑】大きさとしては、せいぜいポケモン図鑑ぐらいのものなんだよ。

【他故】でも、これいいな。

【高畑】何か、楽しくていいっすよっていう。他故さんのさっきの話と一緒で、楽しむのに敷居を上げるのは嫌だなと。今から画家を目指すのだったら別だけど、大人の趣味としてはね。小さいところで楽しんで、上手くなったら、大きいのを描けばいいと思うんですよ。

【他故】そうね。そうそう。

【高畑】最初っから大きいのにチャレンジしなくても、それはそれでアリですよという感じで。それよりも、まずはこういうのを持っていて描ことをちょこちょこやれるなら、やった方が面白いし。旅行に行くときに、ちょっとチャレンジしてみようかなとか、芸術の秋だからチャレンジしようかなというんだったら、このスケッチブックと、他故さんが持っていた小さい絵の具セットにしてみるとか、小さい色鉛筆がいっぱい入っているセットがあるじゃない。

【他故】あるよね。細くて短いやつがね。

【きだて】アイボール鉛筆とかが作ってるやつだね。

【高畑】そうそう、そういうのでもいいし。そこまでいかなくても、三菱やトンボが出してる缶に入っているやつとか。

【他故】缶入りのがあるね。

【高畑】何かそういうのから始めようとか。あとね、大きいスケッチブックをカフェとかで広げると、「私絵を描いてます」になっちゃう。

(一同爆笑)

【高畑】これが気恥ずかしくてできないってありません?

【他故】分かる。

【高畑】これだと、隠れてチマチマ描けるから。

【きだて】逆に、何やってるんだという感じではあるんだけども(笑)。

【高畑】これぐらいの大きさだと、手帳に書き込んでるのとあまり変わらないので、絵を描いている気恥ずかしさがない。川辺でイーゼル立ててとかじゃないので。

【他故】まあね(笑)。

――そのサイズだと、メモを書いてるなぐらいに思われるでしょうね。

【きだて】メモよりも小さいよ。

【他故】小さいね。

【高畑】だから、絵で描くメモ程度に思いましょうというか、メモ程度の絵を描くぐらいの気持ちでいいんじゃないですか。

【きだて】これで絵を描くのにハマったら、このサイズに使える落款印も欲しいよね。

【高畑】そういうのができるようになると、それはそれでまた楽しいじゃない。小さいものを集めていくというのは。

――落款印はものすごく小さくないと(笑)。

【きだて】訂正印以下のやつだよ。

【他故】誰の落款印か分かるのか(笑)。

【高畑】あと、描くものを決めていてもいいじゃない。マンホールのフタだけ描くとか。さらに、丸のテンプレートを持っていって、丸を描いてその中にマンホールの絵を描くんだったら、小さくて済むので。

【他故】テンプレートにバリエーションがあったら面白いね。

【高畑】マンホールを写して描くんだったら、絵心うんぬんというよりは、超絶きれいな風景を描くとかじゃないので。だから、自分のできる範囲でいいと思う。よく考えると、これで絵を描くだけじゃなくて、文字だけでもいいから。

【他故】そうだね。

【高畑】このぐらいの大きさの旅行ノートでもいいわけですよ。

【きだて】まあ、確実になくすやつだな(笑)。

【高畑】ここにヒモを付けとけばいいよ。

【きだて】ははは(笑)。

【高畑】大人が趣味を始めるときは、気恥ずかしさとか、時間がかかるとか、難しいとか、そういう敷居を少しでも下げたいので。

【きだて】敷居を下げつつ、カタチから入る部分でも満足はさせられるというのが上手いね。

【高畑】あーそうそうそう。ちゃんとスケッチブックに描いている感じはあるし。

【きだて】大人が趣味を始めるのに、どっちも大事じゃない。

【高畑】確かにね。

【きだて】小さくていいんなら、コピー用紙を小さく切って束ねればいいんだけど、それがリング綴じでスケッチブックの紙を使っているというだけでも、カタチとしてはOKだものね。

【他故】そうだね。

【高畑】小さくても本格的なものだよというのを持ちつつという、そのバランスは確かにそうかもしれない。

【他故】これを持っている段階で、満足度が高いものね。

――このスケッチブックを作った人は、描いたものを「トラベラーズノート」に貼ってますね。

【高畑】そうなんですよ。これを作っているアピオさんは、スズキの「ジムニー」っていう自動車の部品メーカーみたいなところなんだよね。それで、オーナーが旅をするのが好きで、旅先であれこれ描くのが好きなので、それでこういうスケッチブックを自分で作ったんだよ。

――なるほど。

【高畑】ISOTの「日本文具大賞」のエントリーでこれを見て、小さいのいいなと思ったんですよ。きだてさんの、小さいレンガを積み上げる話(こちらを参照)もそうだけど、家に置く場所がなければ、小さくすればいいじゃないかというね。

【きだて】そうそう。大事なことだよ。あのレンガは、1,000個買って7,000円ぐらいしたけど、このスケッチブックは300円か。いいね。

【他故】安い。

【高畑】300円で気軽に始められていいじゃない。あんまり気負わずに絵が描けるし。

【きだて】しかし、この人の絵は上手いな。

【他故】この人は上手だね。

【高畑】描いてここまで上手になれればいいし、そこまで上手くならなくてもアリな大きさだと思うんだよね。大きいのに較べたら。

――描いたものを「トラベラーズノート」なんかに貼ると、ステキな感じでいいんじゃないですか。

【他故】これはいいですよね。

【きだて】ボールペン画を描くにしても、最近は細い油性が出ているから、これでも割と描きやすいかもしれないし。

【高畑】これで大人がチマチマ描くのってアリだなと思うんだよね。

【他故】このぐらいだったら、ちょっと挑戦しやすいものね。

【高畑】それっぽく風景を切り取るのにちょうどいいかな。まあ、大人の秋は楽に行きましょう。

【他故】そうね。

【きだて】俺は絵を描くのもさ、風景画とかああいう大きいものを捉えるのがすごい面倒くさいのね。それよりは、マクロレンズみたいに、細かい部分をギュッと描写していくほうがまだやりやすくて。そういう描き方も、このくらいのサイズの方が楽しそうだな。

【他故】そうだよね。

【高畑】必ずしも、この画面の中に全部入っている必要はないので、お皿の一部だけ見えていてもいいじゃないですか。マクロで寄り切るんじゃなくて、10円玉の10の部部だけ見えている写真があるけど、あんな感じでいいと思うね。

【きだて】それを普通のスケッチブックでやると許されない感じがあるけど、このサイズだと許されるよね。

【他故】許される(笑)。

【高畑】まあ、そういう部分画でもいいし、縮小画でもいいし。あと、絵が苦手だったら図みたいなものでも全然構わないと思う。

【他故】それこそ、絵じゃなくてもいいしね。

【高畑】あとこれ、製本もカッコいいですよ。ちゃんとした製本になってるので、そこはいいなと思うんだよね。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」が群馬県沼田市のコミュニティFM「FM OZE」で好評放送中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/

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