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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.30 この秋おすすめの新作文房具(その3)

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。Vol.30では、注目の最新文房具についてブング・ジャムが熱く語っています。

第3回目は、パイロットコーポレーションの筆ペン「瞬筆(しゅんぴつ)」です

写真左から他故さん、高畑編集長、きだてさん

その1はこちら
その2はこちら

1秒で筆跡が乾く画期的な筆ペン

瞬筆.jpg瞬筆(しゅんぴつ)」(パイロットコーポレーション) 新開発の“速乾インキ”を搭載し、筆跡が1秒で乾く筆ペン。同社独自開発の“速乾インキ”により、高い速乾性を実現。筆跡がすぐに乾くので、手や書いたものが汚れない。穂先は、コシがあり、まとまりやすい「本格毛筆」(税抜700円)と、気軽に使えるサインペンタイプの「小筆」(同300円)の2パターンを用意した。「本格毛筆」は中字と細字タイプがあり、カートリッジ式でインキの交換が可能。また「小筆」には、ポリエステルエラストマーチップを使い、サインペン感覚でトメ、ハネ、ハライができる"かため"と、ポリウレタンゴムチップでソフトなタッチを実現した"やわらかめ"を用意した。「小筆」の"かため"にはうす墨もラインアップ。

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――最後は「瞬筆」です。

【きだて】年1で年賀状の宛名書きをすると、そもそも「筆ペンって乾くのに時間がかかる」というのを完璧に忘れちゃってて、まあ、うっかりこすったりとか、年賀状同士を重ねちゃったりして。

【他故】書いたものを重ならないように広げていくと、机がいっぱいになっちゃうんだよね。

【きだて】そうそう。色々と大変じゃない。

――宛名書きは右から書くから大変ですね。

【高畑】そう、日本語って右から左に書くじゃないですか。昔の人は筆で書いてたわけですよね。

【他故】そういうのって、手を浮かして書くっていうじゃない。

【高畑】ペンで書くのになれちゃった我々には、汚さずに縦書きをするのはなかなか大変なわけですよ。

【他故】乾きが早いインクというのは、蛍光ペンなんかでは色々とあるけど。

【高畑】そう、そっちの方はね。

【他故】それが、筆ペンでくるとは思わなかったので。

――そうですよ。

【他故】実際に、筆ペンで早く書けるというのは便利だというのが、これで分かったな。

【きだて】他の筆記具では、「乾きが早いのがいいに決まってんじゃん」と思ってたけど、筆ペンに関しては何故か最初からあきらめていたところが俺にはあって。

【他故】液がたっぷり出る方が偉いという雰囲気があって(笑)。

【きだて】だから、「すぐ乾く筆ペンです」と言われたときに、「その手があったのか」という驚きが相当あったのね。そういう意味で「瞬筆」は初めて見たときにすごい不思議な気がしたですよ。

【高畑】年賀状がまた、書くのは1枚じゃないじゃん。手紙書くときは乾くまで待っていてもいいけど、年賀状の場合は、人にもよるけど、10枚、20枚書くわけですよ。僕の場合は100枚、200枚になっちゃうけど。

【他故】まあ、数十枚は書くよね。

【高畑】そのぐらい書くことになると、乾くまでにそれぐらいになっちゃうと、乾くまでに置いておく面積がなくなっちゃうわけですよ。

【他故】そう、本当に置き場所がないよね。

【高畑】俺、未だに「プリントゴッコ」のハガキを乾かす台を持ってるんだよ。

【他故】あ~、ななめに挿していくやつね。

【高畑】プリントゴッコは使わなくなっても、ハガキを乾かす台だけはまだ現役なんですよ。

【きだて】分かる。

【他故】あれは便利なんだよな。

――パイロットは、前から筆ペンを出してましたっけ?

【他故】実は歴史が古いんですよ。

【高畑】かなり初期のメーカーだよね。

【他故】1970年代からやってたはずだから、かなり早いですよ。インク作っているメーカーは筆ペン作るのが早かったはずなので。でも、顔料インクが得意なメーカーと、染料インクが得意なメーカーがあって、それで毛色が変わるというのがありましたけど。

【高畑】筆ペンで面白いのは、あかしやは筆屋だから筆にこだわるんだけど、墨屋の墨運堂は中が本物の墨だったりするわけですよ。

【きだて】それぞれの強みってあるからね。

【高畑】そこがパイロットは、筆屋でも墨屋でもなくて万年筆屋じゃないですか。そこら辺の割り切りかなと思ったりするわけですよ。従来の筆ペンからしたら、黒さがこれでないといけないとか、墨だから顔料じゃないとダメとかそういうのに対して、「いや、乾くから便利でいいんじゃない」みたいなね。

【他故】どうせ、使う機会も限られている場合も多いだろうし、本当のプロはいろんな商売の道具があるだろうし。そっちはそっちでいいとして、「筆ペンそのものはいつ使うんですか、誰が使うんですか」となったときの、今までにないアプローチだったよね。確かに、ハガキを書いて乾かないのはそりゃそうだと思うよ。

【きだて】結局、普通に年に1回使うかなレベルの人は何が嬉しいって、速乾が嬉しいに決まってんじゃんっていう。

【高畑】多分、それぞれに欲しさが違うと思うんだけど、この筆ペンが狙っているのは、本格的な筆文字が書ける人ではないということなのね。

【きだて】だって、筆ペンユーザーは、ほとんどが年1、2回使うか使わないかじゃない。

【高畑】使う頻度は確実に下がってきているし、年賀状すら書かなくなってきたこともあるからね。特にこれいいなと思ったのは芳名帳なんだよ。

【他故】あ~、そうね。

【高畑】受付のカウンターに芳名帳があって、誰かが書くじゃん。それが乾いてなければ、次に書く人の手が汚れちゃう。

【きだて】罫紙って右詰で書くからね。縦書きで右詰で書いていくと、右手が乗っちゃうんだよね。

【高畑】ってなるじゃん。慣れてない人がやると特にそうだし。

【他故】分かるよ。

【高畑】いろんな筆ペンを使うけど、色の黒さでいうとやっぱり顔料系の方が黒いんだよ。

【他故】それはそうだ。

【高畑】そうやって、物によっていろんな特徴があるから、一概にこれだけがいいとは言えないんだけど、芳名帳って受け取る側としては達筆な文字が欲しいんではなくて、今までの慣習とか儀式なので、あえて筆ペンで書いているわけで、早く乾いてくれた方がいいんだよ。

【きだて】紙自体にもトラブルがなく、お客さんの手や晴れ着の袖に付くようなこともなく、無事に書いてもらうことが一番だからさ。

【高畑】それで、読みやすい方がいいというわけだよ。金封なんかも、開いてすぐに中を出しちゃうから、案外に外側のことを覚えてなかったりして。それよりかは、中の封筒に「いくら」「誰」と書いていてくれた方が嬉しいというか。芳名帳に本格的な硯を置いておくところもあるけど、あれ、結構ハードル高いよ。

【きだて】それだと躊躇するもん。

【他故】書かなくて済む方法を考えるもん。苦手すぎて。

【高畑】あれで書くと、さらに乾くの遅いじゃん。筆ペンの他のやつで書くよりも遅いじゃん。乾くまで芳名帳を閉じられないし。

【他故】前に聞いたのが、文房具店の店頭で「のし紙を書いてください」という要望が結構多いらしいのね。それで、他に店員がいなくて一人でレジをやる場合、お客さんが多いのに「書いて欲しい」と言われることが結構あって、そういうときに「乾きの早い筆ペンがあったらいいよね」という要望がどうやらあったらしくて。

【きだて】なるほどね。

【他故】なので、文房具店にとって、これが店頭に並ぶこと自体にメリットがあるんじゃないかな。

【高畑】確かにそうだね。金封もギリギリに買って書くみたいなところがあるじゃないですか。すぐに持っていきたいけど、乾かないから袱紗に入れられないとか。実用性で考えたら、すぐに乾くというのはいいところがあるよね。

祝儀袋.jpgこうなる前にすぐ乾く!

【他故】一般タイプの大きい筆もあり、小筆タイプもあって。小筆タイプなんて、筆ペンというよりは、もっと身近なものじゃん。

【きだて】そうそう。俺は元々、パイロットのこういう小筆タイプが好きで、ペンケースに常に「筆まかせ」が入っているぐらいなのね。で、「瞬筆」の小筆タイプはやわらかめとかためがあるんだけど、かためでも「筆まかせ」よりやややわらかい感じ。なので、もうちょっと「筆まかせ」レベルのかたいやつで、この速乾インクが入っているといいな、って。

【高畑】筆ペンに使い慣れてないと、かための方が使いやすいんだよ。

【きだて】そうそう。

【他故】通常のペンに近ければ近いほど使いやすいから。

【きだて】ちょっとハネるサインペンぐらいの感じが、俺はとても好きなので。

【他故】普段はハガキを書かない人が、急に取引先の人に不幸なんかがあって書かなくちゃいけなくなったときに、こういうのが1、2本あるといいよ。

【きだて】そうね。

【他故】確か、この薄墨のやつは一時期ラインアップから外れていたはずだけど、やっぱり必要だということで、復活したんじゃないかな。

【きだて】へ~、そうなんだ。

――薄墨の筆ペンは、今はどこのメーカーも出してますよね。

【他故】今は逆に「必要だ」と言われて。

【きだて】ツインタイプで片方だけ薄墨のもあるものね。

【高畑】最近さ、ネットとかでマナー警察がいるじゃん。「葬式なのに黒い墨で書いてきたとは何事だ!」みたいなので、こういう常識はみんな知るようになってきたよね。

【他故】薄墨の色は、普通に書いてもきれいな色なので(笑)。

【高畑】ちょっと水墨画的な。黒の筆ペンと薄墨のでイラストを描くのも、それはそれでいいんだろうね。

【他故】直液でこれだけインクがタプタプ入っているのに、1秒で乾くというのはなかなかすごいなと思うわけですよ。中綿になっていてインクの出が少ないのならば、なんとなく想像つくけど。

【きだて】乾きが早いと言われれば、そうかなと思うぐらいで。

【他故】これ、全部直液だからさ。

【きだて】けっこうジャブジャブ出るよね。

【他故】それでも、ちょっと目を離しているうちに、すぐに乾いちゃう。

【きだて】毛筆タイプって、紙の上にビショッてインクが出てテカテカ光っているのが、あっという間にすうっと消えていくのよ。それを見ているだけでも面白いよ。

【高畑】技術的には、早く乾く蛍光ペンとかに近いのかな?

【他故】どうなんだろう。高浸透式なのかな? 高浸透なのか、高蒸発なのかちょっとよく分からないんですけど。

【きだて】吸われているというよりは、蒸発していっているという印象なんだけど。紙の上から消えていくというのは、ちょっと判断つかない。

【他故】染みているというほどでもないような気がするので。まあでも、面白いから使ってみてと言えるタイプの筆ペンだよ。

【高畑】ジャンルとして、どちらかというと衰退しているじゃないですか。折角こういう商品もあるんだから、たまには使ってちょうだいよというね。

――筆ペンの新製品って、割と最近出てません?

【高畑】どちらかというとカリグラフィー系でさ。

【きだて】アートブラッシュとかあっち系が人気なんでね。

【他故】だから、これもカラーバリエーションが出てきたら、それはそれで面白いかもしれない。

【きだて】そうだね、画材として面白いよね。すぐ乾くから。でも、前から欲しいと思っているのが「フリクション筆ペン」なんですけどね。

【他故】フリクション筆ペン!

【きだて】だって、手紙の宛名とか間違えるとダメージ大きいじゃん。

【高畑】一応、フリクションは宛名書きに使ってはいけないから。

【きだて】っていうけどさ~、そりゃ、郵便局で仕分けマシンを通すと熱で消えちゃうよ。それは分かってるんだけどさー。

【他故】選別機に入れると熱がかかっちゃうからな。

【きだて】そこは、消去温度を高めに設定していただいて。

【高畑】まあでも、気持ちはわかるな。年賀状で宛名を間違えて、ハガキを1枚ムダにするとさ。

――こういう速乾性の筆ペンって、今まで誰も思いつかなかったんですかね。

【他故】速乾性インクの技術を持っているところは、考えていたんじゃないですか。筆ペンがそのメーカーにとって、どの程度の位置にあるかにもよりますけど。

【高畑】そうだよ。筆ペンメーカーが作りにくいというか、速乾性を出すために染料系でと考えたときに、むしろ伝統があるが故に、「インクが濃くなるまで出せない」とか色々と考えたんじゃないかな。

【きだて】メーカーそれぞれのこだわりの方針とか、色々とあったんだろうね。

【他故】これに関しては、一番で出す前提で、「色のことは言われてもいい」と思わないとこれは作れないよ。

【高畑】そういう意味では、ユーザーは選べるじゃん。筆ペンは今まで先端の筆の出来具合とか、インクが墨っぽいかとかさ。

【きだて】そこが論点だったよね。

【高畑】そこで、新しい選択肢として「速乾」が選べるようになったのは大きいんじゃない。もうちょっと早く出ておくべきだったところもあるし、年々筆ペンを使う機会が全体的に需要が減る中で、やっぱ何かやらないとねというのはあると思うんだよ。

【きだて】(漫画家の)うちの奥さんに、「今度ベタ塗りをするときはこれをお使い」と言って、これをそっと渡しました。

【他故】たくさん塗る人は、これは早くていいと思うよ。

【きだて】イラストでベタを塗るときに、乾きが遅いとつらいみたいで。

【他故】そうだよね。待ってないといけないから。

【高畑】黒さでいうと「完美王」なんかと比べると、ムラが出るんだよな。

【きだて】でもね、印刷にまわすとそこはつぶれちゃうから問題ないかな。

【他故】1枚イラストも、生で考えると差が出るかもしれないけど、印刷の出来でいうといけるんじゃないかとという気はするけど。

【高畑】「完美王」が出たときに、黒くて比較的乾きが早くて、あとマットなのでスキャンには向いているんだよね。

【他故】確か、コピーすると差が出るんだよ。だから、アマチュアは真っ黒なやつを欲しがるんだよ。プロならば、印刷の仕上がりを知っていれば、これでもいけるという人は使うんじゃないかな。

【高畑】もちろん、マンガの原稿だったらきっちり補正はかけると思うけど。

【他故】今は生で原稿入れてもデジタルで補正をかけるからね。

【高畑】まあ、自分の用途に応じて使い分けようよという話だよね。

【きだて】そらそうだ。

【高畑】これだって、速乾と言われたら、「そういえば筆ペンって乾くの遅かった」って思うじゃない。「ピットエアー」と同じだよ。

【他故】早く乾くのはメリットだととらえる人は出てくると思うよ。

【きだて】使用頻度が低いとしたら、家庭に置いておく1本はこれでいいと思うよ。

【高畑】新しい切り口を発見するとかの方が今はいいのかな。こだわるよりは割り切りのよさとか。でも、長いこと筆ペンを出しているパイロットだから、書き心地はやっぱりちゃんとしているわけじゃん。それもやっぱりいいしね。とにかく「筆ペンを使おう!」という話ですよ。

【他故】今までなんとなく嫌がっていた人も使ってみてねという。

【きだて】買うなら、まずは「小筆のかため」がおすすめだよ!

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。

たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。

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