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【連載】文房具百年 #51「文房具百年50回を振り返って~その後見つかったもの~」

たいみち

連載50回

 この連載も51回目となった。最初は、まず1年は続けよう、連載のタイトルも1年続けばその後変更してもいいだろう、とい思って始めた。だがいつの間にか4年を超え、回数も50回を超えた。今回は過去を振り返り、その後手に入れられたものを紹介したい。「あの時これがあれば・・・」「やっと見つかった!」など、その時持っていたら紹介できたのに、というもの達だ。 
 中にはいつか連載に登場させようと思うものもあるが、なかなか紹介する機会がなさそうなものが多く、であれば振り返りを兼ねて今回紹介することにした。断片的になるので何のことやらピンとこないものもあると思うが、せっかくなので、この機会にその時の連載内容を見ていただけるとありがたい。

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#2、#3「輸入鉛筆と日本の鉛筆」から真崎鉛筆、MASASHIGE鉛筆

https://www.buntobi.com/articles/entry/series/taimichi/007518/
https://www.buntobi.com/articles/entry/series/taimichi/007597/
 まず、第2回と第3回の鉛筆の回だ。輸入鉛筆はいつから日本にあったのかの考察や、それに影響を受けた日本の鉛筆の紹介が主な内容だ。連載2回目で大いに緊張して力が入りまくった状態で書いていたことを今でも覚えている。
 当時、冒頭で大正か明治時代の鉛筆の写真を載せようと思い、改めて自分のコレクションを確認してみると、明らかに大正以前と言える鉛筆がないことに気づき、非常に焦った。その時の焦りが忘れられず、以降は時代がはっきりしている鉛筆は入手するようになり、そして後日真崎鉛筆製造所(現三菱鉛筆)の局用鉛筆が手に入った。

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*真崎鉛筆製造所(現三菱鉛筆)の局用鉛筆。明治40年代。



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 真崎鉛筆製造所は、現三菱鉛筆の創業当時の社名で、その後明治41年には市川商店と合併し真崎市川鉛筆株式会社となっている。また、三角が3つ重なったようなマークは真崎家の家紋に当たる。この鉛筆と一緒に、同じ鉛筆だが、巻いてある紙に真崎市川鉛筆の名前が印刷されたものも売られていたので、合併した明治41年前後に作られたものであろう。
 第2回の時に、この鉛筆があれば良かったのに、と入手した時に思ったものだ。

 更に第2回、第3回では連載のために調べていて初めて知ったこともいろいろあった。特に興味をひかれたのは、日本の商品名の鉛筆の中に、STAEDTLERやFABERなどの海外の有名メーカーが作ったものがあったことだ。


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*1912年(大正元年) 福井商店営業品目録より、STAEDTLERが作った福井商店ブランドの鉛筆。



 実はこの「海外メーカーと日本語商品名の鉛筆」については、遡ること8年前の2014年から気になっていた。2014年にコレクションの中に「MASASHIGE」という商品名でSTAEDTLER製の鉛筆の広告があるのを見つけ※1、実際にSTAEDTLERが作ったものなのか、日本で作った鉛筆にSTAEDTLERのマークを付けたのか疑問に思っていた。それがこの時の連載のために調べたことで、日本用の商品を海外メーカーで作っていたことを知り、とてもすっきりしたものだ。

さて、事情は分かったが、そうなるとさらに海外メーカーがつくった日本用商品の鉛筆が欲しくなる。そしてMASASHIGE鉛筆の存在に気づいてから足掛け8年、ついに見つけたのが、これ。

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*大正頃、澤井商店のMASASHIGE PENCILの箱。



 MASASHIGE鉛筆!の箱だ。
 残念ながら鉛筆は入っていないが、この箱が手に入っただけでも、MASASHIGE鉛筆の存在がリアルに感じられ、自分としては感慨深い。

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*箱の蓋の裏側には、STAEDTLERのラベルが貼られている。



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*MASASHIGE鉛筆の存在を知るきっかけとなった澤井商店の紙製石盤の裏面と、実際の箱。



 MASASHIGE鉛筆の存在を知ってから4年後にどういうものかがわかり、さらにその4年後に箱が見つかった。順調にいけば4年後に鉛筆自体が見つかるかもしれないではないか。あきらめずに探し続けよう。

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*カタログに掲載されているSTAEDTLER製で日本の商品名となっている色鉛筆。これも最近見つけることができた。こちらは中の鉛筆と商品名が連動しないので、箱だけ日本で作ったのではないかと推測される。

#24「手洗い動画と100年前の鉛筆削り器」からバリカン削りの箱

https://www.buntobi.com/articles/entry/series/taimichi/011478/
 次は鉛筆削りだ。コロナが本格的に流行り出し、外出を控えるようになったころに鉛筆削りをいろいろ紹介した。その中の一つ「バリカン削り」について、以前より箱が欲しくて探していたが、2年ほど前に手に入れることができた。
 このバリカン削りの箱は見ての通りかわいらしいデザインで、大正時代の製品としては、とても洒落ていたのではないだろうか。谷崎潤一郎は随筆でバリカン削りを気に入っているような記述があるのだが、少しいかめしいイメージのある文豪 谷崎潤一郎が、この箱に入ったバリカン削りを愛用していたのかと思うとほほえましく感じでしまう。

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*バリカン削りとその箱、バリカン削りは1920年(大正9年)特許登録。



 箱だけでなく、バリカン削り自体も一緒だったので、バリカン削りが2個になってしまった。だが、新しく手に入れた方が、刃がしっかりしており、ちゃんと鉛筆を削ることができる。さらに説明書までついており、バンザイ三唱をしたくなる気分だ。

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#34 「やってみた!100年前のコピー」からコピー用インク

https://www.buntobi.com/articles/entry/series/taimichi/013435/
 小さなコピープレス器を入手したのをきっかけに、100年前のコピーに挑戦してみたことがある。蒟蒻版を作り、コッピー鉛筆を使ってコピーをやってみた。その時に手に入らずに悔しい思いをしたのがコピー用のインクだ。コッピーインク(古い資料ではコッピーと表示されているので、コッピーインクと呼ぶ)は、通常のインクよりも粘性が高いが水ははじかない性質らしい。昔のコピーは紙を濡らして写すので、流れてしまっても水をはじいてもコピーできないからであろう。古いカタログを見ると、欧米・日本どちらも当たり前のようにコッピーインクが載っているが、現物がなかなか見つからない。もちろん中身が入っていないと意味がないのだが、その時はコッピーインクの瓶ですら見つからなかった。
 いつかは手に入れて、もう一度コピーの実験をやりたいという熱意をもって探し続けた結果、やっと手に入れたのがこれ。

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*STEPHENSのコピー用インク。



 STEPHENSのコッピーインク、色はバイオレットブラックとある。未開封で、揺らすと中にたっぷり液体が入っているのがわかる。写真ではわからないが、これはインク瓶で一番大きいレベルのサイズで1リットルくらい入っていそうだ。余談だが、この大きくて中身の入ったインク瓶は、イギリスからこれ以上ないくらいのふかふかで厳重な梱包で届き、開封していて思わず笑ってしまいつつ、相手の気づかいに感謝した。コレクションをしていると、そういうちょっとしたことも思い出になったりする。

 さて、手に入れたはいいが、これを開封するには勇気と技術がいる。開封したあと、大量のインクをどうするかという問題もある。
 というわけで、まだ開封に至ってないが、いつか開封してコピーの実験に再チャレンジしたい。

 開けるのがもったいないという気持ちもあるが、100年前のバイオレットブラックのコッピー用のインク、中身はどうなっているのか、使えるのだろうか、そしてどんな色なのだろうと、とても興味がある。

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#48 「紙をまとめるちょっと残念な道具2点」よりPINZIT専用ピン

https://www.buntobi.com/articles/entry/series/taimichi/016058/
 こちらはごく最近掲載した内容で記憶に新しい。ここで紹介したPINZITは、紙を専用ピンでとめる簡易ホッチキスのような道具だ。だが掲載当時、専用のピンが1本(それもたまたま本体のどこかに引っかかっていたらしいもの)しかなく、本体にセットしづらいことや、うまく止められないことが、ピンが少ないためか、道具の仕様の都合なのかがよくわからなかった。
本体のPINZIT自体が非常に珍しく、コレクションを始めて12年のうちで過去見かけたのは1回だけ、今回2回目の遭遇となり、これを逃すと手に入らないと思って頑張って手に入れた。
 そんな道具なので専用ピンなんてまず見つからないだろうと思っていたが、これが驚いたことに連載掲載の翌月に見つかり、手に入れられた。なんという巡りあわせ!

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 専用ピンを手に入れたので、本体にセットして使ってみることにした。そこでピンを取り出すと、おお!くっついている!ホッチキスの針のように、ピン同士が粘着されていて、まとめて取り出したり、セットできるようになっているのだ。
 なるほど。これならセットするときに、ひっくり返ったりしないし、これくらいまとめてセットすれば、ピンが浮かずにうまく刺せそうだ。ホッチキスの針も1本でセットするのは難しいし、最後の1、2本の時は引っかかりやすいのと同じだ。

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*ピンの画像左側、先端に向かって色が変わっているところが粘着されている。



 ということでセットして、動かしてみた。やはり専用の針はしっくりくる。前回よりも簡単にセットして紙をとめることができた。

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*ピンをセットした状態。隙間があるので、ピンの残量がわかるのと、変な角度で入ってしまった時に引っ張り出すことができる。



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#1「幻の鯨印消しゴム」はいまだ幻のまま

https://www.buntobi.com/articles/entry/series/007384/
 さて、探しているのに見つからない最たるものは、第一回目の鯨印消しゴムだろう。A.W.FABER製で明治の終わり頃に日本に輸入され、かなりの人気商品となりコピー品や同じ品番の消しゴムが出回ったらしいが、実物を見たことがない。さらに日本以外の欧米のカタログに掲載されているのも見たことがない、というまさに幻の消しゴムだ。

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*日本で大人気であったというA.W.FABERの鯨印消しゴムのカタログ画像。



 私が持っているのは日本製のコピー品、それも半分に切られたもののみ。もともと消しゴムが好きな自分としては是非実物を手に入れたいが、いまだにご縁がない。
 ただ、この4年半で新たな情報が入った。まずは、鉛筆を主とするコレクターであり、「えんぴつ一万本超えちゃいまし展」※2主催の山台氏がコピー品を見つけて入手した。

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*鯨印消しゴムのコピー品、市川商店、推定昭和10年代。山台 坦氏蔵及び画像提供。



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*山台 坦氏蔵及び画像提供。



 K.I.PENCILは市川商店の商標だ。おそらくこの消しゴムと同じと思われるものが掲載されているカタログがあり、その商品や写真からすると昭和10年代くらいだろうか。コピー品でもこれだけきれいな状態で、しかも箱ごと出てきたというのはとても希望を持てる情報だ。

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*市川商店カタログ、推定昭和10年代。主要商標の中に鯨印が含まれている。



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*市川商店のカタログより。山台氏所蔵の消しゴムと同じと思われるものが掲載されている。



 もう一つの情報は、フランスのカタログにこの鯨消しゴムが掲載されているのを発見したことだ。今まで日本のカタログでしか見たことがなく、日本のみで販売されていたのではとも思っていたが、これで少なくとも1か所は日本以外の国でも販売されていたことが分かった。そうなると、日本以外の国のオークションでも見つけられる可能性があるということで、希望が広がった。

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*1914年、フランス文房具卸商のカタログ。右ページの1番上にA.W.FABERの鯨印消しゴムが掲載されている。

連載も探し物もまだまだ続く

 さて、まとまりのない話になったが、今回は以上だ。振り返ってみると連載を書くことで欲しいものリストはどんどん長くなっているが、見つかったものはごくわずかだ。でも、わずかでも見つかって手に入れられたこと自体が奇跡のようなものもあるし、わずかでも見つかるものがあるということは、あきらめない限りいつか見つかる可能性はあるのだ。もしかしたら明日見つかるかもしれない。
 ただ、焦っても仕方ないのでここは気長にいこうというのがコレクションをしていて学んだことだ。そして連載も頑張りすぎて続けられなくなったら元も子もないと思い、変に気負わずできるところまでゆるりと続けていこうと思う。
引き続きよろしくお願い申し上げる。



※1 1914にMASASHIGE鉛筆の存在を知る:広告で見つけたことが個人ブログに残っていた。「輸入・廃番文房具の発掘メモ」より「駄目な文房具ナイトEX~文房具超人サミット2014~出演しました」の中盤に記載。https://tai-michi.hatenablog.com/entry/15693181

※2 えんぴつ1万本超えちゃいまし展:現在予約制。当面の間、多人数での来展はご遠慮いただいてます。マスクの着用と手指の消毒等、コロナ感染防止対策にご協力お願い致します。
住所 大阪府大阪市北区中津1-17-23 梅田サービスビル3F
電話 06-6371-5410
Twitter https://mobile.twitter.com/jackinumeda

プロフィール

たいみち
古文房具コレクター。明治から昭和の廃番・輸入製品を中心に、鉛筆・消しゴム・ホッチキス・画鋲・クレヨンなど、幅広い種類の文房具を蒐集。
展示、イベントでコレクションを公開するほか、テレビ・ラジオ・各種メディア出演を通して古文房具の魅力を伝えている。
著書「古き良きアンティーク文房具の世界」誠文堂新光社
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