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【連載】文房具百年 #34 「やってみた!100年前のコピー」

たいみち

前からやってみたかったこと

 古い文房具を集め始めた頃にコッピー鉛筆というものを知った。芯に染料が含まれており、濡れるとインクで書いたようになる性質で、複写用に使われた。スペルは「COPY」なので「コピー鉛筆」でもいいのではないかと思うが、昔のカタログや資料は皆「コッピー」と書かれている。
 そしてそのコッピー鉛筆を使って複写をするには、「コッピープレス」という道具と、「蒟蒻版(こんにゃくばん)」というものを使うのだ。やり方は簡単に説明すると書きのようになる。
 ① 紙にコッピー鉛筆で絵や文字を書く
 ② 蒟蒻版で書いたものを写し取る(ここでコッピープレスを使って圧力をかける)
 ③ コピーする紙を蒟蒻版に乗せて転写する(再度コッピープレスで圧力をかける)

 以前からこれをやって見たかったのだが、コッピープレスを持っていなかったので、そのままになっていた。それにコッピープレスは当時のイラストを見る限り、かなり大きくて重く、場所も取りそうだ。そういう点でも手に入れにくい道具なので、消極的になんとなく探していた。それがつい先日コッピープレスをついに手に入れたのだ。それで、やってみたかった「100年前のコピー」をやってみることにした。

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*コッピープレス。時代不明、ドイツより入手。



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*コッピープレスを操作するイラスト。「最新 事務所経営法」 著者 兼 発行者 黒沢貞次郎、 明治40年(1907年)

コッピープレス

 コッピープレスを購入したのは2月で、買ったはいいが、とんでもない邪魔なものがやってきたらどうしよう、重過ぎで扱えないなんてことはないかな、とドキドキしながら届くのを待っていた。そして届いたものをみて、思わず笑ってしまった。

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「小さい!」
 なんと購入したコッピープレスは、名刺サイズの極少サイズだった。オークションの写真に比較がないので気づかなかったが、そういえば送料も安かった。でも置き場所や取扱のことを心配していたので、この手乗りサイズのコッピープレスの方が却って都合がいい。
 ちなみにコッピープレスの使い方だが、土台にコピーする原本や蒟蒻板を置き、上部のハンドルを回して板を下降させ、押さえつける道具だ。現代のスタンプのようにポンと捺してすぐ写るというわけではないので、圧力をかける力を一定にしつつ、しばらく時間をおいても大丈夫なようにハンドルを回して位置を固定できるようになっているのだろう。
 コッピープレスがいつからあったのかというと18世紀半ばから後半にかけて作られはじめており、19世紀半ばにはいくつもの種類がカタログに掲載されていた。なお今回は実際にコッピープレスを使ったコピーに挑戦することが目的なので、歴史や発明者などには触れずにおく。

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*イギリスの文房具商「Waterlow_Sons」 カタログ(1865年)。

蒟蒻版を作る

 ではさっそくコッピープレスを使ったコピーを進めていこう。まずコッピープレスと言えば蒟蒻版。その名の通り蒟蒻のようなものだと思うのだが、現物はもちろん、写真やイラストも見たことがないので、どういうものかがわからない。幸い、明治大正時代はいろいろなものの製造法が紹介されているし、我が家にある明治時代の「工業叢書」という書籍にも確か蒟蒻版の作り方が掲載されていたはずだ。何とかなるのではないかと思いとりあえず作り方を読んでみることにした。

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*「工業叢書」、色々なものの製造方法をまとめた書籍。シリーズになっているようでこれは文房具と化粧品の製造方法が書かれている。明治31年発行。



 まず原料は何で、手に入るのか。手に入るとしても、必要量の何十倍もの量を買わなければならないとか、高額・取り寄せなどは困る。資料を読むと「膠(にかわ)」と「倔里設林」と水を使うとある。材料の種類は少ないようだ。助かった。
 「倔里設林」ってなんだ?調べると「グリセリン」のことらしい。別の資料にもカタカナで「グリセリン」と記載されているので間違いないようだ。「グリセリン」は買える?調べると普通に売っており、特に高価でも大量ロットでもない。良かった。なんだ、グリセリンは化粧品などに使われる原料で、これを買って自分でスキンケア用品など作る人もいるようだ。
 もう一つの原料「膠」は画材店などで扱っているはずだ。「膠」か「ゼラチン」のどちらでもいいようだが、明治時代はきっと膠の方が主流だったろうと想像して、膠を探すことにした。これも粒状で扱い易そうなのが少量から購入できることがわかり、一気に蒟蒻版の製造が現実味を帯びてきた。
 さて、どれくらいの量を買えばいいのか。これが資料によって割合が違っているし、そもそも単位が「百目」など「目」となっているものが多い。百目って何グラムだ?ある資料では膠は「百目」、グリセリンは「ポンド」になっていたりする。
 いくつか資料を読んで単位を変換して読み解いたところ、下記のような配分らしい。
膠1:水2:グリセリン4~5
 つまり膠100gの場合、グリセリンは400g~500gということだ。よし、グリセリンと膠を買おう。
 次に、作る道具は何がいるのか。作り方の説明はどの資料も簡単に書いてあり、資料によって書き方や道具は若干異なるが大体以下のような内容である。

① 膠は水に浸してよく給水させる(8時間~24時間)
② 吸水させた膠を溶かす。陶器の鍋で低温で熱するか、鍋の中に小鍋を浮かべ湯煎する
③ 膠が溶けたらグリセリンを加え、ガラス棒でよく混ぜる。その際に気泡やごみは取り去る
④ 火を止め、気泡が上がってこなくなるまで待つ
⑤ ふきんまたは目の細かい金属のざるでろ過し、平らな容器に静かに移す
⑥ 平らな冷暗所で冷やして固める

 この手順にそって、使いそうな道具を調達した。
 膠とグリセリンを溶かすのは、ガラスの耐熱ボールで湯煎することにした。ガラス棒は100円ショップのバーベキュー用の串で代用したが、これは気泡ができたときにつぶすのに都合が良かった。ふきんと裏ごし器を両方用意したが粒上の膠を使ったこともあり、特にダマにもならなかったが一応裏ごし器だけ使った。冷やして固めるために小さいステンレスのパッドを3枚用意し、そのほかに溶かした液をガラスのボールからパッドに移すのには、たこ焼き器用の小さい片口レードルを買ってみたが、これがなかなか具合がよかった。

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*蒟蒻版製造のために用意した原料と道具。左上から時計回りに、湯煎用のガラスのボール、粒膠250g、グリセリン500g、たこ焼き器用の片口レードルと濾すためのふきん(使用せず)、お菓子用裏ごし器、ステンレスのパッド。



 原料と道具がそろったので早速作り始める。まず使用する量だが、今回は「膠 50g」「グリセリン 200g」で作ってみることにした。

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*粒膠50gでスタート



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*作り方に書いてあった水の量が膠に給水させる量のことか、溶かすときに加える量かがわからないので、とりあえず200cc入れてみる。



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*数時間後に給水した膠が膨らんで頭が出てきたので、更に200cc追加。その結果膠のボリュームがかなり大きくなったので、作るのは約半分の量を使うことにした。



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*鍋に水を入れ、ガラスのボールに給水した膠を入れ、水を少々追加して火にかける。



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*グリセリンを測っていれる。膠を半分にしたので100g投入。



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*ボールの外側は温度が上がるにつれて気泡が上がってきたが、ボールの中は特に気泡は発生せずきれいに溶けた。
 バーベキュー用の串で混ぜながら、串を持ち上げたときに少し糸を引くくらいまで熱した。もう少し水分を飛ばした方が良かった気がする



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*火を止め、たこ焼き用のレードルで、パットに静かに移す。これも少し冷めてから移したほうが良かったかもしれない。



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*固まった後にうまく取り出せるかが心配だったので、両端に紙を挟んでみた。
 パッド2つ分できたので、冷蔵庫で冷却。



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*参考にした資料に「24時間」とあったのだが、固まったようなので18時間で冷蔵庫から取り出した。



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*少し気泡が入ったが、端なので問題ないだろう。



 蒟蒻版製造はここまで思ったより順調にすすみ、透明でとてもきれいに固まったので、かなりの達成感。自慢したくなるくらいだった。しかしこの後が大変だった。パッドから蒟蒻版がきれいに出せず、2つのうち一つはボロボロになってしまう。
 なんとかもう一つはテストをできる状態で取り出せたが、取り出せた方とダメだった方の違いが分からない。うまく取り出せた方は、冷蔵庫から出してしばらく常温に置いていたのが良かったのだろうか。

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*取り出し用に挟んだ紙をそっと引き上げてはがそうとしたが、底面に張り付いていて、途中でちぎれてしまった。



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*こちらのパッドの蒟蒻版は、ボロボロになってしまった。コッピープレスが小さいので、固まってはがせた部分でテスト1回分は取ることができた。



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*ボロボロになってしまったが、蒟蒻版とは、透明でとてもきれいな物体であることを知った。



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*もう一つのパッドの方は、何とか形を維持して取り出せた。



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*ボロボロになった方で1回分、まともに取り出せた方で2回分、計3回分を確保。

コピーを取る

 蒟蒻版ができたので、コッピープレスを準備する。抑え用の板に蒟蒻版が触れるとくっついてしまいそうなので、油紙代わりにガリ版用の蝋紙で保護する。また、土台のゆがみと圧力をかけるための厚みの調整で、紙の束を同じく蝋紙で巻いたものを下に挟むことにした。

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*写真下に移っているものは、高さ1cmくらいの厚紙の束。蒟蒻版の粘着と水濡れ防止のため蝋紙で巻いて台にした。



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*今回使用したコッピー鉛筆。上からKOH-I-NOOR(チェコ)、American Pencil(アメリカ)、T.K&CO.(日本)、トンボ鉛筆(日本)、FILA(イタリア)



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*名刺大の紙に文字を書く。紙は厚めのはがき用紙を使用。



 いよいよコピーだ。文字を書いた原子の上に蒟蒻板を乗せ、コッピープレスで圧力をかけてから、緩めて取り出す。ここで失敗が2点。
 まず、原紙の上に蒟蒻版を乗せたが、蒟蒻版は扱いづらいので、台に蒟蒻版を置いて、その上に原紙を伏せて置く方がおそらく失敗がない。
 次に力加減がわからず、コッピープレスで圧力をかけすぎ、蒟蒻版をつぶしてしまった。蒟蒻版の出来自体の問題かもしれないが、もう少し加減したほうが良かった。
 結果、蒟蒻版は崩れ、コピーあまりうまくいかなかったのだが、透明な蒟蒻版に写された文字は鮮やかに発色しており、驚くほどきれいだった。「蒟蒻」のイメージから何となくくすんだ色あいの作業をイメージしていたが、明治時代のコピーとはこんなに美しい作業だったのか。それがわかっただけでもこのチャレンジをしてみた甲斐がある。

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*圧力をかけすぎて壊れてしまったが、きれいに映っていることに驚いた。



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*右がコピーした方の紙。半紙の、ざらつく側を張り付けたところ、紙をはがすのが大変だったが、薄いながらも文字のコピーは確認できた。



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 さて、気を取り直しTAKE2。セットの仕方を変えて、圧力をあまりかけないようにやってみる。だが、今度は蒟蒻版の表面が紙に張り付いてはがれてしまった。何とかはがした後には薄く文字が残っていたものの、最初の方がましな状態だ。

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*TAKE2は、蒟蒻版から紙をはがしたときにとてもきれいに写っており、思わずガッツポーズが出たが、よく見ると蒟蒻版の表面がはがれてくっついているだけだった。はがれた蒟蒻版を取り除いたのが写真右。



 それでは最後の蒟蒻版を使ってTAKE3へ。これが一番うまくいったと思う。TAKE3の1枚目が割ときれいにコピーできたので、2枚目にチャレンジしたが、そちらは蒟蒻版の表面の一部がはがれてしまった。

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*コッピー鉛筆で文字を書き、蒟蒻版の上に伏せて置く。



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*コッピープレスに置き、圧力をかける。



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*きれいに文字が転写されている。形が悪いのは、パッドから外す際に失敗した蒟蒻版のため。



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*蒟蒻版の上に写す紙を置き、再びコッピープレスへ。



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*右下がTAKE3の1枚目。比較的クリアに文字が見える。調子に乗ってもう1枚やったところ、蒟蒻版の表面の一部がはがれてしまった。



 蒟蒻版がなくなってしまったので、蒟蒻版によるコピーは以上だ。なお、吸水した膠を半分残していたので追加で蒟蒻版を作成しようとしたが、グリセリンの分量を多くしたためか、固める時間が短かったせいか初回より取り出した際の状態が悪く、コピーするところまでいけなかった。
 次回蒟蒻版を作る際は、パッドの底にガラスか金属の板状のものを置き、その上に液を流し込んで、取り出す際には底板ごと取り出すようにしようと思う。それがおそらく賢いやり方だ。

複写簿のコピー

 コッピープレスが出てくる資料を読んでいて、蒟蒻版が出てこないコピー方法があることに気づいた。だがこちらはコッピー鉛筆ではなく、コッピーインキを使うようだ。コッピーインキは明治・大正頃のカタログを見ているとよく出てくるので入手したいと思っているが、今のところ手に入れられていない。それに、もしコッピーインキを運よく手に入れることができたとしても、時代的にコルクのふたであろう。となると、おそらくうまく開けられず、仮に開けられた場合、今度は閉められずにとても扱いに困るものになってしまう。そう考えるとコッピーインキを手に入れてそれを使って100年前のコピーをやってみるのは無理があるようだ。
 ちなみに前出の「工業叢書」にはコッピーインキの作り方も載っているのだが、材料が多いうえに「●●酸」など素人が扱ってはいけないような雰囲気のものが並んでいるのでハードルが高い。唯一コッピーインキの青については材料が少なかったので挑戦してみようかと思ったが、材料の「水溶性アニリン」とやらは気軽にホイホイ買うものではないようなので、コッピーインキ製造はあきらめた。
 だが、せっかくコッピープレスがあるので、ちょっと試してみたい。コッピーインキは通常のインキよりも粘度が高いというのを何かで読んだことがある。それなら製図用のインクで代用できないだろうか。ついでにコッピー鉛筆でもできないかやってみてもいいだろう。

 蒟蒻版を使用しないコピーの手順の説明は次のようになる。※1
① コピー元となる用紙の下に油紙を挟む
② コピー元となる紙に文字を書く
③ 濡れ紙を当ててコッピープレスで締める

 これは第一銀行の社史「第一銀行史」※2に書かれていたやり方だが、蒟蒻版を使うやり方と比べると何か足りないような違和感を覚える。そう、蒟蒻版は原本に書かれたことを蒟蒻版に写し取って「版」を作るのだが、このやり方だと「版」がないのだ。
 一体どういうことなのか。その答えは第一銀行のコピーの取り方の説明の後に書かれている紙の説明と、当時の複写簿の紙質にあるようだ。第一銀行史では、上記の説明に続いてこう書いてある。
 「本紙(コピー元)は和紙洋紙いずれに書いてもいいが、コピーは必ず和紙であった。」
 このコピーに使った和紙はどのような紙なのか。
 ここで昔の複写伝票を見てみよう。推定昭和初期のものだが、明治時代からあまり変わっていないと思われる。

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*金鵄印の複写式伝票。



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*2枚複写式で、1枚目の紙はとても薄く、透けるようである。2枚目の紙は通常の厚みで透けない。



 この写真の伝票のように、古い複写式伝票は1枚目(3枚複写の場合は1、2枚目)の紙がとても薄い。おそらく第一銀行史で言われている「和紙」はこのように薄く透けるような和紙を指している。つまり、この薄い紙を濡らして、コピー元となる原本の上に重ねれば、インクが紙に浸透して原本に書かれたことが表からも読める状態になるということではないだろうか。転写式ではなく「透過式」コピーというような方法だ。
 早速やってみよう。

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*製図用インクはパイロットのインクを使用



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*製図用インクで文字を書く。



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*コピーする側の紙は透けるように薄い三椏(みつまた)紙を使用。



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*刷毛を濡らして、コピーする側の紙を濡らす。



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*ペーパータオルで余分な水分を吸い取る。



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*コピー元の紙の上に、濡らした紙を置く。この時点で濡らした紙はほぼ透明状態で、コピー元の文字がはっきり見える。



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*コッピープレスでしっかりと締め、数分時間を置く。



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*位置によってムラがあるが比較的はっきりコピーされている。



 この通り、製図用のインクでもコピーをすることができた。コッピーインキを使えばおそらくもっとはっきりとインクが浸透するのであろう。そして、「用」の文字がはっきりしているのは、コッピープレスの抑え用の板のこの部分が出っ張っていて一番強く圧力がかかるためだ。つまり、圧力が均等にかけられる状態であれば、全体的にこの「用」の文字の濃さが出せるということだ。
 ついでにコッピー鉛筆でもやってみたところ、こちらもむしろ蒟蒻版よりよくできた感じだ。コピーする紙に制限があるもののこの方法の方が蒟蒻版より簡単に思える。

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*何度かやってみた結果、原本の紙に厚みがあったほうが写しやすかったので、原本は葉書の厚さの用紙を使用。



チャレンジの後に残ったもの

 100年前のコピーへのチャレンジはこれでおしまい。そしてこのチャレンジの後に残ったものが二つ三つ。
 気になることとして残ったのは、「透過式(仮)コピー」は海外でも行われていたのかということだ。コッピープレスやコッピー鉛筆、コッピーインキは海外からやってきたものだが、コピーする側の紙が「透けるように薄く、濡れても破けない和紙」というのが条件だとしたら、海外ではこの方法は行われていなかったのかもしれない。だとすると、コピーという手段が広まる中で、日本の中で考えられたのか。この辺り、いつかもう少し調べてみたい気がする。
 心残りとしては蒟蒻版の出来が今一つだったこと。固めるところまではうまくいった気がしていたが、ちゃんと取り出せないのでは意味がない。それに硬さや吸着力も、本来はもっと扱いやすいものなのだと思う。だって、紹介されている方法で製造してそれを販売していた人達がいたはずなのだから。
 物理的に残ってしまったものもある。蒟蒻版を作るのに用意した道具に、膠とグリセリンだ。また蒟蒻版製造にチャレンジするか。いや、そういえば、蒟蒻版の作り方を参照した「工業叢書」だが、たまたま化粧品の作り方も載っている。原料にグリセリンが含まれるだろうから、これについては明治時代の化粧水でも作ってみようか。
 
 まあ、色々なものが残ってしまったし、結果としてあまりうまくいかなかったが、楽しいチャレンジだった。
 今度蒟蒻版製造にチャレンジする人に、この記事が参考になれば幸甚である。



※1  蒟蒻版を使用せずにコピーを取るには、ほかに吸い取り紙を使う方法もあるが今回は割愛した。
※2 「第一銀行史」第一銀行社史編纂室発行、昭和33年



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プロフィール

たいみち
古文房具コレクター。明治から昭和の廃番・輸入製品を中心に、鉛筆・消しゴム・ホッチキス・画鋲・クレヨンなど、幅広い種類の文房具を蒐集。
展示、イベントでコレクションを公開するほか、テレビ・ラジオ・各種メディア出演を通して古文房具の魅力を伝えている。
著書「古き良きアンティーク文房具の世界」誠文堂新光社
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