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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.54 最新の進化系マーカー&筆ペンをチェック!(その3)

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。

今回は、最新の進化系マーカー&筆ペンを取り上げました。

第3回目は、ぺんてるの「速乾ぺんてる筆」です。

写真左からきだてさん、他故さん、高畑編集長*2021年6月30日撮影
*鼎談は2021年9月2日にリモートで行われました。

あの定番筆ペンから速乾タイプ新登場!

1.jpg速乾ぺんてる筆」(ぺんてる) 毛筆筆ペンの先駆けとして愛されてきたロングセラー「ぺんてる筆」シリーズの書き味はそのままに、インキの速乾性を向上させた。従来より5倍(同社従来品比)速く乾き、手や紙面を汚しにくく、たくさん書いたときも乾かすための場所や時間を取らない。顔料を用いたインキのため、にじみにくく筆跡をきれいに仕上げることができ、耐水性・耐光性に優れている。本物の筆のようなタッチが特徴の毛筆タイプの「速乾ぺんてる筆」(税込660円)と、筆に不慣れな人でも使いやすいサインペンタイプで黒とうす墨のツインになっている「慶弔サインペン〈速乾〉」(同330円)の2タイプをラインアップ。

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【高畑】そこで、今度はぺんてるから速乾筆ペンが出てくるんだよ。まあ後発だからというのもあるかもしれないけど、ぺんてるの方が黒がちょっと黒いんだよね。

【他故】ぺんてるのは黒いね。

【高畑】赤系、青系じゃなくて、割とニュートラルで黒いんだよね。

【きだて】インク色はぺんてるの速乾の方が好き。さすがに、きれいな黒が出るんだよね。特に、本格毛筆の方で、かすれているところに赤も青も出にくいというか、きれいにかすれたところまで黒いというのは、よくできていると思うけど。ただね、「瞬筆」と較べると、ほんのわずかに乾燥が遅いと思うのは気のせい?

【高畑】書く紙にもよると思うけどね。

【他故】ほんのわずかと言うけど、俺は1秒以下で乾いたシーンはないよ。

【きだて】書いて即指でこすると、「瞬筆」の方が擦れが少ない。

【他故】ふむ。

【きだて】もちろん、1秒待てばどちらも乾いているんだけどね。これは秒未満のわずかな違いだから、大したことではないとは言えるけど。

【高畑】意地悪にやらなければというのはあるかもしれないけど、擦れる感じが少ない方がいいよね。

【きだて】俺が選ぶとしたら、黒さを取るか、秒以下での擦れ無さを取るか、という視点で迷うことになるだろうな。

【他故】まあそうだろうね。

――確かに、きだてさんの言う通りですね。ほんのわずかな差ですけど。

【他故】本気で試したら差は出ますよ。ぺんてるのは、インクが割とベッタリ出ているような気がするんですよ。普段思っている筆ペンのインクの出方で、その割には速く乾くなという印象。

【きだて】そうだね。

【高畑】ペン先は、僕の好みでいうと、本格毛筆はぺんてる筆の方がコシがあって書きやすいです。それで、ツインタイプにあるようなペン先でいうと、「瞬筆」の方が書きやすいです。ぺんてるのツインタイプは、それは早く乾くけど、カスカスするんだよね。カスレやすい。インクフローがあまりよくないので。ペンタイプのだと「瞬筆 二役」の方がいいと思います。

【他故】そうだね。

【高畑】でも、ナイロンの筆に関していうと、ぺんてるの筆の良さというのが出るかな。柔軟性とコシの強さのバランスは、ぺんてるの方がちょっと上かなという感じがする。

――そこら辺は、長年「ぺんてる筆」を作っているので。

【高畑】そうそう。「ぺんてる筆」の筆の良さというのがあるけど、速乾性というところでは、確かにパイロットの方が速いよねというのがあって、これが悩ましいところではある。

【他故】悩ましい感じか。

【高畑】あと、黒さはぺんてるの方が強いけど。

【きだて】そこは、筆ペン作っているメーカーの、墨色へのこだわりがあるのかね。

【他故】あるんじゃない。

【高畑】ぺんてるには薄墨があるけど、パイロットはないの?

【他故】薄墨は、「瞬筆」の顔料系には実はないのよ。染料系しかない。

【高畑】あっそうなんだ。

【他故】表書きに使うわけでもないから、耐水性を持たせなくていいと考えたんじゃないの。

【高畑】ああ、涙でにじんだ薄墨だからね。これ、ぺんてるの薄墨を使ってみたら、薄墨というよりはグレーなんだよね。

【他故】あ~はいはい。

【高畑】最近流行ってるグレーの色のペンみたいな感じ。墨が薄いというよりは、グレーという感じなんだよ。そこがちょっと気になりました。俺的に、墨が薄くなったのとグレー色は違う気がするな。

【他故】それは分かるね。違うよね。

【高畑】雰囲気が違うんだよ。だから、これに関してはまだまだかなという気がします。難しいけどね。

【他故】そうか。

【高畑】まあでも、ぺんてる筆のコシの強さと黒さからすると、普通に宛名書きするには黒で全然いいし。乾きがちょっと遅いといっても、従来のぺんてる筆の乾きが遅すぎたんだよっていう。

【他故】まあまあ(笑)。

【高畑】今までは、呉竹の「完美王」を使うことが多かったんだけど、「完美王」は割と乾きが早いんだよ。従来のぺんてる筆に関しては、乾きが遅いよね。だから、ぺんてる筆の純粋な改良バージョンとしてアリな気がするんだよね。元のぺんてる筆の方がインクが黒いけど、それでもこれはアリかな。

2.jpg【きだて】捉え方としては、「瞬筆」は新しい筆ペンブランドで、「ぺんてる筆速乾」は従来ぺんてる筆の速乾バリエーション、という感じなのかな。

【他故】そういうことだね。

【きだて】これまでぺんてる筆を使ってきた人たちは、これに切り替えても全然いいし。

【高畑】好みの問題もあるから、完全に「いいよ」とは言い切れないけど。でもね、年賀状を何枚も書くストレスを考えたら、「ぺんてる筆」から「ぺんてる筆速乾」に換えるのは、アリな選択肢だと思う。

【他故】そうだね。それは分かる。

【高畑】パイロットの筆ペンから「瞬筆」に換えるときは、「いやでも、色もあるしな」と迷う部分もあるけど、ぺんてる筆に関しては、もちろん真っ黒ではないんだけど、アリかなという気がするね。それよりも便利の方が大きいよね。

【きだて】でも、ぺんてる筆はコシとかは変わってないよね。

【高畑】うん、変わってない。筆の気持ちよさはあんまり変わってないけど、インクが染みやすくなってるというのが大きいところで。だから、割といいんじゃないですか。

【きだて】筆ペンって、こだわりメーカーを持っている人いるじゃん。そういう意味で、ぺんてる派の人に、「速乾」という乗り換え先が見つかったのはよかったなと思う。

【高畑】それはあるし、個人的にもぺんてる筆をもう1回使ってみてもいいかなという気はする。

【きだて】あとは、呉竹が「完美王・速乾」を出してくれたら完璧なわけでしょ。

【高畑】「完美王」って、インクの出が抑制されている部分と、割と速乾に近いインクなんだよ。

【きだて】あー、そうね。わりと速いっちゃ速いよね。

【高畑】元々速いんだよ。そういう意味では「完美王」は割かしバランスがいいんだよ。

【きだて】でも、秒速速乾というほどでもないしさ。「完美王」でも秒で乾くのが出たら、呉竹派の人も嬉しいでしょ。

【高畑】うん。

【きだて】やっぱり、全ての筆ペンは秒速速乾になるべきなんだよ。「瞬筆」が出たときにそう思ったんだけども。

【高畑】きだてさんは、良いものが出たときの「もう、これまでのやつは全部いらない!」っていうのがすごいよね(笑)。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】「全部これになれ!」っていうのが(笑)。

【きだて】切り替えて損がないのなら、新しくアップデートされた方がいいでしょ。

【高畑】確かに、速く乾いてくれる分には、汚れなくていいので。

【きだて】そうでしょ。筆ペンが速く乾いて困る人っていないはずだし。

【他故】まあ、いないね。

【高畑】はがきに書いてもいいよ。ぺんてるのはむしろバランスが良くなったんじゃないかなと思いますね。やっぱり、はがきを何百枚も書くからさ。毎年そこは困るんだよね。

【他故】でも、使ってる人の意見は重要だよね。分かる、分かる。

【高畑】一遍に何百枚じゃなくても、毎日20枚、30枚書くわけじゃん。それを続けるわけですよ。そうなると、乾かすところがないというのを今まで経験しているので。でも正直、俺は前の「瞬筆」にいけなかったんだよ。

【きだて】あっそう?

【高畑】速く乾くのは分かってたんだけど、このインク色が僕の中でどうしても違和感を拭えなかったので。それで「完美王」を使ってたのね。なので、ぺんてるは使ってみてもいいかなという感じ。「瞬筆」は、ちょっと茶色いかなと思うので1回書いてみてからかな。紙との相性もあるからね。

【他故】うん。

【高畑】でも、それは本格毛筆での話。きだてさんの言うようにペンの軸も重要で、「瞬筆」のボディはインクの出方とか書き心地が楽だよ。この辺は、どっちもアリっちゃアリだけど。少なくとも、細字に関しては、「瞬筆 二役」の細字がいいかなという気がします。

【きだて】この細字、本当によくできてる。

【高畑】硬い方の細字はパイロットがいいと思う。

【きだて】結局のところ、俺は樹脂筆しか使わないので、選択肢は狭いんだけどね。

【高畑】きだてさん的には、顔料系のインク色も赤黒じゃなくてもうちょっと黒か青系がいいわけだね。

【きだて】そうね。

【高畑】俺は本格毛筆派なので、今回はぺんてるが「おっ、なかなかいいじゃん」という感じの雰囲気だよ。パイロットは、顔料系になってくれたのは嬉しいけど、ちょっと赤いのが気になりますね。

【他故】僕も、実際に字を書くときは、ほとんど毛筆を使わないので、こうやって選んでみると、選択肢で残るのは「瞬筆 二役」かな。

――そこは好みが分かれますね。

【他故】あとは、筆ペン使う人で字を書かない人もまだいると思うのね。僕らが漫画描いてた頃は、ベタ塗りは全て筆ペンでやってたんだけど、ベタ塗りする人には速乾が最高なので。

【きだて】そらそうだね。

【他故】カラー原稿描かないんだったら、染料の方でも構わないので、もうこれはバンバン使ってもらったらいいかなと思うね。

【高畑】このぐらいだったら、ムラが出たりはしないのか。

【他故】ムラは出ないと思うな。

【きだて】まあ、大丈夫だろうね。

【高畑】「完美王」はほぼ真っ黒だったのでそれが良かったけど、そこら辺が気になる。でも、速乾は重要だよね。作品を汚すと台無しになっちゃうからね。そこは必要だね。

【他故】そこは間違いないと思う。

【高畑】そして薄墨は、もうちょっと薄墨というのが伝わるようになるといいと思います。とか言いながら、世の中的には「これだけ年賀状書く人が減った」とか言っているわけですよ。「もう年賀状なんかいらない」という世の中になりつつある中で、まだ筆ペンをアップデートしようとしてくれているわけで、全体的にはありがたいですよ。ここが進化しているのはすごいと思う。

【きだて】最初に「瞬筆」が出たときに相当驚いたものな。

【他故】まあ、「これやるか」みたいなね。

【きだて】「パイロット、すごい新技術を開発したんだな」と思ってたんだけど、でもそれから2年後には、ぺんてるも特許に抵触しないかたちで開発できたわけじゃない。であれば、まだ他メーカーが追随する余地はあるんじゃないかな。

【他故】うん、あるでしょう。

【高畑】それは、墨に近い状態にこだわりすぎていた、「筆ペンは墨に近くなければいけない」と思っていたところに、「乾く」というところに振ったパイロットがすごかったんじゃない。

【きだて】その話は前にもしたよね。筆ペンにあまり思い入れのなかったメーカーだからこそ、それができたという。

【他故】思い入れのない(笑)。

【きだて】いや、そういう言い方をしていいのかどうかはさておき。でも、ぺんてるとか呉竹は、これまでに相当筆ペンを作り込んできたわけだからさ。

【高畑】そこに対して、固定観念に囚われやすいということもあるだろうし。それが、これからこっちが主流になるんだったら、インクの性能が変わってくる可能性はもちろんあるよね。

【きだて】もう純粋に、「速乾の方がいいよね」と他メーカーも思ってるんじゃないのかな。

【高畑】他メーカーがそう思うのは、店頭の数字が出てきたときに、「これはヤバイ」と思えば、そうなると思う。

【きだて】それはそうだろうね。「瞬筆」は相当売れたんじゃないの?

【他故】売れたんじゃないの。今までパイロットの筆ペンが入ってなかったところにも入るようになったから。それで、年間で商品を売り場で見るような気がするよ。

【高畑】筆ペン使う人が増えてないとすれば、パイロットに持って行かれたというところがあるわけだよ。

【他故】そうだね。

【高畑】そうなると、「速乾じゃないと売れない」と言う営業マンとかが出てくるわけだよ。「うちではできないのか」という話が出てきて、そういう圧で商品化が進むということもあるからさ。

【きだて】それでぺんてるも作ったと思うんだよ(笑)。

【高畑】パイロットが出てなかったら、ぺんてるは作ってなかったと思うよ。

【きだて】今頃、奈良県の方でもバタバタしてるんじゃないかしら。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】でも、墨運堂は「本物の墨を使ってます」というのをウリにしているから。

【きだて】あれはまた別かな。

【高畑】墨にこだわりのあるところは別として、その他はインクを変えてくる可能性はあるよね。

【きだて】多分、呉竹もやってくると思うよ。

【高畑】呉竹だったら、今までの「完美王」のインクをバージョンアップして「速乾」と加えるだけで、今までと同じパッケージングで行けそうな気がするけどな。

【他故】そうだね。いわゆるカラーブラッシュの世界でも、速乾が出てきたら面白いかもしれないしね。

【きだて】あ~。路線としてはあるかもしれないね。絵でも速乾欲しいかな。

【他故】絵となるとまたちょっと違うけど、欲しいという人はいるんじゃないかな。油性並に速く乾くとなったら、それはそれで欲しいかもしれない。

――色が同じように出せればいいんでしょうけどね。

【高畑】トンボの「ABT」なんかは、どっちかというと画材的な扱いで、水に伸ばしたりしできるというのをウリにしているので、また別ジャンルかなと思うけど。

【きだて】そうだね。速乾だとブレンダーは使いづらいか。

【高畑】それは速乾じゃない方がいいのかもしれないけど。そこら辺も含めて、どっちへ行くのかは気になるところだね。とにかく、汚れない筆ペンが出てくるというのは、僕らにとってもありがたいことだよね。なので、とりあえず「みんな年賀状書こうぜ」という話でもあるんだよ。「筆ペン使え!」って。

【他故】ははは(笑)。

【きだて】30年後ぐらいに、「じいちゃんが若かった頃は、年賀状を書くと手が汚れたもんじゃ」という話をしているかもしれないよ。年賀状がその頃残ってればだけど。

【高畑】多分、「じいちゃんが若い頃ははがきというのもがあってな」という話だよ(笑)。

【きだて】あー、そっちか(笑)。

【高畑】ロストテクノロジーにならないでほしいね。筆ペンは筆ペンで良いところがありますよというところですね。

――でも、久しぶりに筆ペンで盛り上がりそうなので。

【高畑】色の違いや、書き心地の話題でこれだけ盛り上がれるというのは、みんな分かっているんだよね。

【他故】うん、そうね。

【高畑】分かりやすい違いがあるということで。ここはね、適当にどれでもいいというのよりは、ちゃんと選んだ方がいいですね。

【きだて】文とび読者の人は、パイロットとぺんてるでどれだけ色が違うのか、とりあえず較べてみてほしいよね。

【他故】そうね。まず試筆してもらってね。

【高畑】普段は筆ペン使わないけど、これから使うという人は、速乾の方を買っておいた方が扱いやすいかなという気がするね。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」が群馬県沼田市のコミュニティFM「FM OZE」で好評放送中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/

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