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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.48 ブング・ジャムが選んだ2000年代の個人的ベスト文具を発表!(その3)

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。

今回は、弊社で発行している文具業界専門紙『旬刊ステイショナー』の通巻2000号を記念しての特別編。2000号にちなんで2000年以降に発売された文房具の中から、ブング・ジャムのみなさんにそれぞれのベスト文具を選んでもらい、『旬刊ステイショナー』2021年3月15日発行号に鼎談を掲載しました。「月刊ブング・ジャム」では、その鼎談をノーカット版として掲載します。

第3回目は、他故さんが選んだコクヨの「ジブン手帳」です。

写真左から他故さん、きだてさん、高畑編集長*2020年11月7日撮影
*鼎談は2021年2月15日にリモートで行われました。

「筆記具との和解」のきっかけになった手帳とは?

main.jpg「ジブン手帳」(コクヨ) 大手広告代理店のクリエイター・佐久間英彰氏がページ制作を監修した、情報が整理しやすいライフログ手帳。初登場の2011年版は講談社から発売され、2013年版からコクヨで発売されている(写真は「ジブン手帳Biz」2021年4月始まり版です)。

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――最後は他故さんですね。

【他故】はい。切るもの、書くものが出てきましたけど、私は何にしようかずっと悩んでたんですね。マイベストといったときに、何を基準にしようかと。その辺みんなバラバラだと思ったんですけど、僕の場合考えたのが、一番日常的に使っていて、しかも長く使っているものは何だろうということです。それで、長く使っているということでは、本当は違うんだけども、同じシリーズを延々と使っている、他に浮気をしたことがない、というものが一つだけあって、それが「ジブン手帳」です。

【きだて】お~。

【他故】すべての手帳を体験して、それでこれがベストと言っているわけではないので、本当の意味でのベストではなくて、僕のマイベストになるんですけど、2012年から浮気せずに使っているので、結局9年間ずっと「ジブン手帳」を使い続けている。

【きだて】うん。

【他故】さっきの文具王のやつと同じで、僕はこれがないと相当不安です。もし、これを家に置いて会社へ行っちゃったら、一日中かなりぐんにゃりしてますよね。すごく嫌な気分になって、その日はやる気がなくなるんじゃないかというぐらい(笑)。

【高畑】ふむ。

【他故】だから、たくさん書くという習慣をつけたくれたのもこれだったんですよね。書く喜びをすごく与えてくれた手帳でもあったので。ただ、会社員だったから続けられたと思ってるんですよ。これを手にする前って、内勤だった時代だったんですね。2011年末にこれを手に入れたんですけど、2012年版だったので、「ジブン手帳」が出た2年目ですね。2012年版を手に入れたときはまだ内勤だったので、正直書くことがないんですよ。別に、スケジュールも書く必要がないし、何も必要なかったんだけども、「何かカッコいいやつが出たぞ」と。

――はい。

【他故】もちろん、作者である佐久間君のことは知ってはいたんですけど、私もちょっと手帳に憧れていた時期だったんですよね。いろんな手帳をみて、「やってみたいな」と思ったときにこれを使ってみて、自分のスケジュールを書くというよりも、日常の流れを24時間で書けるというのが、1年やってみて楽しくなったんですよね。

【高畑】うん。

【他故】で2012年1月に、私事ではありますけど、仙台に転勤をしまして。単身で行っていたので、その中のスケジューリングも含めて、ただ本社で内勤していたときと違って、いろいろと書かなければいけなくなったときがあったんですね。そういうのをやったときに、書くのが楽しい、今まで手書きで書くというのが、割と好きだったつもりだったんだけど、実は毎日書くようなことをやってなかったんですよ。日記をつけていたわけでもないし、会社の中ですごい書き物をしているわけでもないし。なんだけど、それを毎日これに向かって書くという習慣がついた段階で、これでようやく「あっ、筆記具と和解したな」という感じがして。

【きだて】ははは(笑)。

【他故】それまでは、文房具好きだと言っていながら、実はそんなに書いてなかったという忸怩たるところがあったんですよ。正直に言えば。

【高畑】他故さんがそれを言うんだ(笑)。

【他故】本当にそうだったの。それが、毎日書くことが苦にならず習慣になって、ようやく「ああ、俺は筆記具と和解したな」と思えたのも、「ジブン手帳」と出会えたから。

【高畑】ふふふ(笑)。

【他故】そこからあとは習慣なので、別に苦もなくずっと使っていて。面白いことに、中に書く量が段々減っていくんですよ。いろんな付録のページとかあるんですよね。別冊で自分史を作ってみたりとか。

【きだて】はいはい。

【他故】そういうの、今は一切やってないです。面倒くさいことは全然やらなくなっちゃった。だから、中はほぼ白いの。完全に書いてないページばかりになっちゃって。

【高畑】うん。

【他故】なんだけど、毎日書くということはずっと継続してやっていて。月間ブロックと週間バーチカルは書いているし、あとは体重と体脂肪と体温と歩数をガントチャートに毎日つけていて、体のバロメーターを見ている。だいぶ巣ごもりというか、テレワークで体重が増えてきたので、管理しているわけなんですけど(笑)。

――なるほど(笑)。

【他故】こういうのが苦もなくできるようになったということで、マイベストといっていい状態じゃないなかと思うんですよ。僕の中でこれがないとめっちゃ不安。

【きだて】でも、現状24時間管理は、もうほぼほぼ使ってない状態なんだよね?

【他故】バーチカルの24時間は、何が必要かというと、起きた時間と寝る時間が書けるのが最高にいいわけですよ。

【きだて】あ~。

【他故】起きて朝飯を食う時間は決まってるけど、寝る時間はバラバラになってしまうので、どれだけ睡眠時間がとれたかが分かる。

【きだて】そんなのいいじゃんよ(笑)。

【他故】いやいや。「このとき何で寝るのが遅かったんだろう」とか、「このときどうして息子とお風呂に入らなかったんだろう」とか、そういうのが分かるわけですよ。

【高畑】なるほど。

【他故】なので、これについては、書く習慣がついてよかったという気持ちを含めて、僕の中でベストと呼べるものじゃないかなと思うわけですよ。

【きだて】多分、フォーマット化された日記を使う感覚だよね。

【他故】そうね。本当にミニマムな日記。

【高畑】日記側に寄ってる?

【他故】それでも、スケジュールは書いているので。当然、いつどこが空いているというのは、これで見るわけだし。いつ何があるというのは、月間にダーッと書いていて、それを週間に落とし込んでいく。週間の方は実際の出来事をギッシリ書き込む感じでやっているので。もちろん、スケジュールとして全然使うんだけど。とにかく、これは手放せないです。何かに替えようとも思わないし、「ジブン手帳」なくなったらどうしようと本当に思う。

【高畑】他故さんが「毎日書かなくては」と言ってるときの、きだてさんの表情が面白くて(笑)。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】きだてさん的にはどうなの? 毎日書いているところに対して。

【きだて】いや、ほんとに「他故さんはそういうのが好きなんだなぁ」と。俺は嫌いだけど (笑)。

【他故】あははは(笑)。

【高畑】いや、本当に毎日コツコツとね、書いて埋めていくという。

【きだて】結局、人間はやりたいことしかやらないわけですよ。

【他故】うん、それはそうだね。

【きだて】そういったモチベーションをどの道具で掘り起こすかという部分が、道具を使う醍醐味でもあるでしょ。だから、他故さんが「ジブン手帳」で筆記具と和解した、という話は、すごく面白いと思うんだ。これによって他故さんは日記に目覚めたという流れでもあってさ。

【他故】それはそうだね、確かに。

【高畑】他故さんは振り返るの? さっき言ったみたいに「この日はどうだった」みたいに、振り返ることに使ってる感じなの?

【他故】プライベートで振り返ることは正直ほぼない。ただ、いつ何があったのかを仕事で調べることは頻繁にあるので、「去年このくらいの時期に会議あったよな」みたいなものは見るので、どうしてもそれは確認するために必要になってくる。なので、生活の部分で振り返ることはないけど、振り返るのは仕事の部分。去年あったことは、今年はどんなかなというところだけ使ってる感じ。例外で、「あれ、いつだったっけな」というのが、Twitterやブログを引っ張っても出てこないときは、自分の辞書みたいな感じで、これ9年分あるので、さかのぼることはできる。そういう安心感はあるので、実際に調べたこともあるし。結構あるんですよ。憶えているけど、いつだったか分からないみたいなことが。ヒントが書いてあることが多いので、それは助かりますね。

【きだて】まあ、それに助けられることが多いわけですよ、ブング・ジャムも(笑)。

――ははは(笑)。

【高畑】そうだよね。「去年のイベントどうしたっけ?」みたいなね。

【きだて】大体、他故さんから情報が出るので。

【他故】「ああ、あれはね」っていう(笑)。

――過去のも全部取ってあるんですか?

【他故】これに限らず、手帳やノートは捨てられないタチなので、本棚にすべて入ってます。

【きだて】貯まってるなと思って(笑)。

【他故】これは9冊だけだからまだましだけど、モレスキンがあったり、野帳があったり、捨てられないノートが死ぬほどあります(笑)。

――ふふふ(笑)。

【高畑】きだてさんは、過去の記録とかどうなんですか?

【きだて】基本、手帳はつけずにスマホだけだから。でも手書きのネタ帳はちゃんと取ってあるね。

【他故】取ってあるんだ。

【高畑】予定表的な部分での、日付の入っているいわゆる手帳とか、スケジュール帳は?

【きだて】それは完全にGoogle様に頼り切りの状態だよね。Googleカレンダーのみでしか自分の記録は残ってない。

【高畑】他故さんだと、体重を書いて目標に向かってやっていくとかあるじゃないですか。僕なんかも、YouTubeやったとかをつけておくのに、割とアナログを使うんですけど、きだてさんは特にそういうのないの?

【きだて】ないね。そういう書き留めておかないといけないことは、Googleカレンダーのメモ欄に放り込んでおくという感じ。

【高畑】いわゆる、目標に向けて何か印をつけておくみたいなのは?

【きだて】やらないね。自分の目標をどこかに書き留めておくとかそういうことを、今までの人生でほぼほぼしたことがない。

【高畑】そういうのが見えてないとダメという人もいて、僕とか他故さんはそっち系なので、書いてちょっとずつ見ながら頑張っていこうという感じなんだけど。

【きだて】僕は、本当に一つ決めると執念深い人間なので、そこをアウトプットしておく必要がない。

【高畑】お~なるほど。

【きだて】例えば、禁煙と決めたら、「禁煙」と筆書きして壁に貼っておく必要は一切なくて。万が一にもタバコ吸ったら、自分で自分の顔をかたちが変わるまで殴るぞ、ぐらいの感じになるんだよ。

(一同爆笑)

【きだて】俺は、自分ルールに厳しいんですよ。

【高畑】あ~そうか、なるほど。

【きだて】意志が硬いといえば硬い。逆に、それで忘れちゃうようでは、俺にとってはあんまり重要じゃなかったのかもしれない。

【他故】なるほどね。

【きだて】だから、そういうのをやったことがない。目標体重に向けてグラフを描くとか。

【高畑】あと、筆記具との和解については、自分でノートとか手帳とか作ったりしたし、特に最近は小さい手帳を使うようになって、毎日書くのを割とするようになったね。

【他故】うん。

【高畑】そもそも、「筆記具と和解するのか」問題があるんだけど。

【他故】まあまあ、それはね(苦笑)。

【高畑】きだてさんの疑問としては、それだと思うんだけど。

【きだて】はいはい。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】そうなのよ。それが普通の人の反応だと思うよ。「別に、筆記具と仲良くしなくてもいいじゃん」というのはあるんだけど(笑)、俺的には「お前、文具王だろ」と思うところがあって(笑)。

【きだて】そうな(笑)。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】家にこんなに筆記具があって、使ってなかったら、ちょっと申し訳ないじゃん。

【他故】まあまあ(笑)。

【高畑】というのが自分の中にはあって、本末転倒だとは多少分かっているんだけど、書くために使うことはなくもない。書くことを楽しもうとしていることがなくはないんだよ。

【他故】うん。

【高畑】それを続けていくには、続けやすい自分に合うフォーマットってあるんだよね。合わないフォーマットだと続かないんですよ。いろんな手帳を使うんだけど、結構忘れちゃったりとか、つけないでしばらく放置したりとかするんだけど、上手くハマってると割と毎日つけたりするんだよ。それが上手くハマった瞬間が、他故さんは「ジブン手帳」を手に入れたときだと思うんだよ。多分ね。

【他故】まず、日常の生活の中で、手書きのシーンが減っていたのは間違いないんだよね。会社で仕事をするときに、すべて入力するだけで、一切一文字も書かないという時期があったのよ。その時期に「お前ブング・ジャムだよな」というのも確かにあったのよ。

【高畑】やっぱりあるんだ。

【他故】あったのよ。普段、筆記具を語る人間が日常筆記具使ってないじゃん、というところが少しあって、それで手帳をつけるようになったのが、それより前だったんだけど、無理矢理書いている感覚が最初はあったのね。「これは本当に好きで書いているのか?」という雰囲気があった中で「ジブン手帳」に出会って、必要なことを書く、記録に残したい、という欲望があったわけじゃないんだけど、「これは楽しく書けるぞと」というのが分かって、そのまま楽しく書いてた。このときに「俺はようやく、筆記具を集めてる人から、筆記具で書く人になった」という感じがすごくあったので。

【きだて】話を聞くに、ほんとにこのおじさんはストイックだなと思って(笑)。

【他故】いやいやいや(笑)。

【きだて】普通の人間は、筆記具ともうちょっとなあなあでやってんだよ(笑)。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】書くためにわざと場所を用意していることを否定しづらいところはあって、「そもそも、書かなくていいんじゃね?」と言われたときに、上手く反論できない弱さみたいなのも若干あるんだよ。

【他故】分かる。

【高畑】正直、最近書く量は増えてるけど、いわゆるスケジュールは書いてないんだよ。スケジュールは全部Googleでやってるから、予定表は書いてないんだよ。メモとかノートとか日記とか、最近は試し書きとかやってるけど、スケジュールを書かなくなったら、そういう意味では手帳がなくてもいいかなという気はするけど。

【他故】ふむ。

【高畑】でもすごいね。2012年からずっとやってるんだね。

【他故】そうだね。今年で10年目か。

【高畑】ほぼほぼ、「ジブン手帳」の歴史と重なるじゃないですか。

【他故】さすがに、一番最初の講談社版を手にしてないので、そこのところは舘神龍彦さんに負けるところなんだけど(笑)。

【高畑】ははは(笑)。

――最初の講談社版は使ってないんですね。

【他故】僕は、講談社版はスルーしたんですよ。5,000円以上したし、なかなか手に入らないこともあったので。2年目も続くんだったら使ってもいいなと思って、1年目はスルーしたんですよ。

【高畑】最初出たとき、確か11月だか12月だかの時期で、もうみんな手帳買ってるよって。

【他故】そうそう。

【高畑】11月の半ばぐらいに「手帳出します」という話を聞いて、「え~今からかよ」って思ったのは憶えている。

【他故】2012年版から始めたんですけど、それも自費出版だったから、時期は遅かったと思うんですよね。遅かったんですけど、実は2011年の12月に「フリクションボール3」が出たんですよ。ここで、手帳用のフリクションが出たこともあって、「この手帳で行こう」と決め打ちになったんですよね。正直に言えば。「フリクションと合わせるぞ、3色でいくぞ」という。そのあとで「フリクションボール4」が出て緑が使えるようになって、さっきの文具王の話じゃないですけど、僕も赤・青・緑でやりたい人だったので色はシフトしていくわけですけど、そのときに「フリクションボール3」が出たのも大きかったんですね。

――なるほど。

【高畑】で、今はカバーまで作ってるんだよね。

【他故】2012年版が出たときに、あまりにもビニールのカバーと「フリクションボール3」の組み合わせが悪すぎたので、2013年版も出るようだったら「革カバーを作りたいね」という話を旅屋さんとしていて、それでこれを作って。実際、2012年にコクヨさんから2013年版が出たんですよね。そのときに、「ジブン手帳」の発売に合わせて革カバーも発売したので。これは9年目になりますが、ずっと使い込んでいて。

ジブン手帳.jpg

特注の専用革カバーを装着したジブン手帳(*2017年8月に撮影したものです)


【高畑】何ていうカバーだっけ?

【他故】「ケラウノス」っていう名前が付いてる。

【高畑】今も売ってるんだっけ?

【他故】旅屋さんでもう作ってないんじゃないかな。本当にこれは、「ジブン手帳」と「フリクションボール3」を持ち歩くために必要だったカバーだったな。いい出会いですよ。

【高畑】それは他故さんは必ず持ってるものね。

【きだて】うん。

【他故】これを持ってないというのは、ほぼない。近所に買い物に行くのは別として、そうじゃないときは絶対これを持ってる。

【高畑】うん。

【他故】9年分の手汗がこれに染み込んでいて(笑)。

――以前、文とびでこの革カバーを紹介してもらいましたよね。

【他故】ああ、この話しましたよね。まだ使ってます(笑)。

――なるほど、コクヨ版になってそのカバーを作ったんですね。

【他故】コクヨ版の発売に合わせて作りました。

【高畑】最近、「ジブン手帳」は別フォーマットとか出てるじゃないですか。あの辺は、他故さん的にはどうなんですか?

【他故】1日1ページのやつは興味があったので買ったんだけど、もうそこまでは書かないかなと思ったのが一つと、僕の使い方はスケジュールで見るので、半年分だけ持ち歩くってできないですよ。

【きだて】あ~そうか。

【他故】単純にスケジュールの話をしたら、今年後半の話をしないとは限らないですよね。2冊分冊になってこれを使い続けるとなると、来年以降上手く整合性がとれなくなってしまうので。僕の場合、「去年何やったっけ?」「どっちだっけ?」となって、わちゃくちゃになってしまうので、ちょっと興味はあったんだけど、使うところまではいってない。

【きだて】うん。

【他故】あとこれはスタンダードの大きさで、ミニもあるんだけど、ミニは方眼が3㎜になってしまって、そうするとフリクションの0.38㎜だと文字がつぶれてしまうということもあって。

【きだて】方眼に合わせて書かなくてもいいんだよ(笑)。

【他故】だって、30分1方眼だからしょうがないのよ(笑)。

【きだて】いやまぁそうなんですけども。

【他故】ミニの方が持ち運びしやすいけど、やっぱりスタンダードの方に戻るという。まあ、オリジナルも方眼のサイズが3.3㎜だから、たいして変わらないっちゃ変わらないけど。

【きだて】変わんないだろ(笑)。

【他故】3.3は文字を入れられる。訓練してるから(笑)。

【高畑】すごいな(笑)。

【きだて】3㎜だって、訓練すれば書けるようになるんじゃないのか。

【他故】それじゃ読めないんだよ、俺たちの目じゃ(笑)。

【きだて】3.3も一緒だって(笑)。

【他故】3.3は読めるんだって。

【高畑】でも、その3.3の中に文字が入ってるのって、すごいよね。

【きだて】気持ち悪いよね(笑)。

【他故】おいっ(笑)。

――使ってるペンはフリクションなんですよね。

【他故】そうですね。今は「フリクションボール4」になります。ノックノブの色に合わせて、赤インク、青インク、緑インクを入れて、黒のところはUNUS PRODUCTのリフィルアダプターを使って「アクロボール」を入れてます。ここだけ油性ボールペン。

フリクション4.jpg写真はボール径0.38㎜の「フリクションボール4 038


【高畑】なるほどね。

【他故】黒だけ油性にしている。だから、これを人に貸すと大惨事が起こるんですよ。

【高畑】あ~、消せないってやつだ。

【きだて】危ないやつだ。

【他故】そう、危ないやつ(笑)。

【高畑】なるほどね。

【他故】4が出てからずっとこのかたちですね。

【高畑】そうか、フリクションの4色で、黒だけアクロに替えるのか。ああ上手いね。

【他故】そうすると、「消しちゃダメよ」という文章に対応できるという。

――なるほど、「よい子は真似しないでね」というやつですか。

【他故】うかつに真似をすると大変なことになりますので、自己責任で(笑)。

――それで、ボール径は0.38㎜なんですね。

【他故】それしか選択肢がないので。

――そうか、方眼に文字を入れられないですものね。

【他故】そう、細いやつはこれしかないので。

【高畑】もし0.3㎜が出たら、それを検討する余地はあるの?

【他故】もうそれは、細くなる分には全然うれしい。だから、シナジーチップの0.3が載らないかなと思うわけですよ。

【きだて】まあ、そうだよね。フリクション0.3がシナジーで欲しいよね。

【高畑】ねえ。

【他故】まだあれかな、ポイントチップと同じで、4色に入れたら曲がっちゃうのかもしれないね。角度の関係で。

【きだて】あ~。

【他故】まあ、そんな感じでございます。

【高畑】みんな個性が出るね。

――まあ、上手い具合にカッターとペンと手帳という感じに分かれたので。でも、何で「ジブン手帳」を使おうと思ったんですか?

【他故】それまでは、会社のスケジュールを書くだけの手帳だったんですね。それで、ブング・ジャム関係で世の中の手帳をいろいろ見るようになって、何でもいいという感じではなくなってきた。どうせならプライベートのスケジュールも一緒に書くんだとしたら、どれがいいかなという感じで見たら、候補の一つとして「ジブン手帳」があったんですけど、講談社版はその時期じゃ買えないだろうということで、翌年まで待ったわけです。

――なるほど。

【他故】翌年見てみて、面白そうだなと思ったので買ったという感じで。すごい検討はしてなかったけど、期待はしてたんですね。

――なるほど、それで使ってみたら、筆記具と和解できたわけですね(笑)。

【他故】手帳とも和解できたという感じです(笑)。

――これからも「ジブン手帳」が出続ける限り使うつもりなんですか?

【他故】恐らく、今のところ替える理由がないので、同じかたちならずっと使って行きたいですよね。これでリニューアルして、全然違うかたちになっちゃうのなら、また違うものを使うかもしれないですけど。同じかたちで出続けてくれるのなら、替えないだろうと思いますね。

特別企画・未来の文房具についてブング・ジャムが激論!?

――最後に、難しいお題ですが(笑)、今回の特別企画の一環として、文房具の未来について簡単にお話を聞かせて下さい。

【きだて】どうもこうも、時代に沿って流れていくだけなんだよね。

【他故】どうなんだろう。すごい傾向があるというほどでもないと思うけど。

【きだて】80年代、90年代をみてても、その時代に沿ったものが出てるとしか言いようがないじゃないですか。

【他故】まあそうだね。

【きだて】昔はビジネス文具なんかはまだ若干頑ななところがあったけど、今は柔軟に、時代が求めるに合わせて変わっていくというか。それこそ、メーカーの生産システムがもっと柔軟になってるとか、ユーザーを求めているものを汲み上げる力が上がったとかいろいろとあると思うんだけど。それこそ、「ジェットストリーム」以降の流れは。今も、このコロナ禍でテレワークに対応する文房具の開発が進んでいるわけじゃないですか。なので、時代予測が大体当たらないのと同じで、文具がどうなっていくかも予測がつかないというのが信条ですよ。

――まあ、それはそうですよね。

【他故】でも、昔あったエコロジーブームのように、SDGsの認知が上がってくることによって、「環境に配慮してますよ」というのがウリになっていくんじゃないですかね。

【きだて】文房具はそれで懲りてない?

【他故】懲りてるかもしれないけど、どうだろう?

【きだて】あまり社会的に取り上げられないまま、エコ文具は終わっていったじゃない。廃プラとかが当たり前になっている状況で、特に何か謳うこともしなくなっていって。それを今またSDGsで名前だけ変えられてもなあというのが実感じゃないのかね。

【他故】どうかな。

【高畑】でも、文具のエコって「もう当然」みたいになってしまって、それが数少ない成功例になったよね。それが普通になったわけだから。すでにかなりいい線まできているとも言えるよね。

【きだて】社会的にはそうなんだけど、メーカー的にはそれを謳って売れてくれないと困るわけじゃん。

【高畑】それが売り文句になるかどうかは、きだてさんの言う通りだと思うけどね。

――でも今、脱プラで紙製のファイルとか出してきてるじゃないですか。

【他故】確かに、紙ファイルとか出てきてますよね。

――それがSDGsにつながっているわけですよね。

【他故】パッケージもそうじゃないですか。「ユニアルファゲル」って、ブリスター部分のプラスチックがめちゃくちゃ少ないじゃないですか。

――あ~。

【他故】今までだったら、ブリスターの外側って、紙を覆って固定するパーツだったのが、今回は紙の上にちょっと出っ張りがあるぐらいで、プラスチックの部分がすごく少なくなった。三菱鉛筆は配慮してるなっていう感じはするんですよね。それをウリにしているんじゃなくて、当たり前にしてるよっていうのが、企業に対して好印象をもたらすんじゃないかなと思うんですよ。

【高畑】むしろ、それに配慮していないのが悪印象をもたらすと思う。

【他故】もちろんそうだよね。

――あと、抗菌文具も出てきてますね。

【きだて】そこは切実なところなんですけどね。そこは新技術待ちかな。

【高畑】文房具は、全体的にイケイケのムードではないと思うんですよ。それは認めざるを得ないかなと思っていて、やっぱ「スマホ便利」というのを否定できない。これはしょうがないよと思うんですよ。情報を記録して活用するという一番ベーシックな情報処理ツールとしての簡便性は、どうやってもスマホに勝とうというのは無理だと思うんですよ。厳しいというのは否定できないんだけど、じゃあなくなればいいかというと「そうでもないぞ」と思っていて、ここしばらくの「いらねーじゃん」ブームに対しては僕は懐疑的なんですね。断捨離のブームがあったじゃないですか。ミニマリストブームがものすごいあったじゃないですか。それが今、脱ミニマリストみたいな状況になりつつあるの知ってます? ミニマリストが「脱ミニマリスト宣言」してるんですよ。ミニマリストというのが、ちょっと前まではステキな生活に見えたけども、コロナ起きました、地震起きましたという瞬間に、自分の手元に何もないというのが起こったわけで。家に籠もって、外に食事をしに行けなくなって、そうなると家にそれなりの調理器具が必要だし、備蓄食料が必要だし、トイレットペーパーの買いだめが起こったりして、そうなった瞬間に「生きてくのヤバイかも」となるじゃないですか。そういうミニマリストの反動がという話があったと思うんですよ。

――はい。

【高畑】周りがちゃんとしているからいつでも手に入ると思っていたものが、実はそうではないと気付いた瞬間に、急に今度は買い占めに走る。そういう愚かしさみたいなのが人類にはあって、スマホが出てきてからの10年、15年くらいのところで、人類は「スマホでいいじゃん」というところにグッと振ってるじゃん。子どもたちも、重たい教科書を持たずにタブレットでいいじゃんという話が出てきて、スマホが1台あれば手帳に書かなくていいじゃないかとなってるけど、これもいつまで正しいか分からないぞと。これも一種の断捨離であって、スマホにある世界がちゃんとしているという前提じゃないですか。それこそ、Google様が「日本でのサービス止めます」と言った瞬間に、きだてさんがこれまで蓄積した日記はすべて消えるわけですよ。

【きだて】そうなると、俺もGoogleになんぼでもお金を払う奴隷になるわけですよ。

【高畑】そうそう。「月額1万円払ったらGoogleカレンダー復活してもいいよ」という話になったりするじゃないですか。もし日米の関係が悪化したら、あのサービスはなくなるかもしれないんですよ。そうなったときに、きだてさんのこれまでの記録は消えるけど、他故さんの手帳は手元にあるわけですよ。そういう強みは他故さんにあったりするじゃないですか。俺は、アプリのサービスがなくなりますみたいなのをいっぱい見てきているから、プリントアウトした紙しか信用しないというところもあるんですけど。今便利だということは間違いない。それを使わないという手は全然ないけど、じゃあ今手放していいのかというときに、結構大事なものもあるんじゃないか。これから5年後ぐらいに、捨てたことを後悔するものが出てくるんじゃないかという気はしてるんですよ。

【きだて】それがまだ見極め切れてないのか、これからまだ見極めないといけないのか、そこら辺はまだ判断つかないんだよ。

【高畑】「リモートで仕事できるからいいじゃない」というのは、ある種の人たちには正しいんだけど、リモートになったことで失われたクリエイティビティがあるかもしれないと思うんだよね。「手書きを要らないじゃん」と言ったことによって、失われた何かはあると思うんだよ。代わりに得たものもあると思うんだけど、でも両方持っておいた方がよかったんじゃないのというものも中にはあると思うので。「スマホでいいじゃん」派の人たちから見たら、「まだ文房具やってるの」という感じなんだろうけど、ここから先、捨てたことによって後悔する事件が何か起こりそうな気がするんだよね。伝統工芸でも、型紙を使って機械的に織物をコンピューターに置き換えたら、OSがバージョンアップしたのに書き換える費用がなくて、今そのデータが全部死ぬ可能性があるという話があるよね。

【きだて】はいはい、西陣織がそうだっけね。

【高畑】パンチカードは復活させる可能性があるけど、フロッピーディスクは二度と戻らないみたいな状況になって消えるということも起こるかもしれないじゃないですか。だから、不可逆になくなる可能性もあるんだよね。

【きだて】それを言ってくと、結局は石版に甲骨文字みたいなそういう話になるわけじゃない。どこまで失っていいかというバランスもあるわけだよね。便利さと失う価値とのトレードオフみたいなのが絶対に出てくるので。

【高畑】多分、デジタルの以前と以後だと、失う度合いがすごく大きく変わったところだと思うんですよ。石版が木管に変わって、それが紙に変わってというところは、程度の差であって、要は似たような性格の中の話で、どれも現物さえあれば。でもデジタルは、「はいありません」と言ったときに、ペシャッと全部なくなるじゃないですか。その違いというのは。もちろん、複数バックアップがとれるみたいなメリットもあるんだけど。今のところ30年以上保ったメディアがないという恐ろしさがあるので。紙焼きの写真は残るけど、デジタルの写真は残らないかもしれないみたいなところもあるし。それは何があるか分からないので、心の中では、「まだデジタルは裏切るんじゃないか」という。そこに対して「必要な文房具はあるんだ」という立ち位置で出て行けるかどうかだね。

――他故さんは、書いたノートや手帳は全部取っているので、それに助けられる可能性もあるわけですよね。

【高畑】ある記録が、データは失われたけど、手書きのものが残ったみたいな話は、今はまだ起こっているので。今後もうちょっとましなデジタルの世界が来かもしれないけど。あとは、人がどう変わるかなんだよね。書かなくなることで、人がどう変わるのか、変わらないのかというところは気になるかな。物理的な存在を持つか持たないかという話なんだよ。「デジタルに置き換えました、もう要りません」となったら、もう一回物理的な体裁を作るのは難しい。だから、活版印刷も一度止めたら二度とできない。そういうことは、歴史の中でいっぱい起こってるんだけど、デジタルで置き換えることで、失われるピースがあると思うんだよね。

――でも、他故さんだって「ジブン手帳」と出会うことで、筆記具と和解したじゃないですか。何だかんだで手で書くことは減ってないように思いますけどね。

【高畑】そうなってくれればうれしいし、それに対して必要なことを発掘し始めるのかな。蛍光灯はLEDに取って代わられたけど、ろうそくはまだ必要なところがあったりするじゃないですか。万年筆は、メール書くのには要らないけど、万年筆があることに対する意味はまだ残っていくのではないのか、残ってほしいなと思いますね。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。

たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。

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