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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.29 これが未来の文房具だ!(その4)

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。Vol.29では、ブング・ジャムの3人が考える「未来の文房具」を紹介してもらいました。

第4回目は、高畑編集長が紹介した3Dプリンターで作った万年筆です

写真左から他故さん、高畑編集長、きだてさん

*その1はこちら
*その2はこちら
*その3はこちら

3Dプリンターで好みのペンを作れる時代が到来!?

ステッドラー1.jpg
「LIKE YOU」(ステッドラー)



【高畑】えっと、僕はステッドラーのペンなんですよ。

【きだて】それが未来なの?

【高畑】未来なんですよ。これはどういうものかというと、前にドイツへ行ったときに、ニュルンベルクのお店で買ってきたんですけど、最大の特徴は何かというと、ボディのイラストとか色とかが好きに選べて、3Dプリンターで作られるんですよ。

――そういえば、前にそんな話をしてましたね。

【きだて】してたね。

【高畑】ドイツに住んでいれば、自分のスマホからでもいけるんだけど、お店に行くと端末があって、その端末で色とか柄がすごい選べる。

【他故】ほぉ~。

【高畑】その場でペン先、軸、キャップ、色、柄とか組み合わせを全部決めて、自分のカスタムしたやつをポチッとボタン押すと、自分の家にそれが届くんだよ。

【きだて】有りものの組み合わせじゃなくて、3Dプリントするんだ。

【高畑】僕は旅行だったので、その場で作ってもらうのは時間的にできなかったので、ものすごい数の中から選んで組み合わせたものを買ってきたのね。こんなでかい什器に、軸がめちゃくちゃ並んでいるわけ。だから、全部ワンオフで並んでいるわけだよ。それを好きなの選ぶんだけど、ドイツに住んでいるかドイツのアカウントを持っていれば、柄の位置を変えたりとか、文字を替えたりとか、色も自分の好きな色を選んでポチッとやると、ちゃんと作って送ってくれるんだよね。

(一同)へぇ~。

ステッドラー3.jpgステッドラー2.jpg
【高畑】今のところは軸のデザイン的な部分だけで、グリップの太さを変えたりとかはまだ対応してないけど、こんなのすぐに対応できるようになるじゃん。

【きだて】う~む。

【高畑】今、日本でやっているのって、パーツを組み合わせて何とかしようというものだけど、そうじゃなくて、もうフルカスタムで作れるんだよ。

【きだて】だって、3Dプリンターで作ってるんだから、丸軸じゃなくていいわけだよね。

【高畑】三角軸でも何でもいけるんだよ。

【きだて】ひねりが入ったツイスト軸でもいいわけじゃん。データさえ作れれば。

【他故】それはいいだろうね。

【高畑】例えば、いろんなアーティストがデザインした軸が選べるとか。万年筆のペン先だけは制約があるから選べないけど、あとはグリップの太さとか形状もそうだし、長さも、重さだって低重心にしたりとか、そういうのが自分の好きにできますよというのは、全然先の話ではなくて、これ去年の話だから。ステッドラーのお膝元だからドイツで実験しているんだろうけど。

【きだて】これは未来だね。

【他故】未来だよ。

【高畑】カスタムの未来ではあるよね。

【きだて】文房具に対して3Dプリンターでどんなサービスができるんだろう、とは俺も前から考えてたんだけども。確かにこれは3Dプリンターの正しい使い方ではあるよね。

【高畑】だから、きだてさんの場合は「デザインは好きだけど、グリップが滑るんだよ」というのがあるじゃないですか。そういうときは、グリップをギザギザ深めにして下さいとか、そうのは全然できるし、軸のデザインもオリジナルのデータを持ち込んだら、それを作ってもらえるし。

【きだて】それ、いいよね。3Dプリンターなんて、それこそ発展途上の機械で、まだまだこれから性能アップしていくわけじゃない。今はまだ成形するのにウィーンウィーンって時間がかかってるけど、今後はボタン押して数分後ぐらいにはガチャンと完成品が出てくるぐらいには絶対になるはずだし。

【他故】それはあり得るでしょ。

【高畑】やっぱり、1本で作れるというのが大きいじゃない。その人しか欲しくないものを作れるから。軸の絵も、子どもが描いたものをスキャンして取り込むことだってできると思うし。だから、思ったより自由度は高いなと思って。

【他故】ふーむ。

【高畑】ペン先なんかも字幅を替えたり、ローラーボールに替えることができたり、そのボール径も選べたりとか、全部選べるわけじゃん。店頭で選べるだけでも、かなりの数になっていたけど、3Dプリンターで頼めるものに関しては、無限に選べるので。

【きだて】ただこれ、オリジナルでイチから作ろうと思ったら、それなりにリテラシーが要るんだよ。

【高畑】だから、今お店にあるものは、選べる要素をある程度限定しているから。「イラストはこのグループの中から選んで下さい」とか。そこはね、大きな画面が付いている専用の什器があって、そこでポチポチやりながら選べるのね。俺もドイツのアカウントを持っていたら選べるのに、と思いながらそれを指をくわえて見てたのね。

【他故】なるほど。

【高畑】それを日本でも、例えば伊東屋さんのようなところでできたら。

【きだて】そうだね、これはあるといいよね。

【高畑】ステッドラーの本社のあるドイツのニュルンベルグのステッドラーショップに置いてあったんだけど、旗艦店なので一番充実しているマシンだと思うのね。どのくらい配備されているか分からないけど。まあ、ドイツ国内だったら、ステッドラーから直に持っていけばいいからそんなに大変じゃないんでしょうね。だから、これがもうちょっと広まってくれればね。

――今はペンのカスタマイズが流行っているから面白いですよね。

【他故】これだけのペン軸を製品として出そうと思ったら、どれだけのロットで作らないといけないのか。在庫だって、こんなに置けないですよね。それを考えたら、これだけの軸がこの機械から出てきますというのは、すごい面白いですよ。

【きだて】これは、在庫の要らないコンパクトショップで行けるんだよね。

【他故】50本、100本を一気に並べられるような規模の店がこの幅でできると考えたら、相当すごいと思う。

【きだて】それこそ、大きな店だったら、在庫のありものを組み合わせて対応だってできるわけだもんね。そういう意味では、すごい小規模店とか個人がネットショップでやるとか、そういうお店の未来の話なんだよね。

――本当に面白いですね。

【他故】これ面白いですよ。ペン先も選べるのって、なかなかないよね。これ、グリップも選べるの? でも、グリップは作るわけじゃないよね。

【高畑】グリップは選択式で交換できた。

【他故】首から上はパーツとして存在するんだ。

【高畑】軸だけが3Dで、そこだけ色もかたちも選べる。現状はそうだけど、それはそんなに先の未来じゃなくて、これが簡単に作れるんだったら、他のものだって作れるよね。

【他故】それはそうだね。

【高畑】ただ、グリップはラバーでできているからね。

【きだて】3Dプリンターも色々と素材が出てきてるじゃん。ラバーもあるし、それこそ金属とかあるわけで。

【高畑】金属の3Dプリンターが使えるんだったら、それこそ重心の位置を変えることだってできるだろうし。

【きだて】いやー、これは夢が超広がりまくってる話だよ。

【他故】本当に。

【高畑】筆記具だって、そんなに大きいものを作らないから、プリンターの大きさを制限できるじゃん。

【きだて】そうね。専用と考えれば。

【高畑】筆記具が自由に作れているように見えても、マシンからしたら、太さや長さも幅のせまいところで物を作ればいいので、そんなに遠くない将来には普通にできていいのかな。

【他故】そうね。ゴリゴリの高級品はなかなか作れないかもしれないけど、面白いね。

【高畑】カスタムの楽しみ方が圧倒的に増えるし、それこそペンスピナーの人がさ。

【きだて】ペンに完全なバランスを求めてね。

【高畑】それができるよね。あとグリップの指のひっかかりで、ここにちょっとだけギザギザを付けたいとか。

【きだて】そういうのも面白そうだね。

【他故】そう考えると、名入れ業界とかも変わっちゃうよね。今までになかったタイプの軸を自由に作れちゃうわけだから。

【高畑】これのいいところは、凸で名入れができるから。

【きだて】刻印じゃなくて、凸でできるんだよね。

【他故】すごい面白くなるよね。企業はロゴとか入れたくなるよね。

【高畑】もちろん、いっぱい作っても、コストが下がらないんだけど、逆に1個ずつ内容を変えて、いくつも作れちゃう。ステッドラーのような、ハイエンドなブランドで、先をみてこういうのを導入していくというのは、まあ面白いよね。だって、今はんこはあるものね。シヤチハタみたいに自動販売機で選んだら、出てくるじゃない。

【きだて】「オスモ」は、考えてみれば確かにそうだ。

【高畑】あれも、昔は考えられなかったものだから。自販機で文房具を作ってその場で出すということができる。

――「オスモ」があるから、これだってあったっていいんですよ。

【高畑】「オスモ」は印面が平面だからまだやりやすいけど、それがさらに3Dでできるようになったなんて、未来が来たという感じがちょっとするな。

――3Dプリンターって、文具業界との結びつきがないじゃないですか。

【高畑】今のところはね。

【きだて】でも、本当は文房具と3Dプリンターって絶対に相性いいはずなんだよね。それこそ、細かいパーツがいくらでも作れると考えたらさ。アプリの話もさっきしたけど、文房具業界はそういう未来への取り組みが弱すぎる。

【高畑】それはあるよね。普通にいろんなものができるし。そういうものの入り口としてさ。

――3Dプリンターを導入するのは難しいのかな?

【高畑】そんなことはないと思うけどね。でも、これで売ろうと思ったら、3Dプリンター1台に対してすごい売らないといけないし、専用アプリを開発した開発費をペイしないといけないから、導入に思い切りは居るよね。でも、無い未来じゃない。

【きだて】実際、入門機だったら今4万円ぐらいで買えちゃうわけでさ。

【他故】そうね。

【高畑】今、ものすごい勢いでコストダウンしているじゃない。だからどこかの時点で、可能なラインを切っていく可能性はあるよね。

【きだて】あるよね。

【高畑】場合によったら、これ大手じゃなくて、アプリやデータを作るのが上手な小さなメーカーが、設備を持たずにメーカーを始めることができる。

【他故】そうね。“一人文具メーカー”が流行っているけど、今は「ペンを作ってます」というところはあまり聞いたことがないからね。

【高畑】ペン先はメーカーに供給してもらって、軸は3Dプリンターで作るとかは全然アリじゃん。

【きだて】アリだね。

【高畑】それだったら、工房でやり始めたら、全然イケる。

【他故】そういう人はいないのかな。いてもおかしくないよね。

【高畑】今はまだ、職人としての手工芸のカスタムをやっているわけだけど。もっとデジタルな方向でのカスタムということでやれる人たちが出てきたら面白い。

【きだて】金属3Dプリンターなんて、型が要らないわけじゃん。だから、今までにないかたちのペン先とかを、ひょっとしたら設計できるかもしれないし。

【高畑】例えば、透かし彫りみたいなのを簡単に作れるようになる。

【きだて】だから、ペン先なんかも、メーカー供給じゃなくて、自分で作れるようになるかもしれないので。本当に、文具業界にとって3Dプリンターは夢だから、何とかしよう。文具王が言ったみたいに、個人からそれが生まれるかもしれないね。

【高畑】ほどなく、世界でこういうことができるようになるんじゃないかな。

【きだて】この流れは止まらないと思うので、本当に期待だね。

――じゃあ、「文具のとびら」でも3Dプリンターでオリジナル文具を作りますか。

【きだて】それいいね! 「文具のとびら」で3Dプリンターを買って、オリジナル文具を作ろう!

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。

たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。

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