【連載】月刊ブング・ジャム Vol.29 これが未来の文房具だ!(その2)
本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。Vol.29では、ブング・ジャムの3人が考える「未来の文房具」を紹介してもらいました。
第2回目は、他故さんが紹介した「しゅくだいやる気ペン」です。
(写真左から他故さん、高畑編集長、きだてさん)
*その1はこちら
*その3はこちら
日々の努力を見える化するIoT文具
――次はどなたにしましょうか?
【きだて】じゃあ、机の上にすでに置いてある、他故さんのからいこうか。
――「しゅくだいやる気ペン」ですね。
【他故】今話題で、すでに売り切れになっているみたいで大変なんですが。
――コクヨの「コクヨ ショーケース」でしか売ってないんですよね。
【他故】そうです。これは、クラウドファンディングというかたちで、こういう商品を作りたいと。ただ、コクヨが言っていたのは、この製品を売りたいのではなく、「宿題をやる気にさせるような製品を作りたいので、子どもの意見を聞かせて下さい」というクラウドファンディングだったんですね。だから、その段階では、これを売るとは言っていなかったんですよ。
【高畑】ふむ。
【他故】それで、このプロジェクトがかたちになった段階で、子どもたちを集めて意見交換会をしているんですよ。それで実際に商品になったわけですが、もちろん息子のために買ったものですけど、私の大好物であるところの鉛筆補助軸じゃないかと(笑)。
――確かに(笑)。
【他故】なので、物として僕も大好きなんですが。使い方は、書いていったデータをため込んで、アプリの中の“やる気パワー”というボタンを押すと、書いた分だけのパワーがこっちに注がれるんですね。
【高畑】ほう。
【他故】スマホの上に置くと、やる気ある夫くんのところにパワーがいく。
【高畑】やる気ある夫くんっていうんだ(笑)。
【他故】いや、私が勝手にそう呼んでいるだけなんですけど(笑)。それでご褒美ができましたと。
【高畑】なるほど。
【他故】それで、やる気をもらった分だけ進んでいく。
【高畑】アイテムをゲットできるんだ。
【他故】それで、段々とアイテムが増えていって、クエスト感があるという。
【きだて】俺も先日ようやく買えたんだけどさ。この辺のアプリ上での見せ方の上手さとか、“注ぐ”的な本体連動ギミックの感じが上手くて感心したよ。
【他故】初期の想定でそこまで考えていたのかなと思うぐらい、練り込んであるなと思って。
【高畑】センサーが入っているから、後からどんどん継ぎ足された可能性は否定できないけど、単にここでつながっていて、書いたらカウントが増えていくだけじゃなくて、わざわざここに置くという。
【きだて】宿題が終わったという区切りで、こういうことをやっているんだよ。
【高畑】あ~、そういうことか。
【きだて】常時同期しててリアルタイムでやる気パワーが貯まっていくのが見えたら、子どもはそっちの方が気になっちゃうんじゃない?
【他故】何がいいって、書いたら親のところへ持ってきて、親が確認できるんだよ。
【きだて】おお、そうか。
【他故】自分のスマホでやるんじゃないから。
【高畑】親のスマホなんだ。
【他故】「そうか、よくやったな」って、親子でできる。
【高畑】注ぐやる気パワーって、書いた量によって違うの?
【他故】量によって違う。
【きだて】書いていると、ここのLEDの色がどんどん変わってくるんだけど。緑から黄色になって、それから青になって、オレンジ、赤だったかな。
【他故】そうそう。
【きだて】そんな感じで段階的に見えるようにはなってる。これは筆記した線の長さというか量を見てるのかね。
【他故】運動量みたいなものなんだろうけど。
【きだて】なんのセンサーで見てるんだろうね。例えば空中で本体を振り回しても貯まらないから。
【他故】筆記をすることによって貯まるからね。
【高畑】筆記をしてるだろうと、この機器が思っているその時間なりストロークの量なりを、何かで計測はしているんだろうな。
【他故】そう。
【きだて】時間じゃなくてストロークだろうね。
【高畑】「やる気タイム」とか「勉強タイム」とか、時間でも何かあるのかな。
【他故】ああ、細かい時間とか設定できるよ。どの日にどれだけやったとか、全部設定ができるのね。
【きだて】多分それは、起動からやる気を注ぐまでの時間だよね。
【高畑】「勉強タイム」というのが使ってる時間で、「やる気タイム」というのが多分書いているときの時間なんだろうな。
【他故】起動している時間と、書いている時間は違うからね。
【高畑】なるほど。時間は32分あるけど、ちゃんと書いているのは9分ということなんだね。
【他故】だから、これが書くモチベーションを身につけられるように、よくできているなぁという感じがあって。
【高畑】お母さんが、よくできたら花マルを付けてあげるわけだね。
【他故】だから、全て親も一緒に楽しむ。
【高畑】なるほど。
【きだて】一緒に楽しむというか、親の監視用のシステムだよね。
【他故】まあ、そういう言い方をするとさ(苦笑)。
【きだて】だから、実はこれはコクヨ版の「ビッグ・ブラザー」なんだよ(笑)。
【高畑】ええっ(笑)。これを使ってやる気が出る子どもがいっぱいいたってコクヨのレポートに書いてあったけど…。
【きだて】実際のところ、これを使えばやる気は出るとは思う。
【他故】やっぱり、貯まっていくと嬉しいというのがあって。どんな些細なことでも、結果が出ると嬉しい(笑)。
――あ~。
【他故】これ、最初に登録するんだけど、登録の画面がまたかわいいんだ。「お前にこのペンを授けよう」みたいなことを言うんだよ(笑)。そして、「この子がお前の代わりになる、やる気ある夫くんだ」というような設定になって。
【きだて】男の子か女の子かを選べるんだよ。
【他故】それで、この画面にパワーをあてると、「一緒にこの果物を育てていこう」となる。
【きだて】導入からひとまずのフィニッシュまでストーリーがちゃんとあって、それでその中にご褒美がポンポン出てくるので。
【他故】だから、幼稚園の子でも楽しめる。小学校低学年、中学年くらいまではこのシステムで楽しめるかな。
【きだて】いや、俺だったら、下手すると中学生ぐらいになっても楽しんだおそれがあるな。
【他故】だって、これ自体は今中1の息子のものだから、さっきも電話があって「しゅくだいやる気ペンどこへやった」って言われたから(笑)。
【きだて】(爆笑)ちゃんと使ってんだ。
――結構ハマってるんですね?
【他故】結構使ってるんですよ。
――これ、鉛筆は何でも使えるんですね?
【他故】一般的な鉛筆だったらどんなものでも、これにギュッと締められる太さのものであれば。ボールペンやシャープペンだって、これに入れて締められれば大丈夫なんでしょうけど、ちょっと厳しいかな。
【きだて】長さ的に厳しいかも。でも、仮想トークンでやる気を出すというのもさ、人間ならではの話じゃん。
【高畑】まあな。
【他故】「全国の人と競い合います」というハードなアプリじゃないしな。
【きだて】本当に実利のない、画面の中だけで果物が手に入るとかさ。
【他故】そういうフワフワした感じが、小さい子が始めるのにちょうどいいし、親も「このぐらいならちょうどいいか」となるのでは。
【きだて】しかし、全国で何人ぐらいの子どもが、「これですごろく到達したら何か買ってくれ」みたいな話をしてるんだろうな。
【高畑】もちろん、そういうことは各家庭でルールを作ればいいんだろうけど。
【他故】実利はそっちでやればいいからね。
【高畑】これって、何か大きなゴールみたいなのはあるの?
【他故】こういう庭の数があって、どんどんグレードが上がってくはずなんだよ。
【高畑】そのステージみたいなのがどんどん増えてくんだ。
【他故】ステージをクリアすると次へ行って、みたいなね。
【高畑】なるほどね。
【きだて】どこまであるんだろうね。
【高畑】やる気やる夫くんがすごい育って「ビオランテ」みたいになるということはないの?
――ビオランテって(爆笑)。
【きだて】沢口靖子か!
【高畑】どんどん木が育って、「この木なんの木」みたいになるとか。
【他故】とりあえず、ここで見られるのは4ステージまでだけど、アプリが更新されれば、いくらでも増えていくし。
【高畑】終わっちゃうと「ふう」ってなっちゃうじゃん。だから、ちょっとずつ違う何かをやっていって。
【きだて】本人が飽きるまでは、ステージは供給され続けてほしいよね。
【他故】そこはアプリなので、バージョンアップをしてくれるかどうかがキモだと思うけど。
――バージョンアップはしないのかしら?
【きだて】するんじゃないかな。
【他故】今回だって、それなりに売れたみたいだから、想定数は出てるんじゃないかな。
【きだて】出てるだろうね。
【高畑】アプリ連動のデジタル関連のものって、色々と出てるけど、上手く加速度センサーを使ってね、これ自体が何かを計算するわけでもないんだけど、ちょうどいい落とし所を見つけたなっていうのはあるよ。
【他故】「一つのアカウントでペン5本まで登録可能です」というのはどういうことだ?
【高畑】子どもが5人ということだよ。
【他故】子どもの数だけ登録できて、それぞれ違うルートを作れるということ?
【きだて】そういうことだろうね。
【高畑】そうだね、兄弟がいたらね。その場合は、競い合うことになるんだよ。
――5つ子ちゃんだったら、みんな同じ学年だから大変ですよ。
【きだて】おそ松くんちはダメなんだよ。6つ子だから、一人あぶれるんだよ。
【他故】一人だけ、宿題やらなそうなやつが(笑)。
【きだて】十四松あたりかな(笑)。それはいいとして、文房具メーカーが作るスマホ連動商品のアプリってあんまり上手くいってないのが多いじゃん。
【高畑】う~ん…。
【きだて】もちろん、「よくできてるな」というのもあるよ。ぺんてるの「スマ単」とか暗記系のアプリとかは、すごく練り込まれてていい出来なんだけど。で、これもさすがコクヨで、ほんとによくできたアプリなんだ。
――かなり時間を費やして開発したんですよね。
【他故】結果的にそうですよ。
【きだて】ユーザーの意見を吸い上げ済みで発売しているから。
【高畑】あと、この機器もすごいんだよ。この大きさの中に、電池から何から全部入れてさ。これがあんまり重たいと、子どもが使えないじゃん。
【きだて】ああ、そうだね。
【高畑】子どもが使っても大丈夫なくらいには小型化せざるを得ないから。
【他故】最初のモックアップを見たけど、こんなスマートなかたちじゃなかった記憶があるんだよね。
【高畑】多分、もっとでかいよね。そこもわりかしよくできていて、握った感じもそんなにジャマじゃない感じだから。
【他故】この大きさだったら、小さな子どもの手でも握りやすいかな。無理に握らなくても、鉛筆の先端の方を少し長くして鉛筆を握ってもらう方法もとれるから。
――コクヨの「KOKUYO」というロゴに「こくよ」ってルビがふってありますね。
【きだて】そうそう、小さくね。かわいいんだそれ。
【他故】小っちゃい子にも使ってほしいという思いも込めて。
【高畑】最近、鉛筆も使うと悪くないなと思うんだよね。
【きだて】これをさ、Gペンか何かのグリップに付けられるようにしてさ。
【高畑】漫画家の「原稿やる気ペン」だよね。
【きだて】そう。「同人誌描く子ちゃん」とかね。
【高畑】ネームとかはこれで描けばいいかもね。
【他故】それはできるね。
【きだて】今や少なくなったアナログ作画の先生方は、これでやる気を出すのもよいのではないかと。
【他故】そういうやり方もあるぞって。
【きだて】いや、これ大人がやっても絶対に楽しいから。
【他故】うん、楽しい。
【高畑】まあでも、子どもが使えるぐらいのところに上手く落とし込んで、頑張って作ったなという感じはあるよね。
【きだて】それはある。
【他故】これに関しては、僕が思っていた未来の一つだなという感じはあるので。
(一同)あ~。
【きだて】いや違うよ、さっきも言ったビッグ・ブラザーみたいな、監視社会のディストピアの産物だよ(笑)。
【他故】わはは(笑)。「しゅくだいやる気ペンは見ている」って。
【きだて】ハンマーでこれをたたき壊しにくるやつがいるんだよ(笑)。初代MacintoshのCMですけど。
【他故】じゃあ、『2019』っていう小説を書かないと(笑)。
【きだて】未来だな~(笑)。
――まあ、子どもはみんな楽しんでやっているので(笑)。
【きだて】平和利用でよかったね。
プロフィール
きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/
他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/
*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。
弊社よりKindle版電子書籍『ブング・ジャムの文具放談』シリーズを好評発売中。最新刊の『ブング・ジャムの文具放談6』も発売。
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