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【連載】文房具百年 #14「筆箱 その2」

たいみち

筆箱、でもその前に

 先月に引き続き、筆箱の話だ。でもその前に、前々回のムカデ型ホッチキスの針プレゼントについてのご報告を。とてもマニアックなものなので、応募数が当選数の10に満たないのではないかと心配したが、なんと当選数を上回る応募をいただくことができた。応募いただいた皆様へ深く感謝!

 抽選を行い、すでに発送済みだ。せっかくなので外れた方にも応募のお礼にムカデ針ホッチキスのポストカードを送らせていただいた。「当たりました!」「届きました!」と嬉しそうなご報告もいくつかいただき、私も嬉しかった。機会があればまたなにかやってみたい。

 さて、そろそろ筆箱の話を始めよう。最初にお伝えしておくと、筆箱は「筆箱」「筆入」「ペンケース」などいろいろな名称がある。ここで紹介しているものは、形からすると「箱」というには違和感があるものもあるが、都度表記が変わるのもよろしくないので、基本的に「筆箱」に統一している。

 そして前回はブリキと紙の筆箱を紹介した。今回の前でも後でも目を通していただければ幸甚である。

 前回URL https://www.buntobi.com/articles/entry/series/taimichi/009345/

セルロイドの筆箱

 レトロな筆箱というと、まずセルロイドの筆箱を思い浮かべる。そのセルロイドの筆箱はいつごろからあったのだろうか。単に素材のセルロイドとしては明治20年代には、セルロイド製造方法が語られるようになっている。セルロイドの筆箱として見つけた情報で一番古いものは、大正14年発行の「高等商品学」(※1)という書籍だ。各種の素材・原料とそこから作られる商品について、えんえんと説明されている中の「セルロイドの用途」の中に「筆入」が含まれている。その後、1940年の「週報」(※2)という内閣の機関紙だろうか、その中に「代用品」の特集があり、「筆箱などは金属でできていましたが、だいぶん前からセルロイドやヴァルカナイズド・ファイバー製のものに置き換えられていますから、もはや代用品とは言えません」と書かれている。つまりおおよそ大正の終わり頃からセルロイドの筆箱が登場し、昭和にはすっかり定着していたということだ。

20190520taimichi1.jpg*セルロイドの筆箱



 私が所有している筆箱の中で、比較的時代が古そうなセルロイドの筆箱だ。かなり地味な色柄だが、これは私の好みによるところが大きい。セルロイドの筆箱は戦後30年代頃まで広く使われており、今も骨董市やオークション、アンティークショップなどで比較的容易に手に入る。そのため個人の好みに合わせて選ぶことができるのだ。
 形は同じような箱型が多いセルロイドの筆箱だが、一つ珍しいタイプのものがある。

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*筆巻きタイプのセルロイドの筆箱



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*「新案」とあるので、実用新案の申請を行った可能性があるが、番号などは特に確認できない。



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*中は3本の筆が固定できるような爪がついている。



 筆巻タイプで底と蓋があり、筆を抑える爪もついている。一緒にあったものから推測すると時代は昭和初期頃だ。名称は「三つ折り筆はさみ」で、少々筆箱とは違う趣だが、筆記具を携帯するための入れ物としては仲間に入れてもいいだろう。というか、珍しく、かわいいのでぜひ紹介したかったのだ。
 ちなみにセルロイドの筆箱は海外では見かけない。素材としてのセルロイドはもともと海外から輸入されていたが、日用品や文房具に加工して使うのは、日本の方がうまかったようだ。

布製筆箱

 布製のとても古い筆箱がある。江戸時代末期から明治の初めのものと聞いて手に入れた。

20190520taimichi5.jpg*「江戸時代末期から明治初期頃」のものと推測される布製の筆箱。羽ペンと思われる飾りがついている。



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*中には、墨らしきシミがあり、筆記具を入れていたことが確認できる。



 筆箱自体に時代がわかるものが残されているわけではなく、これを持っていた骨董屋さんから聞いた情報で、一緒に出てきたものがそれくらいの時代だったそうだ。私はプロの方のこういった話は割とアテにしている。情報が何もないより、不確かであってもあった方がいい。不確かな部分は、自分で調べれば確認できることも多い。今まで見たことがない江戸時代の筆箱らしきものが手元にあるだけで、それに対する興味も沸いてくるし、ほかにも探したり比較したくなってくる。現物を所有することの利点とはそういうところにあると思う。
 続いて布だけ作られているものではなく、厚手の紙で作られた土台に布を貼り付けて作られた筆箱を紹介したい。これも海外では見かけないタイプの作り方だ。

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*土台は紙で、表面は布で覆っている筆箱。複数の色柄の布を組み合わせており、表面はクッション材を入れて厚みを持たせている。



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*和製アールデコといった雰囲気がよく出ているおしゃれな筆箱。中に「御大典記念」(※3と書かれた鉛筆が入っていたこととこのデザインから、昭和初期のものと推測される。



 時代は昭和初期から昭和10年代くらいだろうか。土台が紙なので軽く、布を使って華やかさを出している。この作り方はきっと手作業だろうな、「筆箱づくり内職」という仕事があったりしたのだろうか、そんなこともついつい考えてしまう。それにしても日本は紙と布の使い方に長けている。

鉛筆型筆箱

 次に鉛筆型筆箱を紹介しよう。素材別で進めてきたところに唐突だが、国内海外および複数の素材でできた「鉛筆型筆箱」があるので、これはこれで一つのグループだ。

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*鉛筆型の筆箱。大正から昭和初期頃。



 まず、一番下は「PLUM」というブランドのセルロイド製鉛筆型筆箱だ。

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*セルロイド製の鉛筆型筆箱。厚みのあるセルロイドでしっかりしている。



 時代は推定昭和初期頃。同じ「PLUM」のロゴのクレヨンを持っているのだが、それにも「御大典記念」と印刷されていることから、おおよそ同時期と判断した。「PLUM」ブランドは「プラム製作所」というシャープペンシルを製造していた会社の製品だ。ということは、この筆箱はノベルティなどのサービス品だったのかもしれない。余談だがプラム製作所はシャープの創業者、早川徳次氏にシャープペンシルの部品の製造を依頼していたことがあり、それが早川徳次氏がシャープペンシルの製造を始めたきっかけになった。
 下から2番目はAMERICAN PENCILの木製の筆箱だ。軸部分や芯の塗装がよくできている。そして下から三番目は日本製で素材はボール紙だ。外見は「鉛筆型」というだけで、さほど似ているとも言えないが、この2つの筆箱には面白い共通点があった。

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*上:日本のボール紙製鉛筆型筆箱、下:アメリカ製の木製鉛筆型筆箱。




20190520taimichi12.jpg*中に入っていた鉛筆。



 これらはどうやら中に鉛筆が入った状態で売られていたらしい。そして中に残っていた鉛筆が類似しているのだ。日本製の方は、海外製品をお手本にした製品が多く発見されているヨット鉛筆のものであり、このAMERICAN PENCILの筆箱と中身の鉛筆をお手本にしているのは間違いないだろう。偶然これを発見したときは、ここまでお手本にしていたのかと思わず笑ってしまった。
 そして一番上は三越の木製筆箱だ。

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20190520taimichi14.jpg*三越製の木製鉛筆型筆箱。インクのようなものが付いているのは、芯にインクの成分を含むコッピー鉛筆(濡らすとインクで書いたようになる鉛筆)を入れていたためかもしれない。




 蓋はねじ式になっており、とてもしっかりしたつくりだ。そしてよく似た筆箱が大正7年の白木屋(※4)のPR誌である「流行」に掲載されていた。

20190520taimichi15.jpg*白木屋のPR誌「流行」の商品紹介画像。



 六角形と丸の違いはあるが、ねじ式のところもよく似ており、同じ時代のものであろうことが推測できる。白木屋と三越でともに扱っていたとしたら、当時の百貨店文房具売り場の定番だったのかもしれない。
 このように多様な鉛筆型筆箱があったということは、大正から昭和にかけて鉛筆型筆箱が流行したのだろうか。いや、それは違うだろう。鉛筆型の筆箱はこの時代に限らず、このあとの時代にもずっとあったのだ。今もある。つまり、「鉛筆の中に鉛筆を入れる」という遊び心のある発想は、グッドアイデアのようで実は百年前から続いている定番の発想なのだ。

筆箱 その3へ

 次は木製の筆箱だ、と続けようとしたが、この「木製」パートが結構長いので、潔く次に回すことにした。筆箱で連載を3回も使うのは、少し長すぎる気もするが、この際だからあと一回お付き合いいただこう。

 古い筆箱について紹介する機会はあまりない。だからこの連載をきっかけに筆箱について調べて考え、ものをよく見て表現するのは、自分自身のモノと知識のいい具合の棚卸になっている。筆箱は、いざ調べてみると資料が少なく結構苦戦している。だが、この棚卸の先に新しい発見があることを信じて書き進めるので、次回もよろしくお願い申し上げる。

※1 「高等商品学」 :坂口武之 1925年 三省堂
※2 「週報」 :1940年 内閣印刷局発行課
※3 「御大典記念」:即位の礼。皇位を継承した際に行われる儀式の一つ。昭和の御大典は昭和3年に実施(Wikipedia)
※4 「白木屋」 :江戸時代からあった呉服店で、三越・大丸と並ぶ百貨店

プロフィール

たいみち
古文房具コレクター。明治から昭和の廃番・輸入製品を中心に、鉛筆・消しゴム・ホッチキス・画鋲・クレヨンなど、幅広い種類の文房具を蒐集。
展示、イベントでコレクションを公開するほか、テレビ・ラジオ・各種メディア出演を通して古文房具の魅力を伝えている。
著書「古き良きアンティーク文房具の世界」誠文堂新光社

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