
【連載】文房具百年 #12「大正時代のホッチキス番外編 ムカデ針ホッチキスの使い方」
【大正時代のホッチキスとは】
「大正時代のホッチキス」としてムカデ型の針を使うホッチキスを2回に渡って紹介した。更に今回はそのホッチキスの使用方法だ。ムカデ針のホッチキスとはなんぞや?と思う方は10回と11回で掲載した「大正時代のホッチキス」をご覧頂きたい。
10回→http://www.buntobi.com/articles/entry/series/taimichi/008770/
11回→http://www.buntobi.com/articles/entry/series/taimichi/008965/
そして、今回はプチプレゼントを用意してみた。最後にご案内するので、どうぞ頑張って目を通していただければ幸いである。
ムカデ針ホッチキスの使い方を書こうと思ったわけ
今回は「ムカデ針ホッチキスの使い方」だが、まずこう思われた方が多いのではないだろうか。
「使い方と言っても、今この時代に使うわけでもないし、そもそも持っている人もいないだろう。意味がないのでは?」
実は私もそう思わないでもない。でも「だからこそ」なのだ。
「今この時代に使わない」そのとおり。だから普通は使い方を紹介しようなんて思わないだろう。ということは、今ここで残さないと、この先誰も残さない可能性が高い。
「持っている人もいない」これは実はそうでもないと思う。このムカデ針のホッチキスはメーカーや状態を問わなければ、古道具の市場ではそこそこ流通しているものだ。オークションで年に数回見かける、大きな骨董フェアでは2回に1回くらい、1台くらい売られていたりする、くらいの頻度ではあるが。
その頻度で出回るものが売れていると考えると、持っている人はある程度いるはずだ。私の周りにも何名かいる。だが、持っている人の様子を見ていると、古いものなので壊したらいけない気持ちが強く、動かしてみるには多少なりとも勇気がいるようだ。そんな方にせっかくだから使い方をお伝えしたいというのも、今回の主旨である。
思えば大正時代のホッチキスを持っていて、実際動かした経験があり、この「文具のとびら」のように多くの人に見ていただける手段がある自分は、とても恵まれていると我ながら思う。
そういうわけで、興味のある人は限られるかもしれないが、ホッチキスの文化の一片が残されようとしていると思って、お付き合いいただきたい。なお今回の説明では、HOTCHKISS No.1や本体の側面がむき出しになっている少し変わったタイプのムカデ針用ホッチキスを使って説明をしていく。
*側面がむき出しになっているホッチキス。通常はこの上から金属がかぶせられている。
本体の仕組み
まず、説明をするにあたって、基本的な構造を説明しよう。ムカデ針のホッチキスは横から見ると直角三角形のような形に、上から押し下げるハンドルが付いた形だ。
紙を挟んで針で止めるのはハンドルの真下になる。ハンドルのある方を「前」、反対側を「後ろ」とすると、後ろから入れた針はハンドルを押し下げることで切り離され、紙に突き刺して貫通し、先端を曲げて紙を綴る。
*ムカデ針ホッチキスの基本構造
では早速順を追って説明しよう。
手順1 何はともあれKURE556
古いホッチキスを動かすにあたって、まず油で動きをなめらかにすることをお勧めする。ちなみに私はKURE5-56を愛用している。新聞紙などを広げて上から下から前から後ろからノズルを差し込めるところに差し込んでたっぷり吹き付け、ハンドルをガチャガチャ動かして浸透させる。
油が流れ出るくらいたっぷり吹きつけると、ハンドルが軽くなり、動かすのが楽になる。
*まずは動きを滑らかにする。
油をつけたあとは乾くまで放置する。
油の匂いが強いので苦手な方もいると思うが、ハンドルや針を送る機構の動きが鈍いと、ハンドルを押し下げる力が錆や汚れに吸い取られてしまい、うまく針に力がかからない。更に針も前に送られず、針詰まりを起こしやすい。ここはぜひ油を引いて備えていただきたい。
手順2 針は入っているか?
ムカデ針のホッチキスは大抵中に針が入っているかがわかる構造になっている。だがその事自体を知らないと、それが針だとわからないものだ。
本体に針が入っているかの確認は側面の「窓」を見る。「窓」は横に付いている横長の穴だ。
(残念ながら、側面に窓がないタイプは【手順4 針をセットする】で記載している針がセットされているかの確認方法で針の有無を確認してほしい。)
*ホッチキスの側面(大抵どちらか片側だけ)には窓がついている。
*側面の窓から見ると針が入っているかがわかるようになっている。
ここから見てムカデ針が見えれば、中に針が入っていることになる。針さえ入っていれば、あとは紙をセットし、勇気を出して力一杯ハンドルを押下すれば紙は綴じられるはず、だがそうも行かない。針がセットされていることか確認できたら、針のセット状態の確認までちょっとお休みだ。
手順3 針には前と後ろがある
本体に針が入っていないことがわかったら、針をセットする。その際に注意点が一つ。針には前と後ろがある。
ムカデ針をよく見ると端の一つが不良品のように見える。紙に差し込むムカデの「足」に当たる部分が無いのだ。
*ムカデ針の片方の端の針は、形が違う。
更に良く見ると、ムカデ針は1本で25回分だが、26回分あるように見える。そう、この26回目用に見える、足がない部分がポイントなのだ。
*ムカデ針は1本25回分だがよく見ると26回分ついているように見える
ムカデ針のホッチキスは、1回分の針が飛び出した形でセットされている。(この「飛び出した形でセット」のイメージが沸かないかもしれないが、あとで画像つきで出てくるので、ここはそのまま流してほしい)
つまり、25回目の針が、飛び出してスタンバイするには、本体に残って支えてくれる部分が必要なのだ。
*26番目の針もどきにはちゃんと存在理由がある。
それがこの足の無い「26回目分のような」部分である。
つまり、この足がない方を先に入れてしまうと、最初に止めた際、紙に刺さらず、金属片がぽろりと落ちてくるだけだ。大事にしていたホッチキスで勇気を出して止めてみたら、金属片が落ちてきただけとなると、壊してしまったかとびっくりするだろう。更にそのまま使うと最後の針は使用できず、本体から抜け落ちて来る。
実は私も知らずに使っていたが、ある時1本の針を使い切った際に、最後に金属片が出てきて何が起きたかと驚いた。そして初めてこの工夫に気づいた。小さなところまでよく考えられていると感心したものだ。
手順4 針をセットする
次に針をセットする。足がついていない部分が後ろになるように、本体の「後ろ」側、四角い金属の棒が少し見えているところに針をかぶせ、中に押し込む。先に進まなくなるまで押し込む。
さて、ここで手順2で「本体に針が入っていることがわかった」方達も合流してもらおう。本体に針が入っていても正しくセットされていないこともあるので、その確認が必要だ。
*針は前後を間違えないように、後ろから押し入れる。
針のセット状態を確認するのは本体の前の方、ハンドルの真下の部分を見る。針が1回分飛び出しているのが見えればセットされているということだ。
*針がセットされた状態。
*セットされた針を上から見たところ。1回分の針が本体から出ているのがわかる。
この時、針が中途半端なところで止まっていないかも確認する。上から見ると分かりづらいが、下から見て本体の切れ目と針の区切り部分(針と針の間のくびれている部分)が当たっていれば位置はOK。ハンドルを押下することで、このくびれた部分を切り離し、紙に差し込んでいる。
*セットされた針を下から見たところ。針と針と間のくびれているところと本体の端があっている。
位置がずれていたり、針が入っていても先端が出ていないときは、再度押し込んで見る。押し込んでみても針が出てこない場合は、針詰まりを起こしている可能性が高い。針詰まり対策はあとで説明するので、しばしお待ちを。
手順5 紙をセットする
紙をセットする前に、ホッチキスを操作する場所の確認だ。
力をかけるので、それを受け止める方も強くないとだめだ。ぐらついているところや、平らでない所は危険だし、畳の上など力が逃げてしまうようなところも不向きなので、安定したテーブルや床などの上に置く。
場所も決まればあとは紙を挟んでエイッ!とハンドルを押し下げるだけだ。え?でも紙はどうやって挟むの?はい、これは一番簡単な操作で、ハンドルを上に上げると、本体の上部分が持ち上がるので、土台部分に紙を置き、上にあげた本体を下す。
*ハンドルを掴んで持ち上げると、本体が上がる。重いので一瞬不安を感じるかもしれないが大丈夫。
そんなことくらい説明なしでもわかるよ、と思われるかもしれないが、意外と初めてこのホッチキスを見る方が迷われるポイントだ。難しいか簡単かではなく、知らないとはそれ以前のことなのだ。
そしてこのタイプのホッチキスは、紙の位置を決めるガイドなどは付いていないので、このあたりかな、という感覚でどうぞ。針が刺さる場所は、土台の針を受けて曲げる部分を目安にするとよい。*紙を貫通した針を受けて曲げる部分。紙をセットするときの目安になる。
*紙は本体を上げて土台との間に挟む
手順6 ガチャン!と行こう、思い切りよく
いよいよホッチキスを止めるところに来た。注意点は一つ、「途中でやめない」こと。何でもそうだが、中途半端は良くない。ケリがつくところまで突き進まないと、引っかかったり曲がったりでいろいろ不都合が生じる。
なお、このホッチキスは、針が自動で送られることが特徴だが、針はハンドルが戻る際に送り出される。ハンドルが下まで下がってから上がると1回分送り出され、途中までの状態からハンドルが上がると、中途半端な針送りとなる。
*左はハンドルが上がった状態。ハンドルを下すと針送りの爪が後方に下がり、右の写真のように次の針を送り出す位置にセットされる。ハンドルが上がると、爪が前方に動き針を押し出す。
*ハンドルと連動して、針を送る金具。
この金具がハンドルと連動しており、ハンドルの上下に伴い針を送り出す。
なお、他のホッチキスの内部を見たことがないので、すべてが同じつくりになっているかは不明だが、基本的な構造は同様であろう。
とにかく止めてみよう。
ハンドルの真上に手を当て、真下に押下する。力が弱い方は体重をかけるつもりでやったほうがうまくいく。「古いものだから、力をかけると壊れそう」と心配する方がいるが、心配をしながらそーっとハンドルを押す方が却って不都合を生む。ここはこの道具を信用して道具にあった扱いをするところだ。
*ハンドルの上に手を置き、真下に向かって力をかける
ガチャン!
どうだろう、無事止められただろうか。
手順7 なんとかなるさ針づまり
ああだめだった・・・、という方はホッチキスのハンドルの下の、先ほど針が飛び出して見えたところを確認しよう。針が曲がっていたり、中途半端な位置になっていたりしているのではないだろうか。
ここで「針をセットする」ところですでに針がおかしな状態だった方も合流していただこう。
*ハンドル押下の勢いが足りず、切れずに曲がってハンドルと本体の間に挟まって変形した針
このホッチキスは、後ろから針を入れるが、後ろから針を引き戻すことができない。針送り機構の爪が引っかかっているので、前には進むが後ろには行かない。そのため針が詰まったら、私は前から引っ張っている。ラジオペンチ等で掴んで、くびれたところと本体の切れ目が合うところまで引っ張る。そのときに針が曲がってしまっているようなら曲がっている針は諦めて次の1回分の針が出てくるまで引っ張る。
「壊してしまいそうでそんなことできない」と思われる方もいるだろう。このムカデ針用ホッチキスは大体がとても頑丈にできているので、針を前から引っ張ったくらいではまず壊れない。ただ100%ではないので、様子が怪しいようなら無理はしない方がいい。
*中途半端なところで止まってしまった針は、針と針の間のくびれた部分で位置合わせをする
*引っかかってひしゃげてしまった針はラジオペンチで引っ張り出す
では、再トライをどうぞ。成功を祈っている。
ムカデ針プレゼント
使用方法の説明はここまで。ムカデ針のホッチキスを持っていない方も、いつか手に入れた時や触る機会があったときにこの記事を思い出してもらえたらうれしい。
そして実はここには一つ大きな問題がある。本体はあっても針を持っていない方がいるのだ。いや、どちらかというと針がない方の方が多いと思う。あくまで感覚値だが。そんな方も針を手に入れたときに、この記事を参考にしてもらえればと思うが、ここでささやかなプレゼントを用意した。ムカデ針2本(25回×2=50回分)を10名の方にプレゼントしようと思う。詳細は下記の通りだ。実は10名も応募が来ないような気がしていて、恥をかかないように5名にしようかと迷ったのだ。でもまぁ少なければそれも仕方ないということで、10名以上の方から応募が来ることを期待することにした。
■ムカデ型ホッチキスの針プレゼント
応募方法:メールで応募ください。
メールタイトル「ムカデ型ホッチキスの針希望」、
本文に、お名前、郵便番号、送り先住所を記載
メールアドレス:info@stationer.co.jp
締め切り:2019年4月10日メール受信分まで
抽選:応募者が10名以上の場合、抽選を行います。
当選連絡:発送をもって当選連絡に代えさせていただきます。
発送時期:4月下旬
応募資格:特になし。本体を持っていてもいなくても構いません。
※プレゼントは針のみです。本体は付きません。
*ムカデ型のホッチキス針。古いものなので、さびや汚れがあります。
ホッチキスについては一旦ここでおしまいだ。ムカデ針用ホッチキス以外にも紹介したいホッチキスはいろいろあるので、いつかまたホッチキスの回を設けたい。その時はまたどうぞよろしく。
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