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【連載】車椅子ライターから見た 弱い力でも使いやすい文具たち #34「好みのインクが気軽に入れられるサインペン」

波子

体調が不安定なことが増え、ここしばらくベッドで横になって過ごす時間も増えてしまっています。
起き上がれなくても、気分的には「何かしていたい」ということが多いので、ついスマホに頼ってSNSを覗いたり動画を観たり漫画や小説やゲームを楽しんだりしているのですが、本当は机に向かってやりたいことがたくさんあるんですよね。

そのひとつが、文字を書くこと。

例えば小説のなかの一文を書いてみたり、辞書から言葉と説明文を書き出してみたり。好きなペンで、紙を選んで丁寧に文字を書くのって、穏やかな楽しさがあるんです。
でも、ここしばらくの私は、長い時間机に向かって何かに没頭することが苦手になっていました。

そんなとき、ふと思い出したのが、かつて入院していたときのことです。脊柱側弯症の手術のあと、しばらく起き上がれなかった私は、寝ながら小さなノートに記録をつけていました。
そうだ、小さめのノートと、横にしても書けるペンがあれば、ある程度は「書きたい」欲が満たせるのではないかしら?
そして、そのペンが「好きな色のインク」だったなら、かなり気分も高揚するのではないかしら。

それを見事に解決してくれた、すばらしいペンをご紹介します。

呉竹「からっぽペン」

呉竹の「からっぽペン」は、その名の通りインクの入っていない空っぽのサインペン。
中に入れるインクは、同じく呉竹から発売されている「ink-cafe おうちで楽しむ 私のカラーインク作り キット」で好みのものを作ることができます。


202012namiko1.jpg呉竹「からっぽペン」ほそ芯5本セット



202012namiko2.jpg呉竹「からっぽペン」ほそふで芯とほそ芯



202012namiko3.jpg「からっぽペン」ほそ芯。キャップと本体、綿芯、尾栓、色を塗りキャップに貼る丸ラベル



インクは万年筆やガラスペンなどでももちろん楽しめますが、今の私にとってはこの「からっぽペン」が最重要アイテム。
何故なら、インクを綿芯に染み込ませたサインペンは、ペン先を横向きや上向きにしても問題なく筆記できるからです。そう、つまり、寝たままでも「好きな色のインクで」書けるということ。
なんてすばらしいんでしょう!

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202012namiko6.jpg呉竹「ink-cafe おうちで楽しむ 私のカラーインク作り キット」。カラーインク5色(透明・イエロー・ピンク・ブルー・グレイ、約25ml入り)各1本、調色用カップ(20ml用)1個、からっぽペン2本、マドラー2本、インク空容器(容量25ml)2本、説明書(インクレシピ)のセット



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説明書には「インクの作り方」や「インクレシピ」が掲載されている



インク作りといえば、私は以前お店でオリジナルインクを作らせてもらったことがあります。
なんと、このキットを使えば、自宅でインクを調合できるんです。通販で購入すれば自宅から出ることなく好きな色のインクが作れるわけで、行動範囲内にそういったお店がなくても自宅で気軽に楽しめるのはすばらしいことですね。

お店でインクを調合したとき、私は混ぜるインクを選んでガラスペンで試し書きをするだけで、店員さんが配分を確認しながらインクを加えたり混ぜたりしてくれました。色が確定したらその配合でインク瓶の量だけ作ってもらう、そういうシステムだったのです。
自分で調合するとなると、この不器用で時に震えがちな私の手で果たしてできるのかしら、と少し不安だったのですが。
先に申し上げておきますと、思ったよりも作業自体は簡単でした。
なかなか思う色にならず試行錯誤したり、何度も色を作るとなると少し大変ですが、出来ないわけではなかったので安心しました。

まずは作りたいインク色を決めて、計量メモリ入りの調色用カップに各色のインクを入れていきます。
今回はピンク系の色を作ってみることにしました。

ところで実は一番最初に、配合比率の「1」を調色用カップの1メモリ(2.5ml)で計った結果、10mlのインクが出来上がりました(しかもアタフタしてしまって撮影もうまくできず)。からっぽペン1本作るのに要るインク量は2ml~2.5mlとのことで、随分と余らせてしまったんですね。
残りのインクはキットにある空ボトルに入れました。調色用カップの注ぎ口はこのボトルにうまく注げるようになっています。

それをふまえて、今回は比率を計るのにインクボトルからの水滴数をカウントしてみました。
ボトルを指でつまみ押すと、口先からポタポタとインクが出てきます。キッチリ正確ではないかもしれませんが、目安としては充分ではないかと。何より、この方法は私にとっては楽でした。たくさんインクを出そうとすると、何度も力を入れてボトルをつまむことになり、疲れてしまうからです。

最初に「ピンク」を10滴。
次に、インクを薄めるための「透明」を30滴。
これで、ほぼメモリ1つ分の量(2.5ml)となりました。

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混ぜてできた色を試筆します。
試筆はガラスペンでも構わないのですが、からっぽペンに入れて使うならガラスペンでの筆記よりかなり薄くなるので、私は綿棒を使ってみました。
ガラスペンだと試筆の度に洗って拭き取る必要がありますが、綿棒は使い捨てられるので、結果的にとても楽でした。また、そのままマドラーとしても使えます。

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かわいらしいピンクが出来上がりました。
私はややくすんだ色合いが好みなので、ここにグレーを加えていくことに。グレーは色が強いので、1滴ずつ足していきます。

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調色用カップに1滴おとして混ぜると、一気に黒っぽくなりました。
でも試筆してみると、それほど黒くはなっていません。インクは液体だとかなり濃く見えるのです。

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更にグレーを足していき、3滴入れたところで完成としました。
調色用カップ内のインクに、からっぽペンの芯を浸けます。
ここが行程の中で唯一、やや急ぐ作業となります。
何故なら、思った以上に芯がインクを素早く吸い上げるからです。作ったインクの量が多いほど吸い上げるスピードは早いので、心配な場合は今回のようにちょうど1本分の量(2~2.5ml、メモリ1つ分)で作ると良いでしょう。これだと慌てるような速度にはなりませんし、インクを吸い上げすぎることもありません。
芯を浸けるときはティッシュ越しに持ち、芯の上までインクを吸収しても指に付かないようにしました。

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吸い上げた芯は、広げたティッシュの上で少し転がして、周りに付いた余分なインクを拭き取ります。

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インクに浸けた方がペン先に来るようにして芯を軸に入れたら、後部に尾栓をはめます。ちょっと力が要るので、逆さにして机に押しつけるのが安心です。

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少し待ったらペン先にインクが染み出てきます。
書いてみると、綿棒で試筆した色とほぼ同じでした。
(写真撮影の前に袖口で試筆ノートを擦って汚してしまい、見目が悪く申し訳ありません)
最後に、からっぽペンに付属している丸ラベルをペンで塗り、キャップに貼り付けたら完成です。


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202012namiko28.jpg綿棒での試筆。含ませたインクがやや落ち着いた頃の色が「からっぽペン」で書く色とほぼ同じだった(画像右下)。書き損じや汚れはご容赦ください(紙はキャンパスノート5号)




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202012namiko30.jpg丸ラベルは「からっぽペン」1本に2枚、5本セットには6枚入っている。キャップの頭に貼る




調色用カップは表面の撥水性が高く、残ったインクはティッシュだけでもきれいに拭き取れます。
これもまた、とても楽でありがたいです。

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調色用カップはティッシュで拭うだけでもきれいになる



呉竹のホームページには、「コト商品」として「ink-cafe~私のカラーインク作り~」のページがあり、そこには84色のカラーインクレシピが掲載されています。
キットの説明書だけでいちから自分で色を決めていくのが難しくても、これだけたくさんのレシピがあれば、きっと好みの色合いが見つかるでしょう。

インクを保管するにはプラモデル塗装用の空ボトルが便利だと噂に聞いていたので、今回のインク調合のあとに購入しました。ネット通販では売り切れも多かったのですが、よく行くショッピングモール内のホビーショップに売られていました。1つ80円(+税)。
また、ガラスペンやつけペンで使わずからっぽペン用にインクを保管するなら、重くて安定する瓶でなくても良いんじゃないかと思い、100円ショップで食品用ミニボトルも買ってみました。
これでインクがやや多めに出来上がっても安心です。

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プラモデル塗装用のスペアボトルは容量18ml、ソースボトルは容量15ml





インクの調合にはちょっと不安がある、という方は、万年筆やガラスペン等で使う「瓶入りインク」からインクを吸い上げてペンに入れるという手もあります。
ただし、インクの種類によっては不向きなものもあるため、公式には「ink-cafe おうちで楽しむ 私のカラーインク作り キット」「ink-cafe 私のカラーインク作り 体験」で作成したインクを入れて使用することが推奨されています。
とはいえ、既存の瓶入りインクを使う方法は本当に楽に「お気に入りのインクでサインペンが作れる」ので、私は今後も家にあるインクをどんどん入れて使っていこうと思っています。

やり方は簡単。
インク瓶のフタを開けたら、からっぽペンの芯を差し入れ、インクが適度に吸い上がってきたら引き抜き、ティッシュで余分なインクを拭き取り、ペン軸に差し込んで尾栓をするだけ。
ただ、瓶にたっぷり入ったインクの中に芯を浸けることになるので、かなりの速度で吸い上がってきます。焦った挙句、私は写真撮影できませんでした。ご注意ください。

このとき使用したのは、パイロットのインキ「色彩雫-iroshizuku-」シリーズ「松露」です。
芯についた余分なインキを拭き取ったティッシュに残るインキ量で、いかにたっぷりと吸い上げてくれたかが判ります(私がもたついてしまったせいでもあります)。

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202012namiko34.jpg大きな瓶入りインクでからっぽペンを作るときは、インクの吸い上げがとても速い。油断すると吸い過ぎてしまう


少し待つと、ペン先からインクがにじみ出てきました。紙の上に走らせると、無事に書けることが判明。
ペンをサッと走らせるとやや淡い色味ですが(写真はMDペーパーに書いています)、紙を変えたり、キャップを開けてしばらく待ってから書き始めると濃いめに書けたりします。
また、ゆっくり運筆すると筆跡に万年筆やガラスペンで書いたときのような濃淡が現れ、書いていてものすごく気分が高揚しました。なんとなく、文字も綺麗に書けるような気持ちになるんです。

202012namiko35.jpgサッと書くとやや淡い筆記となる(紙はMDペーパーパッド)


202012namiko36.jpg「ink-cafe」で作成した3本。自分で配合を決めるとつい同じような色味になってしまうので、次は公式サイトのレシピを参照したい(紙はMDペーパー付せん紙)



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手持ちの瓶入りインクで作成した3本。いずれも染料インク。「文染 FUMISOME」の「藍」は天然染料のため、透明軸だと変色する可能性があるが、それも含めて楽しみたい




からっぽペンは、「ほそ芯」のほかに「ほそふで芯」も後から発売されました。
硬筆タイプの筆ペンですね。
線の強弱がつけられるので、これまた非常にテンションが上がります。だって、「好きなインクを筆ペンに入れたい」と妄想しない人はいないでしょ??


好みの色合いのインクを作ってオリジナルペンを作るのも楽しいし、手持ちの好きなインクを入れたサインペンとして愛用できるのもめちゃくちゃ嬉しい。
そして何より、長い時間を机の前で過ごせなくなっている私にとって、ベッドの上でも好きなインクが楽しめることがとても幸せです。

ありがとう、からっぽペン…!

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今回作成したからっぽペン6本。楽しくてどんどん作ってしまう


編集長・文具王による、からっぽペンに使用できるインクの検証動画はこちらです。とても解りやすいので、手持ちのインクを入れてみたい方は参考になさってみてください。
【連載】文具王の動画解説 #227 呉竹「からっぽペン」
https://www.buntobi.com/articles/entry/series/04/011552/

私が以前お店でインクの調合をしたときのことは、こちらでご覧いただけます。
#12「筆圧いらずのガラスペン」
https://www.buntobi.com/articles/entry/series/namiko/008974/

プロフィール

波子
1974年生まれ。脊柱側弯症、先天性ミオパチーのため、2006年に杖歩行となり、2012年から車椅子、2014年12月から簡易型電動車椅子を使用。便利な道具や文具が好き。
奈良県奈良市で生まれ育ち、大阪・東京での暮らしを経て現在奈良市在住。
産経新聞奈良版および産経WESTにて連載「車いすでみるなら」2015年2月~2019年5月、全70回。
ブログ「車椅子、ときどき杖。」http://nam-kid.hatenablog.com/

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