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【連載】車椅子ライターから見た 弱い力でも使いやすい文具たち #12「筆圧いらずのガラスペン」

波子

ほとんど筆圧のいらない筆記具のひとつが、万年筆です。
ペン先を紙に付ければインクが紙に移ってくれるので、力を込めなくてもただすらすらとペン先を移動させれば文字を書くことができます。
さほど値段の高くない、手の出しやすい万年筆もたくさん発売されているので、好きな色の瓶インクも買い求めてコンバーターで複数の万年筆に入れ、楽しんでいました。

でも、この数年で、私の指がペンを持つのに不安定になってくると、万年筆はとたんに扱いにくくなりました。何故なら、ペン先の向きが定まっている万年筆は、一定の持ち方でないと筆記できないからです。
左右のどちらかにブレると書けない。紙に接する角度が違っても書きにくくなる。「力はさほどいらないけれど持ち方にシビア」な万年筆から次第に遠ざかることとなり、寂しく思っていました。

今回は、そんな私にとって救世主ともいえる筆記具「ガラスペン」をご紹介します。

ガラスペンとインクの調合体験


ガラスペンと私が初めて出会ったのは、もう20年近く前のこと。友人が贈ってくれた小さなガラスペンと瓶インクのセットでした。
ペン先を瓶のインクに浸して書くと、意外にたくさん文字を書くことができて驚いたのを憶えています。
でも、私はその頃、瓶インクを買い集めたりはしませんでした。まだちょっと敷居が高く感じていたんですね。頂いたそのインクとペンを時折出してきて使ってはいましたが、小さな瓶のインクが乾いてしまってからは、ずっとしまい込んでいたのです。

時が経ち、安価な万年筆と瓶インクをちょこちょこと買い求めるようになった私。やがて万年筆が使いにくくなった後も、瓶インクへの憧れや興味は尽きませんでした。

そんなある日、友人と一緒に訪ねた大阪の「なんばスカイオ」5階にある「KA-KU万年筆」大阪店でインクの調合体験をしてみたところ、試し書き用に使わせてもらったガラスペンが、とても書きやすかったのです。
軸が太く、ほどよい重みがあり、持っていて安定します。
そして、ペン先の向きを選ばないので、私が少々不規則にペンを握ってもちゃんと筆記できるのです!


20190225namiko5.jpgインク調合試し書き


初めてガラスペンを使ったときは、まださほど力の弱さを感じていなかったので、この利点に気づいていませんでした。また、その後も何度かガラスペンに触れる機会はあったのですが、装飾が見事で高価なペンは私には恐れ多く、どこか一歩引いて眺めていたように思います。

インクの調合体験を楽しみつつも、私はもう手に持ったこのペンのことが気になって仕方ありませんでした。
そして、店内にあるガラスペンを見せてもらったところ、無色透明でシンプルな「KA-KU限定オリジナルカラー クリア」に出会ったのです。


20190225namiko8.jpg

KA-KU限定オリジナルカラー クリア


倉敷の美観地区にある「ガラス工房 aun」にて江田明裕氏により製作されたこのガラスペンは、すっきりとしたデザインで手に馴染みます。店内の説明書き曰く「一本一本、顕微鏡を見ながら削り出されるペン先」が充分にインクを吸い上げてくれ、驚くほどなめらかに、かつ想像以上にたくさん筆記できます。
また、こちらのガラスペンは、ペンを立て気味にしてもちゃんと書けるのが特徴。私にとってはとてもありがたいことです。
万が一の際は、ペン先の調整もお願いできるそう。
購入するとき心配だったのはお値段でしたが、私の購入したこのペンは5,000円(+税)。手の届く範囲にいてくれることがとても嬉しくて、即決いたしました。

ガラスペンの扱いやすさは、その書きやすさだけではありません。
違うインクを使いたいときは、容器に入れた水でペン先をすすいで、水気を拭き取るだけ。あっという間にインクの色が落とせます。しまうときも簡単に洗えて、手間がかかりません。
万年筆が使いにくくなったことで、これまでに購入した瓶インクをどう使っていこうかと悩んでいたのが、嘘のように舞い上がっています。
むしろ、様々なインクを使うのにハードルが下がった分、タガが外れて好みのインクをどんどん買ってしまいそうで、これからは物欲を抑える方に気をつけなければ。何ごとも、身の程に合った楽しみ方をしたいですものね。
でも、このワクワクした気持ちになれたことが、とても嬉しいです。

20190225namiko11.jpgペン先に少しインクを含ませただけでも、かなりの文字数を書くことができる。また、たっぷり含ませると濃くて太い線になる


20190225namiko12.jpg
20190225namiko13.jpgペン先を水に浸けて揺するだけで簡単にインクをすすぐことができる手軽さもガラスペンの魅力


20190225namiko10.jpgインクが徐々に薄まったり、少なめに付けて最初から淡い色味を楽しめるのも魅力


「KA-KU万年筆」大阪店の「インクラボ」では、車椅子のままでもインクの調合体験が可能です。
椅子をよけていただき、隣に座った友人に見守られながら、好みのインクを指定してお店の方に混ぜてもらいました。
混ぜるインクは3色まで。私が作った色合いは、赤系の2色を混ぜたのちに青系の1色を追加してみたところ、思った以上に青寄りに変化して意外な結果に。この予想を上回ってくれる感覚がとても楽しい!
割合が決まったら、ガラス張りのラボで30ml分を作って瓶に詰めていただけます。できあがるまでの間に店内を見て回りました。好きな紙を選んでノートを作る「ノートラボ」や、コーヒーなどを頂けるカフェスペースもありますよ。

20190225namiko1.jpg「KA-KU万年筆」大阪店外観、インクディスプレイ


20190225namiko7.jpg「KA-KU万年筆」大阪店インクラボのテーブルはゆったりとしていて、椅子をよけて頂くと車椅子のまま着くことができる



20190225namiko3.jpgインク色見本シート


20190225namiko4.jpgインク調合テーブル

20190225namiko2.jpg調合が終わるとガラスペンに含ませたインクが薄くなるまで書き、色の変化も確認する

20190225namiko9.jpgインク調合完成品


ちなみに、私の暮らす奈良の「近鉄百貨店奈良店」5階にも「KA-KU」奈良店があり、こちらにもインクラボがあります。スペースの都合上、車椅子のままでテーブルに着くのは難しいですが、椅子に移れる方なら楽しめます。
いずれ、また違う色合いのインクを作りに行きたいです。

プロフィール

波子
1974年生まれ。脊柱側弯症、先天性ミオパチーのため、2006年に杖歩行となり、2012年から車椅子、2014年12月から簡易型電動車椅子を使用。便利な道具や文具が好き。
奈良県奈良市で生まれ育ち、大阪・東京での暮らしを経て現在奈良市在住。
産経新聞奈良版および産経WESTにて「車いすでみるなら」連載中。
ブログ「車椅子、ときどき杖。」 http://nam-kid.hatenablog.com/

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