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【連載】車椅子ライターから見た 弱い力でも使いやすい文具たち #26「指で描ける絵の具」

波子

4月16日夜より、緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大されました。
自宅でリモートワークなさっている方も多いでしょう。長らく学校に行けない方も。いつものように外出できず、ずっと自宅にいることは正に非常事態ですよね。
そんな中、職場に出向くことで仕事が成り立つ方々にも、心から敬意を表します。

私自身は3月半ばから引きこもっておりますが、実はほとんど生活に変化がありません。昨年から体調が不安定なことが続いており、元々引きこもり気味な生活だったからか、さほどストレスも感じていないんです。
それでも先日、久し振りに外へ出て、散歩がてら近所のポストへ手紙を投函しに行っただけで、心が軽やかになるのを感じました。
自分で気づかぬところで、小さなストレスが積もっていたのかも知れませんね。

そんな非日常の自宅での時間に、使って楽しい文具をご紹介します。
お子さん向けの画材なのですが、侮れないなと感じましたので、少し興奮気味な文章になっております。

シヤチハタ「ペタペタおえかき」

202004namiko1.jpgペタペタおえかき5色セット。えのぐ5色、表面がつるつるした「おえかきボード」、「色のつくりかた表」がセットになっている


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202004namiko3.jpgパッケージ裏に遊び方が説明されているが、ホームページにも多くの作例がある



シヤチハタの「ペタペタおえかき」は、粘土のように手で扱える「指でのおえかき用に開発されたえのぐ」。素材も色素もすべて食用にできる材料を使っているため、小さいお子さんにも安全です。
初めてこの画材に出会ったのは昨秋、以前ご紹介した軸の太い色鉛筆「buddy(バディ)」※を知ったのと同様の展示会会場でした。シヤチハタの社員さん直々に説明をお聞きして、「これは私のように手の力が弱くてもきっと使いやすいです!」と感動したことを憶えています。その後、昨年末に地元の文具店にて販売されていると知り「5色セット」を購入したのですが、つい先日ようやく開封してみたところ、ものすごく楽しかったんです。

202004namiko4.jpgえのぐのケースはフタのつまみが大きめで開けやすい



202004namiko5.jpgあお、マゼンタ、きいろ、くろ、しろ、各50g



202004namiko6.jpgケースに入ったえのぐは硬めなので、指ですくうときに力が要る



指ですくったペタペタおえかきを、付属の「おえかきボード」になすり付けるようにしてグイと引いてみたら、正に粘土のような感触で伸びます。むしろ、粘土よりもなめらかなほど。そして、指からはすぐ離れていきます。だから、描くときに指にくっついて残ることはありません。
感動したのは、その筆跡(と言っていいのでしょうか)。
まるでたっぷりとした油絵の具を塗りたくったような盛り上がりを残してくれるんです。
これはね、テンションが上がりますよ。
手をさほど汚さずに、油絵の疑似体験ができるんです。

202004namiko7.jpg指ですくったえのぐは粘着力があり糸を引くので、くるくる丸めながら取った



202004namiko8.jpgマゼンタを指でこねて柔らかくしてから「おえかきボード」になすりつけると、滑らかに伸びて線が描けた


次に、違う色を混ぜて新しい色を作ってみました。
最初に作ったのは、ピンクのグラデーション。初めになすり付けたのがマゼンタそのままだったので、それに白を混ぜていきました。少しずつ配合を変えて。
混ぜるときは、両手の指先を使ってよくこねます。最初はやや硬めですが、こねていくとどんどん柔らかくなってきます。柔らかくなると指にくっつきやすくなりますが、何度も指を押しつけるときれいに取れます(指先にうっすらと色が残りますが、後から石鹸で手洗いすると取れました)。
この、色を混ぜる作業が本当に楽しい。
完全に混ぜてしまって色を均等にするのも達成感がありますし、ややマーブル状に残ったまま使うのもまたおもしろいのではと思います。

202004namiko9.jpgマゼンタに同量のしろを混ぜたものと、しろを多めに混ぜたものを描き足した。盛り上がった筆跡が油絵のようで楽しい


最初のマゼンタと同じように、指でなすり付ける感触を楽しみました。指で大胆に描くのはとても気持ちいいですよ。

原色のパキッとした色合いもきれいなのですが、私はどちらかというとニュアンスカラーといいますか、最近よく様々なカラーペン等でも見かけるアンティークカラーが好みなのです。
そんな訳で、作ってみることにしました。
アンティークカラーの作成にとても便利なのが、茶色と白。
色の混ぜ方は絵の具と同じ。違うのは、筆ではなく指先でこねくり回して混ぜる点だけなのです。パレットの上で絵の具を混ぜるあの感覚を懐かしく思い出しながら、色見本の紙を参考にしつつ作ったのがこちら。

202004namiko10.jpg好みの色合いを作るのも楽しい。それぞれ水色、ピンク、黄緑色を作ってから茶色を加え、さらに白を足してグラデーションにした



どうですか、すてきな色合いではありませんか?
絵心に自信がなくても、この「好みの色を作る」という行為だけで、充分に脳内のアドレナリンが溢れてくるのを感じます。めちゃくちゃおもしろい。ずっと配合を考えて実践して楽しみたい。
一期一会なところもあるので、作った色から更に変化させるときは、少し元の色を残しておくことをおすすめします。几帳面な方はちゃんと毎回量を記録したり写真に撮ったりするのでしょうが、私はもう思うままにこねて丸めてちぎって混ぜて…を繰り返していました。えのぐを触った指でスマホを触るのを躊躇したというのもありますが。

202004namiko11.jpg今回作った色。絵の具を混ぜるのと同じ感覚で指でこねるのは無心になれておもしろい



表面がツルツルした素材であれば、例えば瓶の表面などにも描くことができ、描いた直後ならはがすこともできます。はがしたものはこねればまた使えるとのことなので、何度も楽しめていいですね。…と言いながら、私は自分で描いたおそろしく不出来な絵をはがすことができませんでした。意外と思い入れってしちゃうものですね。(あまりに不出来なため今回はお見せできず申し訳ありません)

容器から絵の具をすくい取るときに、指先の力とコントロールがかなり必要です。容器の中では硬くなっているからです。場合によってはどなたかに取り出してもらって、表面がツルツルの紙やプラスチック板などに一旦置き、そこから少しずつちぎって使うことをおすすめします。

何はともあれ、大人でも充分に気分が高揚すること間違いなしな画材です、ペタペタおえかき。
指で描くのがこんなに楽しいとは…!
ペンを持ちにくいとか、筆記角度とか筆圧とか、そういったことから完全に解放されて、好きな指で塗りたくれるこの自由さたるや。
机や床を汚すこともほぼないので、全力でおすすめいたします。あっ、ただし、ねりねりするときに丸めた絵の具を落とすと転がっていってしまうので、気をつけましょう。
さぁ、私もまた色の調合へ戻ろうっと。

シヤチハタさんのホームページでは、様々な動画や作品例が紹介されています。
https://www.shachihata.co.jp/products/new_item/petapeta_oekaki/index.php



※#23「太くて描きやすい色鉛筆」
https://www.buntobi.com/articles/entry/series/namiko/010954/

プロフィール

波子
1974年生まれ。脊柱側弯症、先天性ミオパチーのため、2006年に杖歩行となり、2012年から車椅子、2014年12月から簡易型電動車椅子を使用。便利な道具や文具が好き。
奈良県奈良市で生まれ育ち、大阪・東京での暮らしを経て現在奈良市在住。
産経新聞奈良版および産経WESTにて連載「車いすでみるなら」2015年2月~2019年5月、全70回。
ブログ「車椅子、ときどき杖。」 http://nam-kid.hatenablog.com/

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