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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.64 ブング・ジャムの2022年上半期ベストバイ文具(その3)

文具のとびら編集部

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は、ブング・ジャムのみなさんが選んだ2022年上半期のベストバイ文具を紹介してもらいました。

第3回目は他故さんおすすめの「カスタム742」シグネチャー万年筆です。

(写真右からきだてさん、他故さん、高畑編集長)*2021年11月9日撮影
*鼎談は2022年6月28日にリモートで行われました。

縦と横で線幅が違う! 書き味抜群の万年筆新ペン先

1.jpg「カスタム742」シグネチャー万年筆(パイロットコーポレーション)*写真はすべて他故さん撮影

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――最後は他故さんですね。

【他故】見た目的には、何一つ新しく見えないと思うんですが、「カスタム742」万年筆に、新しく「シグネチャー」というペン先が出まして。これがあまりにもすごいので、他のものを差し置いて、今一番使うペンになってる。

【きだて】へぇ!

――「カスタム742」ですか?

【他故】そうです。2万円のタイプです。外観上、昔からある「カスタム742」と同じかたちで。それで、パイロットのホームページにいくと情報が載ってないんですね。新製品扱いじゃないんですよ。ペン先が増えたというだけで。

【きだて】ああ、そういうことか。

【他故】「カスタム」のページにいくと、「シグネチャーが増えました」と書いてあるだけで、シグネチャーがどういうペン先なのか説明がないという(苦笑)。ホームページに出る前かな、それぞれのお店にこれが入ったときに、万年筆系のお店が「このシグネチャーっていうのはすごいぞ」というのを一斉にツイートしたんですね。シグネチャーというのは、サインですよね。署名を入れることをシグネチャーというんですけど、そのサイン専用だろうと。正しい情報がないから「だろう」としか言えないんですけど。

2.jpg【きだて】ああ、パイロットの公式がないからか。

【他故】そう。シグネチャーだからサイン用だろう、としか言えない。

【きだて】サイン用ってことは、縦と横で線幅が違うんだっけ?

【他故】そう。縦が太くて、横が細いのね。ツイートとかしている万年筆売り場の人たちが言うには、縦がBBで横がMだって。

3.jpg【高畑】BBとMか。へぇー。

【他故】ここまで極端なペン先って、確かになかったのよ。大昔のパイロットには、シグネチャーというペン先があったことは知ってるのね。それがここ50年ぐらいのラインアップにはなかったのかな。それが突然出てきて。

【高畑】スタブとかミュージックよりも極端ってこと?

【他故】幅が極端。だから、サインを書いたときにメリハリが出ますよということなんだろうと想像してるんだけど。実は、僕が気に入ったのはそこではなくて、とにかくめちゃくちゃ滑らかなんですよ。

【きだて】ほう。

【他故】個人的な話になるけど、ペン先のイリジウムが付いているところって、BとかBBみたいに太くなればなるほど大きくなるじゃん。実は持ち方にクセがあって、いつもペンをひねって書いてるんですよ。紙に当たるところが真っ直ぐ当たってないのね。だから、BとかBBとか太くなればなるほどペン先が傾いて、インクが上手く乗らないという症状を、ずっと抱えてたんですよ。これが、EFやFだったら、インクがちゃんと紙に出てたから気にならなかったけど、海外のMとか日本のBを使うと、突然書けなくなって困ってたの。

【高畑】うん、分かる。

【他故】でも、このシグネチャーは、横に広いBBみたいなペンポイントが付いているのにもかかわらず、ペン先を置いた瞬間に紙にピタッと吸い付いて、そのままスルスルっと書けてしまう。原因は分からないんだけど、僕のクセを吸収してしまったというのがあって、今持っている万年筆の中では一番書き心地がいい。買ってきてすぐの万年筆が、こんなに書き心地が良いなんて思わなかった。そのぐらい、気持ちよく書けてる。

【高畑】それは、先端がちょっと傾くのに対して追従しているのか、それともそもそも形状的なものなのか。傾くという書きグセは変わってないんでしょ?

【他故】別に、このペンだからって、変えているつもりは一切ない。ないんだけど、吸収してくれちゃったというか。

【きだて】横向きに書くからかね。

【他故】分からない。書き心地が良いのと、僕のクセを吸収するのは、また別の話だと思うのね。別だとは思うんだけど、今まで太字に対してコンプレックスがあった人間が、全く気にせずに、でっかいペンポイントが突然紙にピタッと当たって、そのままスルスル書けてしまって、それがめちゃめちゃ書き心地が良いという経験をしてしまったので、2万円でそれができちゃうのか、というのが正直なところ。何か機会があったら、試し書きだけでもしてほしいのよ。

【高畑】大きいお店に行ったら、選択肢としてある感じ?

【他故】パイロットの万年筆がお皿に並べられているような規模のお店だったら、当然ラインアップとして入っているはずなので。15種類のペン先が16種類になりましたというだけの話だから、置いてあると思う。ちょっと皆さんに試していただきたい。僕は今、過去の万年筆を全てこのまましまってもいいと思うくらい、気に入って使ってる。

【きだて】そんなにか!

【高畑】元々スタブ系というか、横幅が広くて、縦に引くと太い線で、横に引くと細い線というのが好きで、割とスタブとかミュージックを使いがちなんだけど、それが極端に出るとしたら、サイン用としてシグネチャーはアリかな。ただ、横がMというのがね。僕はもうちょっと細い方が好きなので。カリグラフィーみたいに細いのが好きなんだけど。そこがちょっとマイルドな気がするけど。でも、いいね。その話を聞くと、1回試してみたいね。

【きだて】それだけ幅があると、日本語を書くときにどうなのか、というのがちょっと気になるけどね。

【高畑】日本語は、その方が様になるよ。いわゆる明朝体になるんだよ。

【きだて】ああ、そうか、そうか。セリフ体っぽく。

【高畑】明朝体って、極端に横線が細くて、縦に太いじゃん。ああいう感じになるから。日本は横画が多いから、このタイプのペン先で書き慣れると、割とボリュームがあるのに、詰まった文字が書きやすくなる。

【他故】はがきの表書きとか、これで書くとシャキッとした字になる。少し大きめの字を書いて、太さのメリハリが出るんで、細くて力弱い感じなの下手な字がカバーされるよ。

【きだて】そう聞くと興味出るな!

【他故】ラジオで、ハガキを採用した人にステッカーを送ってるんだけど、それの宛名書きを毎週しているわけですよ。ここのところずっと長刀研ぎのBを使ってたんだけど、完全にこれに切り替えました。この書き心地は、調整された長刀と勝負できる。

【高畑】すごいな。長刀はまたちょっと違うじゃん。あっちは、横に太いじゃん。長刀研ぎは、寝かすと横線が太くなるんだよ。

【他故】そうそう。

【高畑】だから、タイプがちょっと違うんだけど。それは面白いな。今、完全に万年筆を買わされそうになってるんだけど(笑)。

(一同爆笑)

【他故】いや、買えとまでは言わないけど、ちょっと書いてみてはほしいのよ。

【きだて】やっぱり、気になるっちゃ気になるよな。

【他故】うれしい副作用というのが、インクの出がめちゃめちゃ良いので、インクの消費量が上がるのね。最近ダブつきがちだった我がボトルインキも、だいぶ消費が早くなってきてて、それもちょっとうれしいというか(笑)。

【きだて】それは、良いことなのか何なのか(笑)。

【他故】今、インクが好きな人は、余らせ気味になってると思うので、別に悪い話じゃないと思うんだよね。

【きだて】まあね。

【他故】特に、このシグネチャーに合うと思っているインクが、今年出た「強色」(写真)。パイロットがようやく出した顔料インキ。使い続けないと顔料は恐いなと思ってたので、毎日使うものにしか入れないと決めてたんだけど、これに関しては週に1回はインクを吸っているぐらいよく使ってるので、日常使いするんだったら、顔料大丈夫だなと思って。

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【高畑】「強色」は、思ったよりフローが良いというか、シャバい感じがする。顔料系の中では水が多いという感じ。

【他故】そうそう。

【高畑】紙によっては、「こんな染み方をする」という筆跡になるのよ。どっちかというとシャバシャバする印象だけど、染料じゃなくて顔料の色ののり方で、不思議なインク。割と万年筆のペン先には詰まりにくいインク。「ストーリア」などを使うのよりは、安心感がある。

【きだて】ちゃんと流れてくれる感じはするんだ。

【他故】そうそう。

【高畑】「ストーリア」は、ちょっとねっとりとした感じがあるんだよ。だから、ちょっと使わないと心配なんだけど、「強色」は割とシャバシャバ系なので、フローは割といい。その代わり、紙によっては筆跡がクッキリハッキリシュッと出るかというと、パイロットの染料がめちゃくちゃ強いので、あの伸びやかな色と比べると、やっぱ顔料なんだなと。悪くはないけどね。だから、「強色」の効果もなくはないと思うよ。ペンとの相性が、「強色」と良かったのかもしれない。

【他故】そういうところも多少はあるのかもしれないね。確かに、シグネチャーには買ってきてから「強色」しか入れたことがないので。

【高畑】しかし、そう言われると使ってみたくなるね。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】ラミーの漢字ニブがあったじゃない。正直なことを言うと、思ったほど効果が出てないと思ったのよ。ラミーはラミーで全然悪くないんだけど、いわゆるソフトニブみたいなものじゃん。フレックスみたいな効果はあんまり出てないなと思って。僕は「エラボー」とか「フォルカン」を使っていて、どっちもインクが楽に出るタイプなので良いなと思うんだけど、極太で書き心地が良いやつっていうのは、確かになぁって感じだよな。

――まあ、とりあえず1回お店で試してもらって。

【他故】そうですね。これに関しては、ぜひ何らかのかたちで試筆してもらって、太字が好きだとか、太字に興味があるという人に1回使ってほしいなという感じですね。

――シグネチャーは、「カスタム742」だけなんですか?

【他故】そうですね。今のところは「カスタム742」だけですね。昔からある、頭が丸い方の「カスタム」です。

【高畑】他故さん、営業の人みたいだね。

【他故】いやいや(苦笑)。でも買ってみて初めて分かる良さっていうのに、久しぶりに当たった気がするんだよ。正直に言えば。

【高畑】へぇ。

【他故】だって、そういうつもりで買ってないからさ。

【きだて】じゃあ、どういうつもりで買ったんだよ(笑)。

【他故】久しぶりに変わったペン先が出たということが一つと、縦と横の太さが違うペンというのを持ってなかったので、どうダイナミックに変わるかというのに興味があったのにもかかわらず、一筆目に書いたときの感触にやられちゃったというのは、人生で初めてだったんですよ。

【高畑】すごいね。そこまで激賞されると、気になりますな。

【他故】それが2万円でできる日本はすごいなと思うわけですよ。

【高畑】このあと金が高騰するかもしれないから、今のうちに買っておかないと。

【きだて】ははは(笑)。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」が好評放送中。ラジオで共演しているふじいなおみさんとのユニット「たこなお文具堂」の著書『文房具屋さん大賞PRESENTS こども文房具 2022』が発売中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


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