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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.34 新春スペシャル ブング・ジャムの2020年文具大予測!? その2

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は「新春スペシャル」として3日連続で、ブング・ジャムのみなさんに「2020年の文具はこうなる!」という予測を語ってもらいました。

第2回目は他故さんです。

写真右から他故さん、高畑編集長、きだてさん

*その1はこちら

とにかく書きたい

他故.jpg――次は他故さんお願いします。

【他故】大局を語るというわけではなく、今回は私的な小っちゃい話なんですが、とにかく、日常の仕事でも、全く字を書かないという瞬間がすごく増えているということに、すごく危機感を覚えているんですよ。

――ほう。

【他故】会社の中での成果物って、キーボードをたたいてくるものばかりになってしまっていて、日常のメモは手で書きたいと思っているので、それはメモを使ったり、手帳を使ったりしているんですが、まあ周囲を見ても字を書いている人がほとんどいない。みんな考えていることを入力していて、その入力したものがメールで回ってきて、レジメを見ながら検討して、最終的にも電子のかたちでそれがストックされる。とにかく書かなくなった。

――はい。

【他故】日常でも、僕は文房具が好きだと言っているので、割と書いている方だとは思うんですけど、「みんな本当に文房具使ってる?」って思うときがすごくあるんですね。自分も振り返ってみて、仕事から疲れて帰ってきて、家族としゃべってのんびりしているときに、じゃあ何か書くかといったときに、書かないですよね。家に帰ったときに、何か書くという必然性がほぼゼロなんですよ。電話かかってきたときにメモをとるかぐらいで。家にある筆記具は何のためにあるのか? まあ、うちの家族は他所よりも字を書いているしれないけど、何か書くシーンが減っている。それをどうしろとはみんなに言えない(笑)。僕はできる限り「書きたい」という気持ちを抑えることなく書きたい、「書きたいときに書く」というのを改めて今年のテーマにしたいと思っています。そうしないと、僕でも書くシーンが減ってるんですよ。

【高畑】そうか。

――草の根運動みたいな感じですね。

【きだて】確かにね。わざわざ「書こう」と意識しないと、書けない状況だもんね。

【他故】書くという行為を代替するものがあり過ぎて、メモだって携帯があれば、そこに入力したり声で吹き込んじゃえばいいという話になるかもしれない。

――ToDoとかどうしてます?

【他故】僕はToDoは手で書いてます。時間が決まっていてアラーム効かせるものは、スマホに入れてますが、1週間のToDoは5×3カードに書いて、机の上に置いておいてチェックしてます。僕は書いていて楽しいんですけど、うちのフロアにいる50人中40人は誰もペンを動かしていない(笑)。

【高畑】きだてさんはどうなの?

【きだて】俺は基本、手帳は全部スマホだし、原稿もパソコンで書いているんだけどさ。ただひとつ、記事を書く前のネタ出しは全アナログの手書きでやってるの。そうなると、書く楽しみのある筆記具でないと、ネタ出しがつらいのよ。

――あ~なるほど。

【きだて】なので、むしろここ数年は、筆記具に対してどんどん享楽的になってきている。

――きだてさん愛用の「シグノRT1」とか?

【きだて】もちろん細かく書くときは未だにRT1がベストだと思ってるけど、最近はそれ以外に「なんか気持ちいいのないかな」というフォーカスで、色々と書き散らしている状況にもなってきているな。

――それじゃないと、いいアイデアが浮かばないようになってきているんですね。

【きだて】アイデアはなんにせよ浮かぶんですよ。ただ、頭の中だけで考えるとコンパクトにまとまっちゃって。頭だけで考えるより、手を動かしてアウトプットする方が時間がかかるでしょ。すると、書いてる間に、それに連結する何か別のネタが浮かんでくるケースもけっこう多いんだ。

【他故】ああ、それはあるよ。芋づる式に出てくる感じが。

【きだて】あるよね。なので、必ずしもスルスルとなめらかなのが善ではなくて。今は熟考したいから、ひっかかりのあるものを使ってみようとか、もしくはアイデアが詰まり気味なときは、太いペンで紙面いっぱいにドワーッと書いてやろうとか。

【高畑】あ~そっちね。

【きだて】太いペンを使って紙面いっぱいに書くと、いっぱいアイデアを出した気分になれるじゃん。何かそのときのテンションの上がり下がりで、ツールをあれこれ変えてみる的なことをずっとしてるね。

――きだてさんのようなやり方がいいのかもしれませんね。

【高畑】最終成果物が電子になってきているのはあるじゃないですか。最初から電子でやるのは効率がいいのは分かるんだけど。うちなんか、ふすまにホワイトボードのシートが貼ってあって、ふすまがホワイトボードなのさ。次にやることを考えるのって、ホワイトボードのふすまにボードマーカーで書いてるの。

【きだて】すげえな、何か数学者みたいだな(笑)。

【他故】かっこいい。

【高畑】ホワイトボードに、角形芯のボードマーカーで書くのが案外好きというのがあって、それで書きながら考える。文字の場合もあるけど、図とかイラストの場合も多いのさ。それは、iPadとかも使ってみたし、いろんなものを使うんだけど、思ったところに思ったように書くというのは、まだねシャープペンとかボールペンの方が早くて精度が高いし、楽なのね。

【他故】はいはい。

【高畑】それに対するストレスが、ページを用意するであったり、書いたときの拡大・縮小であったりとか、そういうことではなくて。去年は本を書いてたので、去年1年間はすごいいっぱい筆記具を使ったのね。イラストの指示なんかはシャープペンシルだし、校正もフリクションで書いているし。プリントアウトしたものに、どんどん書き込んでいった方が間違いが少ないというのも、これも不思議なもので。

【きだて】この3人の中で、筆記具といえば他故さんなのに、他故さん以外の2人がナチュラルに筆記具を使っているという。

【他故】俺の場合は、仕事をしている8時間は、筆記具が使えなくてイライラしているんだと思うよ。

【きだて】他故さんとしては、それはすごいストレスだよね。

――他故さんは会社員だから、その辺の自由がないんですね。

【きだて】会社のデジタルフォーマットに沿わないといけないという。

【他故】しかも、自由なアイデアとか関係ないので。あるものに対して、成果を求められるようなかたちだから、周りからの情報を僕の体の中でまとめる必要はないんですよ。全部決まった方向でまとめられるようなシステムになっているから。

【高畑】僕やきだてさんは、そこに対しては途中は何でもいいというのがあるんだよね。

――他故さんは絵も描くから。

【高畑】でも、会社で絵を描くことはないでしょ。

【他故】絵を描くことはないし、図を書くこともない。

――会社で描いてたら、サボってる人みたいですものね(笑)。

【他故】24時間の中で、ストレスのたまる8時間を過ごしているんですよ。

【きだて】あ~。

【他故】仕事の云々じゃなくて、文房具の使えない8時間みたいな(苦笑)。

【きだて】会社辞めちゃえば(笑)。フリーランスどう?

(一同爆笑)

【他故】家に帰ってくると、仕事で疲れちゃっているから、満足できるほどはやれない。そういう意味では悪循環ですよ。

【きだて】ねえ。

【他故】なので、気持ちのテンションをチェンジする意味でも、なるべく文房具を使いたい、書きたいという気持ちは抑えないようにしたいな、というのが今年の目標です。会社でも、文房具を封印しなきゃいけないわけではないので(笑)。

――でも、それは大事なことですよね。そうやって、草の根でやっていかないと。

【高畑】この間も言ったけど、平成の間に文房具はほぼほぼスマホに取って代わられていてさ、予定を組んだりするのもスマホで十分という世の中じゃないですか。

【他故】そうだね。

【高畑】僕は、でもちょっと思っているのは、確かにほとんどのことはスマホでOKだと思うけど、何かしらスマホじゃダメだったことも「いいじゃん」って思っているフシがあると思うんだよね。

【他故】うん。

【高畑】「スマホで大丈夫」ってみんな思っているんだけど、でもそれはスマホでやっちゃ良くないことって、どこかに出てくる可能性がある。例えば、今大学生協でノートが売れないんですって。

【他故】ほぉ~。

【高畑】大学生は、ノートをとらなくてもスマホで板書を撮れば済む、みたいなことを言っているし。あと、ノートパソコンも売れないんですって。

【他故】ああ。

【高畑】論文書くのもスマホでできる、となっているらしいのね。それで済んでいるんだったらいいけど、多分ここから10年ぐらい経ったあとに、成果で出てくる論文数であったりとか、学生の質であったりとか、知識の量だったりとかに、何かしらの影響があるかもしれない。もちろん、そっちの方が全然いいのかもしれないけど。ある種のことにはデジタルの方が効率が上がるし、成果が上がる部分もあると思うんだけど、ある種の部分ではデジタル化をしたことで成果が下がる部分が、可視化されると思うんだよ。

【他故】そうだね、あり得るね。

【高畑】これから5年、10年が経ったときに、「あれは、本当はデジタル化してはいけなかたことなんじゃないの」という反省があるかもしれない。タブレットで子どもたちに教育をした場合、ある部分は伸びるけど、ある種の能力は下がることが起こるような気がするんだよ。「手書きすることって、こんな意味があったよね」と気が付くのは、もうちょっと先なんじゃないかな。

【他故】ああ~、そうなのかもしれないね。

【高畑】その時に、「そんなこともあろうかと思って」と言って他故さんが出てくるというね。

【他故】「私は諦めませんでした」みたいなことを(笑)。

【きだて】家の奥の方にあるタンスを開けるとビシーッと出てくる(笑)。

【高畑】「昔、おじいちゃんが若い頃にはね、ボールペンというものを使っていてね」、みたいな話が(笑)。

【きだて】「インクを絶やさぬように」みたいな(笑)。

――そこが光るんでしょ(笑)。

【きだて】透過光でね。

【他故】かっこいい(笑)。

【高畑】僕は手書き狂ではないので、手で書かないと何かが生み出せないとは全く思わないんだけど、ただある種の作業に関しては、手書きの方がいいことはあるんじゃないのかというのは、直感的にはあるのね。

【他故】はい、はい。

【高畑】それが、古い人間の慣習なのかもしれないけど。

【きだて】それに関しては、俺は手書き撲滅派だったわけですよ。

【高畑】ああそうだよね。「手書きなんて死ね」って言ってたよね。

【きだて】そうなんだけど、ネタ出しに関しては、デジタルは自分に合わないというのを痛感しちゃって。

【高畑】うん。

【きだて】アイデア出しによさげなスマホアプリもいろいろ試したわけですよ。ただ、それらはどうしても自分の脳のテンポに合わない。結局のところ、脳から手に伝わって、それが出力に至るまでのスピードでいうと、手書きがいまのところ最も丁度良い感じで。

【高畑】スピードもそうだし、やったことと結果のフィードバックみたいなのがあるからね。

【きだて】そうなのよ。

【他故】あるよね。

【きだて】その辺りの感覚は、まだ確実に言語化できてないんだけども。でも、そこも人それぞれだよね。デジタルツールの方がアイデア出しがめちゃくちゃはかどる人もいるだろうし。

【他故】いるよね。

【きだて】なので、少なくとも自分に限って言えば、アナログの筆記はこの部分で限定的に生き残ることになった。なので、他故さんと文具王の話は、わりとすんなりと腑に落ちる感じかな。

――ここ数年、文具ブームで、デジタルからの揺り戻しみたいなのもあるわけでしょ。

【きだて】あー、それは良く出る話だけど、俺から言わせると感傷的過ぎるなと。あと、デジタルからの揺り戻しでのアナログって、なんとなく理由としてそれっぽく聞こえるし。

――メディアの常套句的な感じで。

【きだて】僕らはわりと文房具メディア側じゃないですか。だから、揺り戻しって言いたくなるんですけど。でも、全部デジタルに変わっちゃっても支障がない人だって結構いるし。それでもアナログ文房具の話をしようとすると、郷愁に拠り所を求めちゃうのが手っ取り早い。どっちかというと「ざっくり全部切り捨てちゃってもいいけど、もし後から自分にとってアナログがベストな局面が出てきちゃったらどうすんの?」って、それだけの話なんだよね。

【高畑】本当に要らないんだったら切り捨ててもいいんだけど、でも切り捨ててはみたけれど、長期的には必要なものだったのでということもあるから。

【きだて】脳から直でデータを出せない限りは、まだ間にアナログをはさむ意味は俺にはある。

【他故】まあ、そうだよね。デジタルにしろアナログにしろ、デバイスは必要だからね。

【高畑】デジタルって、アナログの中から必要だと思うものを抜き出した情報だからさ、その何かが少ないんだよ。デジタルの方が情報が少ないのは確かなので、過不足なく必要なものを取り出していればいいんだけど、大事な何かを取り出し忘れていた場合は、足りなくなる可能性があるんだけど、それが何なのかはまだよく分からないんだよね。

【きだて】また、そのノイズ全てが偉いわけでもないのが難しいところだね。

【他故】わはは(笑)。そうね。

【きだて】字が汚い俺なんかは、ノイズの部分を切り捨てて、ペン先からフォントを出力できた方がいい局面が圧倒的に多いわけです。

【他故】分かるよ。

【きだて】だから、一概に言えないところがもどかしいよね。

【高畑】そこだよ。

【きだて】だけど、一概に言い切らないところが、ブング・ジャムとしての誠意だと思って聞いていただきたいなと思う。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】多分、この鼎談も多くの人はスマホの画面で見ているわけだよ。

【他故】まあ、そうだよね。

【高畑】そうなんだけど…まあね。

【きだて】「文具のとびら」のガリ版刷り作ろうか(笑)。

【高畑】あとは、かわら版にして延々と彫る。

【他故】街角で号外を配る。

【きだて】「号外~」って撒く。

【高畑】もらいに行くの大変だよね。

【他故】神保町でしかもらえない(笑)。

【高畑】新しく雇った社員が、刷り師と彫り師っていう(笑)。

【きだて】ステイショナー、大変だな~(笑)。

【高畑】いやだから、デジタルのツールが一通り揃ったところで、多分これからが本当のデジタル過渡期なんじゃないかなという気はちょっとするよね。まだ抵抗する感は、僕らにはちょっとあるけど。

【他故】まだね。僕もどっちかというとデジタルは好きなのでね、文字を入力するのはキーボードの方が早いと思っているけど、やっぱり「書きたいな」と思ったら書く。そういうのを続けていきたいなと思います。

その3に続く。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。

たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。

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