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【連載】文房具百年 #60「発見!幻の鯨印消しゴム」

たいみち

連載60回目

 2024年になった。まずは今年も引き続きよろしくお願い申し上げる。昨年は間が空いてしまったことが多かったので、もう少し計画的に書くようにしようと思う。そして連載60回目だ。60という数字は「還暦」を思い出す。何かが一巡したというか、そして今回はまさに連載第1回目につながる話しだ。

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幻の鯨印消しゴム

 まず、連載第1回目をお読みいただいたことがない方は、出来ればそちらもご覧いただきたい。
https://www.buntobi.com/articles/entry/series/007384/
 しかし、とは言ってもなかなか長いので簡単にお伝えすると、日本に明治時代頃に輸入され、たいそう人気だった消しゴムがあるという。それがA.W.FABERの鯨の絵が描かれた消しゴムだ。明治終わり頃からおそらく第二次世界大戦の前までは販売されていたロングセラー商品で、日本の消しゴムメーカーも自社製品にこの鯨印消しゴムと同じ品番「6006」を付けたと言われる消しゴムである。
 ところがこの消しゴムが一向に見つからない。長期間販売されて、且つ人気商品で多数出回っていたとしたら、もっと見かけてもよさそうなものなのに、全く出てこない。私は絶対にこの消しゴムを見つけたい。
 かなり端折っているがおおよそそういう話だ。そして(今回のタイトルからお分かりかと思うが)やっとその消しゴムが見つかった。入手した暁には、まずこの連載でお知らせしようと思っていたので、その報告となる。
 そう!やっと鯨印消しゴムが見つかった!見たことはあるが手に入らないのではなく、見たことすらなかったのを、発見と共に手に入れられた。それがこれだ。

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 かなり汚れているが未使用だろう。オークションに出品されたので、気合を入れて落札した。サイズは2.8cm×3.9cm×0.9cm位、裏面は何も印刷されていない。
 カタログと比較すると、品番6006の後のサイズを表す数字など、一部異なるところはあるが同じもので間違いない。

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*カタログは、福井商店(現ライオン事務器)の販売代理店のもの。昭和12年発行。



 大きさを表している「12」や「20」は、大きな塊の消しゴムをいくつに分けたかという数字なので、数字が小さいほど消しゴム自体は大きい。カタログの写真は「12」なので私が入手した消しゴムより大きい物のはずだ。
 また、鯨の絵がカタログの方がはっきりしている。鯨の絵の版が時代を経るにつれて劣化しているなどで、若干変化しているかもしれない。私が入手した消しゴムがいつ頃に作られたものかははっきりしないが、一緒に入手した鉛筆から見ると鯨印消しゴムとしては比較的後の時代のような気がする。

 日本製のコピー品と比較してみよう。半身の消しゴムは全体のサイズは大き目なので、カタログの「12」サイズはこれくらいかもしれない。K.I.PENCILのKUJIRA消しゴムはA.W.FABERの消しゴムと大体同じサイズだ。どちらも鯨の絵はそっくりで、K.I.PENCILのほうは、品番・サイズ、メーカー名などの文字の入れ方もそっくりだ。

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*左から田口ゴム、A.W.FABER、K.I.PENCIL。K.I.PENCILは市川商店の商標。



 鯨印消しゴムを入手した報告は以上となる。思えば鯨印消しゴムの存在を知ってから見つかるまでに10年以上かかった。一つ見つけたのでモノ探しとしては一段落だが、本物の鯨印消しゴムだけでなく、日本製コピー品も含めて見つけづらいことがいまだ不思議ではある。幻でないことはわかったので、もっと見つかることを願って、引き続き探し続けるつもりである。

ついでの消しゴムの話は次回

 鯨印消しゴムの報告のついでに、消しゴムの話をもう一つ。プラスチック消しゴムの初期のころの話をしようと思ったのだが、いざ書こうと確認や調べものをしていたら、それなりに長くなりそうな様相を呈してきた。それだとせっかくの鯨印消しゴム発見の報告の方が、ついでのようになってしまいそうだ。
 ということで、この連載史上最短となるが、今回はここまでとさせていただく。

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プロフィール

たいみち
古文房具コレクター。明治から昭和の廃番・輸入製品を中心に、鉛筆・消しゴム・ホッチキス・画鋲・クレヨンなど、幅広い種類の文房具を蒐集。
展示、イベントでコレクションを公開するほか、テレビ・ラジオ・各種メディア出演を通して古文房具の魅力を伝えている。
著書「古き良きアンティーク文房具の世界」誠文堂新光社
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