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【Kia Ora!文具通信】Vol.4左利きさんも暮らしやすい? ニュージーランドの利き手事情!

太平洋の南に浮かぶ島国ニュージーランド。豊富な自然環境と多様な人種が集まるこの国では、日本とはずいぶんと異なる文具事情が広がっているようです。ニュージーランドに長期滞在中の文具ライターが、現地で出会った文具のアレコレをご紹介します!

タイトルにある「Kia Ora!」とは、ニュージーランドの先住民族・マオリ族の言葉で「こんにちは」を意味します。親しみを込めた挨拶として、日常的に使われています。

世界でも「左」はマイナスイメージ?

人口の10%ほど存在すると言われる左利き。はさみやボールペンなど文房具においては特に、どちらの手で使うかによってその使いやすさがまったく異なり、何かと話題に上がるトピックのひとつです。
かくいう筆者も左利きで、子どもの頃は箸の持ち方を親に直されたり、習字の授業では利き手ではない右手を使うように言われたりしたこともありました。思えば、外食の際に配膳される食器は右手での箸運びがしやすいように配置されることも多いですし、日本語の文字の書き順は右手で書きやすく成り立っているので、利き手を矯正することで生活における小さなストレスを感じることは、確かに少なくて済みそうです。

では場所を変えて、日本以外において、左利きを取り巻く環境や文化は、どのようなものなのでしょうか。

「右」を表す英単語「right」に、もう一つ「正しい」という意味があるのは、ただの偶然なのでしょうか。実は英語には「sinister」という「不吉な~」を意味する英単語がありますが、もともとはラテン語で「左」を意味する言葉だったという話もあります。左利きはひょっとすると、日本以外の文化圏においても特異な存在として扱われていたのかもしれません。

ニュージーランドで知り合ったタイ出身の友人に話を聞いたところ、約30年前に彼女が子どもだったころにも、「タイは右利き社会だから」という理由で両親から利き手を直されそうになったと言います。左手は不浄とされているタイでは、ともすると右利きでの生活がより当然のものとして浸透したのかもしれません。

左も右も関係ない?NZの左利きさん事情

では、ニュージーランドではどうなのでしょうか。
とある興味深い記事を目にしました。

ニュージーランド国内のある学校の調査において、中国系の生徒は左利きの割合が7%だったのに対し、ほかの民族に属する生徒では12%と、差が大きく開いていることが明らかになりました。これに対して専門家は、遺伝的なものではなく、左利きに対して厳しい対応をする文化的な背景によるものであると記事内で指摘しています。
参考:The New Zealand Herald “School census: Why are so few Chinese students left-handed?” (2024年9月19日閲覧)
https://www.nzherald.co.nz/nz/school-census-why-are-so-few-chinese-students-left-handed/5JBXV6NAWEALC7ANCF52QR4X3I/

では、先ほどの記事のように他国にルーツを持つ人以外に、ニュージーランド自体にはどのような文化的背景があるのでしょうか。左利きの子どもへの教育ついて、幼児教育コンサルタントとして活動するダーウィッシュさんに話をお聞きしたところ、「数百年ほど昔は、左手を使おうとした子どもの手を大人が叩いて叱るという話もありましたし、ヨーロッパでは左利きは悪魔を連想させるとも言われていました。しかし現代のニュージーランドは違います。この国では子どもたちに使いたい手を使わせていますし、それを補う左利きの道具も充実しています」と話します。

また、現場で働く国内の保育士さんも「早期教育では、左利きだろうと右利きだろうと、利き手の矯正は行いません。子どもたちには、どちらの手でも使いたいと思う方の手を使わせていますよ」と言います。

kia ora1.jpghttps://eliteleft.com/

ダーウィッシュさんの言う通り、実際にニュージーランド国内には、左利き専門のネットショップが複数存在し、文房具をはじめ左利きが使いやすい生活用品が手に入りやすいです。
日本国内にも「左ききの道具店」など専門店がありますが、ニュージーランドの商業規模や人口を考えると、日本と比較してその規模や割合が大きく、左利きの人が利き手を矯正することなく暮らしやすい環境が相対的に整っていると言えそうです(*経済規模を示すGDPは日本が世界4位、ニュージーランドは53位。ニュージーランドの全人口は534万人。いずれも2024年時点)。

では、先ほどの教育関係の方々が口をそろえて言うように、なぜニュージーランドでは「使いたい手を使わせ」、かつそれが実現できる環境が整っているのでしょうか。

そのキーワードの一つに、ニュージーランド国内で頻繁に使われる「ウェルビーイング」という言葉があります。医療や教育の現場でよく使われるこの言葉は、クオリティ・オブ・ライフにもつながると考えられています。このウェルビーイングに関するニュージーランド国内の調査の中で、興味深い結果がありました。
「Ability to be yourself」(あなたらしくいられること)と題されたニュージーランド国内の統計において、2021年の調査では、15歳以上の人々の中で80%以上が「自分らしくいることが簡単/とても簡単である」と回答しています。さらにこの調査結果には次のような説明が述べられています。
「この調査は人々がどの程度、自身のアイデンティティを表現できているかについて示すものです。ニュージーランドの人々は自身が何者であるかを表すための異なるライフスタイル、文化、信条を持っています」(websiteより引用し筆者による翻訳)。
出展:Wellbeing data fot New Zealanders (2024年9月19日閲覧)
https://statisticsnz.shinyapps.io/wellbeingindicators/_w_3bb7c434/?page=indicators&class=Social&type=Subjective%20wellbeing&indicator=Ability%20to%20be%20yourself

この上で、持って生まれた利き手を一つのアイデンティティと定義するならば、左利きを矯正せずに利き手に合った道具を使うことが「自分らしくいること」を意味するのでしょう。
だからこそこのニュージーランドでは、だれもが「自分らしくいること」を尊重するために利き手において右や左の優劣なく、使いたい手を使い、それが尊重される環境や道具へのアクセスが整っていると言えるのかもしれません。

おわりに

左利きを取り巻く環境は、日本国内において寛容になりつつあると感じます。それでもまだ、左利き当事者として生活におけるさまざまなシーンで不便を感じることが多いのも事実。右利きさんにとって暮らしやすい日本社会や文化の中で、左利きが自分らしくあることをあきらめない環境づくりや配慮が、今後より一層必要になっていきそうです。

プロフィール

臼井 遥比(うすい はるひ)

ライター。1995年横須賀生まれ。
地域WEBマガジンや「文具のとびら」で編集や取材・執筆を経験。
2024年2月からニュージーランドに滞在し、「文具」や「暮らし」をテーマに活動中。

ニュージーランドでの暮らしをnoteでも発信中。
https://note.com/haruhiusui16

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