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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.90 読書や勉強で使いたい便利文具 その2

文具のとびら編集部

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は、“読書の秋”“勉強の秋”に向けて使いたい文房具を取り上げました。

第2回目は、コクヨの「本に寄り添う文鎮」です。

(写真左からきだてさん、高畑編集長、他故さん)*2024年8月17日撮影
*鼎談は2024年8月20日にリモートで行われました。

“本に寄り添う”かたちで使いやすい

「本に寄り添う文鎮」(コクヨ) 分厚い本も安定した状態で保持できる、開いた本に沿う形状の文鎮で、置くだけのため本を傷めず、ページめくりもスムーズ。2022年6月に数量限定販売。反響が大きかったことから、生産体制を整え2024年1月から販売開始した。真鍮製税込5,500円、鉄製(ブラック、グレー)同2,200円。
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――次は「本に寄り添う文鎮」です。まあ一応、「ウカンムリクリップ」と同じ使い方ではありますよね(こちらの記事を参照)。

【高畑】そうなんだけど、これがね全然違うんだよね。これ1回出て、ちょっとバズったじゃん。それで商品が全然足りなくなって、しばらく出荷停止ですみたいな状態が続いた後に、再販されて新しく出てきたよね。さっき「ウカンムリクリップ」が外で便利っていう話をしたけど、家のデスクでの使用頻度でいうとこっちの方がむしろ多い。僕が使ってる頻度はめっちゃ多いです。とりあえず置くみたいな感じで、ペン立てに入れて置いてあるんだけど。それでゴンと乗せて、差し当たり抑えるっていうのができるので。挟むよりも、置くまでのスピードが速過ぎる。

【きだて】まあ、そらそうだよね。直線の文鎮よりも、本に寄り添う姿勢が見えている分置きやすいんだよね。

【他故】寄り添う姿勢が見える(笑)。

【高畑】俺は、最初馬鹿にしてたんだけど(笑)。最初にこのかたちを見た時に、デザイナーが考えそうな、コンセプトだけのこういうやつを作りがちじゃんって思ったら、案外ちゃんとしてたっていう。思ったよりも全然良かったよ。

【きだて】う~ん。

【高畑】きだてさんは「う~ん」って言ってるね。

【きだて】正直に言うと、俺は未だにいけ好かないと思ってるよ。雰囲気だけで作りやがってっていう。

【他故】ははは(笑)。

【きだて】さっきも言ったように、直線のいわゆる昔ながらの文鎮よりははるかに本に乗せやすいのは分かるんだけど、何かこの曲線があざとい。

【高畑】あざといのはあざといかもしれない(苦笑)。

【きだて】何かね、この「ザ・本の曲線です」みたいなしゃれめかしたところが、俺の中をチクチクと、いい気持ちにさせてくれない。

【他故】そんなに気になるか(笑)。

【きだて】おしゃれものって、やっぱ敵じゃん。

【他故】敵じゃないだろ(苦笑)。

【きだて】これって、ハイセンス系のモテ文具じゃん。

【高畑】モテ文具かな? ハイセンス系なのは確かだけど。

【きだて】モテ文具だろう、明らかに。

【他故】そうなのかな?

【きだて】「おしゃれな読書体験をお届け」ぐらいに思ってんだろうよっていう。

【高畑】いや、おしゃれな読書体験というか、デザイナーがイメージする読書体験みたいな感じのところは確かにある。

【きだて】ほら、いけ好かないじゃん。

【高畑】それ系のものって色々とあって。例えば、本を広げた上に置く波形のアクリルの板があって、それも文鎮系として開いたままで読めますよというものなんだけど、それは違うなと思うのね。ディスプレーとしてはそれでもいいんだけど、読む道具じゃねえなと。確かに全面を押さえているし、読めるんだけど、アクリルだからテカるしさ。めくるときに全部持ち上げないといけないし。コンセプトに寄せ過ぎた結果、実用面でいくと「う~ん」という感じだったりするんだけど。でも「本に寄り添う文鎮」は、きだてさんが言うようにいけ好かないデザインではあるんだけど、普通に置いたら便利だったっていうところが悔しいところなんだよ(笑)。

【他故】それは間違いない。

【きだて】分かる。使えるのがね、また腹立たしい(笑)。

【他故】腹立たしい(笑)。

【高畑】俺は、いわゆる普通の四角い文鎮みたいなのも家にはあるんだけど、それは使わないんだよ。こっちを使うんだよね。

【きだて】そうだろうね。

【高畑】あとね、ちょっと変な形だから、全部じゃなくて、端っこ押さえるとかができんだよね。片側だけ乗せるっていうね。カモメ型だから真ん中に置かなきゃいけないって思ってる人も多いかもしれないんだけど、真ん中に置かずに端だけ押さえるとかができちゃうんだよね。

【他故】うん、できる。

【高畑】案外、これでも十分だったりするとろこがあって、これがまた中途半端に曲がっているから押さえやすかったりするんだよ。そういうところがまた、いけ好かないといえばいけ好かないんだけど(笑)、普通に便利。

【他故】普通に便利だね。

【きだて】普通に便利なんだけど、これの写真撮るときって、絶対に洋書の上とかに置くじゃん。

【高畑】それはコクヨの人とかでしょ?

【きだて】もうそれがよくない。

【高畑】だから、もうちょっと普通の本とか参考書とかの上かに乗せればいい。俺はどっちかっていうと、そんな感じなんで。山川の世界史の資料集みたいなやつにボンって乗っけたときに、案外ちゃんと乗っててくれるんで。

【他故】手軽でいいんだよなぁ、これ。

【高畑】僕はもう最近は割と、古い本とかを開いたりするのに、いちいちクリップで留めなくていいから、いいよ。あとは、これ重いから、肩を叩くと肩こりにも効くし(笑)。

【きだて】そう、とがったところをツボ押しに使うと気持ちいいんだよ(笑)。

【高畑】イメージ的には、十手ぐらいの大きさなんだよね。銭形平次が持っていたやつみたいな。

【他故】もうちょっと曲がってるとアイスラッガーなんだけどな。

【きだて】他故さんは、何を求めてんだよ(苦笑)。

――「こち亀」の両さんの眉毛みたいな感じですけどね。

【きだて】そうね。

【高畑】確かに、ホームページとかを見ると、この角度に色々いわれがあったりするわけですよ。適当に湾曲していれば、この角度じゃなくてもよかったと思うんだけど。あと、手作業で1個ずつ作ってるんでしょ。

【他故】ああ、真鍮の方ね。

【高畑】別に、手作業がすごいわけじゃないけど、このかたちにするんだったら、鋳物なのかな。

【きだて】このかたちは、ベンダーじゃ曲げられないだろ。

【高畑】そういえば今回の復活で、値段が2種類になって、重さが変わったじゃない。

【他故】そうだね。

【高畑】鉄の方が作り方がもしかしたら違うのかもしれないけど、もうちょっと安い方法でやってもいいと思うけど。

【他故】もうちょっと楽に作れるんかね?

【高畑】今だといろんな加工法はあるかもしれないけど。やっぱり、高いけど真鍮がいいですよ。重さで抑えるから。鉄のも触ったけど、やっぱりね真鍮の方がずっと重いので、真鍮がいいですね。鉄の黒とかもいいんだけどね。

【他故】俺、会社は鉄のを置いてるんだよな。

【高畑】鉄のは黒白があって、真鍮が金色なんだよね。真鍮だけちょっと値段が高いので、多分そこら辺は差別化っていうか、材料費がどうこうというより、もしかしたら加工方法が違うのかもね。

――真鍮製のは割と品薄な感じがしますね。もしかしたら、真鍮は生産数が少ないのかもしれないですね。そうやって手作業で作っているとしたら。

【きだて】鉄の方は、真鍮よりはもうちょっと楽に作れてるのかな。

【高畑】作り方が違うかもしれないね。そういう風に見てなかったから鉄の方がどうなのか分かんないけど、真鍮は間違いなく砂型か何かで鋳出した後に削っている跡がついているから、これはそうなんだけどね。

――そこはコクヨの人に聞かないと分からないですけどね。でも、そもそも作ったきっかけが「中高生の声を反映して制作した」ってサイトに書いてあるので、こういうのが欲しいみたいな学生がいたということなんですよね?

【きだて】声があったのは、「本を開いておく文鎮が欲しい」ぐらいだったんじゃないの。そういう要望があったのかね?

【高畑】それはどうなんだろう。

【他故】ちゃんとかたちまで指定されてたのかな?

――まあ「ちゃんと開いておけるものが欲しい」的な要望を出したとリリースには書いてあるので。

【きだて】初期の段階で、「本のかたちに添うものが欲しい」という要望があったのかね。

【高畑】「中高生の声を聞いて、勉強に役立つツールを作るというプロジェクト」というのが元になっているということだね。

【他故】そうだね。

【高畑】もしかしたら、そういう人たちと対話しながら作ったのかもしれないね。

【きだて】中高生向けプロジェクトが元だとしたら、その割には高価過ぎない?

【高畑】そうなんだよね。

【他故】そういうプロジェクトだったんでしょ。その人たちのために作ったんじゃないの、限定300本っていうのは。

【きだて】う~ん。

【他故】当時そんな記事を読んだ気がするんだが。

【高畑】記事が出てきたんだけど、何か重たい、細長い砂袋みたいなのを作って重さを計ったりとか色々やったみたいね。

【他故】「本当に需要あるのかを確認するためのテスト販売を行いました」と書いてあるね。一番最初に300個作った時は1,650円だったんだ。

【高畑】最初安かったんだよ。

【他故】それで量産しようと思ったら、そんな値段じゃできないって話になったのかな。

【きだて】そういうことだったのか。

【高畑】最初安かったんだっけ。そうだ、コクヨのアプリがあるじゃん。あれでユーザーとなんかやり取りしてたりしたんじゃないかな。

【他故】名前忘れちゃったけど、スタディアプリだよね。

【高畑】そんなのやってたっぽいよね。元々はそんな感じだったんだけど、「テスト販売の結果、当初想定していたターゲットとは異なる感度の高い大人層から、素材感の良さがインテリアとし美しいと好評であることが分かった」だって。大人ダメだね(笑)。

【他故】大人ダメじゃん(笑)。

【高畑】インテリアとか、そこがいけ好かないところなんだよ。本読めよ!!

【きだて】大人が食いついたのがいけなかったんだな。

【高畑】それで、価格を見直して高くなったんだよ。

【きだて】なるほど。だとしたら、コクヨに悪いことを言っちゃったな。撤回します。悪いのは、感度の高い大人とかいうやつらでした。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】むしろ、それを見出したのがいけ好かない大人だったんじゃない?

【きだて】そうだね。 じゃあ、洋書の上に置いたのはそいつらだ。

【高畑】ああ、それで真鍮のが高くなっちゃったから、それじゃあ元々使ってほしかった学生に使ってもらえないじゃんみたいな話で、もうちょっと安いのも作んなきゃっていうことで、鉄製も作ったよということか。

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【きだて】それは本当に、俺が申し訳なかった。

【高畑】まあ、そのいけ好かなさはとりあえずとしても、便利だったりするから、結局使っているというのがあって、悔しいが非常に便利だったという。

【きだて】分かるんだ、その程よく雑に使える便利さが。

【高畑】そうそう、雑に使える。とりあえずのっけとくだけなんだよ。面倒くさいことをあんまり考えなくていいという良さはある。

【他故】割と厚めの本は、この曲線がぴったり合うので、気持ち良いんだよね。それでパッと置けちゃうし。この曲線に合わない本だけ「ウカンムリクリップ」を使ってるのよ。

【高畑】合わないっていうかね、合ってるも合ってないも関係ないかなっていう感じなんだよね。開いといてくれれば、とりあえずいいから。

【他故】開きがなんとなく上手くいかない本だったりすると「ウカンムリクリップ」を使ってるんだよね。

――他故さんは、その文鎮も夜寝る時の読書に使ってるんですか?

【他故】本によって変わるんですよ。今読んでいる本は「ウカンムリクリップ」が合うからそれで読んでいるし、これを読み終わって次の本の時に「どっちが」ということで、合えば文鎮の方を使います。

――じゃあ、例の体勢でそれを置いて読んでるわけですね。

【他故】全く同じですね。これで腕をだらんとしているわけです(笑)。

――そういう意味では、便利なものがいっぱいあっていいですね(笑)。

【高畑】あとは、ペン立てに立てられるのが良い。

【きだて】それ、さっきも言ってたね。

【高畑】ペン立てに立てておけるのが良くて。文鎮系のものって、置くと場所取るし、重たいしっていうのがあるので、定規とかと一緒に突っ込んでるんだけどさ、それで済んじゃうのもいいところだね。立てて置いといて、そこから抜いて使えるっていうのがいい感じだから。棒状っていうのがやっぱりいいのかな。これ曲がってなかったら、転がって落ちるんだよね。

【他故】そうそう。

【高畑】そこなんだよね。この曲がっているのが非常に良い。

【他故】結局いいんだよ、これ(笑)。

【高畑】結局いいんだよ。「くそっ」て。

【きだて】文具王も「くそっ」て言ってるじゃん(笑)。

【高畑】いや、最初見た時にさ、「またデザイナーが、こういうスカしたもの作りやがって」って一瞬思って。で実際に家で本を読むときに乗せたら、何か気がついたら結構便利に使っている俺がいるっていうところがあってですね。僕は、デザインコンセプトをやり過ぎて、「便利なんだか何だか分かんないけど素敵」みたいなものっていうのは、あんまり好きじゃないっていうか、道具に切実さのなくなった道具は、僕は嫌いだっていうのは、ずっと昔から言っているんだけど。そういう意味で最初に見た時に、「またこんなナンパなものが出て」ってって思ったところからの、「案外使えてごめんなさい」ってなって、「すいません、だいぶ使っています」みたいな感じになっちゃっているので。誰がデザインしたのか知らないけれども、見た目で本用だっていうのがすぐ分わかる上で、道具としての機能性がきちんと成立している。これが便利じゃなかったら、ケチョンケチョンに言ってやりたいところなんだけど。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】でもそうでもない。ちゃんとしたものだから、やっぱりデザインとして認めざるを得ない。いいんだろうなって思う。ちゃんと道具になっているっていう感じ。「これは道具じゃねえよ」って言いたくなるものがいっぱいある中で、これはちゃんと道具になっているものかな。

【他故】うん。

【高畑】「ドットライナーフリック」みたいな道具感っていうのは全然あるんだけど、そういうものとはまた別のかたちで、ちゃんと道具として成立しているところが、いいんじゃないのっていう感じですかね。

*次回は「モジサシ」です。

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プロフィール

高畑 正幸(たかばたけ まさゆき)
文具のとびら編集長。学生時代に「究極の文房具カタログ」を自費出版。「TVチャンピオン」(テレビ東京系列)の「文房具通選手権」では、3連覇を達成した。サンスター文具に入社し商品企画を担当。現在は同社とプロ契約を結び、個人活動も開始。弊社が運営する文房具のWebマガジン「文具のとびら」の編集長も務めている。著書は『究極の文房具カタログ―マストアイテム編―』(ロコモーションパブリッシング)、『究極の文房具ハック』(河出書房新社)、『そこまでやるか! 文具王高畑正幸の最強アイテム完全批評』(日経BP社)、『文具王 高畑正幸セレクション 一度は訪れたい文具店&イチ押し文具』(監修/玄光社)、『究極の文房具カタログ』(河出書房新社)、『文房具語辞典』(誠文堂新光社)と、翻訳を手がけた絵本『えんぴつとケシゴム』(KADOKAWA)。新著は『人生が確実に幸せになる文房具100』(主婦と生活社)。
https://bungu-o.com/


きだて たく

小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
小学生のころから文房具が好きで、それが高じて文具メーカーに就職。ただし発言は勤務先とは無関係で、個人の見解・感想である。好きなジャンルは書くものと書かれるもの、立つ文房具と薄いペンケース。30分間文房具のことしか語らないトーク番組・775ライブリーFM「他故となおみのブンボーグ大作戦!」パーソナリティ。たこなお文具情報室所属。
「他故となおみのブンボーグ大作戦!」番組ホームページ https://daisakusen.net/

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