1. 連載企画
  2. 【連載】月刊ブング・ジャム Vol.63 暑~い夏はこの文具で乗り切ろう!(その1)

【連載】月刊ブング・ジャム Vol.63 暑~い夏はこの文具で乗り切ろう!(その1)

文具のとびら編集部

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は、暑い夏に使いたい、おすすめの文房具をブング・ジャムのみなさんに紹介してもらいました。

第1回目は他故さんおすすめの「雨の音(あめのね)インク」です。

(写真右からきだてさん、他故さん、高畑編集長)*2021年11月9日撮影
*鼎談は2022年5月27日にリモートで行われました。

雨の日だけ販売する、超レアな“雨色”インク

雨の音インク1.jpg「雨の音(あめのね)インク」(アンコーラ銀座本店限定)

――今回のテーマは、「暑い夏を乗り切るための文房具」です。

【高畑】ちょっとテーマに大喜利感が出てきましたけど(苦笑)。

――では、まず他故さんからお願いします。

【他故】夏というか、梅雨になりますが。そもそも、雨降ってる日って好きなんですよ。雨の中出かけるのは嫌いだけど、雨が降ってる日に家にいるのは割と好きなんですね。

【高畑】分かる!

【他故】雨の音がしとしとするとか、ちょっと雨の匂いがするとか、そういうのは子どもの頃から割と好きで。自分が住んでるマンションの、今いる部屋は窓がない部屋なので、ここにいると分かんないんですけど、子どもの頃に住んでいた家の自分の部屋って、2階建ての2階で、3方向が窓だったのね。雨があたると、古い家なのでトタン屋根がパチパチいったり、ガラスが薄くて、ガラスに当たる音がしたりというのがあって、雨の音とかは割と好きなのよ。

【高畑】うん。

【他故】ただ、雨の日に出かけるのは好きじゃなくて。好きじゃないんだけど、今回紹介するこのインクは、銀座の「アンコーラ」で、雨が降っている日だけ売ってる「雨の音(あめのね)インク」なのね。

【きだて】それ、本当にそうなの?

【他故】そう、本当にそうなの。去年の10月かな、このインクが出たときにアンコーラに行ったのね。雨降ってない時だけど。「新しいインク出たんですね」と訊いたら、「雨が全然降らないから、店に出せないんです」って言ってた(笑)。

【きだて】ははは(笑)。マジメか。

【他故】「何のために企画したんだか」という話をしてて、本当に出してないんだっていう(笑)。それで、たまたま雨が降った日にアンコーラに寄ることができたので、僕は1個買ってきたんだけども。今、万年筆のインクって、死ぬほど種類があるじゃないですか。

(一同)うん。

【他故】「雨をイメージした」とか言わなくても、青系のインクなんかめちゃくちゃあるでしょ。だから、そんなに違いはないと思ってたのね。うちにも青系のインクはたくさんあるし、水のイメージのインクはいっぱいあるから。そういうものの一つだろうと思って、買って書いてみたら、ちょっと印象が違ってて。分かりにくいかもしれないので、後でホームページを見てほしいんだけど、これってブルーグレーなんだよね。かなりくすんだ状態の。

雨の音インク2.jpg

*他故さんが描いたものです

【きだて】雨の色というか、どんよりした雨空の色のイメージなのね。

【他故】重たい感じの色というか、パッケージの絵を見ると、傘の方が大きいんだよね。雨空を描くのは難しいと思うけど、ちょっと重たい感じ。暗い空の重い感じをイメージしたみたいな。このブルーグレーどこかで見たことあるなと思ったら、F14とか塗るときに使うブルーグレーってこんな感じじゃない?

【高畑】アメリカの海軍ブルー?

【他故】そうそう(笑)。

【高畑】あ~はいはい。

【きだて】まあ、『トップガン』の続編も公開されているからね。

【他故】意外なことに、こういうグレーって、今まで持ってなかったのよ。青系でもなく、完全なグレーでもなく。ブルーグレーっぽいのって持ってなかったので、大変気に入っておりまして、何本か万年筆にも入れているんだけど。これって、細字のだと、はっきりしない色になっちゃうのね。

【きだて】あー、ちょっとぼんやりしてるか。

【他故】細字だと、僕の目だとちょっときついというぐらい薄くなっちゃうの。見えないわけじゃないんだけど。これは、中字ぐらいで書くのがちょうどいいのかな。中字ぐらいで書くと、一つひとつの文字に濃淡が出るので、書いてて気持ちがいいし。あと、これは僕の感覚であって、インクの性能ではないんだけど、ゆっくり書きたいというか、ゆっくり書いて、インクが紙に入っていくのを見ていたい色。

【きだて】ふーん。

【他故】僕が持っている他のインクって、割とたっぷり出て、早書きしてもいいようなものばっかりなので。これって、インクとして出が渋いのよ。

【高畑】渋い? フローが悪い感じなの?

【他故】悪いとまではいかないんだけど、僕の目でみると、普通のより薄いのよ。だから、ちょっとゆっくり書きたくなる。

【きだて】その辺は、どういうチューニングなんだろうね。

【他故】「そうじゃないよ」という人もいるかもしれないので、あくまでも僕個人の感想なんだけど、ゆっくり書きたいときに使うインクになってる。何か急いでメモをとるときにはこれは登場しなくて、気持ちを落ち着けたいから字をゆっくり書きたいなというときに使う。使用頻度は少ないんだけど、そういうときに使うインク。その日が雨とは限らないんだけど、晴れやかなときに使うという印象じゃないんだよね、僕の中では。

【きだて】そのチューニングにせよ、色にせよ、爽やかさのかけらもない感じよね。

【他故】爽やかさはないよね。

【きだて】じめっと湿度が高くて、重い。

【他故】そうそう、重い感じ。でも、雨の降った薄暗い日でも、落ち着いて字が書きたいという、どっちかというと落ち着く色なのかな。パッと明るくて、元気が出るぞという感じじゃなくて。

【きだて】これで、演歌の歌詞とか書いてみたい感じよね。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】「青森の空をこれで表現するんでしょ」みたいな、鉛色に近い、ちょっと重たい色で。

【他故】そうね。僕は書かないけど、詩を書いたりするのにいいかもしれないね。人様にお手紙を書いたりするときも、あんまり明るい色で「はっちゃけてるぜ!」というよりも、「今、私はこんな感じです」という、暗いとは言わないけど、ちょっと落ち着いてますみたいなね。そういう表現をするのにいいかも。

【きだて】これは暗いよ。

【他故】暗いか(苦笑)。でも、本当に暗いんだったら、真っ黒なインクでもいいじゃん。

【きだて】何て言ったらいいのかな。真っ黒というのは、イメージとして暗くないのよね。

【他故】むしろ、コントラストがはっきりしているからか。

【きだて】そうそう。このインクの色は薄暗くて、とても面白いね。

【他故】派手な感じが全くなくて、むしろ好感が持てるというのが僕の印象です。

【高畑】「雨の日にお店に来てくれたから、何かおまけ出します」みたいなところあるじゃない。ご飯食べに行っても、「雨が降ってるからミニデザート付けます」みたいな店が結構あるんだけど。「雨の日に特別」と考えたときに、しかもそのお店でしか手に入らないということもありながら、それがあんまり明るくない色というのが面白いよね。

【きだて】雨の日のじめっとした感じを一切吹き払う気がないサービスであり、色でありという。

【高畑】「雨だし」みたいな。

【他故】そうね。じめじめした気分のまま帰るんだよ(笑)。

【きだて】雨空を楽しむとは言うけどさ、結局のところ、降られている状態で雨なんて楽しくはないんだよ。家の中にいて、雨音を楽しむとかなら分かるんだけど。

【高畑】そうなんだけど、その曇天を楽しむときに、このインクを買いに行かないといけないわけだよ。雨の中を。

【他故】うん、雨の中をね(笑)。

【高畑】「今日はもう家の中に居よう」といって、これで詩を書いたりするのは、別にあってもいいんだけど、これを買いに、今から傘をさして行かないといけないというところが、微妙で面白いよね。しかも、これ店舗限定でしょ。

【他故】そう、これはアンコーラでしか買えないので。だから、それもこのインクの思い出だよね。わざわざ傘をさして、このインクを買いに行ったという思い出そのものがここに詰まってるんだろうね。

【高畑】他故さんがこのインクを買ったのは、「今日ならこのインクが買える」と思って行ったのかな?

【他故】基本、会社の帰りに寄れるというのが一つと、裏ワザではないんだけど、このインクはその日のどこかで雨が降ってれば買えるのよ。

【きだて】あー。

【他故】要するに、降っている間だけ店に出しているんじゃなくて、その日に銀座で降雨があれば、店に並べておいてくれるわけ。

【高畑】雨が上がっても、置いてはあるのね。

【他故】その日のうちならあるのよ。

【きだて】なるほど。

【高畑】降り続けてなくても大丈夫なのね。

【他故】朝降って、帰りにやんでても、その日のうちにアンコーラに行けさえすれば買えるの。

【きだて】なんだ、びしょびしょになりながらじゃないと買えないのかと思ってたよ。

【他故】いやいや、そんなハードモードではない(笑)。

【きだて】それぐらいの方が面白いんだけどな(笑)。

【他故】面白過ぎてダメだろ(苦笑)。

――雨が上がった瞬間にインクを引き上げるという(笑)。

【きだて】お店が傘立てを出すと同時にインクを並べるみたいな、そんなんだと思ってたよ。

【高畑】そうそう。

――傘を入れるビニール袋みたいに。

【高畑】水道局がやってる、雨が分かるアプリがあるじゃん。

【他故】東京アメッシュみたいなやつね。

【高畑】そう。東京アメッシュに色が付いてないとダメとかさ。

【他故】並べるのも行くのも大変だわ(笑)。

【高畑】他故さんは、「雨降ったから今日は行こう」みたいな感じで買いに行ったの?

【他故】その時は、朝降ってて、帰るときにはやんでたんだよ。で、帰りに時間があったので、寄ってみようと思ったんだよね。正直に言えば、雨が上がってたから、ないと思ってたの。もう引っ込めちゃったかと思ってたら、「ありますよ」と言われて。「その日のうちに銀座のどこかで雨が降ったというのを、我々店員が確認できれば大丈夫」ということだったのね。

【高畑】うん。

【他故】だから、「やったー、雨が降った。急いで買いにいかなきゃ」というのは結構大変だと思うけど、チャンスはめちゃめちゃ少ないわけではない。

――このインクは、しばらく販売してるんですか?

【他故】アンコーラのオリジナルということで、アンコーラだけで売っているという設定なので、アンコーラの中ではレギュラー品です。

――レギュラー品ですか。じゃあ、数に限りがあるわけじゃないんですね。(*編集部注:第1弾の販売はすでに終了し、第2弾を準備中とのことです)

【他故】数に限りがあるというよりも、もっと売りたいけど、雨が降らないという問題があるので(笑)。

――じゃあ、これからの時期はいいですね。

【他故】ええ、梅雨の時期は手に入れやすいよ、という話をしておかないと。

【きだて】今年は梅雨が短いらしいよ。

【他故】えっそうなの? じゃあ、これが載る頃にはあぶないかも。

【高畑】今は、限定品の限定の仕方が色々とあると思うんだけど、大概のものは似たようなかたちじゃん。ブルー系のインクもいくらでもあるし。手に入れるのも、結局は早い者勝ちだったりするんだけど、ここへきて「雨が降る」という要素を入れなきゃいけないところが面白いというか。もはや、あるとあらゆる色がインクで表現できるようになっちゃったことで、「どの色だからレア」というのは作りにくいじゃん。

【他故】うん。

【高畑】色そのもので差別化できないから、色に伴った名前だったり、ストーリーだったりといろんなのがあるけど、ここで販売形態が出てくるというのは。雨降らないと買えないみたいな、その辺のレア度の出し方が、新しい試みとしてアリかな。

【きだて】どこまで難易度を高くするか考えると、面白いよね。

【高畑】店員とジャンケンして、勝たないと買えないとかね。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】わざわざ買いに来たのに、ジャンケンに負けたから1回帰らないといけないとかさ。1日1回しかチャンスがないみたいな。

【きだて】そう考えると、雨が降ってるというのは、動かしようがない事実なので、親切なのかもしれないけどね。

【高畑】まあそうだよね。ジャンケンだったら、俺は一生買えないものね。

【きだて】俺ら買えないよね(笑)。

【高畑】だいたいジャンケン弱い組だからね(笑)。

【他故】ははは、だいたい弱い組(笑)。

【きだて】それにしても、改めて見ても好きな色だなこれ。爽やかさが無くて、ネガティブにじっとりしてて。

【他故】ああそう。じゃあ、雨が降ったらぜひ銀座へ(笑)。

【きだて】その手間がなー(苦笑)。

【高畑】でも、くすみ系のブルーグレーって、流行りは流行りだよね。いい色だよね。ちょっとマットな感じなんでしょ?

【他故】そう。マットな感じ。僕は気に入っております。

【きだて】なかなか面白そうなインクだね。ストーリー性もあるから、ちょっと気にはなるね。

【他故】これで梅雨を吹き飛ばして、雨を楽しむことができればいいなという話です。

【きだて】いやだから、こんなじめっとした色では吹き飛ばないって(笑)。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】これは、気分を吹き飛ばすんじゃなくて、それを受け入れるというかさ。それで、これで何かを書くみたいな。元気を出すというか、雨が降ってるなら、降ってるなりのテンションでいいんじゃないのっていう感じはするな。

【他故】まあね。それはそうだ。

【高畑】降ってるときに出かける用事がなければ、俺は雨は好きだよ。

【きだて】でも、みんなそうだよ。

【他故】大抵そうだよね。

【きだて】家の中に居られるならば、天気なんてどうだっていいんだよ。この際。

【高畑】いや、雨がザーザー降ってるときの「今日出なくていいや」っていう嬉しい気持ちがあるんだよ。屋根を発明した人類は偉いな、みたいな。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】家に居るときは、「屋根を発明した人類偉い」って思うんだけど、傘を持って家を出た途端に、「傘よりマシなものを発明できなかった人類はまだまだ全然ダメだ」って思う。

【きだて】ホントそれな。毎回思うよ。

【他故】分かる(笑)。

【高畑】もっとマシな道具を思い付いてほしいって思うんだよね。でも、素敵なインクだよね。これは、「雨降ったときに買えるんだ」って覚えておかないとさ。

【他故】そうね。

【高畑】「来週買いに行くぞ」って言っても、雨降らないかもしれないしさ。

【他故】それはそうだね。

【きだて】リマインダーアプリが天気と連動しないかな。

【他故】聞いたことないな(笑)。

【きだて】スマホのリマインダーって、位置情報とはリンクできるでしょ。「この場所に来たらこのリマインドをしろ」みたいなの。そこに条件付けを加えて「この場所にいるときに雨が降ってたら、リマインドして」とかできないかね。それなら買いやすい。

【他故】いや~。

【高畑】「きだてさん雨降ってますよ。今ならアンコーラで買えるよ」という話だよね。

【他故】その「今なら」が近くならいいけど、「今から銀座に行く」っていう話になるんだって(苦笑)。

【高畑】Googleカレンダーを見て、「今日、銀座へ行くんじゃない? ついでに寄ってくるといいよ」って。

――ふふふ(笑)。

【きだて】それぐらいじゃないと、本当に忘れちゃうからさ。これから梅雨時になるから、できるだけ憶えておくようにするよ。

【他故】可能性があればぜひ(笑)。

――雨が降るのが待ち遠しくなって、いいじゃないですか。

【きだて】ああ、なるほど。

【他故】ある意味ね。

*次回はきだてさんおすすめの「海のクレヨン」です。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」が好評放送中。ラジオで共演しているふじいなおみさんとのユニット「たこなお文具堂」の著書『文房具屋さん大賞PRESENTS こども文房具 2022』が発売中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


「ブング・ジャムの文具放談 特別編・完全収録版~『ブング・ジャム的Bun2大賞』ベスト文具を決定!~」〈前編・後編〉と「ブング・ジャムの文具放談・完全収録版~2020年Bun2大賞を斬る!~」〈前編・後編〉をコンテンツプラットフォームnoteで公開中。

【文具のとびら】が気に入ったらいいね!しよう