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【特別企画】ヒットメーカーが明かす開発秘話 第3回・スガイワールド

須貝悠(スガイワールド代表取締役社長)

規模は小さいながらも、アイデア勝負でヒット商品を生み出している、いわゆる“ひとり文具メーカー”が相次ぎ登場し、注目を集めるようになってきている。今回は特別企画として、そんな注目メーカーのトップにヒット商品の開発秘話を語ってもらった。

第3回目はスガイワールドです。

ひげのカタチをした愉快な付箋「ひげ付箋」から事業をスタート

企業ストーリー(企業概要)
弊社スガイワールドは、2011年に東京でスタートした、遊び心溢れる商品を企画、製造するメーカーである。ひげのカタチをした愉快な付箋「ひげ付箋」ひとつから事業がスタートした。オリジナル商品はすべて自社で企画デザインし、日本の町工場の協力を得ながら、できるだけ環境に配慮した素材で製造している。


起業ストーリー(起業するきっかけ)
会社員時代、ストレス解消目的で、満員電車の中で、生活が快適で幸せになるためのアイデアをノートに書き留めていた(今ではそのアイデアノートは20冊ある)。はじめは、それを人に見せるだけを楽しんでいた。すると色んな人から「そのアイデア面白いから作ってみたら」と言われた。

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そこで2011年、初の自社商品「ひげ付箋」を作った。4000個の在庫に唖然としたが、過去に培った営業力とちょっとしたひげブームのおかげで半年も経たず、完売。
その利益をもとに徐々に新商品を増やしていき、2013年、東京ギフトショーに初出展。

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大ヒット商品「クリップファミリー」が誕生したきっかけ
2014年、紙専門加工会社からファイバー紙を活かした商品開発の共同研究依頼があり、約1年かけて、商品開発を行った。ファイバー紙は、木よりも硬いため加工が難しく、最適な厚みと形を割り出すのに苦労した。

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2015年、水に5分入れると曲げて遊ぶことができる紙クリップ「クリップファミリー」が完成。大ヒット商品となり、その頃から海外からの引合いも増えた。現在累計20万セット以上売り上げた。

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ファイバー紙を使用した、ハグする動物型テープカッター「アニマルハグ」も展開

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本格的な海外展開のきっかけ
2016年、アメリカの展示会「NY NOW」を視察したことをきっかけに、本格的に海外販路開拓に取り組み、2017年、米国最大規模の展示会「NY NOW」に初出展。展示会期間中だけで40件のオーダーが入り大成功を収めた。

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現在世界19カ国のミュージアムショップ、ギフトショップ、書店などで取り扱われている。2018年には、文房具屋さん大賞クリップ賞第1位を受賞。


スガイワールド商品の顧客層、目的
オフィスではたらく女性が中心。可愛いくて、ユニークなものが好きな方や、人にプレゼントして喜んでもらいたい方、会社や日々の暮らしの中で、癒しになるような文具を求める方に向けて作っている。

日本で働く人たちは、小さなスペースで忙しく働いている。私たちの製品でより幸せで快適なオフィスワークをしていただきたいと考えている。そして、それが世界中の人に広まることを望んでいる。


自社商品の強み、特徴  
素材は日本製であり、さらに環境に配慮した素材であること、日本の高い技術によって作られていること、商品パッケージが和英併記であること、デザインやその使い方に新規性があることが世界的評価につながっている。


今後の社としての販路開拓の取り組み・展望
現在、特にアメリカ、アジアの取引先が増えているので、さらにヨーロッパの取引先が増えるよう、2020年1月にパリの展示会「メゾンエオブジェ」にも出展。現在、弊社の売り上げの約30%が海外輸出。

野菜や果物づくりのような商品づくり

スガイワールドの夢、ビジョン
私たちの製品を通じて世界中の人々と交流すること。それが世界平和の一助になると信じている。  


スガイワールドのものづくりの強み  
テレビのインタビューで、オランダのデザイナー、マルセル・ワンダース(Marcel Wanders)さんがとても面白いことを言っていた。 「日本のものづくりのルーツは神道があるように思う。日本のモノには、魂、性格、特徴があるように感じる。ある日本人デザイナーは、〝すべてのモノに命を注ぎたい〟と言っていた。日本の文化には、そんな特徴が組み込まれていて、身の回りにあるものすべてに生命があるように感じる」。

これは、外国人から日本のものづくりを見た、とても面白い視点だ。私は、神道の「モノには全て神が宿る」という教えがとても好きだ。神道は、日本に仏教が入る以前からある古代の宗教である。自然崇拝として、山、海、川、草木石までを崇拝する。農家生まれの私は、この教えに強く影響を受けた。このモノに対する敬う心があることによって、ものづくりに対して精神誠意、魂を注ぎ、出来上がったモノに対しては、自分の分身であるかのように感じている。  

日本のものづくりを作ってきたソニーの井深氏、ホンダの本田氏、京セラを立ち上げた稲盛氏も、自分たちのものづくりに日本の神道のルーツがあることによって、他国に負けない、素晴らしいものづくりに取り組むことができたのではないか。
古代から脈々と受け継がれてきた日本の神道の教え、精神こそ、日本のものづくりのルーツであり、強みだと思うと同時に、自分自身のものづくりもまた、そのルーツがあり、強みでもある。


野菜や果物づくりのような商品づくり  
最近つくづく「商品作りは、野菜や果物作りに似ているなあ」と思う。
私の実家は、お米にリンゴにさくらんぼ、ラ・フランスなど、山形の特産品を作っている昔ながらの農家だ。小さい頃から、ろくに手伝いはしなかったが、ずっとそのような特産品を作る親の背中を見てきた。
お米は、春に種まき、夏は毎日雑草取りや水の調整、秋は稲刈り。リンゴは、前の年に肥料をまき、春はのびすぎた枝を切り、夏は消毒、秋にやっと収穫である。そんなに手間をかけて育てたものも、食べてしまえば一瞬でなくなってしまう。

商品も似ていて、企画から発売まで短くても1年はかかる。長ければ3年以上かかってやっと日の目を見るものもある。しかも野菜や果物と同じように、完成した商品は、手塩にかけて作ってきた期間が人の目に見えることはない。

それでもお店やネット上で、スガイワールドの商品をたくさんの方が楽しんでいる様子が分かるととてもうれしい。そして今も、喜んでいただける方の笑顔を思い浮かべながら、新商品開発を進めている。一つの商品が完成するまでには、いつもたくさんの壁にぶち当たっていて、今も大きな壁にぶち当たっている。

農家の方が、食べる方の笑顔を思い浮かべながら、野菜や果物を手塩にかけ、愛情かけて作るように、スガイワールドも、使う方の笑顔を思い浮かべながら、商品を手塩にかけ、愛情かけて作る、これがスガイワールドの商品作りである。

アイデアとは枯れるものではなく無限に広がるもの

アイデアの出し方、企画の考え方
弊社は100%自社で商品企画をしているので、有難いことに時々、「よくアイデア思いつきますね!」、「いいアイデアですね!」と言っていただく。

私は、2007年頃からアイデアノートというものを描いている。今ではそのノートが20冊程あり、1冊当たりのアイデアが、1ページに約5案×40ページ=約200案ある。それが約20冊あるので、200案×20冊で約4000個以上のアイデアがある。
そのアイデアの中で、在庫の場所に困らず、輸送しやすい「A4サイズに収まる、厚さ1cm以内のアイデア」のみ商品化している。電車のアイデアや、家のアイデア、傘のアイデアなどもあるのだが、大きすぎるのでそれらは商品化しない。  

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開発風景

アイデアは決して特別な人が思いつくものではない。やり方を知り、練習すれば、誰でもたくさんのアイデアを思いつくことができる。「アイデア」について、あまり知られていないことがある。

・「アイデア」とは量である
・「アイデア」の段階で絶対「アイデア」の評価をしてはいけない、ということだ。  

「アイデア」というのは、子どもの意欲やマッチの火に似ている。摘もうとすれば簡単に摘むことができるし、消そうとすれば簡単に消すことができる。

よく「アイデアが出なくなったりしませんか?アイデアが枯れませんか?」と言う方がいる。“アイデアとはそもそも枯れるものではなく無限に広がるもの”だ。
それなのに、社会にはアイデアを頭ごなしに否定する人が多いために、心が枯れてしまい、アイデアも枯れてしまうのだ。心が枯れなければ、アイデアが枯れることはない。

子どもの意欲やマッチの火に善し悪しがないように、アイデアの本質に善し悪しはない。子どもの意欲やマッチの火が悪いものになってしまうのは、扱い方が悪い大人のせいだ。

よいアイデアが出せないと思っている人は、すぐに最高のアイデアを出そうとしてしまう。アイデアと算盤(売れるか、作れるか)を付き合わせてはいけない。算盤は実行するときに使うものだ。  
大切なのは、アイデアに対してすぐに善し悪しを決めず、実現可能かどうかも決めず、可能な限り広く、大きく、みんなと楽しく、たくさん出すことだ。  


メーカーとして大切にしていること  
事業計画書や商品の企画書において、ターゲットを決めることは大切だ。なぜ、ターゲットを決めることが大切なのか。
ターゲットとは、英語で“的”という意味だ。“的”とは、“消費者の心”である。“商品”とは、“消費者の心”という的を打抜く“矢”である。“的”が明確でないと、打った“矢”は、どこにも刺さらない。
商品とは“プレゼント”である。“プレゼント”をあげる人は、相手の顔を思い浮かべ、その人がどのような人で、どのような好みで、どのようなことに喜びを感じるのかをイメージし、“プレゼント”を考える。誰にでもいい“プレゼント”(商品)は、誰の心にも届かない、誰もいらない“プレゼント”(商品)になってしまう。


今後の文具業界について
脱炭素社会、脱プラスチック、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みは必然になってくる。海外の展示会に出展すると、「プラスチックが入っている製品はいらない」というバイヤーがたくさんいる。環境に配慮しなくては、選んではもらえない時代になっている。
文具といえばプラスチック製が多いが、リサイクルされた、またはリサイクル可能な素材や、生分解性の素材を使っていたり、二酸化炭素を排出しない工場で製造するなどの取り組みが必然になってくる。

ターゲットを決めることは大切だと書いたが、性別や好み、年齢層で分けたターゲットに向けてではなく、これからは、完全に一個人のために開発された文具が求められる。2021年文房具屋さん大賞を受賞した呉竹の、インクをカスタマイズして自分色で使える透明軸ペン「からっぽぺん」は、その要望に答えた素晴らしい製品である。
このように、その人のための色や厚み、書き心地になったノートや、その人のための色や形、硬さの消しゴムなど、完全にカスタムメードできる文具がこれから求められる。

新聞がネット上でその人好みの構成になり、動画がテレビから配信サービスになったように、完全に一個人の要望に応える時代がやってきた。文具業界が今後、そのようなさまざまな要望に臨機応変に応えることができるような、ワクワクする未来を期待している。

会社沿革・著者プロフィール

株式会社スガイワールド
2011年 9月: デザインギフトの企画、製造、卸売業SUGAI WORLDを創業
2014年5月:株式会社スガイワールドに組織変更
2017年8月:「NY NOW」(米国)初出展
2020年1月:「 Maison & Objet」(フランス)初出展

https://www.sugai-world.com

須貝悠
株式会社スガイワールド代表取締役社長
1980年山形県生まれ。2004年多摩美術大学情報デザイン学科卒業。デザイン会社、メーカーの商品部を経て、2011年スガイワールドの活動をスタート。「世界にもっと夢と想像力を!」をミッションに商品の企画デザインを行っている。2018年文房具屋さん大賞クリップ賞受賞。東京都起業家教育推進事業講師。著書『スガイワールドのつくりかた』。

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