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【特別寄稿】アナログ文具の魅力

小日向京

「アナログ文具」という言葉は、文具の用途に取って代わるデジタルツールが私たちの生活に浸透することによって生まれた。提出書類の作成はもちろん、今やスケジュール管理から友人との対話のやりとりまで、デジタルツールを使うことが主流となっている。しかし、そのことからあらためて文具の良さに気づかされる場面は多く、相変わらず文具でなければできないことがあったり、また、これは文具を使った方が効率的なのではと思うことがあったりもする。そんなアナログ文具の魅力を、筆者が日常好んで使う文具をまじえつつ記していきたい。

アナログ文具の良さは「情報が立体になること」

文具で作業する時のような「視覚と触覚を主に使う」行ないにおいて、立体感は重要な助けとなる。手にして狙ったところへ確実に作用させるために、立体物である文具は迅速に扱いやすい。例えば電話がかかってきた時の急なメモなど、そこに文具があれば手さぐりでもすぐに行き当たって記述に移れ、そのありがたみを痛感する。

そして立体感が生きるのは、作業したあとにも通じることだ。電話メモならテープで目につくところに貼っておけば忘れない。はじめから付箋に書いておけば、そのままペタッと貼るだけでいい。筆者は翌日に行なうべきことなどの付箋メモは、電源を落としたあとのパソコンディスプレイの上ヘ貼るようにしている。仕事はじめにディスプレイにあるから、嫌でも思い出すだろうという考えだ。

付箋で常に使い続けているものは、「ポスト・イット ノート 75×75ミリ/スリム見出し(ミニ)」(スリーエム ジャパン)である。

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75ミリ正方形の付箋は、デスクまわりだけでなく書類やファイルの中でも目立ち、ひとまとまりのメッセージを書くのにも十分なスペースがある。細い短冊状の付箋が欲しいなと思った時には、これをハサミで切って使う。大で小を兼ねさせるというわけだ。

時には机に貼って、飲み物を置くコースターにすることもある。はがして捨てる前には、幅広の粘着力を使って身の回りのちょっとした埃を取る……といった風に、このサイズは何かと役に立つ。

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もうひとつの付箋は、見出し用に便利な幅7ミリ×長さ25ミリの小さなもの。本や雑誌の気になるページに目印をつけておくために使う。この付箋はパッケージに10個入りで、それぞれに100枚あり、心おきなく目印をつけられ、貼った付箋がかさばらないのが良い。記述エリアを避けて貼っても、紙から飛び出る部分を短かく抑えられる。ペンケースの空きスペースに入れられて、いつでも目印をつける態勢は万全。

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こうして情報を目立たせ立体化させることは大変有益であるが、書類をはじめ自分の覚え書きや手帳の記録まで、紙面を立体化させることもあとあと役に立ち、文具の力を実感できる。

手書きで何かを記す時、例えばダンボール箱の外側へ中身の概要を表書きする時に、「洋服」などと大枠を示すものは大きく書き、その脇に「コート」「ジャケット」と小さく詳細を書き添えることがある。時には「冬物」とわかりやすいところヘ書いて、ぐるぐると丸や四角で文字を囲む。そうしたことが記述の立体化の根本であり、日常の書きものに生かすことで「書いたあとの確認や閲覧」が格段に効率的となる。

そんな記述の立体化のために手軽に使えるのが、こすると消える蛍光ペン「フリクションライト」、こすると消えるスタンプ「フリクションスタンプ」(パイロットコーポレーション)の2アイテムだ。

2.jpgどちらもフリクションインキなので、目印が不要になったら付属ラバーで消せば良い。「ここに目印をつけておきたいけれど、インクをつけるのは憚られるかも知れないな」と躊躇する場面でも、あとから消せるフリクションならその心配が要らない。自分の都合に集中し、マーキングして記述を立体化できる。

筆者はイエローとグリーンの蛍光ペンを使うことが主だが、他にもピンク、オレンジ、ブルー、バイオレットと使途や好みに応じて選べ、また淡色パステル調の「ソフトカラー」、蛍光色ではなく目に優しい「ナチュラルカラー」も用意されている。

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スタンプも手早く目印をつけられて便利だ。色・絵柄ともに各種あって、箇条書きの行頭はもちろん、文中の脇に捺しても効果的なアクセントとなる。

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アナログ文具で「気分を上げる」

他のもので十分代用できるのに、これがないと気分が盛り上がってこない――誰しもそういうものがあるのではないだろうか。ぽってりと厚くて口あたりの優しいマグカップ、やわらかい感触が手放せない毛布、荷造りがいつもうまくいくアルミニウムのスーツケース。そんな「自分との相性の良さ」から愛着を抱く文具もまたあるものだ。

製品である以上は何らかの機能性に優れ、人々から必要とされ続けているわけだが、それだけではない何かがあって、自分が気に入っていることさえ機能となり得る。その「何か」を、筆者の例で挙げてみよう。

「事務用海綿 メク-10」(コクヨ)は、海綿を水で湿らせて指につけ、ページをめくりやすくしたり、切手の裏面に水分をのばしたりするためのものである。この類の製品にはスチロール容器にスポンジがセットされた現代的なものもあるが、それらよりこのガラス容器に海綿が収まった旧タイプが圧倒的に心躍らされる。

3.jpg平たく六角形をしたガラスの透明感、そこに透けて見えるやわらかなクリームイエロー色をした海綿、そしてガラスの口からはみ出た丸みのある海綿の細かな凹凸。どれをとっても絵になり、眺めていて飽きることがなく、わざわざ用事を作ってでも使いたくなる。これのおかげで切手を貼りたくなり、手紙を書く習慣がつく。容器から海綿を取り出せば、封筒の糊付け部分に水をのばす作業もやりやすい。

海綿には補充用もあって、容器サイズに合ったものが用意されている。海綿は、海底に生息する無脊椎動物を乾燥させた天然素材のため、その形の個体差も魅力にあふれている。不揃いな形がまた、ガラス容器への収まりようの愛らしさを際立たせてくれるのだ。

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このかわいらしいミニカーは、「ミドリ ゴミをはきとるミニクリーナー」(デザインフィル)。れっきとした掃除文具である。中に小さなホウキが2本内蔵されており、ミニカーを手で走らせると車輪の回転に合わせてホウキが動き、消しかすや紙くずなど細かいゴミをはきとってくれる。売場で見た時には「かわいい~」と遊び感覚で買ったものだったが、使ってみてあまりの便利さに驚いてしまった。そして楽しい。このホウキがせっせとゴミをはきとる姿に、そこはかとなく心励まされるのだ。ひとつずつ着実に進めていけば、仕事もきっとうまくいくよ、とこのミニクリーナーは教えてくれる。

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自分がそれを好きだなと思う「何か」は、それまでに体験した感動や幸せに起因する心のスイッチを意味している。それは自分の「落としどころ」でもあり、うまく活用することで作業の効率化もはかれると言える。そんな文具を見つけたらどんどん取り入れ、がっつり気分を上げて仕事に挑もう。

アナログ文具で「気持ちを伝える」

宅配便で届いた荷物を開けると、手書きのメッセージが入っていた――そんな時、紙片の一言に嬉しくなる。時にはデスクに置かれた乱雑な走り書きの伝言に、「うわあ、これは相当怒っているな」と察することもある。手書きの文章は、メールではうかがい知れない人の感情や情況までをも伝えてくれる。

メールやLINEで人とコミュニケーションをとる機会が増えた今だからこそ、アナログ文具を使ってこの気持ちを伝えたい。そのために最も気軽に始められるのが、葉書の便りである。

葉書は、郵便局の郵便はがきでも十分いい。すでに切手はついているわけだし、ノートや手帳に挟んでおくだけで、空き時間を見つけて気楽に書き進めることができる。思えば同じ切手代で、紙までついてくるのだから郵便はがきはとてもお得である。無地ではどうも華がない……と感じるようなら、色鉛筆を用意して定規を当て、四辺に線を引いてみよう。色鉛筆の色は、季節に合ったものにする。太芯の色鉛筆やクレヨンなら、定規を使わずフリーハンドで線を引いても味わい深い。それだけでもぐっと文章が引き立つものだ。

また、さりげなく素敵な葉書に便りを綴りたいと思えば、「鳩居堂 シルク刷はがき」が安定の定番絵葉書であろう。

5.jpg春夏秋冬、季節に合った花や樹木、風景がキリッとしたシルクスクリーン印刷で描かれている。そのイラストの作風は徹底してニュートラル。キュートに寄りすぎず、和風に偏ってもいない。よって老若男女、誰が誰にたいして使っても、清々しくまとまった仕上がりになる。

とても素敵なので、年中自分用にも買っている。葉書サイズのクリアファイルヘ絵柄別に入れておけば、めくりながら選びやすい。特に全面印刷のタイプは、額に入れると部屋に飾る絵としても立派に成立する。

相手のイメージと季節に合う絵柄を選び、季節の話題や近況、労いや感謝の言葉を綴れば、絵柄に気分ものって片面だけでは足りないくらいである。そんな葉書の便りは、相手を笑顔にしてくれることだろう。

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そして便りといえば、筆記具である。さあ書こうとなって、はたと「どのペンで書いたら良いのか?」と立ち止まる時がある。せっかくその気になったのだから、直ちに決めて次へ進もう。やはり万年筆が一番なのではないか。

万年筆の筆跡の良さは、紙にインクがしみ込むところにある。とはいえ紙にしみ込むインクは他の筆記具でもあるのだから、それらと区別するために言うならば、「じっくりしみ込んでゆっくり乾き、紙の繊維を染めるようにして定着する」のが良さである。書き綴られた言葉は紙と一体化するように声色を奏で、その便りを手にした人の心に響くに違いない。

万年筆は世にあまたあるが、いつでもサッと使えて扱いやすい「MD万年筆 中字」(デザインフィル)は、葉書に手紙にと気軽に使えながらも、印象的な描線を残してくれる。

6.jpgカートリッジ式で、専用インクの色はブラックとブルーブラック。鳥のくちばしのようにカーブしたペン先は、狙った線を書きやすく、文字の形を決めやすい。MDペーパーに最適な万年筆として作られ、万年筆に初めて親しむ人にも、多くを使い込んだ人にも、「書くことが楽しくなる」と評判を得ている。

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アナログ文具の魅力を「情報が立体になる」「気分を上げる」「気持ちを伝える」という点から綴ってみた。まだまだたくさんの魅力にあふれており、私たちはこれからもずっと、文具を携えながら目的に向かって生きていくことに違いはない。

プロフィール

小日向 京(こひなた きょう)

文具ライター。1968年東京都生まれ。文具雑誌『趣味の文具箱』を中心に、手書き文字や文具アイテムの記事を書いている。文具イベント出演やアドバイザーとしても活動中。著書に『考える鉛筆』(アスペクト)、『惚れぼれ文具 使ってハマったペンとノート』(枻出版社)がある。

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