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文具王の個人的な観察に基づく「フリクションポイントノック04」の解説

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高畑正幸

パイロットコーポレーションからフリクションに全く新しい製品「フリクションポイントノック04」が発売されるとのことで、早速取材とサンプル等をお借りしにパイロットコーポレーション本社を訪問し、概要を伺ってきたが、今回は、同社の意向で、編集長の文具王に自由にレビューして欲しいとの依頼を頂いたので、有り難く執筆させて頂くこととなった。そのため、ここから先のレビューに関しては、一部を除き、ほぼ文具王の個人的な観察に基づく解説となっている。また、本記事に掲載されている図解や表なども文具王が作成したものなので、メーカーの意図や実際の構造等との間に違いがないとは言い切れない点についてはご了承頂きたい。

極細なのに滑らかな書き味


まず書いてみて驚くのは極細でありながら滑らかで濃くハッキリとした筆跡。これまでのフリクションもかなり使ってきたが、明らかに何かが違う。ボール径だけを見ればフリクションスリムやフリクション3等に採用された0.38mmが既にあるが、それらに比べて明らかに書き心地が良い。

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カサカサした感じが全くなく、インクの流れ出す余裕のある滑らかさで、書いた線の色も鮮やかに見える。定規を当てて線を引くなどの素早い動きでも、かすれたり薄くなったりすることがほとんどなく、特にフリクション3や4で0.38mmを手帳などに常用してきた私にとって、この書き味の変化は歴然で、ちょっとした驚きと感動がある。(ただし、0.38と比較すると、もともとのボール径が大きいだけでなく、インクが潤沢に流れることから、筆記線幅も若干太くなる。)

書き味の秘密はシナジーチップ


ではこの書き味の違いは何か、それがこの製品の最大のポイント、フリクションに初めて採用されたシナジーチップというペン先だ。

一般的にボールペンのペン先は、コーン型とパイプ型(ニードル型)にわけられる。コーン型は円錐状のチップで、一般的なボールペンの多くが採用している方式だ。これに対して、パイプ型は、文字通り細長いパイプ状のペン先にボールがはめ込まれているもの。

これに対して、フリクションポイントノック04に採用されたシナジーチップは、先端はパイプチップのような形状だが、根本部分はコーン型のように広がった形状。両者のいいとこを併せ持つということでシナジーチップということだが、もともと製法が全く異なるパイプとコーン。単純に足し合わせることはできない。そこでこのチップの製法については少しヒントを頂いた。そこで出てきたポイントが「絞り成形」。これがこのシナジーチップの性能を創り出しているのだ。

普通コーン型は、ペンチップの太さの棒状の金属の塊を削ったり穴を空けたりして円錐状に整える。内部にはインクを通すための穴と、先端にはボールを受ける凹みが形成されて、そこにボールをのせてカシメることで、完成する。この方式の良いところは丈夫で筆圧に強い所だが、ボールを面で受けてしまうので、摩擦抵抗が大きくなりやすいのが欠点だ。

パイプ型は、ボールがちょうど入るぐらいの筒の先端付近に側面から3〜4カ所えくぼ状の凹みをつけることで筒内にボールを支える突起をつくり、ボールを入れてかしめる。この方式は、極端に小さなボール径でも加工しやすく、ボールを後ろから支える部分がボールに点で接触するため、摩擦抵抗を小さくすることができる。その反面、パイプが細いので、強い筆圧をかけると変形したり、ボールの後ろの通路が細長いため、インクの追従性がわるく、また、乾燥しやすい弱点がある。このため極細のノック式はつくれないという。

ではシナジー型はどうするのか、実は削り出しでもパイプでもない。板状の材料を押し込んで作る深絞り成形で作られる。板の中央を押し込んで円錐状に加工し、先端部分を飛び出させて穴を空けたところにパイプ型と同様の加工でボールをはめる。重要なのはその後ろにある大空間だ。ここにインクがたっぷり控えているので、インクの流れが良く、粒子の大きいフリクションインキにも充分対応できる。パイプチップ同様にボールの摩擦抵抗は抑えつつ、インクの追従性も確保でき、乾きにも強いため「極細×特殊顔料インキ×ノック式」という困難な条件をクリアしつつ書き味にも優れるという、まさにイイトコドリのペンチップなのだ。

インク色は全部で8色。フリクションボールシリーズとしては既存の色だが、普段自分があまり使わない色を久しぶりに使うと、こんなに鮮やかだったっけ、と思ったりするのは、先入観の問題だけでなく、今回のチップの性能と、インクそのものも徐々に品質が向上しているのではないかと思う。フリクションボール発売当初から青や赤は比較的発色が良かったが、特に黒については、発売当初の薄さへの批判が多かっただけに、このチップとの組み合わせで描かれる濃い線を見ると、ずいぶん良くなったなと思う。他の色についてもこの細く鮮やかな線は、イラストなどにも充分な華やかさがあり小さく書いた文字がぐっと読みやすく感じられる。

ゲルインキボールペンの中での位置づけ


このシナジーチップが最初に搭載されたのは、2016年に発売され、極細なのに滑らかな書き味でファンを唸らせたジュースアップ。ジュースアップは、極細にもかかわらず顔料ならではのクッキリした線が特徴で、濃く不透明度の高いパステル系カラーや、メタリックのインクなども展開している。おそらく現在発売されている不透明やメタリックのボールペンの中では最も細い。

今回のフリクションポイントノック04の登場の背景にジュースアップがあることは、ペン先から見ても明らかだ。つまり、通常のゲルインキボールペン用に開発したペン先の新技術が十分にこなれたところで、難易度の高いフリクションインキに対応する、というのが流れだろう。フリクションインキに含まれる顔料は、温度に反応するマイクロカプセルで、これは他のパステルカラーやメタリックなど特殊顔料と比べても粒子が大きく、扱いが難しいのは想像に難くない。ペン先とインク、それぞれの技術を互いに組み合わせて製品の幅を広げているのがよくわかる。

つまり、最も一般的なコーン型チップのボールペンに消せるフリクションインキを入れたものが初代フリクション。次に極細ボールペンの技術を世に知らしめたハイテックCのパイプチップを使って極細化したのがフリクションポイント04。でもこれはドライアップを防げずノック式にはできなかった。そこに登場した、極細顔料系ゲルインキでかつノックで、しかも滑らな筆記感を実現したシナジーチップのジュースアップを応用したのが今度のフリクションポイントノック04。それぞれの技術の対応関係をみるとわかりやすい。

外観にもこだわり


フリクションポイントノック04は、フリクションボールノックと外観上はとてもよく似ているが、手に取ってみると、細部まで丁寧に洗練された精悍な印象。先端の円錐部とクリップには金属パーツを採用し、高級感のある仕上がりだ。胴軸のメタリックな転写印刷は、これまでのマットな処理から、一転してツヤのある仕上がりに。今作はこれまでとは違うという自信が窺える。

またよく見るとフリクションボールノックの軸径が11mmあるのに対し、ポイントノックは10.5mm。たった0.5mmの違いだが筆記具の印象としてはかなり効いてくる。先端とクリップの金属パーツと相まって、明らかにシャープに見える。グリップにあった小さなドット状の刻印も廃し、円錐部の後から尾部までほぼ完全にストレートな形状になった。消字用のラバーも、ボール径にあわせて若干細く硬めになっていて、手帳などの細かい文字も狙って消しやすくなっている。

先端の銀色の金属の削り出しから、鈍い透明感のある色のエラストマー→艶のあるメタリックカラーの転写印刷→クリアな色透明樹脂、そしてまた鈍い透明感のあるラバーへと、同系色でありながら、質感の異なる表面がリズミカルに層を成しているのが目に楽しい。

もちろん、金属部品の採用は見た目だけではない。先端部分が削り出しの金属製になり、フリクションボールノックと比べると、重心位置が1cmほど前寄りになったことで、グリップに添えた指に重みが乗り、ペン先のコントロール感が良くなった。

クリップは、金属の薄板を曲げて作ったもので、直線的な鋭さを強調しているが、単なる箱型ではなく、緩やかな膨らみと反りが組み合わさった複雑な形状。後端面は樹脂部が露出していて、金属の縁がノックする親指に直接触れないように注意深く処理されている。このクリップの構造的にユニークなポイントは、クリップがスライドしなくてはならないので、本体に強く押しつけて挟むことができないので、クリップの先端部分は見かけ上の外形とは別に、内側に飛び出したツメがあり、胴軸にはそのツメが入り込む溝が掘ってある。このおかげでポケットなどに挿したときにも滑り落ちにくくなっている。

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フリクションボールの中での位置づけ


と、説明してきたが、とにかくフリクションシリーズもずいぶん品種が増えた。メインであるボールペンだけでももはや多すぎて、どれがなんだかわからなくなっている人も多いと思う。ということで、私なりに整理してみた。
フリクションボール発売時の最初のモデルが左上のフリクションボール。キャップ式でボール径は0.7。これでも綺麗に消せるというだけですごいが、ここから、順次、ノック化と極細化、そして多色化を進めて今のラインアップができている。

発売年を見ると技術の向上に伴って順番に空いたマスを埋めていく様子がよくわかる。そして、全てのラインに、高級版の「ビズ」が存在している。こうしてみると、煩雑に品種が増えているように見えるフリクションも、実は理路整然と充実してきたのがよくわかる。ネーミングもほとんど動植物の学名のような感じで、特徴を繋ぎ合わせてできているので長いがわかりにくくはない。

ここから考えれば、次はやはりフリクションポイントノックビズが欲しくなる。これは現状のフリクションノックビズのボディにフリクションポイントノック04のリフィルを入れてもそれらしいものにはなる。しかしやはりペン先の違いで書き心地が大きく異なるので、バランスを考えればここはボディにも新作を期待したい。そしていよいよ次は多色化だろう。気が早すぎるかも知れないが、待ち遠しい。

フリクションも書き味を楽しめる時代が来た

あれこれと小難しい解説をしてはみたものの、今回お伝えしたいのは、なによりもその書き味と筆記した線の向上だ。これまで綺麗に消せるという圧倒的なアドバンテージがある特殊なペンとして、他のボールペンと書き心地や色については正面から比較しても仕方がないと思ってきたフリクションが、長年をかけて徐々に濃く鮮やかに改良され続けているインクに、全く新しいペン先の技術が加わることによって、ついに書き心地についても語れる製品へと完成度を高めた逸品だと思う。

ともかく、まずは一度手に取って書いてみて欲しい。フリクションを使ったことのある方なら、私の興奮がきっと共有できると思う。

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