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【特別鼎談】お気に入りボールペンを選ぶ「第8回OKB48選抜総選挙」を語る

「OKB48選抜総選挙」は、メーカーの枠を超えて選抜された48本のボールペンの中から、お気に入りのボールペンを選んで投票する選挙型エンタティンメント。毎回、実際にボールペンの試し書きができる「握手会」を全国各地の文具店などで実施しており、その場で投票を行う。また、公式サイトからの投票も可能で、これらの票を集計して順位を決定している。

8回目となる今回も、本サイト編集長の文具王・高畑正幸氏を個人スポンサーに迎え「文具王杯」として開催。2018年10月1日~12月31日までの3カ月にわたり投票を受け付けた。

総投票数2243票(握手会1186票、Web1057票)の中から1位に輝いたのは、これで8連覇となる「ジェットストリーム(スタンダード)」。2位は、前回と同じく「サラサクリップ」という結果となった(第8回OKB48選抜総選挙結果はこちら)。

OKB48総合プロデューサーの古川耕さんと、劇場総支配人の岩崎多(まさる)さん、そして高畑編集長の3氏に、平成最後のOKB48の結果について、講評などを語ってもらった。(上写真は左から古川さん、高畑編集長、岩崎さん)

【OKB48公式サイト】
http://www.okb48.net/

ジェットストリームVSゲルインク!?

――「第8回OKB48 選抜総選挙」の結果が発表されたわけですが、今回の総括をみなさんにお伺いしたいと思います。総合プロデューサーの古川さんから見て、今回の結果はいかがですか?

【古川】特徴としては、今回は握手会(*実際にボールペンの試し書きをして投票するイベント)の票が伸びたんですよね。前回は、対照的にWeb投票の方が多くて、握手会票が少なかったんですが、今回は握手会票がWeb投票を上回っている。それが、順位を見ていくときの補助線として面白いところで、それによって結果が変わっているのか、あるいは変わっていないのかを見ていくと楽しいです。上位トップ10を見る限り、極端に大きな変化は例によってないんですよ。ざっくりとした視点から見たら、「毎年同じだよね」なんですけど、もうちょっと解像度を上げて見ていくと、やっぱりそれなりに面白いところがあるわけです。

【高畑】ふむ。

【古川】まず大きいのは、今まで「ジェットストリーム」と「ジェットストリームプライム」がずっとワン・ツーフィニッシュできていたのですが、プライムの方は「ジェットストリーム プライム 回転繰り出し式シングル」に入れ替わって4位に下がり、今は「サラサクリップ」が2位になっている。実は「ジェットストリーム」1強ではなくて、「ジェットストリーム&サラサクリップ+エナージェルの3強時代なんじゃないか」という話を昨年しているんですが、それが図らずも、よりはっきりと裏付けられた結果かなという気はしています。

【高畑】「サラサクリップ」は、若年層の支持が強いというのがやっぱりあるので、今後ゆるやかに期待できるのでは。我々にとってはボールペンは油性というイメージがあって、仕事で使ったり、何か伝票を書くときは油性を使うというのがベースにあると思うんですけど、ずっとゲルインクに触れて大人になると、使うボールペンとしてゲルインクが真ん中にあってもおかしくない。そうなっていきつつあるというのを考えると、比率として「サラサクリップ」が上がってくるのは、今後も含めてアリなのかなと思いますね。

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今後も期待大のサラサクリップ

――岩崎さんはゲルインクボールペンは使いますか?

【岩崎】OKBを始めるまでは、油性とかゲルインクとかもほとんど考えたことがないです。「ジェットストリーム」を使ってみて、そればっかりになっちゃったというのはありますけど、ゲルや水性が嫌いということはないです。

――岩崎さんの発言は、おそらく大多数の一般ユーザーと同じなのかなと思います。「ジェットストリーム」が出てくるまでは、その辺りを意識して書いていた人は少なかったのではないでしょうか。

【岩崎】「ジェットストリーム」を使ってみて、初めて書き味が違うということが分かりましたので。ネチッとしているとか、そういう細かな違いも分からなかったですから。

【高畑】そういう細かいところも発見させたのが、「ジェットストリーム」のすごいところではあるし、だからずっと1位にいるのかもしれないなとは思いますね。

【古川】「ジェットストリーム」は、握手会の票が1,400もあって圧倒的なんですよね。

【高畑】Webだと、たまたま名前を知っているとかで、新人よりも古株の方が強かったりしますが、握手会でも圧倒的に強いというのは、2位の「サラサクリップ」に対してダブルスコアなので、それを考えると今だに圧倒的に人気なんですね。

【岩崎】Webだとそれほど差がないんですよ。握手会で差が付いているんですよね。

【古川】この分布に関しては、極端ですよね。

【高畑】もしかしたら、その辺に何かあるのかもしれないですね。

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今もなお圧倒的人気のジェットストリーム

――握手会とWeb投票だと、傾向に違いがあるんですか?

【古川】ありますね。ただ、握手会も厳密には2タイプに分かれていて、店頭に置いてあってそこで投票する場合は、これは想像ですが、48本しっかり試し書きをして投票する人は少ないと思うんですよ。真剣にやると1時間以上かかるので。恐らく、自分が使ったことのあるペンだとか、使ってみたかったペンとかを何本か試し書きしてみて投票する。あるいは、「何か面白いのをやってるな」という人が、サラサラッと何本か書いて投票していくのではないでしょうか。そしてもう一方はイベントとして開催している握手会です。そこに来る人はガチ勢が多いので、じっくり書いてから投票しています。ということで、握手会も厳密には2タイプあるのですが、とはいえ実際に書いてみたインパクトが大きく影響するので、それによって票が伸びたものが多いことが分かってるんですね。

【高畑】それで順位が変わったものもありますしね。

【古川】6位に入ったオートの「セルサス」は、握手会がなかったら、ここまで順位は伸びなかったでしょう。

【高畑】そうですね。

――前回までは「リバティ」でしたね。

【古川】「セルサス」は「リバティ」のリニューアル版になります。それで、握手会が654票ですね。それに対してWeb投票が156票ですから。

【高畑】「セルサス」は、前モデルの「リバティ」もそうなんだけど、いい順位にあがってきていて。これって、知っている人が少ないと思うんですよ。握手会に来る大半の人は、「セルサス」という存在そのものを知らなかったと思うんですよ。それで「何これ」と思って触ってみたら、「意外といい」みたいな上がり方なので、ポテンシャルは高いですよね。

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セルサス


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ZOOM 505

【岩崎】「リバティ」の頃から、握手会は強かったですから。

【古川】その流れで、握手会で発見されたペンというと、「ZOOM 505」(水性ボールペン)もそうですし、11位の「筆ボール」もそうですよね。この辺は、書いたときのインパクトが、ものすごく大きいので。

――特に「筆ボール」はそうでしょうね

【古川】僕も今だに書くとビックリしますからね。

【高畑】これは、単純に普段使いしたいかということとは、また別の人気ですからね。

【古川】そうですね。インパクトがあるものが握手会で伸びる傾向があって、それは文具王が言ったように、実力をストレートに現わしていないかもしれないけど、ポテンシャルを気付かせてくれる側面はあるわけですよ。今回、改めて見ていて思ったのは、「アクロボール」のことですね。8位というのは、これまでの最上位じゃないかな。

【岩崎】ああ、最上位ですね。今まではずっと2ケタ順位ですね。

【古川】最高位が10位ですね。

――しかも、第1回のときが10位だったんですね。

【高畑】全体的な傾向としては、じりじりと下がるものと、ドーンと上がるものについては、割と分かりやすいんですよ。登場して間もないペンがガンガン上がってくるというのは、認知の上がり方と実力が伴っているということで、例えば「ジュースアップ」は、登場してから、10位→6位→5位と上がっていて、急上昇しているじゃないですか。これに関しては、認知度が上がりつつ、実力もあるということじゃないですか。ジリジリ下がっていくタイプは、他のライバルが出てきて、それに押されて順位が一つずつ下がっていく感じで、実力は変わってないんだけど、新人に押されてはゆるやかに下がっていく。じわじわ上がっていくタイプは珍しくて、それは出てきて時間が経っているのにも関わらず、認知度が上がってきているのは、傾向としてなかなか面白い。

【古川】おそらく「アクロボール」に関しては、Web投票が307票というのは、これは今までの実力とされてきたぶんだと思うんですよ。ただ、握手会の333票というのが、今回の上積み票じゃないかと思います。つまり、いいペンだし、いいインクなんですよね。ただ、なかなか個性が伝わりにくいペンであることは間違いなくて、ついつい「ジェットストリーム」の陰に隠れちゃう。僕の理解だと、分布図では「ジェットストリーム寄りだけど、やや従来の油性に近い」辺りに置かれるペンだと思っているので、その良さがなかなか伝わりにくいペンだと思います。でも、握手会で試し書きされると「ああ、いいね」となって伸びて、それが最高順位になった理由かなという気はしてます。これは喜ばしいことだと思ってます。

――これは、「アクロボール」を知らない人が、実際に書いてみて票を入れたのか、そもそも「アクロボール」自体の認知度が高くなってきているんでしょうか。

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初めて1ケタ順位(8位)になったアクロボール

【古川】どう思います?

【高畑】「ジェットストリーム」みたいに認知度の高いペンではないので、知っている人はいると思いますけど、そこまでではないと思うんですよ。だから、書いてみて「案外いいね」という感じだと思うんですよ。

【岩崎】ボールペンは5つまで選べるので、その中に入ってきているんですよ。

【古川】認知度自体もジワジワ上がってきているんでしょうけどね。

――いろんなシリーズを出してきていますからね。ハイエンドモデルの「アクロドライブ」もありますし。

【古川】「アクロ300」もありますし。

――「アクロ300」はエントリーしていたんでしたっけ?

【古川】してました。今回は割と、300円路線のボールペンを多くしたのが、今回の選考のコンセプトだったんですけど。「アクロ300」はそこまで伸びなかったですね。僕、すっごい好きなペンですけど。

【高畑】でも、「アクロ300」も握手会では、262票いってるので。Webで知られてない感があるけど、実力はそんなに低いわけではない。

――「アクロ300」に投票したつもりで、「アクロボール」の方に投票したとか(笑)。

【岩崎】それはあるかもしれないですけどね。

【古川】あと、出た当初から言ってますが、「ジュースアップ」は本当に強いんだなと思います。ついに5位に来ちゃったので。「エナージェル」を食いかねないとしたら、「ジュースアップ」だと思いますね。

――上位5つをみると、「ジェットストリーム」系以外は、みんなゲルなんですね。

【古川】そうなんですよ。だから、この辺の勢力図は大分はっきりしてきましたね。

――ジェットVSゲルみたいな(笑)。

【高畑】本当にそうかもしれませんね。油性でジェットが勝っている部分で、それ以外の油性が強いかというと、まあゲルインクの方が強いので。

――ベスト10をみてもそうですよね。ジェットとアクロ以外はゲルか水性ですから。

【古川】油性は、ジェットストリームが出たときの性能のジャンプアップが大き過ぎて、それ以降なかなかインク自体に新しいのがなくて。

【高畑】それは逆に言って、ゲルの方は好みにバラツキがあるということですよね。

【古川】そうですね。おっしゃる通りです。ゲルの中でもさらに「サラサクリップ」に分かれ、「エナージェル」に分かれ、「ジュースアップ」に分かれ、という細かい分岐がある。

【高畑】低粘度油性の個性は、「ジェットストリーム」が代表しちゃってるので、低粘度油性が好きな人は「ジェットストリーム」に投票しちゃってる。

【古川】「ジェットストリーム」一択。

【高畑】「ジェットストリーム」の強さの一つには、1位じゃなくても必ず票が入っているという票の取り方にもあると思うので、底堅いところがある。

【岩崎】弱点が少ないというか、負けにくいというやつですね。

【古川】OKBに限らず、この手の投票ではよくあるやつですが、一人2票持っている投票と、一人1票持っている投票では結果がガラリと変わるという話があって。もしOKBが一人1票だけだと「ジェットストリーム」が下がる可能性があるかもしれないですよね。

――サラサが一番好きだけど、ジェットも無視できないみたいな。

【古川】1人で複数票を持っていると、万人から広く支持されているものが結果的に多くの票を集めたりすることがあるんですよね。

【高畑】そういうのは、一回統計とってみてもいいですね。1位だけの順位とか。

【古川】ああ、なるほど。

【高畑】それをやったら、様相が変わってくるかもしれない。

【古川】もっとキワモノというか、個人の思い入れの強いものが上に来るかもしれない。

【岩崎】1位だけの集計があったら面白いですね。

【高畑】それをやったら、「好き」がいろんな好きに分かれていくじゃないですか。それが面白いですね。

【古川】おっしゃる通りです。

【高畑】ボールペンに対して、どういう思いを持った「好き」なのかが見えてくるかもしれないですね。「友だちとして好きだけど、ルームシェアしたらケンカする」みたいなのがあるじゃないですか(笑)。

【古川】あるある(笑)。

【高畑】「一緒に働きたくないけど、あの人面白いよね」とか(笑)、そういうのもあったりするので、評価の仕方というのは色々だし。

【古川】一人の中でも、年齢や環境によって好みが変わったりするしね。

――今回「ジェットストリームプライム」を、これまでのノック式シングルから、回転式シングルに替えたのは、理由があるわけですか?

【古川】「ジェットストリーム」ブランドのフラグシップモデルとして、「ジェットストリームプライム」のノック式をこれまで入れていたわけですけど、それが今は回転式に切り替わっただろうと判断したので、これに差し替えたんですね。結果、順位は下がりましたが。

【高畑】入れ替えなかったらもっと上だったかというと、今回の傾向をみると、そうとは言い切れなかったと思います。

【岩崎】仰るとおりです。あと、「エナージェル」も「エナージェルインフリー」に替えてますね。

――ノック式の「エナージェル」を、透明軸のインフリーに替えているんですね。

【岩崎】インフリーにすることで、一応“時代感”を出しているんですよ(笑)。

――中身は一緒ですからね。ボディが透明かどうかというだけですから。

【高畑】それで、インフリーになって順位が上がるかというと、4位のままですからね。

【岩崎】インクは黒だけというレギュレーションの影響を受けていると思いますけど(笑)。「サファリ」は、黄色いボディでウケている部分もありますからね。そういうサファリ的な水増しはなかったです。

――インク色がターコイズとかオレンジだったら、また違った結果になったのかもしれないですが。

【古川】インフリーのターコイズはめちゃくちゃ強いから。

【岩崎】黒というレギュレーションで損してると思うんですけど。

【古川】去年も話をしているんですが、サラサやエナージェルは、新しい風をメーカー側が積極的に送り込んでいて、それによって「エナージェル」はまた寿命を延ばしたなという感じはしますね。

――ひと皮むけた感じはすますね。

【古川】もっとやってもいいと思いますけどね。いっそボディの金型も変えてみるとか。

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エナージェルは透明軸の「インフリー」にチェンジ

【岩崎】とにかく、黒というレギュレーションが、サラサとエナージェルには不利なんですよ。ジェットとの差はそれもあるかもしれないですよね。

【高畑】カラーが好きだけど、これは黒だけの統計だから、それでサラサに入れてくれている人もいると思うけど。「ジェットストリーム」はほぼ黒ベースの筆記具で、サラサはそれに対して50色近くあるじゃないですか。この統計ではジェット圧勝になってしまうけど、市場では50対1で戦っているわけですよ。その強さがサラサにはありますよね。「ジェットストリーム」は一人1本でいいけど、「サラサクリップ」は一人で6、7本持っている人がいるわけで、パワーとしてはサラサも負けてない。その辺は面白いですね。対する「エナージェル」は比較的スタンダードな色しかないのも興味深い。

【岩崎】そうですね。

【古川】少ない色数の中で、ターコイズとオレンジを持ってきたというのも、すごく良い選択だとは思うんですが。

【高畑】OKBも5年ぐらいやったところで、色々と言われるわけじゃないですか。「ジェットストリームは強いから、殿堂入りにしないとダメだよ」とか、「大体同じだから」とか。でも、ゆるやかに変化しているのが見えますよね。

【古川】そうなんです。だからこの鼎談は重要で。ぼーっと見たら、それこそ「そんなに順位変わってないじゃん」とか、「またジェットストリームが1位かよ」なんて言われちゃうんですが、補助線を引いてあげたり、ある程度噛み砕いて分析して見たら、このチャートにもまだまだいろんな情報や知見が詰まってるはずなんですよ。

気になる老舗ボールペンの動向

【古川】あと、ランキングを見直していて気がついたんですが、過去からずっとラインナップしていた中で一番ジャンプアップしたのは「ジョッター」ですね。

――あ~、15位ですね。

【古川】「何で?」って思うんですけど、12ランクアップしてるんですね。こういうのが面白いところで、「ジョッター」が生まれて何年よという話じゃないですか。50年とか60年前ですよね(*1954年に生産開始)。

――この中では一番古株ですよね。

【高畑】ノック式ボールペンの元祖ですからね。

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12ランクもアップして15位になったジョッター

【古川】最新ボールペンと比べて、決して機能的ではないですが、握手会の票もあり、Web投票もそこそこ稼いでいるし。

――どちらも似たような数字ですね。

【岩崎】あまりにも最新機能のものばかりに注目が集まるので、その揺り戻しですかね(笑)。

――パーカーでかなりプロモーション的なことをやっていたので、認知度が上がったとか。

【高畑】それはやってましたね。それが効いているのかな?

【岩崎】ブランドイメージが上がってということなんですかね?

【古川】それはあるかもしれない。過去の投票傾向を調べてみたら、もうちょっと詳しい動きが分かるかもしれない。

【岩崎】確か、一回リニューアルしたときに、「インク変わりましたよ」という話でしたっけ?

【古川】そうね、インク変わってるんだよね(*クインクフロー)。

【岩崎】だから、一応時代に合わせたインクになっているはずなんですよ。

【古川】でも、ビックの「オレンジEG」のイージー・グライドほどは柔らかくないよね。

【岩崎】じゃあ、何なんでしょうね?

――あのデザインが好まれているというのもあるんですかね?

【古川】結果的に、競合のないデザインになりましたからね。

【岩崎】カランダッシュを外したことへの反発が、ものすごかったことを思い出しました。

――今回、カランダッシュは…。

【岩崎】カランダッシュは実はいないんですよ。300円ボールペンの層が厚くなった分、海外ものは少ないんですよ。

【古川】元々、カランダッシュは「値段が高すぎる」と言われて、議論の対象ではあったんだよね。

【岩崎】ラミーはいいとして、カランダッシュはそれ以上に高いですからね。

――なるほど、カランダッシュ票の行き場がなくなって、「ジョッター」に流れた可能性が高いですね。

【古川】その見方もできますね。

――海外ボールペン好きな人はいますからね。

【古川】一定数ずっといますからね。

【高畑】OKBのコンセプトが「会えるアイドル」的な感じなので、廉価版の黒ボールペンが中心なので、3,000円の高級クラスを入れるかという話もあり。

【古川】ここまで国産ボールペンが充実した以上、なくてもいいかなと思ってカランダッシュを外したんですけどね。あと、運営側として、新しく選んだものが最下位になるというのは、心苦しいというか、申し訳ないなという気持ちになるんですけど。今回もやってしまいました(苦笑)。「タプリホールドクリップ」で、まさかの最下位ですね。

――これは新顔なんですね。

【古川】そうですね。商品自体のリニューアルで、「タプリ」のグリップにギザギザを付けたんですけど。

【高畑】ただね、今回の「タプリホールドクリップ」と「ライトライト」に関しては、やっぱりちょっとトリッキーなところがあるじゃないですか。

――書き味というよりかは、別の付加価値があるので、90年代のボールペンの思想かもしれませんね。

【高畑】形状的にはサラサとかに近いし、それでいて油性なんですけど。平均的にみて、飛び道具だけではOKBはなかなか勝っていけないところなんですけど、逆にいうと「ライトライト」があそこまでいったのはビックリですけどね。

【古川】「ライトライト」は、Web投票のサムネイル画面だけだと全く何のペンだか分からないですからね(笑)。使うと声が出るくらい驚くんですけど。

【岩崎】光ってないと分からないですからね。

【高畑】Webが40票で、握手会が314ですからね。

――Webと握手会の票の差が激しいですね。

【古川】そうですね。使ったらみんなビックリしますからね。

――何気にノックしたら、光って驚くという(笑)。

【古川】「うわっ!」ってなりますから。めちゃ明るいし。


ペン先にLEDライトを搭載した「ライトライト」

【岩崎】「タプリホールドクリップ」の方は、光ったりしないから気付かれにくいんですかね。

【古川】加圧式ボールペンと似てて、握手会ですらその実力が伝わりづらい。

――加圧式は、上向き筆記とかしないと良さが分かりにくいですからね。

【岩崎】低粘度じゃない、普通の油性ボールペンですからね。

【高畑】パッと見て特徴が分かるものじゃないと厳しいし、「タプリホールドクリップ」に関しては、最後までギザギザのクリップに気がつかれていない可能性もある。

――「タプリホールドクリップ」は、割とユーザーが限られているじゃないですか。外でハードに使う人とか。

【高畑】そもそも、ポケットに挿していて落ちないということに共感する人が限られるのかな。そういう人たちも、外観から見るとあまり分からないので、ギザギザに気がつかない可能性があるから。

――仕方ない部分もありますかね。

【高畑】あと、名作といわれるものがジワジワと下がりつつあるのは、しょうがないのかなと思うんですね。僕の大好きな「Vコーン」は、9位からスタートしているのに、ジワジワと下がってきて、今回29位でしょ。

【岩崎】第4回で急激に下がってますね。

【高畑】そう。8位から21位だから。

【古川】その頃にWebの比率が上がったんじゃないかな。

【岩崎】あ、そうですね。

【高畑】「Vコーン」でも、水性の良さは確かに今でもあると思うんですけど、ゲルがそれ以上によくなってきたのかな。

【古川】それもありますね。

【高畑】試し書きしてみると「それも仕方がないかな」と思えるぐらい、新しい上位陣の性能の高さというか。

【古川】フレッシュさも込みでね。

【高畑】それも込みで、上位に入ってくるペンの実力の高さは感じるよね。

【古川】ジワジワでいくと、まだ高い順位にはいますが、「シグノ」みたいなペンも落ちてきているんです。今回は12位ですよ。今までで最低の順位なんですよ。

――老舗のゲルインクボールペンですからね。

【古川】何故、ここまでサラサと差が付いてしまったのかというと、ノック式でないとか、そもそもあんまり新しい風が送り込まれていないところがあるとか、いろいろ理由はあるんでしょうけどね。

【岩崎】第1回は4位で、第2回、第3回は2位ですから。

【高畑】サラサは「シグノ」より後で、「シグノ」と「ハイテックC」は平成の初期に出てるんですよ。

【岩崎】「ハイテックC」は、最初3位でしたよ。

【高畑】OKBを始めてから8年経っているじゃないですか。スタートしたのは、平成20年代の前半ですよね。その頃は、ジェットストリームやサラサなんかが揃った時点でスタートしているんですけど、当時はジェットストリームはまだ比較的新しいペンだったはずなんですよ。「ハイテックC」なんかは、平成10年代のトレンドなんですよね。極細で比較的なめらかに書けて、0.3㎜を初めて作ったのも「ハイテックC」だし。そして、それの対抗馬だったのが「シグノ」だったわけです。「シグノ」と「ハイテックC」は、ゲルインクで細くカリカリ書きけるボールペンの代表だったんですよ。

――激細戦争とかありましたね。

【高畑】それより前に、カラーボールペンだと「ボールサイン」があったけど、今はサラサに移行していくみたいなところがあって。そういうのを考えると、彼らはすごくいい位置にいたけど、その後出てきた「シグノRT1」だとか「ジュースアップ」だとかに、その座を奪われつつあるのかな。

【古川】本当にそうですね。図らずもこのOKBの歴史の中で、「ハイテックC」が役割を終えていく様を記録しちゃっている部分はありますよね。

【高畑】ゲルの細く書きたい派は、「シグノRT1」や「ジュースアップ」が出てきて、段々入れ替わってきている。それでもまだ「シグノ」は、すごい頑張っている位置にいるので。そこに「ジュースアップ」が入ってきたのは大きいかなと思います。

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ジュースアップの登場で世代交代が加速!?

――それは、世代交代ととらえていいんですかね?

【古川】と思いますね。激細系の追随品だった「スリッチーズ」も廃番になってますからね。

【高畑】それでいくと、「シグノ」と「ハイテックC」は、まだ踏ん張っているというところですよね。でも、名品は名品なんだよね。

【岩崎】「シグノ」はキャップ式ですよね?

【古川】そう。キャップ式だけど頑張っている。

【岩崎】それで、「ジュースアップ」はノック式ですよね。

【古川】キャップ式で上位というと、「セルサス」「サファリ」「ZOOM505」ですかね。

――どちらかというと、利便性のボールペンではないものですよね。

【高畑】ラグジュアリーの方だから。

【古川】キャップの意味が違う。

【高畑】利便性でノックじゃないのは不利ですよね。それでも「シグノ」は頑張っている。

【岩崎】でも、愛好者は「キャップ式だと、書いているときにガタつかないから」と言っていますよ。

【高畑】それは確実にシグノが支持を集めている要因の1つではあると思います。そしてガタつかないというところで、次回は「ブレン」が入ってくる。

【岩崎】ノック式でブレないんですよね。今回、「何でブレンがないのか」を会期中に散々言われましたよ(苦笑)。

【高畑】投票を開始したときにはまだ発売されていなかったので、今回は入れられなかったんですけどね。それで、「シグノ」が頑張っている理由で、「ブレない」を言う人が多いじゃないですか。「ジュースアップ」は意外とガチャガチャするので、それに比べて「シグノが好き」というのは分かりますよね。

【古川】分かりますね。

【高畑】これはゲルの中での戦いですけど、その時に「じゃあブレンはどこまでくるのか」というのは気になるじゃないですか。

【古川】そうですよ。

――これは、次回のOKBの大きな楽しみの一つですね。

【古川】楽しみですよ。予想では、Web投票はすごく伸びると思います。

――ああ、知名度が高いから。

【古川】知名度は高いし、スタートダッシュに成功した感があるので。

――先日、「発売から約3か月で累計販売本数100万本を突破した」というニュースが発表されてましたからね。

【高畑】僕は懐疑的な部分があったんですが、思った以上に売れているようです。明らかに新しい価値観を持ち込んでいるところがあるので。

【古川】あと、あの見た目は強いと思います。前回も話していますが、ボールペンの外見が発するシグナルというものが性能とは別にあって、「これは今の時代のボールペンだな」と感じるものが比較的上位に来る傾向にあるし、新製品とか関係なく「これって昔のボールペンっぽい感じだよね」というものが下位に来る傾向がどうしても出てきますね。

【高畑】それが「ハイテックC」と「シグノ」を分けている感じがするんですよ。「シグノ」よりは「ハイテックC」の方が、当時は先端な感じだったけど、あの透明一色のデザインが、今見ると古い感じがするというのはあるかもしれない。それに対して、「シグノ」の方は割といいかたちできている。それは、ラミーが未だに古びないのと同じだと思います。出てきた当初は、「ハイテックC」も「シグノ」も性能的には拮抗していたはずなんだけど。

【古川】それが一周してきてレトロになり得たものは、逆に上位に来る可能性がある。それが「ジョッター」であり、「セルサス」であり、「ZOOM」であるので。ちょうど今は、レトロという価値も帯びてない、エアポケット的な落とし穴にはまったペンが、下位の方に来てしまっている。そんな中で、「エラベルノ」は今年どうなんだろう? と見てたけど、少なくともOKBの中では挽回できてない。

【高畑】「エラベルノ」に関しては、一番のコンセプトである、「選んで自分にピッタリ合わせられる」というところが、これもまた伝わりにくかったりするので。それこそ、解説されて良さが分かるタイプのペンだと思います。

【古川】確かに。

【高畑】「ブレン」は、「ブレない」と言われて使うと好きになっちゃうタイプなので、そこはプロモーション上手いなと思います。それを考えると「エラベルノ」は、この中では独自路線を行っている良さがあるのにも関わらず、やっぱり伝えるのはむずかしいのかな。

【古川】その通りですね。「ブレン」は、コンセプトとプロモーションも上手かったし、それがデザイン上にも表われている。「これは現代のボールペンだな、何か工夫されているんだろうな」というのが伝わるデザインになっている。僕としては、「ボールペンにとってガタつきとは何か」問題を考えるきっかけになってほしいですね(笑)。

【高畑】「ブレン」は、ガタつきの問題と、「ボールペンのデザインってどうなの?」という問題の両方について考えるきっかけになっていると思うんですよ。あれって、明らかに今までのボールペンとは違うデザインをしようとした結果じゃないですか。それで今後ライバルは影響を受けるのかどうか。

令和元年の「OKB48」の注目ポイントは?

――「今回は何でブレンがないのか?」って結構言われたんですか?

【岩崎】はい、言われましたね。

【高畑】OKBに投票するような人は、感度の高い人が多いから、今話題のボールペンに投票したいのに、ないと「何で?」ってなるんでしょうね。

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次回OKB48で大注目のブレン

――それだけ「ブレン」は大きな注目を集めているんですね。

【古川】「ジェットストリーム」以降、イノベイティブがなかなかなかったですか。その中ではこれが今までで一番大きな波と言っていいんじゃないかな。

【高畑】それで、どこまで「ジェットストリーム」に肉薄できるかが、次回の大きな見どころの一つだと思います。

【古川】「ブレン」と「ジェットストリーム」を比べて語るのもいいんですが、僕としてはセーラー万年筆の「G-FREE」と比べて語りたいんですよね。「G-FREE」は、言ってみれば“タテにガタつくペン”。要は自分で筆圧の強弱を調整できて、芯を引っ込ませることができる。あれは、言わば“タテにガタつかせている”とも言えるわけですよね。ガタつきは前提で。

【岩崎】引っ込ませ具合を選べるって、独自過ぎますよね(笑)。

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ペン先がスライドして余分な力を吸収してくれるサスペンションを内臓したG-FREE

【高畑】ガタつきというかクッションですけどね。それは、「F1は乗り心地いいのか」という問題と同じような感じで。例えば、レーシングカーは、全てをリジットに造る。エンジンがフレームに直接マウントされているから、駆動力は伝わるけど、乗り心地は悪いですよね。

【古川】地面の凸凹もキャッチしてしまうのが特性ですね。

【高畑】スポーツカーのような扁平タイヤにすると、平らな道だったらグリップ力は最大化するんだけど、それだと乗り心地が悪いかもしれない。それに対して、高級車は乗り心地はいいわけです。サーキットのコーナーを攻めて走りたいのか、それとも多少凸凹のある道でも気持ちよく次に行きたいのかで、選ぶ車は違ってくる気はする。

【古川】おっしゃる通り、その差ですね。

【高畑】どっちが良い、悪いではなくて、スポーツカーが好きな人と、リムジンが好きな人は違うんだよね。

【岩崎】目的が違うというか。

【高畑】リムジンに、そんなレーシーな設定をしたらいかんだろ、ということですよ。今回「ブレン」が狙ったのは、そこの逃げ場をなくすことで、もっとレーシーにしていくという感じだと思うんですけど。それがストレスかどうかは、これから分かってくる。

【古川】本当にガタツキが万人にとってのストレスなら、それこそさっきも言ったジュースアップがあんなに支持されている理由が説明できない。あれは相当リフィルが揺れるから。

【岩崎】僕が意識してなかった問題が、どんどんあぶり出されてきますね(笑)。ガタつきに不満があるなんて、今回初めて気が付きましたよ。

【古川】だから「ブレン」が次回、どの順位に来るのかが本当に楽しみで。

--次回の見どころとしては、それが一番大きいですね。

【岩崎】令和の見どころですね(笑)。

【高畑】いや本当に、令和のボールペンがどうなっていくかだと思うんですよ。ゲルインクは昭和の終わりに発明されて、それが多色化されるのが平成の最初の10年。その時に、ペンケースが缶から布に変わるわけです。カラーペンが全色入らないから。

(一同)あ~。

【高畑】平成中期に関しては、前半は極細化が進んで、後半に今の名品が全部出てくるんですよ。ゲルがすごい勢いで性能アップして、いろんな商品ができるようになったし、油性も革新的なものが出てきた。

――はい。

【高畑】最後の10年は、一通りトップスターが出た後の、安定した10年だったわけですよ。そして、ようやくここで10年経って、「ジェットストリーム」に対抗して「ブレン」が出てきたけど、新しいものが出てくるかどうかは、これからだと思うんですね。

――そうですね。

【高畑】「ジェットストリーム」が出てきてからまだ13年くらいなんですよ。

【古川】2006年ですものね。

【高畑】ボールペンの歴史から見たら、革新的にすごいのが出て、圧倒的に強いんだけど、それに対抗するのに10年はかかるわけですよね。インクから何か全部開発すると考えると。だから、令和の時代になって、何か新しいものが出てきてもおかしくないわけですよ。

【岩崎】時間のサイクルとしては、出てきてもおかしくないわけですね。

【高畑】10年ごとに区切ったときに、何かしらのトピックがあるわけですよ。「ブレン」は平成ギリギリに出てきたけど、その結果が分かるのは令和になってからなので。令和になって、「ブレン」の持っているブレない性能とか、今までにないカタチだとか、そういうことが今後令和でどう発展するか。

【古川】そうですね。

【岩崎】いろんなことが解明されるかもしれませんね。

【高畑】シャープペンだって、今まで芯を出す機能だけだったのが、「クルトガ」が出てきて芯が回るようになったじゃないですか。そういう意味で、今までボールが転がる滑らかさばかりに注目していたのが、そうではなくて、軸自体のブレだったりとか、軸の形状とか、あと軸を振ったときの音だったりとか、違うところに視点をずらしたきたわけです。このずれた視点に対して、他のメーカーからもいろんな答えがこれから出てくると思うんですよ。

【古川】ボールペンに対するリテラシーが、間違いなく日本では上がっているので、今まで気にしていなかったところもブラッシュアップされていく。

【岩崎】そうですね。

【古川】「ブレン」は、振ったときに本当に音がしないですよね。あれはすごいと思う。

【高畑】今までのOKBは、リフィル勝負みたいなのが大きかったじゃないですか。それが、段々リフィルだけじゃなくて、ペン全体の総合力で闘うようになる可能性はあると思う。

【古川】なるほどね。

【高畑】リフィル以外の性能も注目される可能性はある。それこそ、アクティブサスみたいに、地面の凹凸によってとか、書く紙によって性能が変わるペンが出てきてもおかしくないわけじゃないですか。

【岩崎】自動的に変わるんですか(笑)。

【高畑】インクとボールのリフィルだけじゃない、総合力で勝負を決める時代になってくるかもね。

【古川】確かに。

【高畑】それでいくと、中身は一緒だけど、軸が違うものがガッと上がってくる可能性はあるわけじゃないですか。例えば「アクロボール」も、インクの性能自体が悪くないというのはみんな分かっているので、「ブレン」に対抗するボディを作れば、かなり戦える気がするじゃないですか。

【岩崎】新たに軸に注目が(笑)。

【古川】そうそう。性能と見た目の高いレベルでの融合、つまり本当の意味での“デザイン”勝負になっていくかもしれない。

――平成の最後にいいまとめになりましたね。令和初めてのOKBに大注目ということで、締めさせていただきます(笑)。

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