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お気に入りボールペンを選ぶ「OKB48選抜総選挙」を語る

OKB0.jpg右から岩崎さん、古川さん、高畑編集長

「OKB48選抜総選挙」は、メーカーの枠を超えて選抜された48本のボールペンの中から、お気に入りのボールペンを選んで投票する選挙型エンタティンメント。毎回、実際にボールペンの試し書きができる「握手会」を全国各地の文具店などで実施しており、その場で投票を行う。また、公式サイトからの投票も可能で、これらの票を集計して順位を決定している。

6回目となる今回も、本サイト編集長の文具王・高畑正幸氏を個人スポンサーに迎え「文具王杯」として開催。昨年10月1日から12月31日までの3カ月にわたり投票を受け付けた。

総投票数2,823票(握手会2,060票、Web763票)の中から1位に輝いたのは、これで6連覇となる「ジェットストリーム(スタンダード)」。2位は3年連続となる「ジェットストリームプライム」で、今回もジェットストリームがワンツーフィニッシュという結果となった。

*第6回OKB48選抜総選挙結果はこちらから。

OKB48総合プロデューサーの古川耕さんと、劇場総支配人の岩崎多(まさる)さん、そして高畑編集長の3氏に、これまでのOKB48の歩みや、今回の講評などについて伺った。

“書きやすさ”オンリーではない

会場.jpg

ボールペンの“再発見”がある握手会(試し書き)

――そもそも、「OKB48」を始めるきっかけって何だったんですか?

【古川】最初は、岩崎さんが編集していた雑誌の連載で、僕が「お気に入りボールペン総選挙、略してOKBがあったらこのペンは筆箱のセンターになる!」というようなことを書いたんですよ。あるボールペンの紹介の中で、一種のジョークとして。

【岩崎】それで、文房具のムック(すごい文房具)を作ることになったので、「あれやりませんか」となったんですよね。

――雑誌に書いたときは、ジョークのつもりだった?

【古川】その時は完全に、笑いを一つ取れればいいという感じでしたね。それで、「やりましょう」と言われたけど、「できるのかな?」と思いました(笑)。

――改めて、「OKB48」の趣旨をご説明いただけますでしょうか。

【古川】最初は冗談みたいに始まりましたが(笑)、要は「ジェットストリーム」以降ですよね。安価でありながら性能が良いというボールペンが各社から出てきたのは。それで、ボールペンがすごくたくさん選択できる状況になっていて、面白いなと思ったんですよね。それぞれの思い入れもあるだろうから、人気投票したらじゃあ何が1位になるんだろう? という疑問と、あと国産のボールペンを中心にしていくだけでも、実はたくさんのボールペンのタイプがあって、いろんな用途に応じたものがある。それを集めてみんなに書いてもらうだけでも、ボールペンって面白いなというのが分かるかな、というのが最初に考えたところですね。

――それで、AKB48みたいに48本選んでということですが、これで6回目ですよね。結構歴史が積み重なってきましたね。

【古川】どこかのタイミングで、「10年は続けたいですね」と、割と無責任な感じで言ったんですよね。その手前もあって、10年間は続けたいと思っています。

【高畑】同じレギュレーションで、同じイベントとして続けていることの意味というのが、これだけやってくると蓄積に意味がでてきちゃっている。

【古川】定点観測という意義は一つありますね。あと、もともとジョークで始まったということとも関係あるかもしれませんが、常にユーモアを滲ませていないとダメだとは思ってますね。「シリアスな人気投票になってしまってはイカン」という気持ちがあって。本当にシリアスにやるのなら、もっと厳密にやらないとダメなので。

――シャレにならない感じになりますからね。

【古川】半分はシャレで、半分はガチというスタンスで。そういう意味でも、パロディであるというのは有効なんです。

【岩崎】勝手に順位付けちゃってますけど、ありがたいことにメーカーさんからのクレームはないです。

【高畑】“お気に入り”っていうこのゆるい感じがね(笑)。

――クレームは一切ないんですか?

【岩崎】ないです。自分たちでペンを買ってやっているからでしょうけど(笑)。これは、書きやすさオンリーで選ばれていないんですよ。

【高畑】あー、はい。

【岩崎】そこで、アイドルがちょうどよくてですね、歌の上手さとかルックスとか、逆にポンコツな感じがいいとか、選ぶ基準がバラバラなんですよね。それと一緒なんですよ。見た目がいいとか、個人的に思い入れがあるとか、そんな理由でいいですから。もちろん、書きやすさが優先されているんですが、見た目を優先してもらっても構わない。

【高畑】選んでもらっているときに、「どれが書きやすいですか」とは聞いていないんですよ。「どれが好きですか」と聞いているだけで。

――「お気に入り」ですものね。

【高畑】書き心地というのもまた評価しずらい部分だし、非常に感性的な部分なので。

――書き味ってどういうものだと思います?

【古川】最終的には、主観に集約されていってしまう気がしています。しかも、その主観というのが固定的なものじゃないじゃないですか。日によっても違うし、書く紙との相性によっても違うし。

【岩崎】ずっとOKBに参加してくれている人が、その年によって選ぶものが変わるんですよ。個人の中で流行り廃りがあるんだと思います。

【古川】僕もこの6年間で全然変わってるもの。

【岩崎】推し変しちゃうんですか(笑)。

【古川】「ジェットストリーム」だけかな。1回も落ちていないのは。でも、ボールペンの好みは人によるし、しかも同じ人でもその時々で変わるということは、OKBをやってみて分かったことです。

――漠然とは思っていたが、実際にやってみたら分かったと。

【古川】絶対的な基準では語れない。ただ、総和として現状これが最も書き味がいいとされている、というのは割り出せる。それが今の結果になっていると思います。

【高畑】書き味が違う、書き心地が違うという話をメーカーはするし、カタログには書いてあるんですけど、実際に「そんだけ違うのかよ」というのは、これだけボールペンがあるとね。僕らはオタクなので、その違いを云々とやってますけど、やってみたら普通の人でもここの細分化している状況をちゃんと利き分けるだけの能力を持っていることがすごいはっきりしたので。日本人のボールペンに対する選択の繊細さというか、味覚の繊細さを持っているというのが分かったというのは、これは大きいなと思う。

――それは理由として、「ジェットストリーム」が出てきたからというのがあるんですか? それとも元々持っていたと。

【高畑】元々持っていたと思いますよ。

【古川】「ジェットストリームとアクロボールだけで比較してください」と言われたら、ひょっとしたら分かんなかったかもしれないけど、ある程度の量を一気にやるのは重要で、その時に初めてその人の中での回路が生まれるというか、「これとこれはこう違う」というのがその瞬間にその場で分かっていくんじゃないかな。だから、「握手会」(試し書き)が一番面白くて、48本のボールペンを一気に書くというのは普通じゃない経験なので、やっていくと違いが分かるし、違いが分かる自分にも気づいていくという、そんなプロセスなんですよね。

――私も何度か「握手会」に参加しましたけど、「これ久しぶりに使ってみたけど書きやすいじゃん」という再発見があって面白いですよね。

【古川】そうですよね。知ってたつもりでも、比べてみたらその良さや悪さに気がついたりするし。

――普段、どうしても特定のボールペンを使うことが多くなるので、ご無沙汰のペンもでてきちゃいますから。

【古川】「お前やっぱいいじゃん」みたいな(笑)。

【岩崎】再確認の場ですからね、毎年(笑)。

【高畑】毎年、「握手会」終わった後に、しばらくメインで使う筆記具がグルグルと変わる(笑)。

【古川】変わる、変わる。

【高畑】何本か気になるやつがペンケースの中に戻ってきて、しばらくは行ったり来たりしながら使う。

【古川】OKBの期間中は大変ですよ。ボールペンが安定しなくて(笑)。「今週はこれかな」とかそんなのばっかりですから。

新顔が多かった今回の総選挙

――みなさんで48本決めるじゃないですか。毎年、何かしら新しいボールペンが出てきますけど、入れ替えとかどうするんですか。その辺の基準とかあるんですか?

【古川】僕がまずベースとなる48本を選んで、そこから選挙委員の皆に投げて「どう思う?」という作業を繰り返しているんですけど、話題の新製品とかはやっぱり入れたいんですよね。そうすると何か落とさなきゃいけないという時に、やはり前回までの投票で下位に低迷しているものを足切りしていくということになります。なおかつ、毎年選抜コンセプトみたいなのがうっすらとあって、それに沿って選んだりもします。色物っぽいペンが入る年もあったりしますが、そういうのが振るわなかったりすると、翌年はその代わりに新顔を入れましょうとなったり。

【岩崎】あと、「何でアレがないんだ」と指摘される方の意見を参考にして、「これいいですね、入れたほうがいいんじゃないですか」と入るのもありますし。

【古川】あとは、入れたくても廃番になってしまったものとか。

【高畑】廃番になったのはしょうがないので。一応、ここに登場しているのは現行品という扱いになっているもの。今、普通の文房具屋さんで手に入るというのがベースなので。どんなに古くからやっているものでも、「ボールぺんてる」のような商品は現役だから入っているけど、廃番になってしまったものは入れない。

――今回でいうと、新顔はどれだったんですか?

【古川】今回は、今までの選挙の中で一番入れ替えているんですよ。10本ぐらいあるんですよ。しかも、それらがみんなそこそこ健闘したんですよ。

【高畑】20位前後のところにそれがいっぱいいるんですよね。

【岩崎】入れ替えが多かったのは、廃番もあったからだと思いますよ。

【古川】それもあるし、入れ替えている意味は、その年のボールペンの動向を示したいというのもあるんですよ。つまり、「これだけキャッチーな商品が出た年だったよ」というのは、記録という意味でもフォローアップしないといけないから。

【高畑】「ユニボールエア」や「ユニボールシグノ307」とか「ジュースアップ」は新製品として絶対入ってくるんですけど、そうではない「リバティ」とか「ZOOM505」みたいな商品が今年入ってきたのは、ミドルクラスのボールペンが出揃った感があったので、そういうものをピックアップしようと。

【岩崎】そのテーマはありましたね。

【古川】去年はミドルクラスのボールペンが新製品で多かったし、おそらく今後しばらくはこの辺が主戦場になっていくのではないかという読みもありました。だから、二つありますよね。話題の新製品をキャッチアップするのと、ボールペンのトレンドはこうなっているのをフォローしていくという。

――それで今までなかった「リバティ」や「ZOOM505」が入ってきたと?

【古川】つまり、今のボールペン・シーンがそうであるから、ということなんですよね。

【岩崎】上位に来たということは、そういう傾向があったということですよね。

【古川】「リバティ」強かったよね。元々いいペンだったから。

――6位ですからね。

【高畑】新人の中では一番上かな。

【岩崎】ちょっとこれは想定外ですよね。

リバティ.jpg新顔ながら6位と健闘したリバティ

【高畑】水性の書きやすさというのもあるし、「ZOOM505」よりも値段が全然安いのに、こっちの方が上なんですよね。1,000円という価格もなじみやすくて。

――「ZOOM505」は油性で比べたんですか?

【高畑】その辺はお叱りを受けたので。「ZOOMは水性だろう」と(笑)。

【岩崎】その辺は次回以降に反映されていくので。

【古川】ちょっと話がそれますけど、ボールペン一本ごとにに主力のボール径だったり主力のリフィルというものがあるんですが、全部が全部アジャストできないんですよ。油性ボールペンだったらボール径は基本0.7㎜で揃えたいんですけど、例えば「このペンの試し書きでは0.5と0.7のふたつを揃えなきゃダメだ」とか、どうしても出てくるんですね。それはその都度ケースバイケースで微調整するんですけど、なかなか行き届かないことも多くて。

――確かにそうですね。

【古川】だからせめて、これは誰が選んでいるのかという責任の所在ははっきりさせないといけなくて、だから僕がプロデューサーで、「私の責任で選んでます」ということだけはっきりさせとかないといけないと思ってます。どう決めても必ず不満は出てしまうものですから。

――0.7㎜で統一というわけにもいかないですからね。

【高畑】「ジュースアップ」とかが入らなくなりますから。

【古川】そのペンの特性が一番出るものを選んでいるつもりなんですが、100%のオーダーには応えられないので、一応僕が「こんな風に選んでいる」というのを明らかにして、納得してもらったり、怒ってもらったり(笑)するしかないですね。

――その辺は、先ほど言っておられた「半分シャレで半分ガチで」ということですよね。

【古川】そういうことです。

【岩崎】秋元先生が決めれば文句は出ないのと一緒です(笑)。

【高畑】今、文具店で売られている現行品のボールペン全部がエントリーしてしまうと、この10倍ではきかないので。だから、この48本というのは、まぁギリギリですね。

――絶妙な数ですか?

【高畑】AKBもそうなんじゃない? 「こんぐらいだよねぇ」っていう(笑)。

【岩崎】本当ギリギリですね。これ以上多かったらできないですよ(笑)。

――派生ユニットとかできません(笑)?

【岩崎】1回だけ多色ペンでやりましたけど、大変でしたよ。

【古川】試し書きだけで疲労困憊ですよ(笑)。

【高畑】48本あるので、試し書きは早くても1時間はかかっちゃうし、試し書きに何らかのテーマを持っている人がいるんですよ。書く文章を決めていたり、特定の文字や絵を書いて違いを比べている。そのためにわざわざノートを用意している人もいるくらいですから。

【古川】チェックシートみたいなのですよね(笑)。

【高畑】あれこれちゃんと比較しようとしている人なんて、軽く2、3時間はかかるんですよね。

【古川】かといって絞ればいいかというと、多分20本ぐらいじゃ今の日本のボールペンの肥沃さ、豊潤さは表現できないので。

【岩崎】そうなんですよ。この本数でも、惜しくも外れたというものがいくつもあるので、残念なんですよ。

【高畑】残念なんだけど、これで60本とかあったらできないし、かといって30本ぐらいにすると、多分いつも変わらない感じになっちゃう。絶対外せないものが30本ぐらいあるので。ただ、ボールペンとしてはちょっと変わってるけど、絶対に外せないものが下位にいるんですよね。この下位にいるものの楽しみ方というのがあって、加圧式とか昔ながらのものとか。

――それぞれに愛着がありますからね。

【古川】そうなんですよ。

【高畑】48本を選ぶときの最初のちょっとした苦悩みたいのが(笑)。

【古川】あとは何件かお店を回って、「どっちかというと、今はこれが買いやすい」とか、そういう理由も加味して最終的に選んでますけど。

【高畑】でも、やっぱりラミーの「サファリ」なんかは、ずっと上位の方にいるんですよね。

【古川】強いよね~。

【高畑】デザイン性は外せない要素だったりするんですよね。もちろん。書きやすさもいいんですけど、上位に残っている理由の何割かはデザインだよねという、外観の格好良さは明らかにある。

【岩崎】海外製だと唯一ですね。

【古川】ベスト10から落ちたことないんじゃないかな。多分、このボディの色を黄色じゃなくて黒にしたらまた変わってくるんじゃないかな。

【岩崎】そうです。メインのカラーにしないと。

【高畑】明るいカラーがウリだからね。

【岩崎】黄色でやっているので。黒ボディばかりだから目立つんですよね(笑)。

――軸の色は大体黒で統一してますよね。

【高畑】そうですね。明らかにこの色で作ったというのであれば、それはそれでということもあるんですけど。

ジェットストリームは国民的アイドルだ!?

ジェット.jpg今回も「ジェットストリーム(スタンダード)」(上)と「ジェットストリーム プライム」がワンツーフィニッシュ!

――今回も「ジェットストリーム」が1位で6連覇。そして2位も「ジェットストリーム プライム」で、ワンツーフィニッシュとなりましたが、それについてはいかがですか?

【古川】年を追うごとに、「これは変わらないのかな」という気がしてきました(笑)。きっと10年は1位で完走するんじゃないかと思いますね。

――「ジェットストリーム」がですね。

【古川】ええ。ワンツーはひょっとしたら崩れることはあるかもしれないけど、「ジェットストリーム」の1位は、10年というスパンでみると崩れないかもしれない。そのぐらい群を抜いてますね。だから、このペンは本当に歴史を変えたんだなと思って。

【高畑】即席麺コンテストをやったら、必ず「カップヌードル」が1位になるみたいな。こんなイベントができるくらいにボールペンの意識を高めたというのは、明らかに「ジェットストリーム」の功績。これだけ続いていると、アンチ「ジェットストリーム」派も出てきて、「こんなにジェットストリームばかり勝っておかしいだろ」と言って色々試す人が出てくるんですよ。で、試した結果「やっぱりジェットストリームだ」という人もいて。なので、これは単に知名度が高いだけでなくて、実力を伴った1位だなというのは感じますね。

【岩崎】「ジェットストリーム」はエントリーナンバーが1番なので、先入観は捨ててわざと最後の方から試し書きしていったけど、「やっぱりこのコだった」と書いている人がいましたから(笑)。

――やっぱりすごいんですね。「ジェットストリーム」の後にも、たくさんなめらかボールペンが出ていますけどね。

【高畑】他のなめらかなものに関しても好きな人は絶対にいて、試し書きのところにいっぱいコメント書いてくれているんですよ。「ジェットストリームよりこっちがいい」と熱く語る人はいるんですけど、どちらかというと「ジェットストリーム」はそのど真ん中のところに入るので。いろんな人が投票した総意として集まってくると、誰にも嫌われない、みんなに好かれる「ジェットストリーム」になるので、そこは国民的ボールペンというか。

【岩崎】みんなに好かれる。まさにアイドルですね(笑)。

【高畑】「もっとこのコの方が歌うまいよ」とか、「演技がすごい」とかそういうのがいたりするんですけど、みんなから親しまれるというのが「ジェットストリーム」はすごいなと思う。

――「ジェットストリーム」は外せないという感じがしますよね。10本選ぶとしたら、その中に「ジェットストリーム」は必ず入れようかなと思いますよ。

【高畑】1位は違うやつを推してても、5位までの間に「ジェットストリーム」はいたりするので。もちろん、1位で投票する人もいるし、気が付けば総合で1位になっている。

【古川】本当に崩れないんですよね。

――やはり、「書き味はジェットストリームだろう」と思っている人が多いということですね。

【高畑】一番最初に出てきたということもあるんでしょうけど、その時に“低粘度油性”を最初に定義した感じですね。他のボールペンはこの「ジェットストリーム」をベンチマークにして、「もっとなめらかだよ」とか「もっと書きやすいよ」というものを提示しているけど、でもどこかで「ジェットストリーム」を意識して、「より~だよ」という言い方をしてしまうのかなと思う。

――「ジェットよりなめらかだよ」とか、そういった比較のされ方をしますよね。

【高畑】比較されるときに、「ジェットストリーム」の影がどこかしらにあるので。そうなると「ジェットもいいじゃん」ということになってしまうので。

【古川】先行品の強さというのは、どのジャンルでもあるんですが、「ジェットストリーム」に関しては、発売からもう10年経つし、こういったある種の比較試験をくぐり抜けての1位なんで、先行商品だけのアドバンテージではないですね。明確に実力があるんだと思います。

【岩崎】文房具にそんなに興味ない人でも、分かる違いだったんですよ。僕、これが衝撃だったんですもの。

――そう言ってましたものね。

【高畑】そうですよ、岩崎さんが文房具にハッとした瞬間がこれなんですよね。

【岩崎】アイドルファンじゃなかった人がアイドルファンになったやつなんです(笑)。

ジェットストリームVSゲルインク

【高畑】上位を見てみると面白いのが、3位の「サラサクリップ」は、中高生が思いっきり推しているペンなんですよ。それで「ジェットストリーム」がすごかったのは、ビジネスマンなどの大人で、長いこと普通の油性ボールペンを使っている人たちにガツンときたというところ。ボールペンはどうしても大人に寄っているので、そこを全部虜にしたというのは強いというのがあって。でもその次には、学生が推している「サラサクリップ」が入ってくるという。1、2位が油性で、その次に来るのがゲルインクというのはすごく分かるし。

【古川】「エナージェル」も含めて、上位4位までのこの4強という構図はずっと続いていますね。

【岩崎】ここに壁がある感じですね。
サラサクリップ.jpg

3位のサラサクリップは学生に大人気

――「サラサ」は大体3位ですか?

【古川】5、6位以下になったことはないかな。

【岩崎】大体「ジェットストリーム」と「サラサ」「エナージェル」の戦いなんですよ。

――ゲルインク対ジェットという感じですね。

【古川】そういう感じですね。

【高畑】書きやすいペンが「サラサ」で、読みやすいペンが「エナージェル」なんですよ。「エナージェル」は、就活ペンとしてみんなに信頼されている。相手に読ませるペンとしての強さを持っているので。やっぱここら辺は、それぞれの固定ファンの多さがあるんですよね。

――「エナージェル」は、最初の方から比べると順位をかなり上げたという印象がありますね。

【古川】そうですね。最初からそこそこ高い位置ではあったんですが…。

【岩崎】年を追うごとに「握手会」の比率が高くなってくるので、順位が上がってきたんです。

【高畑】実際に使ってみると、良いよね。

【古川】だから実力派なんだよな。

【岩崎】“握手会の女王”と言われてます(笑)。

エナ—ジェル.jpg

“握手会の女王”の異名をとる4位のノック式エナージェル

【高畑】逆に、段々順位を下げてきているのが「フリクションボール」で、最初は2位だったんですよ。これは、最初はその特殊能力に驚いたので、そこでの票がすごく強かったんだけど、今はどちらかというとボールペンという他と同じ立場で評価されている。だから、“消せる”というところが、特別扱いされなくなってきた。ある意味では、馴染んできたということではあると思うんですけど。

――何ででしょうね?

【古川】思い入れを持つ対象じゃなくなったっていうことですかね。実際は、「これがないとダメ」という人たちはいっぱいいるじゃないですか。売れ行きで言ったらボールペンはジェットとフリクションという感じですよね。

――2強というか、外せないものになってますよね。

【古川】つまり、こういう人気投票をやった時に、思い入れを持たれる対象じゃなくなったということです。

――“消せる”というところに重きを置いて選んでないということですね。

【古川】そういうことです。水みたいなもので、必需品だからみんな飲んでいるけど、「好きな飲み物は水」とは誰も言わないという(笑)。

【高畑】それはありますね。

【古川】逆に、このペンの底知れぬ偉大さというか、成し遂げたことの巨大さを証明していると思いますよ。

――当たり前という感じになっているんでしょうね。

【古川】多分、フリクションが将来的に浮上することはないと思います。そのぐらい、みんなにとって“普通”のものになった。

――書き味というところとはまた別の評価ということですね。

【高畑】これがまた、劇的に書き味が変わったりしたら別ですけど、今のところの感じとしてはそうですね。仕事仲間としては全然認めているというところはあるんですけど。「アイドルか?」という話なので。

――アイドルとは外れたところの別の存在感があるということですね。

【古川】「コイツとはもう結婚してるしなー」っていう(笑)。別の道を歩み始めたのかもしれませんね。

――でも、「ユニボール アールイー」というライバルが出てきたじゃないですか。そこでまた新たな展開があるかもしれませんよ。

【高畑】可能性はありますよ。

【岩崎】来年、直接対決があるんじゃないですか。

【高畑】やっぱり登場するでしょうね。

【古川】ただ、「アールイー」こそ、もっとより普通化されているので。

【岩崎】そうですね。見た目は普通に見えますね。

【古川】あれもまさに「普通に使える」ことがコンセプトなので、この手のランキングではきっと振るわないと思います(笑)。それこそがまさしく「アールイー」の目指していることなので。

――思い入れとかそういうところではね。

【古川】それを持たれないように、なるべく特殊ではないというところを打ち出しているペンだから。存在としてはめちゃくちゃ面白いですけどね。「アールイー」は今、とことん語っておいた方がいいんだよね。あれが象徴しているものがすごくあるので。

【高畑】そうやって毎年、何やかんやで入れ替わりがあって、変わるもの変わらないものがあって。それにしたって、毎回ものすごく新製品が出るんですよね。今回も「ジュースアップ」とか「シグノ307」とか、「何だそれ?」という新製品が出てきたりするわけですけどね。

ボールペン全体の地殻変動が起きている!

――今回の順位を見て、気になるところはありますか?

【古川】「ジュースアップ」ですかね。握手会での反応も目に見えて良かったので、この順位(10位)は納得です。

――ベスト10に入ったんですものね。

【古川】新しいペンが出ると、今までそこのポジションにいたペンが殺されるというかたちで、入れ替わっていく。「ジュースアップ」はこれからいろんなペンを殺していく可能性があります。殺すというのはもちろん、比喩ですけど(笑)。でも、それぐらいすごいペンだと思いましたね。
ジュースアップ.jpg

ベスト10入りした新人のジュースアップ

――結構評価高いですね。

【古川】本当に、結構驚いている人がいっぱいいましたからね。やはりキャラクターが立っているペンが健闘しましたね。「ユニボールエアー」とか。握手会で驚かれるペンですよね。

――ちょっと特殊な感じのペンですからね。

【古川】話はちょっと変わるんですが、ある時期まで活字メディアが筆記具のブームを引っ張ってきたところがあると思うんですけど、活字メディアで筆記具について書くのは意外と難しいと思っていて。というのも、ついね、インクの話をしちゃうんですよ。インクは、一応数値があったりとか話がしやすくて、低粘度で始まったボールペンブームということもあり、みんなリフィルとかインクの話をしちゃうんだけど、OKBをやっていてつくづく思うのは、書き味とかの話をするときに、多くの人は握り心地の話をするんですよ。

【一同】あー。

【古川】つまりボールペンの事を語るときには、我々はボディやグリップの話をもっとしなくてはいけないんだけど、それを語る言葉って意外とまだ少なくて。テクニック的に難しいんだよね。「ジェットストリーム」のノーマルとプライムは同じリフィルを使っているんだけど、明らかに違うようなペンを持っている感覚になる。つまり、書き心地としての印象をはかるとき、いかにボディの重心とか太さとか触り心地に依存しているのかというのが、OKBをやると割と如実に出てくるので。

――そうですね。

【古川】そこはね、僕らもちゃんと評価する言葉を持ってないといけない。

【岩崎】確か、「リバティ」も、太くて握りやすいという評価が結構ありましたよ。

【古川】そこも性能だからね。

――「ドクターグリップ」もまさにそうですよね。

【古川】おっしゃる通りです。だから、筆記具というのを、書きやすいから活字側の人間はついインクの話に集約させちゃったりするんだけど。

【岩崎】それしか言いようがないかなと思っちゃうんですけど。

【古川】そうじゃないんだというのは、OKBやるたびに思わされます。

――でも、90年代はどちらかというと「ドクターグリップ」的な思想が強かったですけどね。

【高畑】そうですね。

【古川】まさにそうですね。それで「ジェットストリーム」が新しかったんですけどね。でも、ジェットは多分ボディも強いんですよ。どう考えてもそう言わざるを得ない。

【高畑】それはあるでしょうね。形状とかそっちの方で。

【古川】素材とかもありますしね。その辺はメーカーもどう謳っていいか分からないというのもあるし、使ってみないと分からないところもあるんですけど、それはこの結果に絶対反映しているはずですね。

――でしょうね。

【高畑】過去6年分の順位の変動を見ると、「ジェットストリーム」はずっと1位ですが、「サラサ」は順位を上げて3位にきている。「エナージェル」も安定していますね。

――「エナージェル」は最初8位だったんですね。

【岩崎】最初はweb票が多かったので、思い入れ票が多くて。それで「ハイテックC」が上位だったんです。

――「ハイテックC」は思い入れが強そうですものね。

【高畑】最初そうだったね。

【岩崎】1回目の結果が今と大分違うんですよ。

――今は「ハイテックCコレト」の方を使っている人が多いからでしょうけど、時代が変わったんでしょうね。

【古川】これで潮目が分かるんですよ。

――逆に、「ボールぺんてる」なんて何年発売しているんだという感じで(笑)。

【古川】「ボールぺんてる」はこれより上がりも下がりもしないんだろうけど(笑)。

――安定した感じが。

【岩崎】でも、今回27位でちょっと下がってますね。新メンバーが入ったので。

【高畑】新メンバーが入って、ちょっとずつ押し出されている感はありますね。

【古川】今年がやっぱりでかいんですよ。

【岩崎】新メンバーが強かったということですね。

【古川】色物じゃないメンバーなので。

【高畑】今はそんなにメディアでペンが盛り上がったという気はしないんだけど、今回出てきた新人は、すごい大きな役割を果たしていますね。

【古川】セカンドインパクトぐらいの話ですよ。

――今は、油性よりゲルの方が市場が大きいですから。そういう意味では、地味なんでしょうけど、ゲルで新製品が出てきて盛り上がったのかなと思いますけど。

【古川】今、地殻変動が起きているんですよね、ボールペン全体の。

【高畑】もっと恐ろしいのは、ボールペンの常識を覆してしまう何か新しいものが出てきて、ボールペン全体が過去のものになる可能性も無きにしも非ずですよね。だって、ボールペンが登場する前は、万年筆か付けペンしかなかったんですから。それも含めて、これから10年経ったら分からないですよね。

――これを10年続けて、その先はボールペンじゃないもので48本選ぶかもしれませんね。

【岩崎】そのときに「OKB」のBがどうなるか分かりませんけどね(笑)。

【第6回OKB48選抜総選挙】結果

()内はインクの種類・税抜価格

1位 三菱鉛筆 ジェットストリーム スタンダード(油性・150円)
2位 三菱鉛筆 ジェットストリーム プライム(油性・2200円)
3位 ゼブラ サラサクリップ(ゲル・100円)
4位 ぺんてる ノック式エナージェル(ゲル・200円)
5位 ラミー サファリ ローラーボール(水性・3000円)
6位 OHTO リバティ太軸 水性ボールペン(水性・1000円)
7位 パイロット ドクターグリップ Gスペック(油性・600円)
8位 ゼブラ サラサドライ(ゲル・150円)
9位 パイロット コクーン(油性・1500円)
10位 パイロット ジュースアップ(ゲル・200円)
11位 三菱鉛筆 ユニボール シグノ スタンダード(ゲル・100円)
12位 三菱鉛筆 ユニボール エア(水性・200円)
13位 パイロット アクロボール(油性・150円)
14位 ぺんてる エナージェルユーロ(ゲル・170円)
15位 三菱鉛筆 ユニボール シグノ RT1(ゲル・150円)
16位 OHTO 筆ボール(水性・150円)
17位 ゼブラ フィラーレ ノック式ボールペン(エマルジョン・1000円)
18位 ぺんてる ビクーニャ EX2シリーズ(油性・2000円)
19位 ゼブラ サラサグランド(ゲル・1000円)
20位 パイロット フリクションボールノック(ゲル・230円)
21位 セーラー万年筆 G-FREE(油性・300円)
22位 三菱鉛筆 ユニボール シグノ 307(油性・200円)
23位 パーカー ジョッター ブラックCT ボールペン(油性・2000円)
24位 トンボ鉛筆 ZOOM 505 油性ボールペン(油性・2000円)
25位 ぺんてる ビクーニャ(油性・150円)
26位 パイロット ハイテックC(ゲル・200円)
27位 ぺんてる ボールPentel(水性・100円)
28位 ゼブラ スラリ(エマルジョン・100円)
29位 ラミー ノト(油性・2000円)
30位 パイロット Vコーン(水性・100円)
31位 パイロット Opt.(オプト)(油性・200円)
32位 三菱鉛筆 ユニボール アイ(水性・150円)
33位 パイロット ジュース(ゲル・100円)
34位 パイロット スーパーグリップ(油性・100円)
35位 カランダッシュ 849クラシック ボールペン(油性・3300円)
36位 三菱鉛筆 NO.400 証券細字用(油性・80円)
37位 トンボ鉛筆 エアプレス(油性・600円)
38位 BIC オレンジEG(油性・80円)
39位 三菱鉛筆 ユニボール ビジョンエリート(水性・200円)
40位 三菱鉛筆 パワータンク スタンダード(油性・200円)
41位 ゼブラ ジムノック(油性・100円)
42位 スリップオン 木軸ボールペンL(油性・380円)
43位 パイロット マルチボール(水性・100円)
44位 サクラクレパス ボールサインノック(ゲル・150円)
45位 BIC クリックゴールド(油性・150円)
46位 ぺんてる スリッチ(ゲル・200円)
47位 ぺんてる ハイブリッド(ゲル・100円)
48位 サクラクレパス ボールサイン80(ゲル・80円)

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