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【連載】文房具百年 #63「ガラスのガリ版やすり」 (1)

たいみち

ガリ版・謄写版

 先日、ガリ版のガラスのやすりを入手した。存在するのは知っており、以前から当てもなく探していたが、骨董イベントで売られているのを発見することができた。せっかくなので今回はその使い方について記録を残そうと思う。
 ところで、この連載を読んでくれている皆さんは、ガリ版やその「ヤスリ」を知っているだろうか。実は私自身、ガリ版の本体を持っておらず、使った記憶もないので知識もない。
 知っていることをネットの情報で補填した程度の説明になるが、ガリ版は簡易的な印刷装置だ。正しくは謄写版というが、印刷用の原稿を作るときに、ガリガリと音がすることから、ガリ版と言われている。
 ガリ版は、ガリ版用の原紙(半透明で蝋が引かれている薄い和紙)に文字やイラスト、線、図形などを書いて、それを紙に印刷する道具だ。どういう仕組みで紙に印刷しているのかというと、原紙をガリ版用のやすりの上に載せて鉄筆で書くと、ヤスリの細かいギザギザにより原紙に小さな穴が開く。その穴をガリ版用のインクが通って、紙に写るというわけだ。

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*ガリ版用原紙の箱。

ガリ版用普通のやすり

 ガラスのやすりの前に、通常のやすりを持っていることを思い出し、引っ張り出してきた。持っているだけで使ったことがないので、印刷のまねごとをしてみることにした。ガリ版用の原紙はたくさん持っている。ガリ版本体は持っていないが、スタンブ台で代用できるのではないだろうか。
 よしやってみよう。

 まず、やすりはこういうものだ。漢字で書くと「鑢」である。いろいろな種類やサイズが、形はこれが一般的と思われる。木枠に挟まれたグレーの部分は鉄の塊で、とても重い。目の粗さが裏表で違っており、木枠から取り外してひっくり返せるので、両面使うことができる。他のタイプの目のやすりと入れ替えることもできる。

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*ガリ版用のヤスリ。箱のラベルが気に入って購入したが、あまりに重くて持ち帰るのが大変だった。



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*やすり部分は取り外せる。



 そしてガリ版用原紙と、原紙に書くための筆記具「鉄筆」。原紙はパリパリした触感と透明感に加え、メーカーや商品名のタイトルのデザインが素敵で、使わなくても持っていたくなる。

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*ガリ版用の原紙。薄い和紙に蠟がひかれている。罫線は無地や地図、五線譜などいろいろなタイプがある。



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*ガリ版用の鉄筆セット(テンプレート付き)。先端を付け替えられるタイプ。



 では、実際に書いてみよう。ヤスリの上に原紙を載せて書いてみると、やすりといっても、凹凸はとても細かいので、書きづらさはない。

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 これをスタンプ台の上にのせて、その上から転写する紙を押し付ける方法で出来るだろうか。
 紙はインクが馴染みやすそうなざらっとした紙を使用した。

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 拡大すると、ヤスリの凹凸の跡がわかる。

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 本来のガリ版は、原稿の下に印刷する紙を置き、原稿の上にインクを載せるので反転させる必要はないが、今回はスタンプの要領で転写するので原紙を反転させている。この上に紙を置き圧力をかけて見る。

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 紙が動かないように抑え、指でなぞるように圧力をかけて見た。すると少しかすれているが、思ったよりもクリアに写っている。
 印刷風に何回かやってみると、紙がずれないように気を付ければ、概ねうまくいくことが分かった。

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 調子に乗って、絵を描いて、線もつけてみることにした。線は点線用の鉄筆を使ってみる。

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*鉄筆セットに入っていた点線用の鉄筆



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 線を引くのが下手で曲がってしまったが、いい感じに描けた。
 では、紙に写してみよう。

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 反転させ、描いたところがスタンプ台の中心に来るように置く。

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 紙を置き、指でなぞるように押す。紙にインクが写るのが反対側からも確認できるまで 繰り返す。

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 線が途切れているのと、点線がきれいに写っていないが、まぁまぁの出来かな。

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 同じ原稿のまま何度か繰り返すと、1回目より、2回目以降のほうがインクが浸透しているからか、きれいに写ることが多い。
 これはガリ版ではないが、仕上がりはガリ版風で、ガリ版より簡単でなかなか楽しい。

次回ガラスのやすり

 スタンプ台でも試せることが分かったので、今度はガラスのヤスリの出番だ。
 だが、またここまでで結構長くなってしまったので、ガラスのヤスリは次回に持ち越そう。前振りだけで終わってしまったようなもので申し訳ない。
 ガラスのやすりについて、なぜ紹介しようかと思ったのかというと、私が購入したガラスのヤスリをSNSで紹介したところ、「どうやって使うの?」という質問があり、それに対して使い方を教えてくれた方がいたので、こういう体験に基づく知識はピンポイントでも残したいと思ったからだ。
 小さな知識を残しつつ、実際に現物を見て触ってやってみる。この連載のネタとしては、こういうのもいいなと思っている。

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*先日入手したガラスのガリ版用やすり

プロフィール

たいみち
古文房具コレクター。明治から昭和の廃番・輸入製品を中心に、鉛筆・消しゴム・ホッチキス・画鋲・クレヨンなど、幅広い種類の文房具を蒐集。
展示、イベントでコレクションを公開するほか、テレビ・ラジオ・各種メディア出演を通して古文房具の魅力を伝えている。
著書「古き良きアンティーク文房具の世界」誠文堂新光社
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