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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.70 新春スペシャル ブング・ジャムの2023年文具大予測!?(その3)

文具のとびら編集部

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は「新春スペシャル」として3日連続で、ブング・ジャムのみなさんに「2023年の文具はこうなる!」という予測を語ってもらいました。

第3回目はきだてさんの2023年予測です。

写真左から他故さん、高畑編集長、きだてさん*2022年11月9日撮影
*鼎談は2022年12月5日にリモートで行われました。

仕事の浸食を許すな!

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――最後はきだてさんですね。

【きだて】ちょっとマジメな話をしますとですな、まず昨年の1年間でだいぶ在宅ワークの率が減ったよね、と。みんなわりと出社するようになっちゃった。1週間で在宅2日・オフィス3日とか、どっちもやるけどオフィスワーク多めという感じの人が増えている印象なんですよ。で、オフィスから資料の持ち帰りをして、家にズンと積んどくという機会も増えてきて。となると今後問題になってくるのが、家庭への仕事の浸食なんじゃないかなという気がちょっとしてるのね。

【他故】ほう。

【きだて】プライベートと仕事は切り離したいけど、自宅がどんどんプチオフィス化していく。だとすると、仕事の浸食をいかに防ぐかというところに気を払いたい。

【高畑】まさに他故さんとかじゃないの?

【きだて】他故さんは今どうなの?

【他故】いや、うちの場合は、会社の部署によって全然対応が違っていて、うちの部署は基本テレワークがないのね。よその部署だとテレワークを推奨していて、部員がほとんどいないというところもあるし、ちょっと温度差があるんですよ。

【きだて】それだと、この話はあんまり実感がないか。

【他故】僕に関しては、そもそも書類を含めて機密文書なので、持って帰れないし、会社から支給されたノートパソコンから見られる情報以外は見ることができないので、ピンとこないところはある。

【きだて】文具王はどうなの? 週に1日、2日ぐらいは会社に顔を出してるの?

【高畑】そうだね。そんなに多くはない。元々週2なんだけど、自宅で作業する日もあるので、行ったり、行かなかったりという感じ。僕は元々出社が週5じゃない人なので。ただ、会社全体では、出社比率が大分上がってきている。ほぼほぼ毎日出社している人もいるし、「今日は在宅です」という人があったりなかったりで、大分戻った。前みたいに、ほとんど在宅というのはなくなってきているけど、自宅という選択肢はある。そのためにパソコンの貸し出しもしているし、資料だって差し障りのない範囲だと思うけど、持って帰って仕事してたりするんじゃないの。

【きだて】一昨年ぐらいのテレワーク全盛のときに、みんなテレワークのインカムを揃えたりとか、家で仕事をする体制をガッツリ作り込んでた時期があったのね。

【他故】あったね。

【きだて】ウェブ会議用のブースをちゃんと家にしつらえた人もいたし。

【高畑】仕事用の机を買った人は結構いたよね。

【きだて】それって、今までと比べると確実に仕事が浸食しているということじゃない。

【他故】まあそうだね。

【きだて】だから、決して広くはない家庭の中の相当なリソースが仕事に食われていることになるわけで。「果たしてそれで君たちはいいのか」ということを言っておきたいんだよ。

【他故】おぉ。

【きだて】俺らはフリーランスなのでどうしようもないんだけど。

【高畑】俺らは埋もれてるからな。

【他故】ははは(笑)。

【きだて】俺は、できれば家と仕事場は分けたい派なんだよ。

【高畑】あっ、きだてさんはそうなんだ。

【きだて】ちゃんと事務所を作って、仕事はそこでやりたいんだよ。

【高畑】なるほど。

【きだて】趣味を仕事にしちゃった感があるから偉そうな事は言えないんだけど、でも自宅は仕事から切り離されてるほうがいい。というか、自分のための時間に仕事の匂いをちょっとでも差し挟まれたくない。本当に、仕事が浸食しているという状況を許したくないんですよ。とはいえ、そこの温度差は人それぞれなので、「多少はしょうがないよね」という人の方が多いと思うけど。それでも、これ以上の浸食を許さないために、何かもうちょっと考えるべきだというのが、これからのムーブメントになる可能性がある。

【高畑】家でも快適に仕事をすると言う方向に一回振ったじゃない。家でも、会社にいるときと同じくらい効率的に仕事をしようとしたら、家の机やイスじゃだめだよね、ダイニングテーブルで仕事すると腰が痛くなるよねみたいな話で、事務机を買ってみたり、いわゆるいいイスを買ってみたりとか。それは、どっちかというと、積極的に仕事場を作るという方向に行ったんだけど、「それでいいのか」という話だね。

【きだて】そう。今後考えるべきは、これ以上仕事を家に入れないためにどうするかということ。ただ、入れないと仕事にはならないので。なので、より限定的にというか、結界に近いものを築いていく必要があるんじゃないかと。

【他故】ああ。

【きだて】この結界が展開している間は仕事中だから、このスペースはもうしょうがないけど、「ここから仕事をはみ出させないぞ」とか。電話ボックスみたいなブースの可能性もあるし、それはそれで面積を食うんだけどね。

【高畑】自宅におけるワークとライフをちゃんと分けるための何かが必要ということ?

【きだて】そう。ちゃんと境界線を引けるものを導入した方がいいんではないかと。何の根拠もないけど、自分の感覚として。

【他故】そこをあいまいにさせないということだね。

【きだて】そういう視点で見た上で、去年はいろんなメーカーからデスクマットが出ているのね。あれって、やっぱ結界なんだなと。例えば、ダイニングテーブルなんだけど、デスクマットを敷いた部分だけは仕事をする結界の中だからしょうがないと。でも、ここからははみ出させないようにしようという意志が保てる。境界があれば。

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手軽にワークスペースをつくることができる折りたたみ式「デスクマット〈orino〉」(ライオン事務器)

【高畑】逆か。俺が思ってたのは、デスクマットはどちらかというと、家庭の中に仕事のエリアを確保する意味合いだと思っていたんだけど、「そこから出させない」という逆の結界?

【きだて】そう。

【高畑】ということね。俺が思ってたのは、「しょうゆのビン入ってくるな」なんだけど、じゃなくて「そこからボールペン出すな」ということ?

【きだて】そう。書類とかマウスとかそういった業務的なものを外に出さない。

【高畑】ああ、そういうことね。なるほど。

【きだて】一昨年ぐらいまでは、文具王が言ってる方向性だったと思うんだよ。プライベートの中に、仕事をねじ込んでいかないといけなかったから。なんだけど、もうオフィスにも出るようになってるんだから、逆に考えていった方がいいんじゃない。だから、ビジネスをはみ出させないための結界だと。

【高畑】あーなるほど。

【きだて】デスクマットも機能性が高まって、ちょっと角度をつけてPCスタンドになるとか、そういうようなマットが色々と出てるんだけど、要はその中で完結させたいがための装置なのよ。そこから出なければ、当然結界として働くので、徐々にそういう意識が芽生えてるんじゃないかなと、何となく俺の雰囲気として感じている。

【高畑】家庭に仕事を持ち込むのは仕方ないとして、あんまりはみ出してくるなよと。

――パーティションはどうなんですか?

【きだて】パーティションも、もちろんそういう効果がありますよね。仕切りとして機能するんだから。

【高畑】できれば、仕事をしているときはともかくとして、生活をしているときに、そいつらが出しゃばることを避けたいということね。

【きだて】もっと言えば、例えばナカバヤシのリビガク用の「ハウスタディ」シリーズ。家みたいなかたちの勉強道具を全部しまえるやつとか。あれなんかも、片付けが簡単ということは、当然すぐにプライベートに復帰できるという意味合いを持つわけじゃない。仕事とか勉強に支配された空間が、あっという間にプライベートに戻せますよと。今後は、片付けが楽になりますよという方向にも当然くると思うし。


「ハウスタディ」シリーズ(ナカバヤシ)

【他故】まあ、そうだね。

【高畑】それも、仕事道具を展開することが簡単にできるではなく、実は逆の考え方で、それをしまうのが簡単だと。

【きだて】そう。

【他故】どっちもだけどね。

【きだて】やってることは同じなんだけど、考え方として収納側に行きそうな。

【他故】どっちかというと、定時になったらしまえるものだと。

【きだて】そう。

【他故】定時になったらしまえ。切り離せっていう。

【きだて】それこそ、デスクマットを閉めちゃえば、ここに仕事道具が包まれちゃうみたいな。

【高畑】それを片付けた状態で、あんまり仕事のことを意識しなくていいというのは、いわゆる「ファイルボックスです」みたいなのよりは、そういうのが分からないようなものの方がいい?

【きだて】そう、収納状態にすれば家に溶け込むような。

【高畑】そういうことだね。

【きだて】そういう方向に行くんじゃないのかというのが今年の予想。

【他故】何か分かるな。僕も、一昨年の春にはテレワークをやってたんだよね。一番ひどい時か。あの時は、会社からデスクトップパソコンを送られてきちゃったんで、もうどうにもならなくて、1個机を作って、そこでずっと仕事をして。デスクトップパソコンがあるから、普段から仕事が見えちゃうんだよね。自分としては、やはりそこは切り離したいというのがあって。書類とかはしまえるんだけど、デスクトップパソコンと21インチモニターが来ちゃったから、どうにもならないという(苦笑)。

【きだて】それは嫌だなぁ(笑)。

【他故】家が職場になっちゃったというのが、結局2カ月くらいあったのかな。あれは確かに、気持ち的にもつらかったね。

【高畑】他故さんは特に勤め人だから、家に帰ってきたときに、仕事の状況が見えないようにするというのが、今はできるじゃないですか。

【他故】そうね。

【高畑】他故さんは、家に帰ってきたときには会社の仕事が見られない方がいいということだね。

【他故】明らかに僕もそういうタイプで、切り替わってないとダメなタイプかな。

【高畑】僕ときだてさんは、仕事と趣味が一緒だから。

【他故】まあ、どうしてもね。ない交ぜになっちゃうじゃない。

【高畑】他故さんだと、別に家に仕事がある必要がないから、無い方がいいということね。

【他故】そう。仮に必要があってテレワークをするにしても、現状はノートパソコンが1台支給されているだけだから。それ閉じてカバンに入れちゃえば終わり、何もないという状態にはできるので、それが一番いいし。カバンに入れるんだったら、見えないところに置くとか。

【きだて】他故さんって、家族大好き人間じゃん。

【他故】まあ、大好きだね(笑)。

【きだて】そうなると、家庭内に家族以外のものって不純物じゃん。

【他故】ああ。

【きだて】そんなものを家庭に入れておいていいのかという。

【他故】ふふふ(笑)。

【高畑】なるほどね。分かる。

【きだて】その辺は、例えノートパソコン一つであったとしても、許しちゃいけないと、俺は思っている。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】そうか、なるほどね。

――前にこの鼎談でテレワークグッズを紹介してもらったときに、そんな話をしてましたよね(こちらを参照)。

【高畑】「収納ボックスに全部入れて」という話で。

【他故】ああ、コクヨの「ファイルボックス〈KaTaSu〉」ですね。取っ手が出てくるやつ。

――着る物も、気分を変えるために、仕事中は襟付きのシャツに着替えると言ってましたね。

【他故】ああ、そうそう。そうしないと、家の中にいるのに仕事しているという、今までにない謎の気分になるんですね。ずっとサラリーマンが長いから、会社へ行くときは、スーツなりワイシャツなりを着て行っているので、どちらかというと変身に近いですよね。「俺は、仕事人間に変身して、会社に行くんだ」みたいな。会社を出ると、それが解除されて、真人間に戻るみたいな感じでずっとやってたから(笑)。それが目の前に仕事が来たと。誰も見てないのに、「やっぱり何か変身しとこうとか」という気持ちになるんですよね(笑)。

【きだて】コロナ禍のどうしようもない事態の1、2年だったら、それで我慢できるけど。今後我々は、一生こうじゃん。

【他故】大なり小なりこうだよね。

【高畑】戻らないことも多いよね。

【きだて】多分、戻らないことの方が多いのであれば、プライベートの確保の仕方というものを、改めて考えておかないと。うかうかと仕事の侵入を許しておくと、後々良くないことになるぞと予想してます。

【他故】なるほどね。

【きだて】今だからこそガードしておこうと。

【他故】今から意識しておこうと。

【きだて】そう。仕事を拒否しておこうと。

【他故】仕事を拒否する(笑)。

【高畑】コロナがゼロになれば、全部会社へ持っていけばいいんだろうけど。そうなってない状況の中でやるのであれば、せめてやっている時間以外のあり方とか、使っている時間にしたって、外に対しての浸食はしないという。ああ、なるほどね。

【きだて】それこそ、社用のノートPCにカバーをかけて、家具調にするものすら出るんじゃないかと思っているよ。

【高畑】あ~!いいね、昔の黒電話にかかってたやつ。

【きだて】そうそう、ああいうやつ。

【他故】白いレースとか敷いてさ。

【きだて】ああいうのをかぶせちゃうと、見た目は仕事用にならないからさ。

【高畑】他故さんが家にデスクトップパソコンを置かされたときには、こうペロンとめくれるやつをかけておけば。

【きだて】そうそう(笑)。

【他故】ペロンとね(笑)。

【高畑】花柄のレースのやつをかけておけば。それで、仕事するときはそれをめくって。

【きだて】デスクトップ本体には、木目調のシールを貼っておくべきだし。

【他故】それか、それ専用の机を作る。観音開きになっていて、開けるとデスクトップが出てくるみたいな。閉じちゃうと分からなくなる。

【きだて】そういう工夫をしてでも、オン/オフを分けるという。そういう方向性は、きっと出てくるよ。

【他故】オン/オフは必要ですよ。

【高畑】そうか~、もう大分長い間、オンとオフのない生活をしてきてるな(苦笑)。

【きだて】ねえ、マジで。

【高畑】そこは、奥さんにも悪いと思ってるんだよね。

【他故】ふふふ(笑)。分けた方がいいよ。

【高畑】でも、きだてさんの言っていることが、逆だというのが面白い。仕事場を快適にする話は、これまでいっぱい出てきたけど、そうじゃなくて、家庭側を快適にするというところを、もっともっとやっていかないといけない。まあ、なかったわけじゃないと思うけど、それを強くしていくということだね。

【きだて】本当に、ここ1、2年、文具業界では「テレワークで便利ですよ」という文房具を色々と出してきたけど、その責任をメーカーもとらないといけないよ。

【他故】なるほどね。

【きだて】なので、浸食を防ぐものを色々と考えていきましょう。

――さっき、きだてさんが「ハウスタディ」の話をしてましたけど、リビガク系は応用できそうですね。

【きだて】リビガクは片付けるのが前提になっているのが割と面白いよね。

【高畑】食卓で勉強をしている前提だからね。

【きだて】特に、子どもなんか本当は勉強のにおいなんか残したくないんだよね。

【他故】うん。

【きだて】なので、勉強が終わったら、目に付かないところにバシャッと置いちゃおうという間隔があると思うので。その間隔を仕事にも応用できないか。

【高畑】なるほど。

【きだて】転用可能だなとは思ってるよ。

【他故】うん、そうだね。

【きだて】だから、今ソニックの株を買っておくべきかもしれないよ。本当に俺が言っていたブームが来るとすれば。

【高畑】ソニックは株式公開してるのかな?

――してないと思いますよ。

【きだて】とりあえず、去年が「ニューノーマルに慣れた僕らの欲求」というテーマだったんだけど、完全にニューノーマルが定着した上で、今度大事なのは、「仕事の浸食を許すな」ということだと思います。

お知らせ
ブング・ジャムのみなさんが「2022年Bun2大賞」ベスト文具に選ばれた文具たちについて激論を繰り広げた「ブング・ジャムの文具放談・完全収録版~2022年Bun2大賞を斬る!~」〈前編後編〉をコンテンツプラットフォームnoteで有料公開しています(1記事200円)。ぜひ、ご覧いただき、面白くてためになる「文具エンターテインメントショー」を楽しんでください。
https://note.com/bun2_stationer01/

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」が好評放送中。ラジオで共演しているふじいなおみさんとのユニット「たこなお文具堂」の著書『文房具屋さん大賞PRESENTS こども文房具 2022』が発売中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


「ブング・ジャムの文具放談・完全収録版~2022年Bun2大賞を斬る!~」〈前編・後編〉をコンテンツプラットフォームnoteで公開中。

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