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【文具時評】高機能シャープペンが増殖中
シャープペンシルブームと言われる中で、各社から続々と高機能シャープペンが発売され注目を集めている。そんな、シャープペンシルの動向について、文具のフリーマガジン『Bun2(ブンツウ)』北澤編集長が解説した。
スマッシュ、ケリーetc・・・高額なシャープペンが男子中高生に人気
以前取材した文具店の話では、こうしたシャープペンシルと一緒に皮革製のロールタイプペンケースもよく売れるのだという。なんでも、買ったシャープペンをそのペンケースに挿して、それを満足げに眺めているらしい。
これはちょっと極端な例だとは思うが、確かにシャープペンの購入単価は10年前より上がってきていると感じている。かつては100円程度だったものが今は500円前後のものが「普通」という感覚なのではないだろうか。ゼブラが2015年9月に発表した、全国の小学生・中学生・高校生・大学生を対象にした「シャープペンの使用実態調査」によると、「約6割の学生が1本400円以上のシャープペンを使用している」そうなので、そう考えて間違いないだろう。
その原因は、シャープペンの高機能化が進んだことにある。それに伴い価格も上がってきているが、それでも「買いたい」と思わせる魅力があるということだろう。そんな高機能シャープペンシルが次々と発売されてきているが、その勢いは衰えることがないようだ。以下、主な高機能シャープを紹介してみよう。
高機能化の流れは「クルトガ」から始まった
クルトガ
それまでのシャープペン市場で主流だったのは、パイロットの「ドクターグリップ」に代表される“握りやすさ”や“筆記時に疲れない”ことを考慮したいわゆる“グリップ系”の商品(もちろん、今でもこのジャンルの商品は人気だ)。当時は、文具業界全体で「ユニバーサルデザイン」や「人間工学」の観点から開発した文房具がブームとなっていた時期でもあった。
まさに夢のようなシャープペンであり、発売するやたちまち大ヒットとなった。あまりに売れすぎて文具店になかなか商品が入ってこなかったので、「幻のシャープペン」と呼ぶ人さえいたほどだ。とにかく同社は、クルトガの大ヒットにより、シャープペンのシェアで首位に躍り出る結果となり、シャープ市場の勢力図が大きく変わることとなった。
“折れない”シャーペンがブームに
オレンズ
まず2014年2月に発売されたのがぺんてるの「オレンズ」(500円)。芯が回らなくても細書きができるように、0.2㎜という超極細芯を搭載しており、超極細でも折れずに書ける“オレンズシステム”というパイプがスライドして芯を保護する機構を採用している。同社は0.2㎜芯を1970年代には開発しており、0.2㎜芯を搭載しパイプスライド機構を採用したシャープペンも発売している。「オレンズ」は、その当時の機構をブラッシュアップし、書き心地を向上させているという。
0.2㎜というのが大きなインパクトになったのか、「オレンズ」は品薄になるほどのヒットとなった(翌年には0.3㎜芯タイプも発売)。女子の方が細書きを好む傾向にあるため、女性を意識した丸みを帯びたデザインを採用し、ピンクやイエローなど女子向けのカラーリングもラインアップしていることもあり、女子にかなり購入されているようだ。
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デルガード
そして、その年の11月に発売されたのがゼブラの「デルガード」(450円)。どんなに筆圧をかけても芯が折れない機構を採用した“折れない”シャープペンシルだ。「オレンズ」は、“細書きができる”ところがキモであり、“折れない”オレンズシステムは、あくまでも極細芯で書くためのサポート的な意味合いが強かったが、「デルガード」は、『もう、折れない。』をキャッチコピーに、“折れない”を全面的に訴求している。(こちらの記事も参照)
ノック回数を減らしたいためか、つい無意識に芯を長めに出してしまいがちだが、筆圧をかけ過ぎると当然折れてしまう。しかし、デルガードならば、芯を長めに出しても(同社の公式発表では3ノックまでOK)折れる心配がないから、筆記に集中できるのである。
メーカーが『もう、折れない。』と言い切っているぐらい本当に折れないので、使ってみて驚いた人も多いことだろう。爆発的な大ヒットとなり、発売から2年間で1,000万本も売れたというのだからすごい。
2014年には、プラチナ万年筆の「オ・レーヌシールド」(200円)が6月に発売されている。これは2009年に発売した「オ・レーヌ」の強化版。
その名が示すように、こちらも“折れない”シャープの1種だが、落下などの衝撃で芯の中折れを防ぐ機構を採用しているのがポイント。芯を押さえるチャックから先端のスライダーまで、芯が保護されていない空間があり、そこで芯が折れないようにしているのだ。1mの高さから落下させる実験を繰り返しながら開発したという。“書くときも折れにくいが、使っていないときも折れにくい”のが特徴だ。
それに加え、同社ロングセラーシャーペン「プレスマン」にも採用している“セーフティスライド機構”(筆圧をかけても内部のスプリングによりクッションのように吸収して芯を保護する仕組み)も採用。さらに、残芯0.5㎜まで書ける“ゼロシン機構”も採用しており、同社の持てる技術“全部入り”シャーベンである。
「オ・レーヌシールド」では、芯の中折れを防ぐ強度を従来品の約1.5倍に強化している。実は、当初は書き心地の向上を目指して開発が進められていたものだが、その中でテーパー(先金)を二重構造にするアイデアが出たことで、それが強度アップにもつながったのだという。
オ・レーヌプラス
2016年10月には、その耐芯強度を初代モデルの倍にした「オ・レーヌプラス」が登場したが(450円)、目標を上回る売れ行きとなっているという。
モノグラフ
さらに、この年の注目シャープペンとしてトンボ鉛筆が発売した「モノグラフ」(350円)がある。“細書き”でも“折れない”でもない、独自路線のシャープペンシルである。
その最大の特徴は“消しゴム”。通常、シャープペンの後部に付いている消しゴムはおまけ程度のものだが、消しゴムのトップブランド「MONO消しゴム」が内蔵されているのである。消しゴムは繰り出し式で、通常のものよりは太さも長さもある(直径5.3㎜・長さ26㎜)。「MONO」なのでもちろん消しゴム自体の品質もいい。
消しゴムだけでなく、「フレノック機能」なども搭載しているが、他の機能シャープよりも価格を低く設定しているのがポイント。MONOブランドらしく、青・白・黒の3色デザインをラインアップしているのも心憎い。
高機能シャープの主流からはちょっとはみ出した存在だが、非常によく売れた商品で、「この価格でこれだけの完成度の高いものを出してくるのはすごい」と評価する文具店もあったくらいだ。
同シャープはその後、250円のエントリーモデル「モノグラフワン」、製図用シャープを意識して超極細消しゴムや金属ローレットグリップを採用した600円の上位モデル「モノグラフゼロ」も発売している。
さらに進化版が登場し、百花繚乱に!
オレンズとデルガードは、その後2016年初頭に1本1,000円のメタルグリップタイプ(オレンズ メタルグリップタイプ、デルガード タイプLx)を発売。「もっと高級なかっこいいものが欲しい」というユーザーの要望に応えたかたちだ(クルトガにはすでに1,000円のハイグレードモデルとローレットモデルが発売されている)。
デルガード タイプER
デルガードは、その年の11月に第3弾として「デルガード タイプER」を発売。スタンダードタイプとタイプLxの中間に位置する商品で価格は700円。
折れない機構に加え、消しゴムに特徴を持たせたところが最大のポイントで、逆さにすると消しゴムが飛び出し、それが固定されるのでしっかり消せるという一見手品のような“デルイレーサー機構”を搭載している。芯が折れないことで筆記に集中できるが、消す動作もワンアクションで済むので、「より勉強に集中できます」というのである。
この消しゴムには相当力を入れているようで、「モノグラフ」と同じように通常のものよりも長い消しゴムになっていて、品質もしっかりしたものになっているという。替え消しゴムも2個付いている。
オレンズネロ
一方「オレンズ」は、より高額路線へと舵を切っている。今年2月に発売された「オレンズネロ」は、オレンズのフラッグシップモデルとして位置づけられており、価格も3,000円に設定。高額にもかかわらず発売と同時にすぐに人気に火が付き、売れ切れ店が続出する事態となっている。メディアでも取り上げられる機会が多く、今最も注目度が高いシャープペンとなっている。(こちらの記事も参照)
極細でも折れない“オレンズシステム”に加え、ノック1回で芯が出続ける“自動芯出し機構”を搭載したのが最大の特徴。従来のオレンズが丸軸でカラーバリエーションも多彩だったのに比べ、同社製図用シャーペンの伝統を引き継ぐ12角形の軸と漆黒のボディーを持つなど、その方向性も180°異なるといっていいだろう。
価格といいビジュアルといい、アダルト路線のシャーペンのイメージが強い。しかし、ぺんてるに話を聞くと、実際には中高生がメーンユーザーとなっているようだ。取材した文具店でも、「中学生の男の子がお母さんと一緒に買いに来て、お母さんは金額を聞いてびっくりしていた」と話していたのが印象的だった。
モーグルエアー
さらに、新機構のみならず得意技をからめてきたところが大きなポイントで、同社独自の機構であり「ドクターグリップ」などでおなじみの、ペンを振るだけで芯が出る“フレフレ”機構も搭載している。同社の目標を上回る売れ行きとなっているそうで、取材した店は一様に「売れています」と話していた。
アドバンス
「クルトガ」を発売する三菱鉛筆でも大きな動きがあった。「クルトガ」の機能をさらに強化した「アドバンス」を今年3月に発売したのである。価格も550円と、クルトガのスタンダードモデルより100円高い価格になっている。(こちらの記事も参照)
最大の特徴は、クルトガエンジンの2倍速となる“Wスピードエンジン”を搭載していること。クルトガエンジンは40画で芯が1周回転するが、Wスピードエンジンは20画で1周回転する。これにより、クルトガは「芯の片減り防止」を大きく打ち出しているが、アドバンスは「キレイな文字を書けるシャープ」としてアピールしている。このほか、芯折れを防ぐスライドパイプ方式も採用しているのも特徴で、「美文字+折れない」がこのシャープのキーワードといえるだろう。こちらも発売直後から非常によく売れていて、品薄状態になったほどだという。2016年の発売になるが、オートから「コンセプション」というシャープペンシルが発売されている。スライド式ガイドパイプで芯が折れにくい“折れないモード”と、ガイドパイプは固定してノックで芯の出る長さを調整できる“製図モード”という2つのモードを搭載したシャープだ。価格も1,500円とちょっと高め。
オートでは、今年2月にも「ノノック」(500円)というシャープペンシルの新製品を発売している。プロっぽいデザインの「コンセプション」とは対照的に、アルミボディの見た目も名前もかわいらしいが、ノックなしで書き続けられる“芯の自動送り出し機能”を搭載したほか、ガイドパイプが芯をガードするから折れにくい。
プロユース171
そして、5月にはプラチナ万年筆「プロユース171」(1,500円)が発売。同社の製図用シャーペン「プロユース」の進化版という位置付けで、「オ・レーヌ」にも搭載している折れない“セーフティスライド機構”を搭載しているだけでなく、筆記感が選べる「シュノークシステム」を搭載しているのが特徴。セーフティスライド機構をON/OFFすることで、紙面や芯の状態が伝わる繊細な書き心地と、クッションを利かせて筆圧をかけても折れにくい安定した書き心地の2種類を選ぶことが可能なほか、先端のテーパー(口金)を回転させることで芯パイプの長さが変化するので、定規の厚みに合わせたり、紙面との距離を調節して自分に合った筆記感を得ることができる。
シャープペンは“使い分け”の時代に
一体、そんなにいくつもシャープペンを買ってどうするの? と思うけれど、最近取材したあるメーカーでは、「最近は、1人で何本もシャープペンを持っていて、使い分けをしているようです」という話をしていた。
経済産業省がまとめている「生産動態統計」をみると、シャープペンシルは2014年まで販売数量の減少が続いていた(販売金額はずっと右肩上がりの状態)。しかし、2015年から販売数量は再びプラスに転じており、最新の2016年の調査では昨対103.4%の1億5,982万本という数字になっている。購買意欲をそそる魅力的な商品が増えてきたことも要因の一つだろうが、やはり1人あたりの購入本数が増えているのかもしれない。
近々また新たなシャープペンが登場するという噂もちらほらと聞こえてきているので、まだまだシャープペンのブームは続きそうだ。引き続き、このジャンルに注目していきたいと思っている。
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