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【Kia Ora!文具通信】Vol.1 ペンが1本10ドル⁉ニュージーランドの文具事情

太平洋の南に浮かぶ島国ニュージーランド。豊富な自然環境と多様な人種が集まるこの国では、日本とはずいぶんと異なる文具事情が広がっているようです。ニュージーランドに長期滞在中の文具ライターが、現地で出会った文具のアレコレをご紹介します!
タイトルにある「Kia Ora!」とは、ニュージーランドの先住民族・マオリ族の言葉で「こんにちは」を意味します。親しみを込めた挨拶として、日常的に使われています。

NZでの文具ライフはどう違う?

ニュージーランドの最大都市オークランドで暮らしていても、実は文具屋さんを見かけることはほとんどありません。日本では文具専門店をはじめ、ハンズやロフトといった文具を豊富に扱うお店をよく見かけます。しかしここニュージーランドでは、本屋さんの一角にあるちょっとした文具コーナーや、オフィス用品を扱うお店で見かける程度。しかも、日本メーカーの製品は日本の数倍の価格で売られていることがほとんど。

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筆者がニュージーランドに来てから、驚きの多い文具事情。こうした違いが生まれる背景には、輸入事情はもちろん、言語の違いなど、さまざまな理由があるようです。今回、日本の文具を販売するニュージーランド国内のオンラインショップSmoothPensの代表・三谷 和嵩さんに、文具に関する日本との違いを伺いました。

*SmoothPensは2024年3月にサービスを終了しています

日本のペンが約10ドル⁉ 輸入文具のお値段事情

スーパーやホームセンターの文具売り場に行った際、ボールペン「エナージェル」が2本で24ドル(約2,200円、1ドル=92円換算)程度で売られているのを目にしました。日本で買えば、1本税込253円なので、2本でも506円。およそ4倍の値段差です。
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三谷さんによると、ニュージーランドで売られている文具が高額な理由は、主に輸送費と関税だといいます。三谷さんが日本からニュージーランドへの輸入をしていた際、利用できた輸送方法は比較的安価な船便ではなく、コストのかかる空輸便のみ。船便より早く到着するメリットはあるものの、輸送費が非常にかさむそうです。

また、輸入時にかけられる関税は、仕入れ額のおよそ20%。例えば、定価200円の商品を100円で仕入れた際、約20%の関税がかけられるため、その分の利益を得るには、販売価格を上げざるを得ません。

こうしたことのほかに、輸送時に必要となる梱包や人件費、そして高品質な日本ブランドとしての立ち位置や需要も含めて、販売価格は日本国内よりもずっと高くなるようです。


また三谷さんは、日本人とのこだわりや生活の違いについてもこう話します。
「日本とは違って『物を大切にしよう』といった習慣が少ないので、ペンなどの道具を使う中で壊れやすいのかな。だからこそ、クオリティを求めず『ただ書ければいいや』と50セント程度のチープなものを使う人が多いのかも」と三谷さん。

そもそも、ニュージーランドでは日本よりもデジタル化が進んでいるため、手書きをするシーンがほとんどありません。行政関連の事務手続きなどでもデジタルフォームに入力しオンラインで完結することが多く、実際に暮らしていてもペンを持つシーンは日本よりも少ないようです。

ペンを持つシーンが少ない一方、「書くこと」にこだわる人も一定数いるようです。そうした人にとっては、たとえ1本のボールペンに10ドル払ってでも使いたい対象になるのでしょう。

学校教育の違い

学校教育においても、文具とのかかわり方の違いが見えてきます。
三谷さんによると、ニュージーランドの小学校では「BYOD」と呼ばれるデジタル教育が進んでいるようです。「Bring Your Own Device」の頭文字をとったこの教育は、小学生でもノートパソコンやタブレットなどのデジタルデバイスを学校に持参して、学習に役立てるのだそうです。

宿題に目を向けても、日本語のように漢字をたくさん覚える必要がないため、国語の宿題は例えばエッセイ(作文)など。それもデジタルデバイスで書くことが多く、ノートやペンを使う頻度が日本の児童生徒よりも少ないと言えそうです。

きれいに文字を書くのはアジア文化?

ニュージーランドには、欧米やポリネシア系の人をはじめ、アジア、中南米など、さまざまな国籍やルーツを持つ人が暮らしています。こうした人種のるつぼだからこそ、見えてくる文化の違いがあるそうです。

三谷さんは、オンラインショップを展開していた中で気づいた文化の違いについて、こう話します。
「オンラインショップでは顔が見えないので名前から推測するしかないのですが、中国や韓国などアジア系の名前の人は日本ブランドの筆記具を多く購入していた印象です。一方欧米系の方は、画材を中心に購入していたと思います」。

日本や中国に書道があるように、東アジア圏には「きれいに文字を書く」といった姿勢が根付いているようです。こうしたことから、文字をきれいに書くためのツールが多く生み出され、東アジア圏の多くの人に多く求められるのかもしれません。

日本語ではひらがなカタカナに加え約2,000もの常用漢字を使う一方で、英語で使われるのはアルファベット26文字。三谷さんは「こうした言語の違いからも、ニュージーランドではきれいに書くためのペンやノートは、画材と違ってそう多くは必要とされていないのでは」と話します。

前述したように、ニュージーランド国内にはこだわりを持って文具を使う人も一定数いるため、そうした人々には日本発のハイクオリティな文具は、高いお金を払ってでも手に入れたい対象として映るのかもしれません。

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プロフィール

臼井 遥比(うすい はるひ)

ライター。1995年横須賀生まれ。
地域WEBマガジンや「文具のとびら」で編集や取材・執筆を経験。
2024年2月からニュージーランドに滞在し、「文具」や「暮らし」をテーマに活動中。

ニュージーランドでの暮らしをnoteでも発信中。
https://note.com/haruhiusui16

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