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ぺんてるの技術を結集した究極のシャーペン「オレンズネロ」

0.2㎜または0.3㎜芯でも折れずに書けるシャープペンシルとして大人気なのが、ぺんてるから発売されている「オレンズ」。その「オレンズ」のフラッグシップモデルが2017年2月に発売され、話題となっている。その名は「オレンズネロ」(0.2㎜、0.3㎜)。税抜3,000円という価格にもかかわらず発売当初から大ヒットとなり、文具店の店頭では今もまだ品不足が続いているようだ。ぺんてるが「半世紀にわたり追求してきたシャープペンシル技術を結集した究極の逸品」と言い切る「オレンズネロ」の全貌を探るため、同社商品開発本部シャープ企画開発部丸山茂樹部長のもとを訪ね、誕生秘話や機能、こだわった部分などについて伺った。

超極細芯でもパイプのサポートにより折れずに書ける「オレンズ」

オレンズ1.jpg「オレンズ」シリーズ全アイテム。左からスタンダードモデル、メタルグリップタイプ、ラバーグリップ付きタイプ、そして新登場の「オレンズネロ」。「ネロ」以外の3アイテムは、女子にも訴求した丸みを帯びたデザインで、軸色のカラーバリエーションも豊富。

「オレンズ」は、2014年2月に0.2㎜芯タイプが登場(税抜500円)。「きれいにノートを取りたい」という学生のニーズに応えるために開発されたシャープペンで、それまでになかった超極細書きができることから大反響となり、一時は品薄になるほどの大ヒットとなった。

超極細芯でも折れないのは、芯が減るのに合わせて先端パイプがスライドする“オレンズシステム”を搭載し、「芯を出さないで書く」という新しい使い方を可能にしたから。ノックを1回すると芯ではなくパイプが現れるが、そのパイプが常に芯をサポートしているので、不思議なほど芯が折れないのだ。ちなみに、ノックをするのはこの1回のみ。このルールを守っていれば、芯が折れる心配はまずないだろう。

オレンズシステム.jpg

0.2㎜という超極細芯が作れるのはぺんてるだけなのだが、実は「オレンズ」が発売されるかなり以前、1970年代に0.2㎜芯は発売されており、1973年には世界初となる0.2㎜芯「シャープスライド0.2」が発売されている。

「パイプがスライドして芯を保護するというコンセプトはどちらも一緒です」と話す丸山さん。ただし、「シャープスライド0.2」との最大の違いは書き心地。「オレンズ」では、パイプの先端のエッジを減らすことで、従来のシャープペンシル同様の書き心地を実現しているのだ。

「オレンズのパイプの先端は丸くなっていて、紙面に引っかかりにくくなっています。そこに時間を相当かけて開発しました」。

また、シャープ芯自体の書き味が向上していることも、1973年当時との違いの一つ。現在、ぺんてるが発売しているシャープ芯「シュタイン」は、折れにくいのになめらかな書き味で定評があるが、その0.2㎜芯は「オレンズ」での使用に最適だという。

0.2㎜に続き、翌2015年1月には「0.3㎜タイプ」(税抜500円)が登場。さらには、同8月に「ラバーグリップ付きタイプ」(0.2㎜、0.3㎜、同600円)も登場して好評を博している。そして2016年1月には、1本税抜1,000円の「メタルグリップタイプ」(0.2㎜、0.3㎜)が登場。超極細芯で折れずに書けるという機構はそのままに、ローレット加工を施した握りやすく滑りにくいメタルグリップを搭載。製図用シャープペンシルのように低重心で安定した書き心地を実現したほか、上質なマット調の質感にこだわり高級感を演出している。

「オレンズネロ」には“自動芯出し機構”をプラス

オレンズ01.jpgオレンズ02.jpg「オレンズネロ」はパッケージにもこだわった

そうした「オレンズ」シリーズの頂点に立つのが、今回発売された「オレンズネロ」。従来品と同様に、超極細でも折れずに書ける“オレンズシステム”を搭載しているが、それに加えて新たにノック1回で芯が出続ける“自動芯出し機構”を搭載したのが最大の特徴だ。芯径0.2㎜でこの機構を採用するのは世界初になるという。ペン先のパイプが紙面から離れるたびに、自動で芯が出てくる仕組みで、わずか1回のノックで極細の文字を書き続けることが可能になった。

オレンズ3.jpg同社の実験によれば、ノック1回で太宰治の『走れメロス』全文を清書できるとのこと(0.3㎜)。ちなみに、「オレンズネロ」をアルファベットで表記すると「orenznero」になるが、英文で左右どちらから読んでも同じになる。もちろんこれは偶然ではなく、「自動で書き続けられる」ことと、イタリア語の「nero(黒いという意味)」を込めて、このネーミングに決めたという。

「オレンズは超極細芯なので、一生懸命に書くと芯の減り方がちょっと早いです。その度にノックをするのは手間だなと自分で使っていて感じていたので、自動芯出し機構を採用したらどうかと考えました」と丸山さん。

自動で芯を送り出す機構自体は昔からあるもので、同社では1982年に発売した「テクノマティック0.5」がその元祖になるという。その時は、先端を押しつけることで芯が出る仕組みだったが、翌1983年に発売された「テクノクリック0.5」は、パイプが紙面から離れる度に芯が出る機構に改められている。これは、「オレンズネロ」に採用した機構とほぼ同じものなのだそうで、この「テクノクリック」が直系の祖先ということになるだろうか。

オレンズシステムとこの機構を組み合わせることでの苦労を伺ったら、「機械でのテストでは問題なくても、いざ人の手で書いたときの筆記感に問題がありました」と丸山さん。その時の試作品があったので、ちょっと使わせてもらったが、確かにガリガリして書きづらい。芯が自動で出る作用は筆記時に抵抗を生むが、その力を弱めると今度は芯が出てこないので、「パイプスライドと自動芯し機構を両立させ、なおかつ書き心地にこだわり、適度に芯が出るようにする仕上げが難しかったです」という。

そして、「より難しかった」という問題があったという。実は、自動芯出し機構を使った商品は20年以上も作られておらず、そのノウハウが途切れていたのだ。

「技術そのものが埋もれかけていたので、それを引っ張り出してくるのが大変でした。“何故今さら?”という声もありましたが、“これしかないだろう”と考えていたので」と丸山さんは言うが、当時のことを知る定年間近の先輩技術者などに教えてもらいながら、開発にこぎつけたそうだ。

ぺんてる高性能シャープのDNAを継承

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ぺんてるの歴代高性能シャープ

機構面だけでなく、デザイン面でも同社製図シャープのDNAを受け継ぎ、“12角で黒軸”というデザインを採用しているという。ちなみに、口金が見やすいように先端を細くデザインしているが、これもぺんてるが他社に先がけて最初に行ったものだという。

「製図は、シャープペンを回しながら書いたりするので、丸軸が最適ですが、それだと転がりやすいので、一番丸に近い12角にしています。握りやすくて筆記しやすいかたちです」。

オレンズ5.jpg

12角形の一体軸

また、持ち心地も重視し、ボディの素材には樹脂と金属を混ぜ合わせた素材を採用。「樹脂と金属の粉を混ぜて、それを射出成型していますが、そのバランスを上手くとって開発しています」と丸山さん。バランスは重要なので、この素材はどうしても必要だったそうで、「昔ながらの技術だけでなく、新しい素材も使っているのです」という。


オレンズ6.jpgバランスにこだわった低重心グリップ

税抜3,000円という高価格にもかかわらず中高生に大人気

メカにも素材にもこだわり、従来のオレンズよりもかなり多くの部品点数を採用、しかもそれをほぼ手作業で組み立てているという。こだわり抜いただけにシャープペンシルとしては高額の税抜3,000円という価格になった。価格だけ考えると安いとは言えないが、さまざまなこだわりが詰まっていて、しかも手作業で組み立てている話を聞くと、逆にもっと高い値段でも良かったのでは? とも思ってしまう。

「使っていただかないと意味がありませんので、3,000円に収めないとだめだろうと考えました。技術面もデザイン面もあまり妥協はしていませんが、そこに焦点をしぼり、努力しながらコストを下げて開発しました」。

価格やデザインから「大人が使うのでは」と勝手に予想していたが、実際には中高生によく買われているという。0.3㎜タイプの方が人気で、それは従来のオレンズと同じ傾向だという。

文具店の店頭をのぞいてみると、「オレンズネロ」は欠品中というところが目立つ。手作業なので大量生産は難しいという面もあるが、同社の予想をはるかに上回る売れ行きで、「ご迷惑をおかけしましてすみません」と丸山さんも平謝りだ。同社は、「オレンズネロ」のユーザーのことを「オーナー」と呼んでいるが、「日本全国の人にオーナーになってほしいです」とのことで、そのためにも現在鋭意生産中とのことだ。

フラッグシップが登場したので、「オレンズ」もこれで完成形と思いきや、「まだまだ色々と考えないといけません」と丸山さんは言うので、今後も何か新しいものが出てくることを期待して待つことにしよう。

「オレンズ」シリーズの主なラインアップと価格

「オレンズ0.2」税抜500円
「オレンズ0.3」税抜500円
「オレンズ ラバーグリップ付きタイプ0.2」税抜600円
「オレンズ ラバーグリップ付きタイプ0.3」税抜600円
「オレンズ メタルグリップタイプ0.2」税抜1000円
「オレンズ メタルグリップタイプ0.3」税抜1000円

「オレンズネロ0.2」税抜3000円
「オレンズネロ0.3」税抜3000円

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