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「パーカー」の初代ボールペン「ジョッター」が60余年も愛され続ける理由とは②

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千葉 勇

3カ月連載/第2回

常に時代をリードし、歴史に残るセンセーショナルな筆記具を生み出す「パーカー」が、初めて商品化したボールペンが「ジョッター」である。連載の第2回目では、「ジョッター」の開発秘話から発売当時の卓越した特長や大絶賛された品質、そして「ジョッター」をさらに有名にした歴代のペンまで、その歴史を紐解いていく。

「ジョッター」開発秘話

「ジョッター」の話に入る前に、まずボールペンの歴史を振り返ってみたい。

1884年、アメリカの銀行員ジョン・ラウド(John J. Loud)がボールペンの原型を着想。インク漏れを防止できなかったため実用化できず。
1938年、ユダヤ系ハンガリー人のビーロー・ラースロー(Bíró László József)が世界初の近代的ボールペンを考案。イギリスで特許を取得。
1940年、ビーロー・ラースローがアルゼンチンに移住し、会社を設立。
1943年、アルゼンチンでも特許を取得し、Biromeというブランド名で販売。
1945年、ビーロー・ラースローの特許を買ったエバーシャープ社やレイノルズ社が量産化し、アメリカでボールペンブームが起きる。

このように1940年代後半になると、ボールペン市場は急激に拡大を始める。一方、「パーカー」は創業者の息子ケネス・パーカーがボールペンに関する初の特許を申請(1945年3月22日)するなど、ボールペンの開発を進めていた。万年筆市場では成功を収めていた「パーカー」だが、ボールペンについては慎重な姿勢を崩さなかったという。それは当時、市場に出ていたボールペンは製品の欠陥とインクの不具合が多かったからで、この時点での参入は時期尚早と判断し、参入を見送ったという。

その後もボールペン市場は成長を続け、1953年頃までには万年筆の売り上げを超える勢いで市場を拡大していた。そして、同年9月になり、いよいよ「パーカー」もボールペン市場に参入する決定を下す。こうして『パーカー ボールペン開発プロジェクト』がスタートする。プロジェクト名は「オペレーション スクランブル」(スクランブルとは軍用機の緊急発進の意味)で、その目的は90日間で「パーカー」初のボールペンを完成させること。

また、指針として示したのは、今までにない耐久性、市場に長く息づくボールペンの完成であり、以下の条件を満たすものであることが求められた。

・安定したペン先―書き味が一貫して滑らかであること
・インクの持ちの良さ―今市場に出ているブランドの5倍以上の筆記距離であること
・ペン先が格納できる構造―必要な時にすぐに筆記できること
・耐久性のあるボディ―頑丈で劣化しないこと
・美しいデザインで高級感があること
・信頼のブランド―「パーカー」の名に恥じぬ品質であること

そして、およそ10年の研究期間を経て、ようやく「パーカー」の理念に合った商品の開発に成功する。その商品が「JOTTER(ジョッター)」である。「ジョッター」とは本来、メモ帳の意味だが、試作品プロジェクト時代から「ジョッター」という商品愛称は使われていたそうで、このほか“number one”や“mark one”が最終候補に残っていたという。広告代理店のリサーチを経て、正式に「ジョッター」と命名したのは1954年12月16日のこと。

「ジョッター」がどれほど優れていたか

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ダン・パーカー(創業者の孫、写真左)、新製品「ジョッター」を持っているパーカーペンカンパニー社長のブルース・ジェフリーと共に



1954年1月5日、ついに「パーカー」が初めてボールペンを発売することをプレスリリースで発表した。そのプレスリリースには次のような商品特長が記載された。

・1本の替芯で、これまでのボールペンに比べて約5倍の筆記距離を実現(インクタンクに通常の芯より2~3倍のインク保有が可能に)

・ノックするたびに芯が1/4回転することにより、ペン先のボールが2~4倍長持ちに(当時、市場に出回っていたボールペンの70%以上の不具合がペン先のボール劣化によるものだった)

・ナイロン製のボディとステンレススチール製のキャップを採用したことにより、ひび割れなどしない丈夫なものに(当時主流だったプラスチック製のものは割れやすかった)

・インクはペン先のボールを腐食させない中性タイプで、水や光の影響を受けない。さらに5色のインクは、ほとんどの繊維についてしまっても染みが落ちる優れもの

開発をスタートしてから発売するまでに10年の歳月を費やしただけあって、「ジョッター」には上記のような現代のボールペンの礎を築いた革新的な技術が詰め込まれた。

「ジョッター」ブームの到来

「ジョッター」は発売に先駆けてテストマーケティングを実施した。その結果は消費者に大変好評だったようで、カンザスシティのある消費者は、「このペンで書くとき、品質の高い筆記具を使っている感じがするの」と大絶賛したという。

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斬新なマーケティングの試み
「ジョッター」の販促品として3~5フィート(90~152cm)の大型ディスプレイをペンセクションに設置した。今までは半分のサイズの販促物しか置くことができなかったことからも、「ジョッター」に対する期待の大きさが伺える。


テストマーケティングを大成功させたのち、「ジョッター」は全米の店舗で発売を開始する。価格は2.95ドル(約1000円/ 当時1ドル360円)で、日本の大卒国家公務員の初任給が8700円だったことを考えると、まだ高価な品だったことがわかる。また、ペン先は4種類(XF 0.7mm/F 0.8mm/M 1.0mm/B 1.3mm)、ボディカラーは4色(ブラック、グレイ、グリーン、レッド)、インクカラーは5色(ブルー、ブルーブラック、ブラック、レッド、グリーン)を揃えた。他社のボールペンに比べて約5倍も長く書けるということが評判となり、たちまち人気商品になった。

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実際に店頭に並んでいる「ジョッター」

「パーカー」はさらに優れた品質を求め、1957年7月31日にはニューヨークでプレス発表会を開き、ボールペンだけのために開発したチップ(ボール)「T-Ball(T-ボール)」を紹介した。この「T-ボール」が紙の上で空回りすることを防ぎ、なめらかな書き心地の実現に寄与した。光沢紙に書くとインクが途切れる問題を解決したことが当時としては画期的で、大きな話題になった。ちなみに「T-ボール」の「T」とは、超硬合金タングステンカーバイトのタングステンの「T」の頭文字から取ったもの。このタングステンカーバイトはダイヤモンドの次に固い物質といわれ、ガラスやスチールなどをカットできるほか、耐久性に優れていることから航空機の部品などにも使用されている。

それからおよそ6年後の1963年9月、「パーカー」はかみそりの刃をつくる半分以下のステンレススチールの分量を使ったペン先パーツ(ボールを支えるソケット)でボールペンリフィールの性能を劇的に改善したと発表した。わずか0.2gのステンレススチールを加工して製作されたソケットは当時良く使われていた真鍮やブロンズよりも長持ちし、より均一に滑らかに書くことができた。

70人から成る「パーカー」の研究開発チームは、2年以上かけてソケットに適した材料と製造機械について研究したそうで、材料は最終的にステンレススチールに決定。ちょうどいいサイズの「ロケットソケット」の製作に成功した。

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「ジョッター」をさらに有名にした歴代のペン

「ジョッター」の快進撃はさらに続き、ジョン・F・ケネディの「プレジデンシャル・ペン*」として選ばれる。スターリングシルバーを纏った「JFK シルバークラフト プレジデンシャル ジョッター」は、真ん中にJohn F. Kennedyと刻印があり、記念式典でのサインや来賓へのギフトとして使用された。
*アメリカ大統領の名前が印字されたペン。
第二次世界大戦以降、公的文書にサインをするペンとして代々作成されるようになった。

P139_1.jpgJFK シルバークラフト プレジデンシャル ジョッター


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JFK オリジナルサインが入ったジョッター
ジョン・F・ケネディ・ライブラリーのミュージアムショップで販売されていた「ジョッター」。
ジョン・F・ケネディのオリジナルのサインが刻印されている。


1964年から1965年にかけて、ニューヨーク万国博覧会がニューヨーク市クイーンズ区ブラッシング メドウズパークで開催された。「パーカー」は出展社のうちの1社であり、かつ公式な万国博覧会のペンの作成を任された。また、「パーカー」のパビリオンには世界各国に文通相手を見つけるIBMコンピューターが備えられ、これがソーシャルネットワークの原点になったとも言われている。

P153.jpgNY万国博覧会公式ジョッター


さらに、1995年に公開された映画「007ゴールデンアイ」には、ペン型手りゅう弾に加工された「ジョッター」が秘密兵器として登場した。この「ジョッター」ボールペン型C-4手りゅう弾は、ノック3回で4秒信管が作動し、もう一度3回ノックすると解除されるというもの。もちろん物語上の設定だが、この映画を見て、欲しいと思った人も多かったはず。


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その後も「ジョッター」は進化を遂げ、発売から60年以上経った今もなお変わらぬスタイルで愛されている。

http://www.parkerpen.com/ja-JP/jotter

【連載 第1回】の記事へ
http://www.buntobi.com/articles/entry/stationery/006368/

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http://www.buntobi.com/articles/entry/stationery/006628/

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高畑編集長のひとこと(動画)



動画で「ジョッター」を解説します(18分)。

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