【連載】文房具百年 #76「軸はどこだ? ペン先ばかり出てくるガラスペンの謎」
たいみち
ガラスペンのペン先と軸
文房具店を回っていると竹軸ガラスペン(ガラスペンのペン先が付いているタイプ)とペン先は出てくるのだが、軸が見つからない。全くないわけではないが、ペン先が出てくる量に比べて軸が圧倒的に少ない。
プラスチック製で金属ペンとガラスペン両方つけられるリバーシブルタイプのペン軸や、一部のメーカーの汎用性が低そうなペン先をはめ込むタイプの軸があるのは知っている。プラスチック製は昭和30年代以降くらいと推測すると、ガラスペンのペン先は戦前のものもあるので、プラスチック製以外の軸があったはずだ。この件について、ずっと漠然とした疑問を感じていたものの、いつか軸が見つかるだろうと、まともに考えてみたことがなかった。
だが、今年の春ごろに文房具店で見つけたあるガラスペンがきっかけで、どうにも気になりだしたので、これを機に調べてみることにした。

ガラスペンの歴史
最初にガラスペンの歴史について簡単に紹介しておこう。
人が「紙に字や絵を描く」ということからもっと広げて、ガラス製のペン先で何かを書くところまで広げると、19世紀半ば頃に計測器の記録用でガラス製のペンが使われていた事実に行き当たる。ただこのガラス製のペンは、チューブ型でインクを中から通すタイプだった。
次に1870年頃に、アメリカで布に文字やしるしをつけるためのマーキングペンとして、ガラスペンが登場している。これはペン先に溝があり、インクも外側から流れるので、その後に普及する紙に字や絵を描くガラスペンとほぼ変わらない。
(ガラスのマーキングペンについては、文房具百年「謎のマーキングペン」を参照いただきたい。https://www.buntobi.com/articles/entry/series/taimichi/012568/#anchorTitle2)
*BRIGGS’ MARKING PEN 1870年頃、アメリカ製。
*1890年にアメリカで登録されたガラスペンの特許。US435969 その後、ドイツ人によるガラスペンの特許がアメリカで1890年に登録されており、この頃からいろいろな資料で「ガラスペン」という言葉が見られるようになる。
日本では、明治19年発行の「現行駅逓法令類聚」(郵便や電信などの通信制度に関する法令や通達を集めた法規集)の歳入出項目の「筆紙墨文具」に「水晶筆」の記載があり、これがガラスペンを指している可能性が高く、見つけた中では最も古い記述になる。駅または郵便関連部署で使われていたということになるが、当時国産のガラスペンはまだ製造されておらず、わずかに輸入されたものがあったのであろう。ただ、明治10~20年代は他にガラスペンに関する資料も見つからないことから、この時点での使用は限定的であったと言える。
日本でガラスペンが普及したのは、佐々木硝子が明治35年にガラスペンの製造を始めて以降であろう。
*『現行駅逓法令類聚』下,駅逓局第一部,明19.10. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/796746 (参照 2026-10-12)
双頭のガラスペン先
さて、今回ガラスペンの軸について改めて検討することになったのは、ある文房具店でガラスペンのペン先と軸を見つけたことがきっかけだ。それは一見普通の竹軸のガラスペンだったが、同じ箱の中に双頭の替えペン先が入っていた。小島製作所の「コジマノペン」で、古いガラスペンとしてはよく見かけるメジャーなものだ。
その場で軸についているペン先を引っ張ってみると、外れて双頭のペン先が出てきた。嵌めなおすとぴったり収まってぐらつきもない。
なんと。竹軸のガラスペンのペン先が、交換できるとは新たな発見だ。今まで竹軸のガラスペンは使い捨てのみだと思っていたのだが、もしかして他の竹軸のガラスペンも、ペン先を交換できるのか?
*小島製作所「コジマノペン」。ペンと替えペン先が同じ箱に入っており、ペン先を引っ張ったら外すことができた。そこで早速自宅にある竹軸のガラスペンを、よく見てみることにした。
まずは、同じ「コジマノペン」だ。これももしかして、ペン先が双頭になっているのではないか。または、双頭でなくても、よくある「ねじ式のペン先」が嵌められるかもしれない。
*以前から所有していて小島製作所「コジマノペン」。双頭式ではなく、ペン先の根元も直線上のガラス棒状態だった。ところが残念ながら、手持ちのコジマノペンは、ペン先を引っ張って外すことはできたが、双頭のペン先とも、一般的なねじ式のペン先ともサイズが合わず、交換はできないことが分かった。
*ペン先を外したところに双頭式のペン先を刺してみたが、途中までしか入らない。ねじ式はまったく太さが合わない。穴のサイズを比較してみると、双頭式の軸の方が軸自体の太さも穴のサイズも一回り大きい。 ここであきらめず、念のため佐々木硝子の竹軸ガラスペンも調べてみることにした。
*佐々木硝子のガラスペン。乳白色のペン先と透明のペン先があり、透明の方がペンの先端は細いが、ペン先自体のサイズは変わらない。
*左上:もともとついていたペン先を外したところ。ペン先の根元が直線的な形状で、交換タイプではなさそう。 右上:ねじ式のペン先を嵌めてみるが、軸のサイズが大きく抜けてしまう。
左下:軸の後ろにねじ式のペン先を嵌めてみたところ、嵌まったが偶然であろう。
右下:コジマノペンの双頭式ペン先を刺してみたが、こちらも穴の方が大きく、合わない。
我が家の佐々木硝子のガラスペンからペン先を外し(しっかり接着されていたが、水にしばらく付けたら外せた)、ねじ式のペン先や双頭のペン先をつけてみた。だが、ペン先がついている穴と、交換用のペン先のねじ部分、双頭式のペン先共にサイズが合わず、交換はできなかった。唯一、軸の後ろ側のみいい感じにはまったが、安定感がなくこの使い方が正しいとは思えない。
資料の確認
完全に当初の思い付き(竹軸のガラスペンもペン先交換ができるのではないか)が外れたので、基本に返って資料を調べることにした。
まずは特許。佐々木硝子のペン先の箱にいくつかの特許番号が印刷されている。これを見ていくと大正3年登録の実用新案第32391号が、ねじ式の交換用ペン先についての特許であり、「ペン幹(軸)のらせんを設け、ねじ込む」と記載されている。つまり、やはりねじ式のペン先には、ねじ式のペン軸があるということだ。
*佐々木硝子のペン先を交換するガラスペンの特許。 さらに大正時代のガラスペンの広告を探して確認すると、ちゃんとペン先が着脱できるタイプの軸が掲載されていることが分かった。
*佐々木硝子のガラスペンの広告。「大日本学用品時報」大正14年9月15日号 同じ資料に、矢田製作所というメーカーのガラスペンの広告もあり、こちらはどちらかというとアイデアグッズ的なラインナップであるものの、やはりペン先が交換できるタイプが紹介されている。多少ひねりの利いたタイプも販売されていたということから、当時すでに交換できるペン先が普及していたと考えられる。
*矢田製作所のガラスペンの広告。「大日本学用品時報」大正14年9月15日号 ではなぜ私は、ペン先が交換できるガラスペンの軸を見つけられないでいるのか。
ここで大事なことに気づいた。 そもそもペン先が外れると思ってなかったので、外してみようとしたことがない。
見つけられなかったのではなく、確認していないのだ。骨董市や文房具店で見つかるガラスペンは、ペン先が付いた状態であることが多い。なんとなく「ペン先が付いていない軸があるはず」と思い込んでおり、よく確認しないで「軸がない」と言っていたのだ。これはうかつだった。さっそく、我が家のガラスペンのペン先を、片っ端からねじってみなければ。

ペン先が交換できる軸はずっと前からそこにあった
手持ちのガラスペンのペン先をいくつか引っ張ったりねじったりしてみると、案の定ペン先がはずせるものがいくつか見つかった。パターンとしては、ねじ式で外れるもの、双頭式のもの、外れないもの、ペン先または軸の形状がメーカー固有など特殊のものの4パターンとなる。
[双頭式]
・ペン先が細く根元が膨らんでいる。但し、見た目が同じでも双頭式ではない使い捨てタイプもあるので、ペン先を引っ張ってみないと分からない。なお、この記事のきっかけになった「コジマノペン」以外にも、丸善の双頭式のペンを持っていたことが分かった。
*丸善の双頭式ペン先のガラスペン。[ねじ式]
ペン先を取り付ける根元が太くなっているものが多い。意外だったのは、古いものだけでなく、比較的最近(といっても10年くらい前だが)雑貨店や文房具店で購入したものもこのタイプが多く、実はガラスペンを集め始めた当初から持っていたのに、気づいていなかった。
*ねじ用の溝のあるパーツを取り付けた形態。佐々木硝子の広告の六号、七号、八号と似ている。
*左上:徳利のような形をしている軸は、ほぼペン先を外せる仕様だった。右上:軸に掘られたねじの溝 左下:ペン先を外せることが分かったペン軸。3本のうち右(白)と中央(赤)は比較的最近のもの。 右下:それぞれ「ミツカン硬質ガラスペン」はじめ複数メーカーのペン先をつけてみたところ、大体嵌まることが分かった。
*メーカー間の互換性はあるが、やはりペン軸とペン先が同じメーカーだと、ぴったりときれいにはまる。 なお、最初に少し触れたプラスチックのリバーシブル式軸というのは、片方が通常の金属のペン先、もう片方がねじ式のガラスペンを付けられるようになっているタイプだ。これもごく最近まで製造されており、もしかしたらまだ作られているかもしれない。
*金属ペン先とガラスペン先のリバーシブルタイプ。ガラスペン側を中に格納することでペン先の保護にもなる。 上:もともとセットされていたペン先、下:別のペン先に交換したところ。
[変わり種]
軸の中にペン先を入れて軸の先端の穴からペン先を出すタイプや、チューブ状のパーツに差し込むだけのタイプ、鉛筆にセットできるようになっているタイプがある。
*プラスチックの軸の中にペン先を入れ、先端から出すタイプ。インクは軸の中に入れるのではなく都度付けて使う。
*木製のキャップのようなペン先ホルダーがあり、そこにさして使う。ペン先を刺したまま軸内に格納できる天蓋式。ペン先はねじなどで固定されていないので、サイズがぴったりでないと使えない。他メーカーのペン先との互換性は低いと思われる。
*セルロイドの筒状の端にガラスペンが取り付けられるようになっている。 なお、「ペン先が交換できるガラスペン」という意味では、軸ではなくペン先側に工夫があるタイプもある。
[ペン先自体の形状が特殊]
金属のペン先と同様の金具がついており、金属製のつけペンの軸を使えるタイプがある。この金具のことを「自在付き」というらしい。また、専用の軸があったのか、紙製の筒のようなものが付いているペン先もあった。更にペン先自体に軸に固定するための形状やパーツがなく、どういう軸に付けていたのかわからないものもある。
*金属のペン先の取り付け部分と同じ形状のパーツが付いているタイプ。
*紙の筒が取り付けられているタイプ。軸の形状は不明。
*どういった軸に装着するのかが不明のペン先。別途金具などをつけて使っていたのだろうか。一旦結論
ここまでわかったことで、今回のテーマである「ガラスペンのペン先だけ出てくる謎」は、自分としては一旦解決した。まとめると以下のようになる。
ペン先が交換できる軸は、古くは木製でペン先に合わせたねじの溝が彫られていたタイプとなり、大正時代からすでに存在していた。複数のメーカーが製造・販売を行っており、ちょっと変わったアイデア商品タイプも存在した。
戦後はプラスチック素材の軸が増え、金属ペンとのリバーシブル式が使われるようになったが、旧来のタイプも根強く残っていた。
ペン先と軸は同一メーカーが望ましいが、標準的なタイプについては互換性があり、ペン先と軸が異なるメーカーのものでも大体嵌まるようにできている。(今回いろいろ試した中で確認ができた。)
*いろいろなメーカーのガラスペンのペン先。右上「香文社ノ硝子ペン」がこの中では最も古く、戦前のもの。日本のガラスペン
最後に、ガラスペンが日本で使われてきた背景について、簡単に振り返って終わりにしよう。
ガラスペンの発祥は欧米の方が早かったが、欧米より日本の方が広く、かつ長く使われている。欧米はガラスペンより前に、金属製のペンが普及しており、ガラスペンはさほど広がらなかった。日本でも金属のペンはガラスペンより前に存在したが、なぜ日本ではガラスペンが普及したのか。
その理由としてまず日本語文字の特徴があるだろう。一文字の画数の多い日本語に、細く鮮明な線を引けるガラスペンは相性がいい。
そして次に、墨の使用がある。「インクは消すことができ、改ざん可能」という判断から、明治9年に公的文書におけるインク使用不可の通達が出された。※1その通達は明治の終わりには解除されたものの、「公的文書は墨書き」という習慣が戦後も含めて長く残った。古くは毛筆だったところ、毛筆が一般的でなくなったときに墨書きに適しているのはガラスペンだった。(金属製のペンだと墨が固まってしまう)
第二次世界大戦末期には、金属ペンの代用品として使われた時期もある。
その後、徐々にボールペンにとってかわられ、文房具店の店頭からも見られなくなったが、近年、インクブームに乗って復活を遂げたことは、この連載を読んでいただいている方には周知の事実であろう。
こう考えると、日本におけるガラスペンは生命力があるというか、日本との相性の良さを感じるのだ。ここまで来たら、この先もまだまだ残っていてほしい。
なじんだ文房具が消えていくのは、どの文房具であっても、淋しいものだ。
※1 明治9年のインク使用禁止令:明治9年3月に出された太政官達第29号により、公文書でのインク(洋製墨汁)の使用が禁じられた。 詳細は文房具百年「「西洋の墨汁、東洋のインク」前編」 https://www.buntobi.com/articles/entry/series/taimichi/008313/#anchorTitle4プロフィール
たいみち
古文房具コレクター。明治から昭和の廃番・輸入製品を中心に、鉛筆・消しゴム・ホッチキス・画鋲・クレヨンなど、幅広い種類の文房具を蒐集。
展示、イベントでコレクションを公開するほか、テレビ・ラジオ・各種メディア出演を通して古文房具の魅力を伝えている。



