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【連載】車椅子ライターから見た 弱い力でも使いやすい文具たち #35「軽く握れるホッチキス」

波子

「手の力が弱い」と聞いて、イメージしやすいのは握力の弱さだと思います。
実際に、現在の私の握力は利き手である右手で14~18kg。体調によって多少変化しますが、大体は15kg程度であることが多いです。これは同年代である40代後半女性平均のおよそ半分程度で、10歳女児とほぼ同じ値です。
日常生活ではまださほど苦労しませんが、握る動作は苦手になってきました。

文具の中で「握る動作」を必要とするものの代表格といえるのが、ホッチキスです。
なかなか買い換える機会がないため、もしかしたら随分前に購入したまま、もしくは家に昔からあるものをずっとお使いの方も多いのではないでしょうか。かくいう我が家(実家暮らしです)でも、私が小学生のころに買ってもらったキティちゃん柄のホッチキスがなぜかリビングのペン立てに入っています。今でも使えるんですよね。ちょっとかたいと感じますけれども。

でも実は、もうそこそこ前から、軽い力で握れるホッチキスというものが登場しています。
そして、さらに進化を遂げていたりするんです。

今回は、そんな「軽い力で楽に扱える」ホッチキスを2点ご紹介します。

MAX「サクリフラット」「HD-10TL」

202101namiko1.jpgMAXのサクリフラット32枚 HD-10FL3K。丸みを帯びた形がかわいらしい




MAXから2007年に「サクリシリーズ」が登場したときは驚きました。
ホッチキスに関して、「軽く綴じる」という工夫の仕方があるのだなと知ったからです。
従来のホッチキスより部品を増やして高さを出し、2段階にテコを働かせる「軽とじ機構」によって、約50%程度の力で綴じることができます。
針を100本ストックできるのもありがたい。たくさん使う人には手間が省けますし、使用頻度が低い私のような場合でも「予備の針はどこに仕舞ったかな…」と探さずに済みます。

202101namiko2.jpg

ハンドル上部のポケットに予備の針を100本収納できる



「サクリフラット32枚 HD-10FL3K」は、紙を綴じた針の裏側が平らになる「フラットクリンチ」を搭載しています。綴じた書類を重ねてもかさばりにくく、ファイリングする場合にも省スペースで済み便利です。
しかもなんと、コピー用紙を最大32枚も綴じられます。
重ねて何度も折り畳んだ紙を綴じてみたところ、片手でも軽々と貫通するので楽しくなってきました。
事務員をしていたころ、少し厚めの資料を綴じるときは両手でホッチキスを握らないと針が通らなかった記憶があるんですが、サクリフラットなら本当に難なくスイスイとこなせると思います。

ただ、今の私にとってひとつだけ気になる点が。
それは、私の手が「握る力が弱い」だけでなく「開く力も弱い」ということ。
サクリフラットは、その特長である軽とじ機構のために、かなり大きく開いた形をしています。
そのため、手に取るときに意識して手を大きく広げないと握れないのです。
発売当初にはさほど気にしていなかったのですが、今になって使おうとするとやや難点だなと感じてしまいました。

202101namiko3.jpgサクリフラットは大きく開いているので、一度意識して手を広げて握る



そんな私にぴったりな、新たなホッチキスが2019年に発売されています。

202101namiko4.jpgハンディタイプ(10号)HD-10TL。スタンダードな形は安定感がある



MAXの「ハンディタイプ(10号)HD-10TL」は、一見とても馴染みのある形をしています。このスタンダードな形で、綴じる力は半分という優れものなんです。
軽く綴じられるのにも関わらず大きく開いていないのは「可変倍力機構」によるもの。
「針が紙を貫通し始めてから、ピンポイントで軽とじ機構が働くように、テコ比を変える技術」で「軽とじ機能と握りやすさを兼ね備えたホッチキス」が出来上がったわけです。すばらしい。ありがとうMAXさん。

202101namiko5.jpg手をさほど広げなくても握れる。親指を当てる部分の先がやや反っているのも持ちやすい



大きく手を開かなくても握れるので、とても扱いやすいです。
そして、もうひとつ、私にとってすばらしいと思った利点があります。
なんと、このホッチキスは立てて置いておくことができるんです!
これは、綴じ位置が先端から約5mmの位置にあり、「際とじ」と呼ばれるギリギリの位置に綴じられる特長によるもの。ヘッド部分が平らになっていて、際とじをしたい壁(パッケージ等)に突き当てやすくなっているので、立てても安定するのです。

202101namiko6.jpg立てて置くと手に取りやすい



これまでの連載をお読みいただいている方なら「ああ好きそうだな」と思ってくださったかもしれませんが、そうなんですよ、私は「立てておける」文具にとても魅力を感じます。
なぜなら、立てて置いたものは手に取りやすいからです。
平らに置いたものをつまみ上げるよりも、サッと掴みやすいんですよね。

202101namiko7.jpg本体を180度開いて針を150本入れられる



針は150本入れることができ、この数を連発できます。
一度に綴じられる最大枚数は20枚。書類を差し込む開口部がかなり大きめに開いていて、差し入れやすいのも嬉しいです。

202101namiko8.jpg書類の差し込み口は15mmとかなり広い



ひとつだけ残念なのは、フラットクリンチではないこと。従来のホッチキスと同様に、綴じた裏側の針がややふくらむので、複数の紙束を綴じて重ねたときにかさばってしまいます。
でも、それでも、この握りやすさ・手に取りやすさはなにものにも代え難い…!
私にとってはとても嬉しい出会いでありました。

202101namiko9.jpg左がサクリフラット、右がHD-10TLで綴じた針



202101namiko11.jpg並べてみると、ハンドルの開き方がかなり違うことが解る




202101namiko12.jpg並べて正面から見ると、HD-10TLの下部が手前に傾斜して差し込み口を広げているのが解る




202101namiko13.jpgパッケージにはそれぞれの特長が表示されている




手の大きさや開きやすさによって感じ方は異なるかと思いますが、もし今お使いのホッチキスがちょっと使いにくいなと感じている方は、ぜひ一度お手に取ってみてください。
文具の進化を体感していただけると思います。

■これまでにご紹介した「手を開く力が弱い」場合に便利な文具

#6「使いやすい携帯はさみ」
https://www.buntobi.com/articles/entry/series/namiko/007993/

■これまでにご紹介した「立てて手に取りやすい」文具

#33「手に取りやすいテープのり」
https://www.buntobi.com/articles/entry/series/namiko/012770/

#20「手に取りやすいスティックのり」
https://www.buntobi.com/articles/entry/series/namiko/010391/

#1「持ちやすいレターオープナー」
https://www.buntobi.com/articles/entry/series/007406/

プロフィール

波子
1974年生まれ。脊柱側弯症、先天性ミオパチーのため、2006年に杖歩行となり、2012年から車椅子、2014年12月から簡易型電動車椅子を使用。便利な道具や文具が好き。
奈良県奈良市で生まれ育ち、大阪・東京での暮らしを経て現在奈良市在住。
産経新聞奈良版および産経WESTにて連載「車いすでみるなら」2015年2月~2019年5月、全70回。
ブログ「車椅子、ときどき杖。」http://nam-kid.hatenablog.com/

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