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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.68 「2022年度グッドデザイン賞」から注目文具をピックアップ!(その3)

文具のとびら編集部

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は、「2022年度グッドデザイン賞」からブング・ジャムのみなさんが注目する文具を紹介してもらいました。

第3回目はきだてさんが注目する「人間工学電卓シリーズ JE-12D/ DE-12D」です。

(写真右からきだてさん、他故さん、高畑編集長)*2021年11月9日撮影
*鼎談は2022年10月25日にリモートで行われました。

打ちやすさを追求した電卓

カシオ.jpg

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――最後はきだてさんです。

【きだて】カシオ計算機の「人間工学電卓」です。みんな使った?

【他故】有楽町で触ってきた。

【高畑】僕も触るだけ触った。

【きだて】これが面白いのがさ、まず試しにこれで15分くらい計算100問やって、後で普通の電卓に戻って計算を100問すると、普通の電卓が使いづらくてしょうがないんだよ。

【高畑】ほぉ。

【きだて】人間工学電卓で「入力が速くなった」とか「快適」とか、そういうのでは全くなくて。

【他故】うむ。

【きだて】ただ、すごい自然に使える。そこから今までの電卓に戻ると、さっきまで使えてたものがが使いづらく感じるという、不思議な使い心地。

【他故】そうか、そこまでいくか。

【高畑】きだてさんが、修正テープの「モノエアー」が出たときに、「気付かなくていいところに気付いちゃった」って言ってたのを思い出した(笑)。

【きだて】いや、そうなんですよ。「ブレン」なんかも同じだよね。「余計なことに気付かせやがって」系。

【高畑】それで打ちやすくなった以上に、今までのが打ちにくくなった(笑)。

【他故】ははは(笑)。

【きだて】盤面に3°の傾斜が付いていて、右手で押すと…。

カシオ・人間工学電卓シリーズ.jpg

【高畑】いわゆるエルゴマウスみたいに。

【きだて】そう。エルゴマウスよりも傾斜がわずかなんだよ。エルゴマウスは楽なのが分かるんだけど、こっちの電卓はこれになったぐらいでそんなに楽か? と思ったんだけど、意外とこれがよかったという。

【他故】お~。

【きだて】「これでよくなりました」と自信を持って言えないんだけど、「これのせいで従来電卓が悪くなりました」とは言えるんだ。

【他故】ははは(笑)。

【きだて】どうすればいいのかな、これ。

【高畑】製品としてどうなのかという話でもあるけど。

【きだて】だってさ~。

【高畑】面白い。俺はそこまで使い込めていないので。

【他故】俺もそう。

【きだて】これのせいでプレミアム電卓の「S100」がすごく使いづらくなっちゃうのって、すごくもったいないじゃん(苦笑)。

――3万円の電卓ですね。

【他故】究極と呼ばれたものが(苦笑)。

【きだて】なにしてくれてんだ、という。

【高畑】なるほど。

【きだて】この階段キーというか、ななめになってるのが効くのと、あと面白いのが右手専用なのね。

【他故】まあ、そうだね。

【きだて】なんだけど、そもそも右手で電卓を打つ人って、仕事でフルに使ってる人ではないでしょ。ガチで電卓を使うときは、左手で入力して、右手はペンを持って書いたりするでしょ。

【他故】そうだね。

【きだて】この電卓、普通に1万円するので。

【高畑】本格実務電卓系だよね。

【きだて】電卓に1万円出す人は、果たして右手で使うのか?という。

【高畑】そこだよ。俺が聞きたかったのはそこなんだよ。

【きだて】その辺りちょっと釈然としないのは確かだな。

【高畑】あと、右左でスイッチする人いるじゃん。業務内容によって、マウスを右手で持っているから左手で叩いてるという人もいるんだよね。電卓と本気で格闘するときは、左手で書類をめくって、右手で電卓を持つという人もいて。割とどっちもアリで、両方で打てる人も結構いるんだけど。だから、右利き用というのが、結構引っかかってるんだよ。

【きだて】1万円する実務電卓系であれば、左手専用にすべきだったんではないかというね。

【高畑】どっちだろうね。電卓検定とか、究極的に速いやつをやってる人だと右手かもしれないじゃん。

【きだて】いや、どうだろうね。

【高畑】両方とか左手の人もいるのかな。

――みなさんはどちらなんですか?

【きだて】僕は両方使います。

【高畑】両方で使う。その時によって置きやすい方。

【きだて】昔は、左手で入力する練習も多少はした。

【他故】ああそう。僕は右でしか打てませんね。

――私はよく考えたら、左でしか打ってないですね。左利きだからというのもあるかもしれませんが。

【高畑】PCのテンキーパッドは左に持ってこないな。

――キーボードと一体型だったら右にありますからね。

【他故】僕も右だな。

【きだて】計算結果を書き留めるときなんかは、一々ペンを持ち直すんだ。

【他故】そう。持ち直して書いて、電卓に戻るときはペンを投げる。

――やっぱり、利き手が関係してるんですかね。

【高畑】かな。あるはあると思うけど。確かに、左手を使う人は結構いると思う。

【きだて】例えば、左利きの会計士の人とかがこれを使うのはいいのかなとは思っただけどね。

【他故】右手で打つから。

【きだて】そう。利き手でペンを持って、逆手で計算機を打つというのであれば。

【高畑】何とかならんものかね。どっちにでも傾斜がつく方法とか。素人目には、ちょっと立てるとかでいかないものかなと思うけど。

【きだて】ていうのと違うんだよ。

【他故】違うの?

【きだて】要は、キートップ自体は、水平面を真上に向けてるんだよ。傾いてない。

【高畑】いわゆる、段々畑状態になってるんだよね。

sub4.jpg

【きだて】そうそう。“階段キー”とカシオでは言ってるんだけど。

【高畑】そこはあれだよ…どうなんだろうね?

【きだて】普通の電卓に傾きをつけて使ってみたんだけど、明らかにそれとは違うんだよ。

【他故】そうか。

【きだて】俺の中では、これを見た瞬間に「面白い」と思って、使ってみて「なるほど」という納得は得られたんだけど。納得を得られたことで、「それでいいのか」というモヤッと感が高まるという。なかなかに難しいアイテムなんですよ。

【高畑】少なくとも、右手で打っているときは、ちゃんと機能するんだよね。

【きだて】うん。普通にパパパッと打てるし。ブラインドタッチもしやすいし。あと、左側のキーを打つのが楽なので。例えば「Clea」とかを打つのはすごい楽。フラットな計算機だと、クリアをするときに、意識して人差し指をグッと力強く伸ばすとかしてたのよね。それが、階段キーになると、割と自然にポンと指が届くの。

【他故】ほう、そうかそうか。

【きだて】盤面左側にあるキーを、こっちに向けて突き出してもらってる感じ。操作自体は全体的に楽になってるはずなんだけど、う~ん。すごく気に入ってるんだけど、何て言ったらいいかな。ムズいな。

【高畑】慣れるほどまでは俺も打ってないけど、確かにフィット感はあるんだよね。ある種のフィット感はすごくあって。コクピット感というか、ちゃんと自分のところにある感じはするんだよね。

【きだて】うん。

【高畑】右利き専用というマシンが、電卓というものの使われ方に、色々と考えるところはあるよね。

【他故】でも、右手用を出したということは、カシオのリサーチの中で、右手で使ってる人の方がさすがに多いんじゃないの。

【高畑】とは思うけどね。

【他故】それで、これがちゃんと売れたら、左手用も出るんじゃないの。

【高畑】いやどうかな。

【他故】僕もちょこっといじったぐらいなので、打ちやすさまでは分からなかったけど、きだて氏と違って、俺はこれを仕事で使いたくてしょうがないのよ。実は。

【きだて】はいはい。

【他故】今はお金がなくて買えないけど、ぜひこれは仕事で使いたいと思ってるのね。このキーを選んだのが気になってて。「日数/時間」キーがあるんだよ。

【きだて】ああ、あるね。

【他故】「日数/時間」キーがある高級機って、すごく興味があるのよ。

【高畑】あっ、そうなんだ。他故さんは、人事系の仕事だっけ?

【他故】そう、これでやると時給の計算がすごい楽なの。だから、そういう人たちが未だに電卓を使ってるんだよ。そういう声があって、このキーが選ばれたと思ってるんだよ。

【高畑】なるほど。

【他故】なので、この電卓は仕事上欲しいんですよ。

【高畑】時間キーが入っている高級電卓というか、本格実務電卓ということ?

【他故】高いのってよく知らないんだけど、むしろ安いのには入ってるんだよ。1,000円、2,000円のには。

【きだて】そうだね。確かに、その辺で見たことはある。

【他故】その辺にはあるけど、高いのはどうかな。俺が見てないだけかもしれないけど。

【きだて】ないことはないと思うんだけど。

【他故】ちゃんと調べてないから、後で調べて「すみませんでした」となるかもしれないけど(笑)。

【きだて】カシオのサイトに、「日数・時間計算タイプ」というのであるよ。9,000円台とか。

【高畑】あるはあるんだ。

【きだて】1万円の実務電卓でも、そういうタイプとして別にあるよ。

【他故】あるんだね。じゃあ、僕の思い違いだな。

【きだて】でも、他故さんの「右手でしか使わない」というのであれば、これは全然買ってもいいと思うんだよ。めちゃめちゃ面白いので。

【高畑】そうね。右手で使うんだったら、何も困ることはないし。

【きだて】ただ、一つ言っておくと、他の部署に行って「ちょっと電卓貸して」といって使うときに、相当使いづらく感じるようにはなる。

【他故】なるほど。それと。僕の手元にある「S100」が使いづらくなると。

【きだて】そう。「S100」が使いにくくなるのもったいなくね(笑)。

【高畑】機械としての汎用性がなくなるという。

【きだて】機械側から人間に合わせていくカスタマイズものってすごく好きなんだけど、ただカスタムが行き過ぎたせいで、周りの機械に迷惑かけちゃうという(笑)。

――きだてさんのコメントが微妙なんですけど(苦笑)。

【きだて】いやまあ、それぐらい体にフィットするという話です。

――そのぐらい究極にすごいということですよね。

【きだて】うん。しかも、使ってるときに違和感は全く感じないというのが、本当に面白い。だから、自分にとってよっぽど自然な姿勢で使えているんだろうね。

【他故】そういうことだろうね。

【きだて】というわけで、電卓のかたちの正解の一つとしては、相当にアリ。日頃仕事で電卓を使っている他故さんに、これを使ってもらって感想を聞きたいね。

【他故】正直に言えば、これまで高い電卓をそんなに経験したことがないわけですよ。大体が、1,000円、2,000円で買えるクラスものしか使ったことがないのに。「S100」は特別で、モニュメントとして、「あれ以上はないだろう」というのを味わいたくて買ったので、結局あれは気に入ってるんだけど。他の実務電卓のサイトのページを見てて、「実務電卓って普通にこのぐらいの値段するんだな」というのを見たあとに、この「人間工学電卓」を見ると、「同じぐらいの値段なのね」という安心感があったのよ。

【きだて】はいはい。

【他故】同じぐらいの値段で、こういう変わったものも出せるんだね。俺は、これだけ特別に高いと思い込んでたんだよ。「人間工学電卓」だけが。でも、そうじゃないんだね。

【高畑】電卓はまあまあ高いよね。

【きだて】高い方だと思うよ。やっぱり。だから、仕事で使うんだったらアリだよ。行っちゃえ、行っちゃえ(笑)。

【他故】そんな気がするので、検討はするけど、という感じかな。

【高畑】このタイミングでこれが出てきたというのが、面白いっちゃ面白いんだけど。ホームページにも書いてあるけど、キーは真っ直ぐ叩くから、フラットにするということだね。

【きだて】斜めに押し下げず、普通に垂直で押し下げるから、これはフラットでいいんだよね。いやでも、電卓にこういう進化がまだ残されているとは、思ってもみなかったね。

【高畑】まあ、確かにね。キーボードは、エルゴキーボードとか、分割キーボードとか、いろんなものが出てるっちゃ出てるけどね。キーボードは、打ちやすさに関してもちょっとしたブームがあるじゃない。

【きだて】はいはい。

【高畑】ストロークの深い、良いキーボードを各社出してきている部分もあるから。

【他故】うん。

【高畑】でもあれだね、俺は右側に電卓を置いておくと、入力用のテンキーとよく間違えるんだよ。画面に数字が入らないなと思ったら、電卓叩いてたとか。

(一同爆笑)

【他故】それはどうかな(笑)。

【きだて】うっかりお仕事4コマ漫画か(笑)。

【高畑】でも、未だに電卓は使うんだよね。PC目の前にあって、スマホも持ってるのに、電卓は出すね。

【他故】出すね。分かる。

【高畑】だって、デスクの一番取り出しやすいところに電卓が入ってるもの。

【きだて】PCで税込・税抜計算が簡単にできないじゃん。文房具の値段を書き込むときに、税込・税抜キーをめちゃくちゃ使うものね。

――そうですよ。文とびの記事書くときに使いますよ。

【高畑】今は10%だから分かりやすいけど、ややこしいときは本当にややこしい。僕らは全部10%だけど、飲食だと税率が変わったりしてややこしい。

【きだて】ちゃんと8%、10%のキーが2つついているやつもあるし。

【他故】あるね。

【高畑】それはそれでいいんだけど、本当にややこしいね。税込にしたときに端数をどうするか問題もあったりして。

【きだて】何か税金の話になってきたけども(苦笑)。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】そういうのをちょこちょこと計算するのに、やっぱりね。スマホにも電卓入ってるけど、電卓の方が早いよね。

【きだて】早い。だって、スマホの計算機アプリだとノールックで打てないし。

【高畑】スマホの計算機は、すごい見てないと使えないじゃん。そこら辺は俺も思う。

【きだて】だから、計算機はまだ当分要るのかな。

【他故】そんな気がするね。

――スマホの電卓だとフラットなので、人間工学関係ないですものね。

【きだて】関係ないね。キーがせり上がってくれない限りはダメだね。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】そうだし、スマホのキーはめっちゃ見てないとダメだからね。だから時間かかるし。

――きだてさんは、その電卓買ったんですか?

【きだて】いや、サンプルで借りてるだけ。返さないといけない。

【高畑】返したら、いろんな電卓が使いにくくなるじゃん。

【きだて】そう。だから、返したあとで「S100」に戻るためのリハビリをしないといけないんだろうな。

【高畑】何だそれ(笑)。

――そんなに違うんですね。

【きだて】何だろう、こんなにわずかなのに違いを感じる。すごいよ。

――きだてさんは、そういう部分で繊細なところがあるから。

【高畑】ああ、そうだね。

【きだて】でもね、うちの奥さんにも試してもらったんだけど、やっぱり同じことを言ってた。

【他故】あっそう。

【きだて】これを打ってから元の電卓を渡したら、「使いにくい」って言ってた。だから、これは誰でも感じるやつだ。

【高畑】そういうことを言われると、PCのキーボードもエルゴキーボード慣れると、普通のキーボードが打てなくなりそうじゃん。扇状の配列に慣れちゃって。

【きだて】どうだろうね。分割キーボードとかああいうのに憧れはするんだけどね。場所とりそうだから使ってないけど。

――他故さんもこれを導入する気があるなら、覚悟が要りますね。

【他故】本当に、2、3分触っただけじゃ分からなかったので。試すなら買うしかないと思いますけどね。

【高畑】この手のものはしっかり使わないとね。

【他故】そうそう。

【高畑】あとは、違和感と、左利き問題だね。左手でやると打ちにくいんだよね。

【きだて】打ちにくい。手がつる。

【他故】そうだよね。開いてる方向と違うわけだから。

【きだて】手首がこんな感じによじれちゃう。

――引っくり返して打てばいいのかな。

【高畑】引っくり返して使えるんなら、何だって使えるよね。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】この電卓は一回使ってみないとね。お店で試したぐらいじゃダメだね。

――今日の鼎談を読んで、使ってみたいと思う人は多いでしょうね。「そんなに違うのか」と。

【他故】そうですよね。

――ぜひ試していただいて、できれば買ってもらうのがいいですかね(笑)。

【きだて】戻れない覚悟で買いましょう。

【他故】なるほど(笑)。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」が好評放送中。ラジオで共演しているふじいなおみさんとのユニット「たこなお文具堂」の著書『文房具屋さん大賞PRESENTS こども文房具 2022』が発売中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


「ブング・ジャムの文具放談 特別編・完全収録版~『ブング・ジャム的Bun2大賞』ベスト文具を決定!~」〈前編・後編〉と「ブング・ジャムの文具放談・完全収録版~2020年Bun2大賞を斬る!~」〈前編・後編〉をコンテンツプラットフォームnoteで公開中。

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