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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.60 あの人気文具がパワーアップ!(その1)

文具のとびら編集部

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は、さらなる進化を遂げた人気文具3点をピックアップしました。

第1回目はサクラクレパスの「ボールサインiD プラス」です。

写真右からきだてさん、他故さん、高畑編集長*2021年11月9日撮影
*鼎談は2022年2月25日にリモートで行われました。

黒を愉しむボールペンのアップグレード版

1.jpgボールサインiD プラス」(サクラクレパス) 6色の黒インキを選べるゲルインキボールペンとして大人気の「ボールサインiD」に、上質感漂うスタイリッシュなデザインのワンランク上のシリーズが登場。今回新たにペン先の素材に削り出しの金属を採用、さらに本体軸全体が滑りにくいマットなラバー素材となっており、重心は従来の位置より先端に移動させ、低重心となったことにより、より安定した書き心地を実現した。既存の6色から、人気色の「ピュアブラック(ブラック)」「ナイトブラック(ブルーブラック)」「フォレストブラック(グリーンブラック)」の3色を採用。税込385円。

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【きだて】今回は何括りなの?

――今回は、人気文具のバージョンアップ版を取り上げたいと思います。

【他故】ああ、分かりました。

――まずは「ボールサインiD プラス」からです。「ユニボールワンF」は先日、たっぷり語っていただきましたが(記事はこちら)、こちらはまだここでは取り上げていなかったので。

【きだて】俺としては、グリップが滑らなくなったという以上に素晴らしいことはないわけですよ。

(一同)ははは(笑)。

【高畑】まあ、きだてさん的にはね。

【他故】そうだよね。分かる、分かる。

ボールサインiD1.jpg

【きだて】逆に、「ボールサインiD」は何であんなに滑ってたの?って。

【他故】まあ、あれはツルッツルだったからね。

【高畑】特徴的な金属クリップを後ろに着けちゃったから、バランスもすごいリアヘビーだったじゃない。それを今回、口金を金属にして、きだてさんの滑らないも含めてだけど、ようやく完成した感はあるよね。

【きだて】とはいえまだ滑る感じは残ってるので、「プニュグリップ」案件ですよ。

【他故】ええっ、そうなの?

【きだて】できれば装着したいなぁ。

【高畑】ラバーグリップと比べると、表面の塗装だけなんだよね。

【他故】うん。

【高畑】「Bun2大賞」の鼎談で話したかもしれないけど、「ボールサインiD」のかたちとしては、ここがスタンダードというか。

【きだて】「プラス」と付いてはいるけど、実はこれが本来の「ボールサインiD」だったと。

【高畑】そう。従来の「ボールサインiD」は、「ボールサインiDライト」という感じだと思うんだよね。本当は、ここがベースにあるんじゃないのかなと。

【他故】うん。

【高畑】これでしっくりくるじゃん。重量バランスも、持った感じだと前後のバランスもまあまあ取れていて。表面の塗装もきれいだし。

【他故】そうだよね。

【高畑】もちろん、値段も上がってるんだけど、従来のは200円で出ていてありがたいんだけど、製品が本来あるべきバランスに到達していなかった気がするので、今回はそこが「ああ、それよ!」という感じで。

【きだて】ちょっと鼻にかけた言い方なんですけども、俺たち、それなりにグルメじゃないですか。舌、わりと肥えてるわけですよ。

【他故】まあ、分かってる部分はあるよね。

【きだて】だから、多少は値が張っても、ちゃんとしたものを食べたいわけですよ。

【高畑】まあ、そういうことね。

【きだて】一般的に考えれば、200円で売り出すほうが重要かもしれないけど、最初からこれを出しておいてくれても良かったんじゃんという思いはある。でも、この「ボールサインiD オリジン」とでもいうべきものが後からでも出せたというのって、かなりすごいことだよな。

【高畑】それは、最初に出た「ボールサインiD」がちゃんと売れたということもあると思うんだよ。

【他故】それはそうだね。

【高畑】かっこいいし、6色の黒インクというコンセプトがはっきりあって、それがしっかり売れた上で、「もうちょっとバランスがよかったらいいな」とか、「口金がプラスチックで残念だな」とか言う人が出てきたけど、それに対応できるぐらい売れたんだろうね。

【他故】そういうことだよね。

【高畑】この前に、これをデザインしたUOデザインが口金だけ作ったじゃない。

【他故】うん、やったね。

【高畑】あれを見たときに、「やっぱ、そこはそうしたいんじゃん」って俺はちょっと思った。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】デザイナーとしては、そこは金属にしたかっただろうけど、市場性だの何だのを考えてこっちにせざるを得なかったたんだろうけど、後になって「ボールサインiDプラス」が出せたということで、ようやく本来デザイナーが考えていたかたちにちゃんと行けたからさ。行けるところまでちゃんとできたということは、上手く収まったかなと思う。ちょっとホッとする感じがしたのさ。

ボールサインiD2.jpg【きだて】ひとつのプロジェクトとして考えると、幸せな結末になっているじゃん。だから、非常に良い話しではあるし。

【他故】そうだね。

【きだて】きっと、他のメーカーでも同じような思いはあるはずでしょ。

【高畑】それなりに、価格を優先するために妥協したところとか。

【きだて】いっぱいあると思うんだよ。

【他故】絶対あるよね。

【きだて】例えばゼブラなんか、相当に悔しい思いはしてきたんじゃないかな。いつも低価格で出そうとしてすごく頑張ってるじゃないですか。

【高畑】だから、「ブレン」は奇跡のアイテムなんだよ。150円であの質感というのは。デザイナーと作る人と、みんな揃ったから、あれは奇跡のアイテムだなと。

【きだて】「ブレン」は逆に、最初から「500円で出すよ」と言われてたら、どういうものができてたんだろうな。意外と同じものができたかもしれないけど(笑)。

【高畑】それが成功していたかどうかは分からないけどね。

【きだて】分かんないね。やっぱり、150円ならではの成功というのもあると思うんですけど。

【高畑】「ブレン」のおかげで、勢力図が書き換わるぐらいの話になったわけじゃない。新しいジャンルを拓いたみたいなところがあって、それはすごいなと。「ボールサインiD」も、いきなりこの仕様で350円で出してたらドーンと行ったかどうかはちょっとあれだなという気もするし。でも、そのおかげで黒い6色インクが、他社も含めてめちゃくちゃ出たじゃない。ちょっとずつ色味は違うけど、黒が6色。文具ソムリエールの菅未里さんがセレクトしたインクも黒だったでしょ。

【他故】あ~。

【高畑】ボールペンじゃないところも含めて黒6色がボーンとできたわけじゃん。そこが「ボールサインiD」のすごいところだったと思うんだよね。

【きだて】そうなんだけど、後続はもうちょい工夫しても良かったんじゃないか。

【他故】まあ、イメージとして似過ぎてるよね(笑)。

【きだて】パイロットのラメ入りブラックは面白かったけどね。

【高畑】まあ、「黒を楽しむんだよ」というのをちゃんと提案したというところで、新しい世界を拓いたと思うんだよね。

【きだて】うん。

【高畑】それが売れたのは、最初に200円だったからかもしれないよね。

【他故】そうだね。

【きだて】タラレバの話になるけど、それはあるな。

【高畑】質感は変わったけど、かたちは基本的に変わってないじゃない。区別するために、先端がボコってなってるけど。それって、やはり前のかたちが良かったからだろうし。

【他故】うん。

【高畑】それで、「ボールサインiD」が作った新開拓地みたいなのがあるじゃない。そこはすごい評価すべきかなと思うね。

【他故】そうだね。

【高畑】だって、「この黒がね」といって、きだてさんや僕もそうだけど、散々語っているわけで、新しい語り口を作ってくれたわけじゃないですか。

【きだて】一昨年の年末は、散々語らせていただきましたよ(笑)。

【高畑】それは、世の中にインパクトを与えた1年後に、本来あるべき姿にパチンってはまったから。このアップグレードって、行きたいところにきれいにはまったかなと思う。

【他故】その通りだ。

【高畑】値段も350円だしね。

――インク色が3色なんですよね。

3.jpg
【他故】3色になりましたけどね。

【高畑】だから、そこは6色にしてほしかった感はあるよね。

【きだて】さらに言えば、出ている3色の中に普通の黒が入ってるのってどういうことだよ?

【他故】まあ、普通の黒だから。

【きだて】このシリーズでわざわざ置きにいかんでもいいだろうと(笑)。

【高畑】とは言いつつも、黒の黒が一番売れたりしたんだろうなというのもちょっとあるんじゃないか。

【きだて】えー、でも、この6色ブラックの中で普通の黒が欲しいと思うの、さすがに意味分かんなくないか。せっかく従来と違う黒が遊べるシリーズなのにさー。

【高畑】その気持ちはちょっと分かるな。「黒で遊ぶ」の「遊ぶ」の部分がちょと欠けちゃったのは、そういう意味ではちょっと残念だよね。ここのクラスで「ミステリアスブラック」とか入れてほしかったよね。

【きだて】あの紫ブラックがとてもいいのよ。

【高畑】赤茶色系のブラックもあったよね。「カシスブラック」か。そこら辺は入れてほしかったよね。

――一応、リフィルは共通なんですよね。

【他故】まあそうですね。入れ替えはできますからね。

【高畑】ここのパーツの色が替えられないんだよ。

【他故】そうそう、クリップのところのね。

【きだて】まあ、老眼ではなかなか区別がつかない微妙な色なんですけどね。

【他故】ははは(笑)。書いて間違ってたことがあったからね。その色のつもりで書いてたら違ったりとか(笑)。

【きだて】それあるよな、間違うよな(笑)。

――書いていて分からないんですか?

【きだて】書けば分かる。パーツの色が分からなすぎる。

【他故】書き出すまでに間違える。

【きだて】そう。

【高畑】試し書きの色見本を作ってるときに、1行間違えて「あ~」って(笑)。

【きだて】そういうのあるだろうな。

【高畑】まあ、「ボールサインiDプラス」の方で、その微妙な色合いを出してほしかったなというのはちょっとあるね。

【他故】追加で出ないかな?

【きだて】どうかね。

【高畑】でも、今度出るのは軸が透明なやつでしょ。

【他故】ああ、そう言ってたね。

【高畑】「限定商品出ますよ」とかやってるから「プラス」の方は出ないんじゃない。

【きだて】俺的に欲しいのは、もっと違う黒を出してよって。

【高畑】あー。

【他故】黒のバリエーションをさらにね。

【きだて】さらにニュアンシーな黒を出してよっていう。そっちの方に走ってほしかったな。

【高畑】なるほどね。

【きだて】俺は、以前からサクラのゲルインクの発色にすごい信頼感をおいてるの。もっと微妙な黒、サクラならやれると思うんだ。

【他故】できなくはないだろうね。

【きだて】だってさ、カラーペンだとピンクのニュアンスでどんだけ出してるんだっていう話じゃん。世の中的に。

【他故】ああ、そこのバリエーションは多いよね。

【きだて】同じように、黒のバリエーションにチャレンジしてもいいんじゃないの。

【他故】なるほど。

【高畑】逆に、お店で大混乱が生まれるという。

【きだて】そうそう。だから、シールは完全に貼らないといけないやつだけど。でも、サクラがそれをやればこそ、後続で出したメーカーにもさ。

【他故】まあ、追いつけないところまで行ってくれという感じだよね。

【きだて】どうせなら、24色全部黒とかさ。

【高畑】ははは(笑)。

【他故】黒とはいうけどさ、グレーにも振ってもいいよね。

【きだて】そうそう。全然いいと思うよ。

【高畑】そうだね。黒のトーンをちょっと明るくしたりとかできるし、横だけじゃなくて縦も変えられるから、それは確かにそうかもしれないよね。そこは、3色になっちゃったのはもったいない気がするよね。

【他故】もったいないね。

【きだて】「ボールサインiD」のアップグレード版に求められてたのは、色を絞ることではなかったような気がするんだ。

【高畑】確かにね。微妙な黒を出せたことがね。「ボールサインiD」の良いところの半分は、ボディがかっこいいというのがあるじゃない。もう半分は、黒を6色出したということじゃない。片方のボディに関しては、完成度がグッと上がったから良かったけど、もう半分の「黒6色出してすごい」というのを生かしてほしかったね。それは、俺もきだてさんに賛成。

【他故】次はやってほしいね。

――でも、これだけ黒インクを流行らせたのはすごいですね。

【高畑】うん、すごい。

【他故】本当にすごいと思いますよ。

【きだて】この出し方は、本当に発明だったと思うよ。ニュアンスブラックが発明なんじゃなくて、ボールペンで6色全部黒という面白さを発明したわけだからさ。

【高畑】他の色を出さなかったわけだから。赤とか青を出さなかったじゃない。それは結構大事なことだよね。

【きだて】とても偉いよ。あれはフォーマットの発明だったので。

【他故】普通、筆記具メーカーだったら絶対にやるからね。

【きだて】だから、非常に思い切っているし、偉いなと思うんだけどな。その偉いところを、もうちょっと伸ばしてくれないかな、ネチネチと言うけど(笑)。

【他故】ちょっと期待しちゃうね。

――サクラクレパスは、今勢いに乗っている感じがするので。

【高畑】ああ、するね。

【きだて】100周年で頑張ってるところではあるし。じゃあ、次は100色全部黒で(笑)。

【他故】ははは(笑)。オールブラックかっこいい!

*次回は「ココサスポップアップ」を取り上げます。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」が好評放送中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


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