【連載】月刊ブング・ジャム Vol.04前編

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。前回、ケガで欠席したきだてさんも元気に復帰しました! Vo.04前編では、まだまだ注目新製品が続々と登場しているシャープペンシルついて辛口トークを展開しました。
丸みのあるコンパクトなボディに機能てんこ盛り
コンセプション(オート、税抜1,500円) 芯を折りたくない普段使いに最適な、スライド式ガイドパイプで芯が折れにくい「折れないモード」(グリップ部をペン先側に回す)と、ガイドパイプは固定してノックで芯の出る長さを調整できるので、定規をあてたり、出芯を細かく調整したい場合に最適な「製図モード」(グリップ部を軸側に回す)という2つのモードを搭載したシャープペンシル。
――え~っとまずは、きだてさんお帰りなさい。
【他故・高畑】お帰りなさい。
【高畑】包帯がとれてよかったね。
【きだて】リハビリが進んで、腕も結構上まで上がるようになりましたよ。
【他故】素晴らしい。
――今回はシャーペンです。初回で色々取り上げましたが、その後新製品も出ましたし、まだまだあるぞということで。まずは「コンセプション」からです。
【高畑】「コンセプション」はいろんな機能が盛り込まれているんだけど、一番の特徴は後ろのダイアルを回すと、1回ノックしたときの芯の長さが変わるところが、他にはない目玉機能かな。
【他故】この窓の色が変わるんだよ。
【高畑】ボディに、インジケーターというか丸い穴があいていて、これが1個ずつ増減するんだよね。
【きだて】それが、視覚的に分かりやすくて面白い。
【他故】ミニマムからマキシマムへ。
【高畑】そうそう。ミニマムだと芯がほとんど出ないんだよ。
【きだて】最初はどのくらいの長さなんだっけ?
【高畑】最初は何ミリだっけ? コンマ…。
【きだて】1㎜も出てないよね。
【高畑】0.2㎜とかそれぐらいだよ。で、マックスにするとかなり芯が出るんだよ。「出過ぎだろう」っていうぐらい。あとは、グリップを出したり戻したりすると、先端のパイプの長さが変わる機能と、パイプスライドするんだよね。
【他故】先っぽまで行くと、パイプスライドが生きるんじゃないかしら。
【高畑】先まで出すと、最初に出たパイプが後ろに下がるまで書ける。で、グリップを下げた状態だとパイプスライドしないんだよ。仕組みとしては分かりやすいんだけど、最初に言われないと分かりづらい機能ではある。あと、金属で梨地のグリップを久しぶりに見たなという気がする。
――ローレットじゃないんですね。
【高畑】好みは分かれるところだと思うけど、それはそれでという感じはあるね。
【きだて】素直に言うと、僕は「ノー」なんですけど。こんな摩擦係数の低いもんを出すなと(笑)。
――きだてさんは手汗をかくから(笑)。
【高畑】あっ、きだてさん的にはね(笑)。
【きだて】手汗人間を馬鹿にしているのかというね(笑)。こんなの、雨が降ってる時の大理石の床みたいなもんですよ。つるっつる。
――それは「オレンズネロ」と比べるとね。
【高畑】デコボコしているものに比べるとね。まあ、金属なのでラバーみたいに劣化しないので長く使えるのと、芯出し機能が面白いところだよね。まあ、どの会社も「他にはないですぜ」感を出してくるよね。
――かなり気合いを入れて出したなという印象が強いですね。去年はまだ「オレンズネロ」も出ていなかったですし、ちょっとメカメカしいものの先駆けみたいな存在ですかね。
【高畑】そうですよね。オートって、独自路線でいろんなものをやってますけど、元々シャープペンもボールペンもかなり早くから作っていて、特にボールペンは日本で最初でしょ。いろんな試みをするのは好きそうなので、他がやらない機構が入っているのは面白いかなと思う。
――なるほど。
【高畑】あとオートは、円弧というか球体の半分みたいなツルンとしたデザインが好きだよね。半球のドーム型のノックで、先端もそうなんだよね。これもオートっぽい感じかな。もちろん、好き嫌いはあるけどね。
――確かに、ノックはちょっと丸みがあるし、先端もパイプが引っ込んだら丸いですね。
【きだて】そう、丸みがあるんですよ。
【高畑】丸が好きなんだよね。ここの窓も丸いし。
【きだて】だから、これを見ると「おっ、オートだ」ってすぐ分かる感じがするよね。
――何もかも丸いんだ(笑)。
【きだて】この丸いインジケーター、何気に好きだな。
【高畑】そこは好きなんだ。梨地のグリップは許せないけど(笑)。
【きだて】そこはいいんだ。分かりやすいし。ダイヤル回すのに連動してインジケーターが増減する感じが面白い。
【高畑】あー、それはちょっとあるね。
――そのダイヤルのギザギザは回しやすいですか?
【きだて】梨地に比べれば、何でもグリップですよ。せめて刻め(笑)!
【高畑】そのダイヤルも、自分のベストの長さが決まったら、そんなに回すものでもないんだけど、つい遊んでクルクル回しちゃうという(笑)。
【他故】そうそう(笑)。
【高畑】でも、男の子は調整って好きだよね~。
【きだて】変えられるっていうのがね。それだけでグッときちゃう。
【他故】普段は使わなくてもね。
【きだて】自分カスタムっていうのが本当に好きだよね。
【高畑】バリアブル。
【きだて】一遍決めちゃったら本当に変えないんだけど。
【他故】変えないよね(笑)。
【きだて】俺は、クセで「カチカチ」っていう2ノックをしがちなのね。だから、これだと短めがちょうどいい感じ。でも、このノックの丸み…指の腹にけっこう刺さるね(笑)。
【他故】ちょっと細身だしね。指にグッとくる感じだ。
――何でそのかたちにしたんですかね?
【きだて】単にデザインでしょ。
――それだとかわいいからかな?
【高畑】見た目が好きなんじゃない? そのかたち好きっぽいよ。
【他故】でも、男の子が買うにはかわいい雰囲気だなって思うけど。
【きだて】カラーリングもちょっとかわいい目なんだよ。
【他故】そんな気がする。
【きだて】丸インジケーターの部分も含めて。
【高畑】でも、あんまり女の子っていう感じもしないんだけどね。
【他故】女の子でもないんだけど、今バリバリの中学生男子がコレかっていうと、ちょっとそっち系ではない気がする。
――メカっぽい部分をオブラートに包んだ感じですか?
【高畑】でも、ダイヤルはすごいハードなんですよ(笑)。
――さすがに、そこを丸くすると回せなくなるからでしょうか(笑)。
【きだて】だから、ゲージとノックの丸だけはちょっとやめとけやっていう(笑)。
――確かに、グリップも梨地だし、全体的にスマートにしようとした感じはありますね。
【他故】そんな感じがありますね。
――しかも、細いですしね。
【高畑】全体が細いのもあるな。最近の流行のペンの中では、一番細いんじゃない?
【きだて】うん、そうじゃないかな。
――何か、手帳に付けられそうな感じですよ。
【他故】そっか、手帳か~。これは、女性が持っていても恥ずかしくないというのも多少はあるんですかね? 手帳用って、細いシャープペンシル欲しがる人が多いですから。
【高畑】手帳という意味では、本体がストレートじゃん。デコボコしてない。
――ペンホルダーに挿すときに引っかからないですよね。
【他故】グリップがラバーだと引っかかるんですよね。そういうところもあって、デザイン上というよりも、そっちの方を優先したのかも。
――あー、そうですね。
【きだて】(定規で測って)8.3㎜は細いね。
――それは細いですね。
【他故】実は、OLみたいな人を狙ってるんじゃね? という感じがすごくするんだけど。
【きだて】そうかねぇ?
【他故】手帳を使う女性ユーザーを狙っているんじゃ。
【高畑】え~、そうかな~。
【きだて】手帳に付けるのには重いし。
【他故】でも、でかいじゃん、今の女性が持っている手帳って。「ほぼ日」とかでかいじゃん。
【きだて】そうか~。
【高畑】店頭のディスプレーとかPOPを見る感じだと、どちらかというとわりと男子っぽいデザインだけどね。
――手帳も想定しているかもしれませんよ。これ発売されたの去年の手帳シーズン始まる頃じゃないですか? まあでも、シャープペンはどう考えてもメインは中高生ですからね。これ1,500円でしたっけ?
【他故】そのぐらいでしたよ。
【高畑】これ本体だけ見ると、この淡いカラー(編集部注:この鼎談で用意したサンプルは、淡い色味のブルーとグリーンの2色)だったら女子が使っても悪くはないかなと思うけど、ディズプレーとかパッケージを見ると、バリバリに男かなという感じ。
【他故】これって、言い方が悪いけど、こういう微妙な色だけなんだっけ? もっとパリッとした色はないのかな。
【高畑】彩色系もあったと思うよ。去年俺が買ったのは、フェミニンな色じゃなかったよ。
――黒やシルバーもありますね。
【他故】黒とシルバーもあるんだ。
【高畑】シルバーは俺持っているよ。
【きだて】黒だとゲージは赤になるんだ。それは分かるな。
【他故】ちょっとロットリングチックでね。シルバーと黒がロットリング風だと言われれば分かるんですよ。じゃあ、こっちが何風かと言われると、それは分からない(笑)。
――何風なんでしょうね?
【高畑】あとメカがね、好きな人は好きな金属チャックだし、オートさんってメタル好きじゃん。
【他故】好きだね。
【高畑】大体のギミックが金属でできているというのがね。最近、プラ成形多いじゃん。その中で、ほぼほぼ金属っぽい造りになっているので。
【きだて】でもさ、オートの金属加工って、嵌合に隙があるというのか、このダイアルなんかもこすれてキーキーいってるよね。
【高畑】だから、片側をプラスチックにすれば音が出ないんだけど、両方金属にしているから。
【きだて】それでこすれちゃうんだね。
【高畑】潤滑とかあれこれやると、またそれはそれで大変だからね。
――「鉄のこすれる音が好きだ」という人がいるとか(笑)。
【きだて】何か、新谷かおるっぽいよな~(笑)。
【他故】でも、ちょっと男の勲章にしちゃこういうデザインじゃないだろ。
【きだて】そ~な~。
【高畑】その割にはストレートだし、ツルッとした感じなんだよね。
【他故】ちょっと不思議な印象だよ。
【高畑】そうなんだよね。芯の押し出し量の調節って製図用に多かったけど、それでもないじゃん。どちらかというと一般筆記なのかなと思ったりするんだけど。
【きだて】ちょっと出口が見えないなー。どこ向けなんだ。
【他故】良いシャープペンを求めているOLのような年齢層の人が、どれくらいいるのかが全然想像できないんだけど。
【高畑】ていうか、パイプスライドとか、パイプの長さ調節とか、芯の突出量の調節とか、そういうのを何か詰め込んでみたかった感じはするね(笑)。色々入れたモデルを作りたかった感はあるね。
【きだて】「全部入り作ってみた」とかそういうやつか(笑)。
【他故】現状でオートの全部入りはこれで、その中で男性用と女性用にしたくて、オートさんが想像する女性用はこんな色ということだね。
【きだて】う~ん。
――メカをいっぱい詰め込んで細くしたかったんですかね。
【他故】やってみたかったんですかね。
【高畑】ここのところシャープペンシルは、「折れない」「細く書ける」「ノックしない」とかあるじゃないですか。そのいくつかの柱の中で、自分ちオリジナルの得意技を載せるというのは、暗黙の各メーカーのルールみたいなもので。みんな勝負するときにね。
【他故】「俺はここ得意だよ」とかね。
【高畑】パイプスライドだけだと、「他もあるじゃん」と言われるところに、「うちは芯の出る量変えられるぜ」というのがウリじゃない。
【他故】「クルトガ」の高級のやつとか「シフト」ってこういう色あるんだっけ?
――「クルトガ」のローレットモデルだと、シルバーと黒しかなかったような…。ハイグレードモデルはどうかな?
【高畑】この色は珍しいよ。
【他故】「シフト」はシルバーで、ロックするところにだけ色が付いているんだっけ?
――あるとしても、濃い青じゃないですかね。この青緑色っぽいものじゃないような気がしますよ。あとこの紫っぽい色も。
【他故】じゃあ、この色は差別化というのもあるのかな。あまり今までにない色でやってみましたという。
――これ0.3㎜ありますよね。じゃあ、女子向けというものあるかもしれませんよ。女子は細書きを使いますから。
【高畑】オートが考える女子か~。
【きだて】これ0.5㎜もあるよね。
【他故】じゃあ、色は4色で、ものとしては0.3と0.5の2種類だ。
――プチブルジョワな女子高生が買うとか(笑)。
【きだて】なんなんだ、プチブル女子ってカテゴリ。よく分からんけど(笑)。
【他故】それプラス、0.3㎜だから手帳ニーズも多少あるかと。
――いろんなところにアンテナを張って作ったのかもしれませんね。
【高畑】だから、色々盛ったんじゃないですか。
【他故】持っているもの全部盛りなんじゃないですか。
――1,500円という価格は、ちょっと冒険の部分もあるじゃないですか。それもあって大人層まで訴求しているのかもしれませんね。
【他故】これ、いじっているうちに梨地好きになってきたな。
【きだて】ええっ! どれだけ触っても俺と世界中の手汗人間が許さないぞ(笑)。
(一同爆笑)
【高畑】これはね、雰囲気的にパッケージはビジネスマン向けなんだよね。ちょっと、女子向けには見えないけど…。
【他故】色々と気になるところがあるよね。
【高畑】まあ、一応製図ペンの系譜なので、ボディはあまり太くなくて、ストレートなんですよね。で、先端のガイドパイプが結構出るというところに、一応製図ペンっぽい要素を残してある。芯の出る長さが調節できるのも、昔は製図ペンに搭載されていた機能の一つだから。だけど、見た目は明らかに一般用になっているね。まあ、今は製図で使う人はいないからね。
【他故】製図用シャープカッコいい派にということでしょう。
【きだて】じゃあ、男子中学生じゃん。
【他故】本来はそうだけど、高級ものだから男女両方にアピールしたいというイメージの色なんじゃないかな、と想像はしているんだけど。まあ、パッケージは2つ用意できないんで、しょうがないかなと(笑)。
――いろんなところに向けているような気がしますよ。
「耐芯強度」がさらにパワーアップ!

――次は「オ・レーヌプラス」です。
【高畑】これね、ちょっと長いんだよね、ボディーが(笑)。前のモデルに比べて1.5倍、従来型のペンに比べたら15倍も芯が折れにくいとなっているんだけど、この耐芯強度というのが他と基準が違っていて、「落としても芯が折れない」なんだよね。もちろん、筆圧をかけても折れにくいんだけど、テストしているのが落下強度なんだよね。これがちょっと珍しいよね。
【きだて】落下強度を前面でうたってるの、これだけだものね。
【他故】はっきり言っているのはこれだけだし。
【高畑】でもね、「オ・レーヌ」は、ここら辺の折れない系競争がはじまるずっと前からあるんだよ。
【きだて】そうそう、そうなんだよ。
【高畑】だからね、これはむしろ時代が後からきたから。
【他故】「俺たちのこと忘れてないか」ということだよ。
【きだて】記事なんかで「折れないシャープペンはどこから始まったか」という話をしなきゃいけない場合があるんだけどさ、そこで「オ・レーヌ」を言っていいかどうかが毎回悩むんだよね(笑)。
【他故】「オ・レーヌから始まりました」というと時系列がずれちゃうからね。
【きだて】そうなんだよ。
【高畑】折れないの理由がちょっと違うじゃん。そこが説明しづらい。
【きだて】ただね、実は普通に生活していく上で重要なのは落下強度の方じゃないかと思っているので。
【高畑】あー、なるほど。そんなに芯折らないよという話だね。
【きだて】そう。普通に書いているときに、そこまで芯をボキボキ折るやつはいねぇよという(笑)。「筆圧くらい自分で調整しろや」と思っているくらいだから。
――まあ、机から落とす方が確率として多そうですからね。
【きだて】そう。で、中で折れていて、ノックしたら折れた芯がポロリと転がり出てくるあの瞬間が嫌なわけじゃないですか。だから、それを防いでくれる「オ・レーヌ」のシリーズは、かなり優位性があると思っていて。
【高畑】折れない系では、たぶん「オ・レーヌ」と「デルガード」は強いんだよ。実際やってみるとそうなんだよね。
【きだて】「オ・レーヌ系はもっと評価をされるべき」というのが俺の持論です。本当にね、落としてもちゃんと芯をガードしているんだよね。
――だって、100回くらい落下テストしてるんでしょ?
【きだて】筆箱に詰め込んだ状態みたいな、オ・レーヌ単品だけ落とすより複雑な衝撃が加わる状態でも芯が折れずに残っているので、それはとても素晴らしいのよ。
――先端の二重構造が利いているんでしょうね。
【高畑】シールド何とかとあともう一つ(編集部注:オ・レーヌ シールド構造。今回の新機構は芯タンクガード)。
【きだて】2つぐらいあるんだよね。
【他故】名前が覚えられない(笑)。
――「オ・レーヌシールド」になったときに採用されたんですよね。確か、最初は書き味の向上を目指して開発していたけど、結果的に耐芯強度の強化になったと言っていましたけど。
【きだて】ほぉ~、そういうことなんだ。
【高畑】耐芯強度という表現が、かっこいいといえばかっこいいよね。
【他故】かっこいいよね。
――「デルガード」からみると違う折れなさなんでしょうけど、「オ・レーヌ」が出てきた頃は、“折れない”というのはそっちだったんでしょうね。
【高畑】このクッション機構が、割と書いていて普通に気持ちの良いクッション機構なので、あんまり軸に対して直角方向に行かない。「デルガード」って、押したときに上下方向に若干ずれるじゃないですか。他のもそうだったりするんですけど。これはストレートに軸線対して前後方向なのと、動くときにスムーズな感じなので、クッションが効きはじめたときに「ガクッ」といかないので、割と気持ち悪くない。
【きだて】クッションがブワブワしない感じがあって。
【高畑】それは、「モーグルエアー」だとちょっとクッション効き過ぎる感じがということだね。
【他故】「モーグルエアー」は、クッションがすごい効くからね。
【高畑】あれは、潜らす前提だからね。もちろん、引っ込むのも“折れない”の一つなんだけど、クッション機構のバランスは「オ・レーヌ」のが好きなんだよ。引っ込んでいるクッション機構のクッションの気持ちよさは、折れない系の中では私はなかなかお気に入りです。
【きだて】意図して筆圧かけようとしない限りは潜らないんですよ。
【他故】そうね。
【高畑】筆圧がかかっても、ガクッとして守るのではなくて、割とスムーズに芯が戻っていくだけなので。あと、これは善し悪しがあって、この長さは持ちやすくてバランスはいいんだ。でも、ペンケースによっては結構突っかかる。
【他故】ちょっと長いんだよね。
【きだて】あ~、本当だね。
【高畑】明らかに、他のより長い。2㎝くらい長いんだよ。
【きだて】そんなに長いんだ。あんまり意識して比べてなかったけど、本当に長いね。
【高畑】ペンケースに並べて入れると、1個だけ頭が出るんだよ。
【他故】「オ・レーヌシールド」より長いよ。
――本当だ、長いですね。これは何か理由があるんですかね?
【高畑】分からん。むしろこれは聞いてみたいくらい。
――「デルデ」に入れると、長いのが分かりますね。
【高畑】筆ペンなんかの長さに近い。
【他故】そうね、頭一つ出ちゃうね。
【きだて】本当だね、出るね。180㎜ぐらいあるんじゃない?
――「コンセプション」と比べるとかなり長くなりますね。大人と子どもぐらい違う(笑)。
【きだて】(定規で測ってみて)あっ、でも160㎜か。
【高畑】160に収まっているからペンケースに入るんだけど…。
――「コンセプション」はどのぐらいです?
【高畑】(定規で測って)150㎜に足りないくらいか。
【きだて】そうか、そう考えると飛び抜けて長いね。
【高畑】そういう長いということの新鮮さもある。
――印象としては、“新鮮”という感じなんですね?
【高畑】ペンケースに入れることを考えないで手に持っていると、新品の鉛筆ぐらいの長さで、それでちょっと軽いじゃない本体は。
【きだて】コンセプション持った直後だと、本当に軽く感じるな。
【高畑】最近の傾向としては、フロントヘビーでしっかり目に作るじゃん。で、短かく作るでしょ。これは長くて、全体的に軽いので、鉛筆持ったときのような取り回し感がある。その取り回しの感じが、他のとちょっと違う。これはこれで、好きなら好きでいいかなと思う。「オ・レーヌシールド」より、僕はこっちの方が好きかな。
――「オ・レーヌプラス」の方が好きなんですね。
【きだて】デザイン的には「オ・レーヌシールド」の方が好きなんだけどね。
【他故】俺は「オ・レーヌプラス」派だな。プラチナって、30年前、40年前からずっとこのかたちでしょ。このかたちが好きなら、「オ・レーヌシールド」でいいと思うけど。
【きだて】割と落ち着いた感じに収めていて好きなんだよね。
――「オ・レーヌシールド」は安いですよね。200円でしたっけ?
【他故】200円ですね。
――こっちは450円ですね。
【他故】値段が全然違うので、「おや」っと思うところはあるんですけど。
――値段を倍以上にして、思い切りましたよね。
【他故】まあ、500円クラスの商品を売りたいですよね。
【きだて】まあ、折れにくさは2倍どころじゃないからね。
――2倍以上でしたっけ?
【きだて】あれっ、違うのかな。どうなの?
【高畑】プラチナのホームページに載っている図を見るとさ、一般のシャープと比べた初代「オ・レーヌ」の強度がおよそ10倍なんですよ。で、「オ・レーヌシールド」で50%アップしているんですよ。で、「オ・レーヌプラス」でさらに50%アップしているんですよ。で、結局何倍なの?
【きだて】150%アップになっているってこと?
【高畑】150%アップで、さらに150%アップじゃんよ。
――「クイズダービー」の最終問題みたいな感じ?
【きだて】「倍率ドン、さらに倍」みたいな(笑)。
【高畑】そんな感じ。15×1.5で22.5倍だ。計算合ってるかな?
――何だかややこしいですね(笑)。
【高畑】そうか。これは0.5㎜の「プレスマン」だと思えばいいんだ。
――まあ、そうでしょうね。
【高畑】「プレスマン」は0.9㎜しかないじゃん。0.5㎜の「プレスマン」だと思えば、色々と「そういう使い方もアリだな」と思わなくもない。折れない系で、落としても折れないし、芯も潜るしと考えるとね。
――なるほど。
【高畑】まあ、独自の中身が見えるので。
――今流行りのスケルトンボディで。
【高畑】やはり、ここの仕組みは見せたいんだよね。
【きだて】それはメーカーとして見せたいんだよ。
【他故】「折れないのはココだよ」って。珍しいですよね、中のパイプを見せちゃうのって。
【きだて】パイプ見せるために、ゴムグリップを削っちゃうんだから。
【高畑】しかも、オレンジと水色のパーツが入っているという。好きだよね~。
【他故】でも、このパイプが「実は折れないんだぜ」って初めて強調するデザインでしょ?
【きだて】このゴムグリップが削れている感じは、どっかで見たことあると思ったら、なすびだね。
【他故】なすび?
――ああ、なすの皮をむいて。
【きだて】なすの浅漬けとか、まだらに皮をむいているのがあるじゃん。皮のあるところとないところの食感を楽しむというアレだよ。
【高畑】そういうことか。
【きだて】でも、これで十分グリップは利くし。
――利きますよ、滑らないですよね。
【きだて】これはいいですよ。
【高畑】これはいいんだ(笑)。
【きだて】グリップはゴムに限るんだよ!
――梨地よりいいわけですね(笑)。
【きだて】まあ、機能的にも好きだし。
――これ、“ゼロシン機構”も入っているんですよね。
【高畑】ああ、最後まで芯を使い切れるというやつですよね。
【きだて】だから、今回の中で機能的にトップクラスで好きなのはこれですよ。
【高畑】それで、割と軽いのが印象的でいいなと思う。
――メカメカしくて重厚感があるより、軽い方がいいという人もいますよね。
【他故】いると思いますよ。
【きだて】肩の骨折ったばかりの人間にはこれぐらいが丁度いいですよ(笑)。
【高畑】ペン回しにも丁度いいんじゃない?
【きだて】どうだろう? 逆に軽すぎてきついかもね。
【他故】でも、長いから意外にいいかもしれない。
――あー、バランスが取りやすいかもしれない。
【高畑】フロントだけが重いと偏るけど、これ両方が比較的長いので、割と真ん中っぽい。
グリップのかたちが超個性的

――次は「ノノック」ですね。
【高畑】また、これも攻めてるよね~。
――何でこのかたちなのかが不思議ですよね。これは、きだてさんが何か言いたいことがあるようです(笑)。
【きだて】本当にね、嫌なんだよこのかたちが。
【高畑】何が?
【きだて】中央にいくにしたがって絞れるというこのかたちがさ。このグリップだと指がすべるでしょ。そうすると握りがじりっじりっと後退しちゃうんだ。気が付くと、軸半ばあたりを持ってて「うわっ」て驚いた事があったよ。
――あんまり見ないですよね、そういう持ち方は。
【きだて】傾斜に沿ってズルズルと後ろにいっちゃうんですよ。
――やっぱり手汗で滑りますか?
【高畑】このペンさ、元々想定されているグリップ位置が、他のよりも後ろだよね。
【きだて】やっぱそうかな。
【高畑】他のものよりも後ろだよ。あとね、書き方にもよるんだけど、先の方を持つ人多いじゃん。立てて書く人は先の方を持つので。そう考えると、この段差より前の黒くなっている先端部分が持てないようになっているじゃない。
――これは、持ち方矯正とかそうことですか?
【高畑】いや、どうなんだろうね。
【他故】何だろうな~。
【高畑】これは、「寝かせて書け」という気がするね。
【きだて】気が付くとそういう持ち方になっているということは、実はそれが正解なのか。
――思うつぼなんですよ、それは。
【きだて】え~。
【他故】何か、折れにくくなるような先っぽなのか?
【高畑】これ、「ノノック」っていう名前が、「NOノック」という意味だから、自動芯出しなんだけど、その自動芯出しを利かせる上で、立てるより寝かせる方がいいということなのかな。
【きだて・他故】ふ~む。
【高畑】要は、きだてさんの手がずれてくるということは、「そこで持てよ」ということだよ。
【他故】罠にはまったんだよ。正しく持っているんだよ。
【きだて】「あわてるな、これはオートの罠だ」か。
【高畑】このグリップって、持つところはふくらんだところの上あたりだよね。そう持つと、最近のシャープの中では寝た感じになる。
【他故】そうだね、寝かせるかたちだ、これは。
【きだて】全体的に筆っぽいデザインなのは、そういうことなのかもしれない。
――確かに筆っぽいですよね。先の黒い部分は墨をつけた筆先みたい。
【高畑】かといって、筆のように立たせては書かないけどね。
【他故】この角度だよ。寝かせる感じだよ。
――40°くらいですかね。それとも30°?
【きだて】いや、45°くらいでしょ。
【他故】45°切るぐらいだよ。
【高畑】「クルトガ」あたりのグリップと比べると、明らかに後ろじゃん。
【他故】先を持ったら、こうは寝かせられないからね。「クルトガ」は、俺が持つと60°くらいまでいっちゃうよ。
【きだて】力を入れ気味に先の方を握ると指にすごい負担がかかるんだよ。だけど、軸中央が適正なら、「なるほど」という感じだね。
【高畑】書く角度的には万年筆っぽい、他と比べたら割と寝かせ気味だよ。それで、ガイドに紙面が当たったときに、ガイドから芯を出そうと思ったら、ななめの方がいいのかもしれない。真っ直ぐだと、完全に芯がなくならないとガイドが当たらないじゃない。ガイドが当たって芯がちょっと出るという状態をつくるときに、ななめの方が持ちやすいんだったらそうかも。これ、絶対ここを持てと言っているよね。
【他故】ここだよ。それより前は持てないよ。むしろ、先を持ったら持ちにくいだけじゃない。
【高畑】他のと比べて持ち方が変わっちゃうね、このペンは。それも、人による相性があると思うけど。
――これ、パイプスライドじゃないですか。パイプスライドで自動芯出し機構というのは、「オレンズネロ」と一緒ですよね。
【他故】これも、書いているときに引っかかりがないように、先端を研磨してたりするのかな?
【高畑】これは多分、樹脂自体の潤滑だと思うけど。
【他故】これ樹脂なんだ。
【高畑】多分、樹脂だと思うよ。自己潤滑のあるナイロンとかだと思う。
――ボディはアルミなんですよね。
【高畑】ボディはアルミだけど、先端は樹脂だよ。
――なるほど。
【高畑】でも、何だろうな。かたちから発想したのか、持ち方から発想したのか。つまり、筆記角度をこれにしたくて、このかたちにしたのか。でも、明らかにここの先端の黒い部分に平行部分がこんなに長さがあるじゃん。先を持たせたいんだったら、これいらないじゃん。
【他故】いらないね。
【高畑】ここに出しているということは、「寝かせろ」なんじゃないのかな。
【きだて】うん…、そして寝かせて書くと、思ったように字が書けない(笑)。
【高畑】ちょっとあれだよね、シャープにはならないよね。
【きだて】ならないね。
【高畑】どっちかというと、モワッとした太い線になるよ。
【きだて】字が汚い人って「自分の手の動きと筆記具の先端がつながるイメージが無い」ことが多いんだけど、この持ち方だと、よりつながるイメージが持てない。
【高畑】そうなんだ。
【きだて】自分の意図したものが書けない。
――この握りと寝かせがね。
【高畑】不思議だよね~。先端部分が真っ黒だから、何をイメージしたのかなと思って。他のシャープだと、シルバーだったり透明だったりするところが真っ黒じゃん。メッセージが強いよね。
【他故】強いね。
【高畑】何なんだろう、これは。
【他故】筆って言われれば筆なんだけどな~。
――確かに筆ですよね。墨の付いた筆みたいな。
【高畑】筆っぽいのかな~。
【きだて】最初に見たときに、明らかに「これは筆だ」って思ったから。
【他故】単なるデザインだけ?
【高畑】だって、ここに段差いらないよね。
【他故】そうだよね。
――段差気になる。
【高畑】ここの平行部分が気になるよね。何でこのかたちになったんだろう。
――この商品、品薄なんですって。
【きだて】へぇ~。
【高畑】人気なんだ。これいくら?
【他故】500円だよ。
【高畑】その割には、しっかりメタル感かあるから。
【きだて】高級感はあるんだよ。
【高畑】う~ん、やっぱり相性かな。
【他故】相性かね。
――かっこいいという感じじゃないですよね。
【きだて】でもね、デザインされているというイメージは伝わる。
――デザイン感はありますね。
【きだて】意外とノベルティ需要が多いんじゃないか。
【他故】これ、名入れできないんじゃないか。
【きだて】あ、名入れできるとこないね。ダメだね~。
【高畑】曲面だから、名入れしにくいよ。
【他故】彫れないよ、これ。
【きだて】クリップも細くて彫れないね。そうかノベルティはダメか~。
――かっこいいというか、う~ん何でしょうね?
【他故】オートのデザインは語りにくいな(笑)。
【高畑】ていうかね、意図が読みづらい。
――確かにね。「コンセプション」も謎な部分がありますしね。
【きだて】「はいっ、デザインしましたっ」と挙手はしてるんだけど、「で、答えは?」と聞いちゃう感じ。
――もう「他とは絶対に一緒にはならないぞ」という強い意志のもとで作られているんですかね。
【高畑】この折れない機構は、結構シンプルというかさ、「オレンズネロ」は高精度な技術を要する自動芯出し機構だけど、これはその技術を使っていないので。
【きだて】芯の減りに追随しているだけだよね。
【高畑】ちゃんと押し出し機構はあるよ。
【きだて】パイプスライドだけじゃなかったっけ?
【他故】芯1本分はいけるんだよね。
【高畑】放っておくと、ノックなしで芯1本分なくなるまで書けるはず。何だろうな、大体のものはプロファイリングするんだけど、これは謎の部分が多いね。オートの人にむしろ話を聞きたい。さすがの安定感で気持ちよく書ける

――次は「アドバンス」です。以前にもここで取り上げましたが、まだ発売前でしたので、改めて取り上げたいと思います。
【高畑】発売されたものを使ってみたけど、そつがなくて良いシャープペン。何も考えなくても、回っていることを忘れていても良いよ、という気がします。
【きだて】これで久々に「クルトガエンジン搭載機」を使ってみたんだけど、やっぱり「いいな」という再確認はできたわけさ。「芯が回っているの、利くわ」っていうのがちゃんと分かった。
【高畑】これもパイプスライドするでしょ。思うんだけど、パイプスライドさせないで普通に使っていても好きかな。
【きだて】パイプスライドだと、また偏減りしがちじゃない。それに対して回転が利くというのがいいんじゃないの。
【高畑】他のパイプスライドの長さを考えると、これはちょっとパイプの長さが短いんだよ。
【他故】ああ、そうだね。
【高畑】やはり、先端の見通しが悪いというのがどうしても出てしまうので。パイプ自体もちょっと太いんだよ。太くてテーパーが付いているので。書き始めてどんどん短くなっていくのはいいんだけど、最初は普通のシャープペンくらい出して、書き始めるぐらいでいいかなと思う。で、回るから元々折れづらいじゃん。
【きだて】先端のこの黒いのは何?
【他故】「クルトガ」からこのデザインだよ。機能があるのかは知らんのだが(笑)。
【高畑】いや、これあれじゃない。ここが回っているんじゃない。
【他故】回転子に直結しているんだ。
――Wスピードエンジン(クルトガはクルトガエンジン)に直結しているんですね。
【きだて】そうか、あまり意識していなかったな。
【高畑】今回のは、この周りがメタルなんだよね。この黒いのはエンプラ系の、多分ポリアセタールとかナイロンとかそんなやつだと思うんだけど、それで滑るんだよね。それで、メカはクルトガの倍速で回っているので。
――なるほど。
【高畑】これ、ちゃんと回っている効果はあると思うよ。よく「クルトガが回るのは要るのか」という話はよくあるんだけど、回っている効果はちゃんと感じるな。
【他故】感じるよ。字を書く分にはちゃんと感じるよ。
【きだて】ちゃんとシャープに書けるもの。これは分かる。
【高畑】やっぱり、アジア圏向けだよね。毎回、紙面に当たって/離れてがないと回らないから。
【きだて】筆記体みたいな、文字の画数が少ない英文向けではないね。
【高畑】最近流行の製図系ではないね。定規に当てて線を引くとメカが回らないから。それを考えると、文字書き専用のデザインなので。
――定規で線を引くと片減りしちゃうじゃないですか。でも、「アドバンス」はクルトガより2倍速だから、「片減りからの復帰がより早いんですよ」とメーカーの人は言っていました。
【きだて】そういうことね。
【高畑】この間までの「『三菱鉛筆。』で40画です」という話ができないから、三菱鉛筆の営業マンは何て言っているんだろうね。20画の言葉を探せばいいんだね。
【他故】「三菱」じゃ少ないか(笑)。「三菱」と「鉛筆」が合体してちょうどよかったからね。
――何か考えないといけないですね。
【他故】そうか、絵を描いていて何か変だなと思っていたら、先端が見えにくいからなのか。
【高畑】他のパイプスライドのものと比べるとね。見通しの良さというのでは、他の方が強いんだけど。
【他故】絵を描いているときに、いつも困ってた。「デルガード」もそうなんだよね。
【きだて】ああ、「デルガード」もそれはあるね。
【高畑】「アドバンス」になって、このパイプがちょっと太めに作ってあるんだよね。これは多分、機構の問題だと思うんだけど。
――Wスピードエンジンとの兼ね合いもあるんでしょうね。
【高畑】多分ね、パイプスライドごとWスピードエンジンに直結なので、そのせいもあると思うんだけど、この先端の黒い部分から太くなるのが早いので。
【他故】そっか、そういう違いがあったんだな。
【高畑】これは普通に文字を書く用だよ。
【他故】簿記の試験を受けたときに、いろんなシャープペンを一気に使えるチャンスだと思っていろいろまとめて持っていったんだけど、「時間内で気持ちよくきれいに書けて、折れなくて楽に書けるのは何だろう」というのを意識しながら、色々と変えて使っていたんだけど、最後に手に残っていたのは「クルトガ」だったんだよね。
――ほぉ~。
【他故】安心感がまるっきり違うんだよ。
【高畑】あのね、余裕があるときの「クルトガ」、余裕がないときの「デルガード」という感じなんだよね。俺的には。超絶あせるとダメなんだよ。
【きだて】その区分は分かる。
【高畑】余裕あるときは、メカが回ってくれるからきれいに書けて、すごく気持ちよく使える。
【きだて】そういうこと。シャープに書けるから、字の可読性が上がるんだよね。
【他故】字がきれいに書けるのって、提出するテストみたいなものに対して、こんなに信頼感を生むのかというのを、久しぶりに感じたのね。しばらく試験を受けていなかったから。
【高畑】同じ芯径ならば、これが一番安定するじゃん。前に書いたものと、後に書いたものとのイメージが近いじゃん。0.2㎜の「オレンズ」を使うと、もっと細いスタートはできるけど、最終的には段々太くなってきて、ちょっと変わってくるじゃない。だから、回し続けることに対する安心感は、読みやすさにはつながるかもしれないね。
【他故】そうだね。それはすごく感じた。
【高畑】就活ペンでも話が出るけど、書きやすいペンと読みやすいペンってあるじゃない。これ、読みやすいペンでもあるんだよね。
【他故】そうだと思う。
【高畑】やっぱり、元祖にして、未だに強さはあるよね。底力の安定感というか。
【きだて】最近は、雑誌なんかでも「折れないシャープペン」ばっかりで、紹介するラインナップから「クルトガ」がパージされてきてたのよ。
【他故】「もう、クルトガはいいでしょう」という感じなんだ。
【高畑】折れない括りにすると、割と脇の方にいっちゃう。
【きだて】そうなんだよ。「パイプスライドだけだよね」みたいな感じになっちゃうんだけど。
【高畑】折れるというのが、パキンと折れるのもあるんだけど、マイクロ折れというのもあるから。
【きだて】はいはい、先端がポロポロポロっていうのね。
【高畑】先端の、あの三角のところの片方だけ折れるという、局所的な折れに関していうと、やはり「クルトガ」が強いんだよ。
【他故】片減りしないからね。
【きだて】砕け粉が出ないんだよ。
【高畑】そう、小っちゃな砕け粉がね。ペキンって折れるのはみんなしないんだけど、あの小っちゃい砕け粉が出ないというのがね。
【きだて】そうね。
――「クルトガ芯」ってあるじゃないですか。
【高畑】中と外の芯の硬さが違うやつね。普通は外側が硬いんだけど、「クルトガ芯」は中の方が硬いんだよ。
【きだて】そう。硬芯徹甲弾みたいなものだよね。
【他故】なんかね、きついチャックで掴んじゃうと、割れるんじゃねと思うけどね。
【高畑】そうね。グッて押したときにチャックで滑ったりするのかな。
【他故】チャックで滑るのはありえるかもしれない。
――その芯を使っても、粉が出るというイメージがないですよね。不思議ですね。
【きだて】ねえ。
【高畑】これを「アドバンス」という名前にしたことで、三菱鉛筆が考える一つのシャープペンシルの原型として、ここにたどり着いたということはあるのかな。出た芯に対してあれこれし始めた三菱鉛筆が、自分のところとしては「ここゴール」みたいな感じで、1回宣言しちゃった感じはするよね。
【きだて】そうね。それが告知広報的には大正解だったという。
【高畑】そうかもしんないね。だから、混戦から抜け出す雰囲気がなくはないね。
――これもすごい売れているんですってね。品薄になるくらいで。今どれもそうなんだけど。
【高畑】話題のシャープが出たら、品切れになるくらい人気になるけど。他のものに比べると、ちょっと肩の力が抜けてきた感じ。
【きだて】こなれてる感は出てるよ。
【高畑】出てるね。
――実績としては、「クルトガ」は十分にありますからね。
【きだて】見た目に過剰さを感じない、シンプルなルックスにも余裕を感じるし。
【高畑】そう、他のと比べると、きれいに収まってきた。なので、もうちょっと安定したらというか、みんなが「アドバンス」を知ってくれてもうちょっと上にまでいったら、グリップが不透明でもいいのかな。ここにラバーグリップが付いたりするんだよ。
【きだて】それだね! 今まさにそれを言おうとしていたんだけど、次はそこに行くべきだよ。
【高畑】きだてさん的には、それ欲しいじゃん。
【きだて】欲しいよ。
【高畑】でも、今はまだこの2倍速メカ見せたいじゃん。
【きだて】だから、今はまだこのデコボコのプラグリップで我慢してやる(笑)。だから、次を早くしろと。
【高畑】「アドバンス」は、次世代のシャープペンシルの原型だよと言っているから、まだね。これが何も言わないで「三菱鉛筆のシャープ」となったときに、ここがゴムグリップになるんだよ。
――そのうちに、「アルファゲル」のグリップが付いたりしますよ。
【きだて】そうね、そう願うよ。
【高畑】それに限らず、今ある折れないシャープも、特徴のある部分がみんな透明になっているのね。それもね、もうちょっと落ち着いたらあれなのかな。そういえば、この間フランスで見た「クルトガ」なんて、グリップのところにシールが貼ってあって、「芯が回ってトガる」って英語で書いてあったよ(*Revolving action keeps the lead Sharp !)。
【きだて】アピるな~(笑)。
【高畑】でも、それをアピらないと、向こうの人たちにとって、芯が回る機能なんて知りもしないから。
【きだて】多分、意味も不明だろうしね。
【高畑】何でこのシャープが、他のより値段が高いのか意味が分からないからね。
――でも、ヨーロッパで「クルトガ」を売っているんですね。
【高畑】そう、意外とあるんだなと思って。でも、日本の筆記具は人気だね。
【他故】そうだね。製図用シャープのDNAを受け継ぐ

――では、最後に「プロユース171」です。
【高畑】171が何なのか、この間初めて分かったよ。
【他故】何だったの?
【高畑】2017年の1号機なんだよ。
【きだて・他故】え~!
【他故】そうなんだ。
――なるほど、17年の1ということなんだ。
【高畑】ボーイングが付けている名前みたいに、171、181みたいにいくのかと思ったら、来年出たら181なんだけど。
【他故】今まで、こういうことで名前がついていたことってあったかい?
【高畑】どうなんだろう? 次に今年中に出れば172になるみたいな?
【他故】前にそういうルールがあったっけ?
【高畑】まあ、それはともかくとして、きだてさんは何か言いたいことがあるのかな?
【きだて】このパイプの長さ調節機構というのが、実は誤解を招く表現なんだよね。パイプを短くしようとすると、パイプが引っ込むんじゃなくて口金が前進するんだ。つまり手元から紙面までの距離は変わらず、パイプは短くなったように見えるだけ。何でこれを付けたんだろう?
【他故】パイプを保護してるんじゃないのか。
【きだて】ええっ(笑)。
【高畑】いや、本当にね、どっちかというとパイプを保護しているんだよ。
【きだて】パイプ保護なのか? まあ、これパイプ長いからね。
【高畑】出すと長く使えるから、それはそれで便利だけど、長すぎる場合もあるし。
【他故】パイプの先っぽが嫌いという人が、自分の好きな長さのパイプにできるように、パイプの露出量を変えられる。
【きだて】なんだけど、グリップから口金までの長さが長くなっちゃうので気持ち悪い。
【他故】ここのところがね。
【きだて】「ノノック」のときに感じたのと一緒で、遠い感じになっちゃう。
【高畑】前の方を持ちたいという人にはあれだよね。パイプを短くしたときに、前の方を持ちたいというのができない。
【きだて】そうそう。パイプの長さが調節できると聞いたときに期待したのは、そこだったのよ。紙面に近づけて書けるんじゃないかという。
【他故】あ~、はいはい。
――この機能には、どういう意味があるんですかね?
【きだて】だから、今言っていたのがパイプ保護という(笑)。
【他故】パイプの長さ調節を、出る量と考えているということだよね。
【きだて】う~ん、俺が欲しいのはそこじゃなかった(笑)。
【高畑】あとは、クッションのあり/なしね。これは分かるね。
【きだて】これはまだ納得できる。
【他故】これこそ高級「プレスマン」なのでは。
――0.9㎜ありますからね。
【高畑】これは「プレスマン」じゃないよ。「プロユース」は製図系で、「プレスマン」はライター系なんだよ。だから、それでいくと「プレスマン」は、「オ・レーヌプラス」の方なんだよ。外で落っことしても大丈夫で、太いのだったら「プレスマン」でいいけど、細く書きたいんだったら、0.5㎜の「オ・レーヌプラス」を使えばいい。これは完全に製図用というか、製図用のDNAを引き継いでいるんだよ。
――これは完全にそうですね。元々「プロユース」は製図用でしょ。
【高畑】まぁ、そうですね。これに関しては、長い動画を作ったので(笑)。
――そうだ(笑)。この商品の詳しいことはこちらの動画をご覧下さいということで。
【高畑】僕のプロファイリングに関しては、その動画をもう1回見てほしいです。それで、特徴的なことは、芯の太さごとに色が決まっていて、それぞれ1色しかないんだよね。見ただけで「これは0.9㎜」とか分かるようになっている。
【きだて】それは親切だよ。
【高畑】これは「かわいい、かわいくない」じゃないんだよ。「プロは分かりやすければそれでいいんだよ」というこの割り切り。
【きだて】メッセージ性があるので、とてもいいです。
【高畑】気になるのはシュノークシステムという名前ぐらいかな。
――これ、グリップはどうなんですか、きだてさん?
【高畑】ローレットグリップね。
【きだて】かなりフロントヘビーで手にずしっと落ち着くので、ローレットでも意外といい方のローレット。
【他故】いい方なんだ(笑)。
【高畑】これさ、動画では言っていないんだけど、ローレットを一度付けた上で表面をナメているからね。
【きだて】ローレットのカドを落としているんだよね。
【高畑】ギザギザがそのままだと、ちょっと痛いじゃん。そのローレットを、あえて一度フラットにしているんだよね。ここがね、ガリガリ、ギザギザの製図用からちょっと一般用にしましたというところなんだよ。
【きだて】これぐらいで全然いいよ。指紋とちゃんとかみ合うし。
【高畑】ローレット付けた後に研磨しているから、そこの効果は出ているよね。これ、ローレットを付けっぱなしのやつだと、ペンケースに入れたときに、他のペンに傷が付くんだよね。
【他故】あー、そうね。塗装がなくなっちゃうくらいガリガリ削られちゃうよ。
【きだて】ヤスリだよ、あんなのは。
【高畑】それに比べると、こっちの方がマイルドなんだよ。
【他故】でも、この先っぽの重さは好きだよ。すごく好き。
【きだて】割としっくりと落ち着く感じはあるので。
――結構重さがありますよね。
【他故】重さがあるのは好きです。
【高畑】今は製図で使うわけではないけど、自分の好きな芯径でこれを使って書く分にはね。製図系のガイドパイプのあるものが好きだったら、これはパイプを思いっきり出して使えば。
【きだて】そうね。それでいいと思うよ。
【他故】思い切り出すだけでいいよ。
【高畑】思い切り出して、クッションのあり/なしは、文字を書く場合はクッションありでいいと思う。
【きだて】男の子の好きな自分カスタムだけど、一遍「こう」と決めたらそれで使い続ければそれでいいんだから。
【高畑】もちろんそうだよ。
【他故】人に貸したときに、変えられて「キーッ」てなっちゃうかも(笑)。
【きだて】それはありそう。
――絶妙な長さの出し方をしてたのに、それを変えられるとね(笑)。
シャープペンが賑やかなのはいいことだ
【高畑】でも、何だかんだ言っても、各社ちゃんと個性は出しているね。こうやって並べるとね。
【きだて】そうね、進化の多様性というか。面白いよね。
【高畑】ここがああだこうだというのはあるけど、これだけ違いがあるものが、各社からこんな勢いで出てくるというのは、まあ我々文具ファン的には嬉しい話かな。
【きだて】選択肢が多いのは嬉しいよね。
【他故】しかも、この価格帯のものがこれだけ出てくるんだからねぇ。
【高畑】いやぁ、俺が中学生のときにこれだけ出ていたら、ほぼ全部買ったね。
【きだて】だろうね(笑)。
【他故】もう、目移りしてしょうがないよ。相当悩むよ。
――破産するんじゃないかな(笑)。
【高畑】あの時になくてよかったのか、それともあった方が楽しかったのか、どっちもあると思うけど。
【きだて】それは今の中学生に聞いてみたいところだね。
【高畑】今は、各社がそれぞれ自分の得意な分野をつぎ込んだ、最先端のシャープを出してきているじゃん。いち早く三菱鉛筆が一歩抜きん出て、これを「うちのはもう普通にします」と宣言したじゃない。なので、これはシャープペンとして落ち着いたけど、ここから先は、機構の珍しさではなくて、もう本当に純粋に書き味の方に行けるんじゃないか。「オ・レーヌ」なんてこれで3代目だから、大分こなれているじゃない。新しい機構を採り入れた1号機というのはまだあるけど、それがちょっとこなれてくると、「いいんじゃない」という気がします。
【きだて】今後はニュアンスの部分とか、そういう部分が重視されるんだろうな。
【高畑】落ち着いたところで、メカの部分にグリップが付いたりとかね。
【きだて】個人の好みにフィットするものが出てくるというのがね、いいことだよ。生態系が豊饒というのは、それだけでいいことなので。
【高畑】シャープペン増えたね~。
――増えましたよ。単価も上がりましたからね。
【他故】単価が上がって、みんなが複数持ちをするようになって、0.3㎜のような細い方に行く人もいれば、太いのが好きだという人もいて、そういう幅も広がってきたし。
【きだて】そうやって聞くと、超絶に健全な市場成長だね。
【高畑】それを牽引しているのが、少子化している中高生なんだよ。そこが面白いんだよね。そこはシュリンクしていく一方だと思っていたのに。
【きだて】そう、パイは縮んでいるのに、市場は広がっているという。
【高畑】そう、高級化したしね。もちろん、少子化は進んでいるんだけど、こういうものを頑張って、違いが分かる子どもたちをきちんとつかまえると、ちゃんと市場は伸びるというのはあるね。
【他故】そうね。
【高畑】ある意味、お父さんを狙うよりは、伸びしろがある。
【きだて】その可能性はあるよ。
【他故】お父さんたちはお父さんたちで、また別の方向から攻めることができるからね。
【きだて】そうか。ここで贅沢を覚えた中高生は、大人になったらどんなボールペンを使うんだろうね。
【高畑】普通のシャープペンを持つと、字が書けなくなるみたいなね(笑)。オートマ車ばかり運転しているから、マニュアル車が運転できないみたいなさ。
【他故】「書いたら芯が折れるから、これは不良品です」とかありそう(笑)。
――ありそうですね。
【きだて】「クルトガ」が出たときも、「これに慣れたらシャープペンを回しながら書けなくなるから」とか言っていた人がいたからね。
【高畑】あー、回しながらちょうどいいところで書くんだよね。
【きだて】そういう感覚がつかめなくなったって。じゃあお前はライター無しで、手で火をおこす感覚がつかめてるのかと(笑)。
【他故】それは、機械に任せればそれでいいよ。
【高畑】まあ、シャープペンが賑やかになることはいいことだから、「もっともっとやれ」っていうことだよね。
(後編:ブング・ジャムの逸品編はこちら)
プロフィール
きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/
他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/
*このほか、ブング・ジャム名義による著書に『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)があるほか、弊社よりKindle版電子書籍『ブング・ジャムの文具放談』シリーズを好評発売中。購入はこちらから。
【文具のとびら】が気に入ったらいいね!しよう