1. 連載企画
  2. 【連載】月刊ブング・ジャム Vol.75 ブング・ジャムの2023年上半期ベストバイ文具 その3

【連載】月刊ブング・ジャム Vol.75 ブング・ジャムの2023年上半期ベストバイ文具 その3

文具のとびら編集部

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は、2023年上半期のベストバイ文具を紹介してもらいました。

第3回目は、高畑編集長が紹介する「ZOOM L2」シャープペンです。

写真左から高畑編集長、他故さん、きだてさん*2023年6月3日撮影
*鼎談は2023年5月29日にリモートで行われました。

このシャープペンがカッコいい!

ZOOM.jpg「ZOOM L2」マットフルブラック シャープペン(トンボ鉛筆)

――最後は高畑編集長ですね、よろしくお願いします。

【高畑】トンボの「ZOOM L2」です。

――黒なんですね。

【高畑】はい、「L2」の黒ですね。今年は「ZOOM」がリニューアルしたので、ニュースとしても結構大きかったかなと思うんだけど。コアになる高級ラインの「C1」と、それからエントリーラインがゲルインクの「L1」と、そしてこの「L2」という安いやつ。安いって言ったって3,000円ぐらいで、一番高い「C1」だって7,000円だからさ。なんか「クルトガダイブ」が高いのどうのこうのっていう話をするけど、全然こっちの方が高いんですけどみたいな(笑)。

0.jpg(左から)「ZOOM C1」(税込7,700円)、「ZOOM L1」(同4,400円)、「ZOOM L2」(同3,520円)/写真はすべてボールペン

『ZOOM』を楽天でチェック

『ZOOM』をAmazonでチェック

■文具のとびら関連記事■
デザイン筆記具ブランド「ZOOM」がリブランディング、第1弾3種を発売
https://www.buntobi.com/articles/entry/news/017078/


【他故】ははは(笑)。

【きだて】結局のところ、今までの万年筆以外の高級筆記具がちょっと安過ぎたんだよね。

【高畑】そうよって思う。だからって別にこれが高いとか言ってるんじゃなくて、「クルトガダイブ」の5,000円なんて、まあそんなもんだよっていう感じはすごいするので。

【きだて】まあ、機構を考えたらそれぐらいするだろうよっていう話じゃない。

【高畑】日本から高級なペンが出るっていうのが、結構大事じゃんって思うので。あんまり今まで出てなかったので、まあこれはいいよねっていう。「ZOOM」が新しくなって「ZOOM505」が出たのは、もう30年ぐらい前になるかな。

【他故】なるね。

【高畑】だから、その最初に「ZOOM」を見た時のあの衝撃みたいなところからあっちこっちへ行って、段々「ZOOM」の輪郭ははっきりしなくなってきてたところで、久しぶりに気合を入れて「ZOOM」を全部やり直すということで。これまでの「ZOOM」は全て「クラシック」と呼ぶというところもなかなかかなと思うんですけど。それで今回 3種出たんだけど、全部それなりにそれぞれに良さがある中で、俺の中では完全にこの1本が今回の中では気に入りとしてこれが最高かなという風に思います。それがこれ。「L2」のシャープペンが良い。中でも、できればこの黒がいいみたいな感じかな。他のも良いんだけど、やっぱり「L2」のシャープが良かったなと思いました。

【他故】うん。

【高畑】他に見たことない形というか、類似した形があんまないというか。

【他故】ないよね。

【きだて】工業デザイナーの友だちが、甥っ子の中学校の入学祝にシャーペンを色々と探して最終的に「L2」に行き当たって。あまりに気に入り過ぎて、自分でも買っちゃったって言ってたね。

【他故】へぇ~。

【高畑】今回は、どうしてもキャッチーなところでいくと、「C1」の「ノックが浮いてる」っていうところに行きがちなんだけど。洗練されたデザインというところでいったら、圧倒的にこっちの方がかっこいいなと僕は思っているので。僕はシャーペンを持つときに、特に細いシャーペンで図とか書くときに後ろを持つんだよね。大分後ろを持つので、後ろまでグリップというやつが好きなんだよ。「オレンズネロ」とかも後ろを持っても書けるので、ここら辺が共通した好きポイントなんだけど、これも後ろの方を持ったときに、この先端の細く長い感じが、他に見ないぐらいこのボディのデザインが細い。軸そのものが細い「ZOOM707」とかあったじゃないですか。棒みたいなやつ。あれはあれでなんだけど、そうじゃなくって、何て言うのかな、書いている先端に向かって細いという、このシャープな感じっていうか、鋭角な感じが他にあんまり見ないなと思って。今回はこの形に惚れましたね。

【他故】うん。

【高畑】これは同じデザインのボールペンもあるんだけど、ボールペンよりシャーペンの方がかっこいいんだよ。ボールペンだとどうしてもボールペンのリフィルがあるから、ちょっと先が太くなってる。

4.jpg「ZOOM L2」油性ボールペン

【きだて】なってるね。

【高畑】どうしてもボールペンの角度になっちゃう。シャープペンだと、ガイドパイプも付いてないんだよ。これだとガイドパイプ付けたいところなんだけど、先端まで鋭角なままで終わってるんだよね。平行部がないっていうのが、なかなかに思い切ったデザインで、良いと思う。

【きだて】この先端の細さとノック部分がなんかすごい対照的な形になるんだよね。

【他故】ああ、そうかそうか。

【高畑】後ろから来た三角が、前に三角で出てる感じで。

【きだて】すごく面白い。連続性があるというか。

【高畑】ノックを押したときはね、平らだから全然押しやすいんだよ。痛くもないし全然問題ない。あとね、ボディが一応三角ボディになってるんだよね。面取りしてあって三角ボディなので。前の方を持つ人は普通の丸軸なんだけど、僕みたいに後ろ持つと三角ボディなんだよね。これもまたちょっと良くて、持ち心地がすごく良いです。

【他故】うん。

【高畑】ただ、「クルトガエンジン」も「折れないシステム」も「オートマチック」も何にもない、ただのシャーペンなので。自分で回すなりなんなりっていう感じではあるし、芯が短くなってきたときには普通にノックしなきゃいけないっていう、ただ普通のシャーペン。しかも0.5㎜なんだけど、これ0.3が欲しい気持ちにはなる。こんだけとんがってたら0.3が欲しいなって思うんだけど。でも、0.5で書いてるのに0.3で書いてるみたいな気持ちになるよね。

【他故】そういう気持ちになるんだ(笑)。

【高畑】いや錯覚する。狙い通りに書けてるから、細く書いてるような錯覚がちょっとある。図とか書くには、太さがあんまり気にならないというか、書いていてこれが0.5っていうのを1回忘れる感じがする。0.5ってこんなに細いイメージのペン先があんまりないのでそんな感じがする。

【他故】なるほど。

【高畑】それで、何が大事って塗装ですよ。表面がちょっとラバーっぽい感じの手触りでしっとりして滑らないから、この手触りが最高にいいんだけど。

【きだて】これ、マジでいいよ。気持ち良くしっとりする。

【高畑】一応まだ10 年経たないと本当かどうかは分かんないけれども、トンボの人が言うには、加水分解しないタイプの塗装を使ってるっていうことで、「全く違う種類のやつです。加水分解に関しては絶対大丈夫です。そこはすごいこだわりました」って言ってたから、多分大丈夫なんだと思うんだけど。

【きだて】そこまで言っといてベタベタしたら、さすがにちょっと笑うけどな(笑)。

【高畑】この手触りで加水分解しないでいてくれるんだったら、この類のものはやっぱ長く使いたいから、3年とかでベタベタしてきたら嫌だなっていうのはあるので、加水分解しない特殊な塗装をしてあるっていうのが、僕にとっては「そこも大事」ってすごく思ったので。

【他故】うん。

【高畑】特に真っ黒なやつは、持ったときに筆記具としてのステルス性がすごい。

【きだて】それどういうこと?

【高畑】持っているところというか、先端に対して集中したときに、余計なものが全く存在しないというか、全部真っ黒の棒に見えるのがちょっといいところだなって思うんですよね。あと、比較的軽い。すごい軽いわけではないけれども、最近の重めのシャープと比べて重いやつじゃないので、持ってる感じとしてはかなりナチュラルに持てるので、僕としては大きく振って、大きく書くのに良い。その先端が細いっていうのが結構良いなというところなので。やっぱり、かたち的に他にで見たことないかたちなので、これをデザインしたのはすごいなと思う。

【他故】うーん。

【高畑】「C1」も面白いから嫌いじゃないし、「L1」も悪くはないけれど、やっぱりこの新しい個性としてはこれが一番という感じがしますね。でも、シャーペンとしては静音性とかもないし、ただあのペン先なので。

【きだて】「ザ・普通」だよね。

【他故】ははは、普通(笑)。

【きだて】つまりは、オートノックとか、折れないとかの親切ギミックに慣れきった今時の子が使ったら、どういう感想を抱くのか分からないんだけども。

【他故】ああ、そういうことね。

【高畑】「ガイドパイプがないのか」っていう人もやっぱりいたし、オートマチックで出てくる機構もなければクッションもないし、ただ芯が出てるだけっていうところだけど。でも、マニュアル世代の私たちとしてはですね。

【きだて】「偏芯に関してはセルフで回しますんで」ってなるわけじゃん。

【他故】まあそうだね。

【高畑】うん、軸回すからいいよ。

【きだて】「回しますから」「芯も折れないように力加減しますし」という話じゃん。これはこれで全然いいし、むしろこういうのがいいって感じすらあるんだけど。もちろん、言うてもこんなもんは老害の意見ですけど(笑)。

【他故】ははは(笑)。

――でも、「L2」のシャープペンは、中高生に売れてるんですよ。特に特にブラックは。

【他故】かっこいいからね。

――7,000円だけど、「C1」のシャープペンも売れてるらしいですよ。やっぱり中高生が買ってくそうで。

【高畑】これがみんな売れてるんだったら、「クルトガダイブ」が高いって言うな(笑)。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】むしろ、あれが7,000円でもいいだろうって思うし、1万円でもいいわって思うんだけどね。でも、「C1」の無理くり感も悪くないよね。芯を交換しようと思ったら、先端を外すっていう。しょうがないんだけどね。

【他故】そこは外せないので、しょうがないんだけど。

【きだて】俺の大好きな「L 1」の話もしたいなと思ってさ。

3.jpg「ZOOM L1」水性ゲルインクボールペン



【高畑】「L1」はね、普通にボールペンとしてめっちゃいいぞ。「505」のイメージをそのままに、軽くなった感じがちょっとあって。太いボールペンで重いやつは、オートがライバルにいたりとかしてるじゃない。そこで大分軽いので、これはこれでいいよね。あと、ブルーブラックのインクだったりするところも悪くない。ただ「L1」も好きだけど、この中でベストバイはどれ? って言われたら、やっぱり「L2」のシャープペンかなと思う。

【他故】うん。

【高畑】でも、「L1」は本当楽に書けていいよね。今度「OKB48ってどうすんだよ」問題だよ、本当に。各社いろんなもの出してきたからさ。

【きだて】うれしい悲鳴ってやつじゃないんですか。パイが少ないよりはずっといいでしょうよ。

【高畑】何も出てこないよりは全然いいんだけど。いや本当ね、国産のちゃんとした高級筆記具には頑張ってもらいたいので。それこそ、海外メーカーとかじゃないとブランド作れないのかっていうと、「そんなことはないぞ」っていうふうになって欲しいので。「ZOOM」は、トンボブランドから独立した形でやるんでしょ。そのブランディングで上手くいってほしいね。

【きだて】正直、「ジェットストリーム プライム」が5,000円止まりだったのも良くなかった気がする。あれで1万円台ぐらいのやつが出てれば、ちょっと意識変わったような気するんだよ。プレゼント用とかその辺に関しても。

【高畑】「ジェットストリームプライム」って、どうしても中の仕組みをウリにしてるじゃない。なので、機能の値段っていくらなの?みたいな感じになってしまうんだけど。そうじゃないところ、ブランドとしてのちゃんとしたかたちというか、そういうのにちゃんと値段を付けて売るんだよ。そういうところが認められてくるっていうのが大事だし。最近ようやく、「ジェットストリームプライム」もそうだし、「ユニボールワンF」とかもそうだけど、海外の筆記メーカーに負けてないデザインの商品っていうのを、日本でもちゃんと作ってきてるじゃない。

【他故】うん。

【高畑】そういうの作ってきてる中で、300円ラインで世界最高みたいな話をしてるとこではなくって、上のグレードでもちゃんと勝負していけるっていうのが出てきてくれると本当にいいなあとは思うので。ヘビー級でも勝っていきたいよねっていうところはあるね。

【他故】そうね。

【高畑】機能でいうところの「クルトガ」だったりとか、「オレンズ」や「デルガード」だったりみたいな、そういうのと別のラインで「ZOOM」っていうラインを走らせる。ここには特にそういう機能がないけど、書き心地はちゃんとこだわってますよっていう作り方が違うっていうのは、まあありだよね。オートなんかもそうかもしれないね。オートの筆記具も海外でちゃんと評価されてるし。ああいう感じの高級ペン。オートのは全然安いけど。まあ、それでも7,000円だからね。「ZOOM韻」でちょっとやり過ぎた感があったけど(笑)。

【きだて】それで若干のシュリンクしてる部分はありそうだけどな。

【高畑】今回のラインアップの見直しって、僕は悪くはないと思ってるんですね。「日本から出たコンテンポラリーデザインて何なの?」っていうことを考えていくと、こういうデザインなんじゃないですか。素材にこだわるっていうのと、ちょっとしたデザインの遊び心にこだわるみたいなところは悪くないと思うので。そこでちゃんと評価されていって、ハイブランドとしてちゃんとできたらいいねって思う。

【きだて】多分、次はハイエンドモデルが出るんじゃないの。ガツンとすごいのが。

【高畑】これが7,000円ってことは、もし次が出てくるとしたら、3万円クラスのやつが出てくるんじゃないかな。なんかすごいの出して欲しいなあっていう気がするね。本当になんかあのブランドとして持っていたい感じがします。万年筆だけは別格だけど、日本のボールペン、シャープペンでそこそこちゃんとした値段が取れるものっていうのがなかなかない中で、7,000円は全然悪くないと思います。

【きだて】高いのになると、もう海外に向けてぐらいしかなくなってくるんだろうね。きっと日本国内だと売れないだろうよ。

【高畑】でもあれじゃん、中高生なんてさあ、特に何でもない機能の2万円のシャーペンとか買ってるじゃん。

【他故】まあね。

【高畑】あれも 1 つのブランドであって。野原工芸とか、工房楔とかもそうだけど、あれがありなんだから、もうちょっとこういうチャレンジができたらいいね。

【他故】そうだよね。

――他故さんは「ZOOM」を触ったりしたんですか?

【他故】買ってはいないんですけど、一応一通り触らせてはいただいて。「ああこんな感じか」っていうのはあって、そろそろ「L2」は買おうかなと思ってたんですけど、店頭に行くとみんな品切れなんですよね。

――そうそう、売れちゃってるんですよね。

【他故】売れちゃってて。「色選びたいな」なんてぼんやり思ってるうちに品切れになっちゃったんですけど、「L2」のシャープはいつか手に入れたいなとは思ってます。

【高畑】そこは定番だからね。

【きだて】まあ、待ってるとそのうち回ってくるでしょう。

【他故】だと思うけど。

――油性ボールペンの方はどうなんですか?

【高畑】やっぱり、「L2」はシャーペンがかっこよすぎて、どうしてもボールペンは普通に見えちゃうっていうのがあって、俺はシャーペンが好きっていうのがあるんだけど。逆に「C1」はやっぱりボールペンいいっすよ。「L1」と「C1」のボールペンは。シャーペンもいいけど、ボールペンやっぱりいいなと思いますね。それで書き心地が違うのね。「C1」が油性で「L1」がゲルなんですけど、「L1」は結構緩いね。緩めで楽に書くけるじなので、好みが分かれるかもしれないけど。

2.jpg「ZOOM C1」油性ボールペン


【きだて】「L2」の油性って、「C1」の油性と同じインクだっけかね?

【高畑】同じなんじゃないのかな。「L2」は口金の遊びがあるから、カチカチいうのが僕はちょっと気に入らないんだよ。でも、「C1」の方は全然それがないので、油性ボールペンとしては「C1」の方がやっぱりいいかなと。あと、カジュアルな太軸ですごい軽いっていうのが案外ないよね。「L1」ぽいやつがあんまりないなと思っているので、あれこれ考えるときにはすごくいいなと思って。でも、使い所がでも結構限られるというか、インクが太く出ちゃうので、手帳に書くのには太いかなと思っているんですよ。だから、「次に何の話をしようかな?」みたいなのをわーって書くのに向いてるなと思っていて。あれは、色によって全然見た目が違うので、どれが好きっていうのも分かれそうだけどね。

――「L1」は、軸の周りを透明な樹脂で覆ってるんですよね。

【高畑】中がメタリックで、外が透明みたいなんですよ。

――きだてさんは「L1」派なんですね。

【きだて】うん、俺は「L1」派。

【高畑】太くて滑らないから。

【きだて】滑らないもんあるんだけど、「L1」に関してはね。見た目が全て。

【高畑】見た目的にあれがいいんだ。

【きだて】とてもいいです。今までにないルックスをドえらい高品質に仕上げてきたな、という。

【高畑】かっこいいよね。

【きだて】夏はこれでずっと書こうって決めてるぐらいには。

【他故】ああそう。

【きだて】やっぱり、このフロスト感かすごくいいよね。

【高畑】あれ大変だぜ。あの軸さ、パーティングラインがないんだよ。フロストなのに。

【きだて】そうそうそう。あれすごい。

【高畑】軸の側面に継ぎ目が出ないようにできてんだよね。あれは本当にすごい。

【きだて】これぐらいはいやってくれんだなっていうのがね、すごい嬉しいよ。

【高畑】だから、ちゃんとお金をかけて金型を作ってやってるので。あれもいくらだっけ?

――税込4,400円ですね。

【高畑】4,000円オーバーでプラスチックのボールペンを作るっていうのが、ちゃんとやらないとなかなか。そういう処理にしようと思ったらできるけどさ、わずかな違いが結構分かっちゃう。

【他故】うんうん。

【高畑】きだてさんの好きなこの「L1」もすごいよく分かるけどね。どれも違う感じで、みんな同じ人がデザインしてるんだよね。

――そうみたいですね。

【高畑】なんかそれぞれ個性が違ってて、こんな風にできるんだなと思うし。こういうのって似せがちじゃん。3つ一度に作るってなると、そんな風に作りがちじゃない。

【きだて】共通のモチーフとかあったりするんだけど、完全に別なんだよ。

【高畑】似てないよね。

【きだて】デザインも違えば、筆記感も全然違うし。同じブランドで出すのってどういうこと?って。その辺が懐の深さを感じさせて、「新しいZOOM好き」ってなる。

【高畑】1回のタイミングで3本出して。それで同じデザイナーでしょ。ラミーって、時期をずらして違うデザイナーに発注するじゃない。ラミーは基本的に外部デザイナーだから、それぞれ違う人が作っていて、個性が違ってて当たり前じゃん。回転式の「ダイアログ3」と「ラミーピコ」は同じデザイナーで、形が似てるっていうのが分かるじゃん。同じデザイナーって分かるし、違うデザイナーのは全然違うってなるけど、この「ZOOM」シリーズがこれだけバラしてくるのはすごいよね。作り方も全部違うじゃん。ジュラルミン削り出しましたとか、特殊塗装しましたとか、金型でフロスト見せてますみたいな。そういうバラエティ感がありつつも、じゃあ全然違うかっていうと、確かに「ZOOM」と言われれば「ZOOM」っていうところでまとまるっていうのが、なかなか超絶難しいよね、こんなのやるのね。もう筆記具のデザインなんて出尽くしてるからね。「C1」で唯一惜しいのは、万年筆に似たようなデザインがありがちじゃん。

【他故】ああ。

【高畑】「ライティブ」とか、台湾の「ツイスビー」とか、ああいうのが作りそうな雰囲気を持ってたりするので。そこ行くと、今回見てる中では、このシャープペンがオリジナリティという意味ではすごい飛び抜けてたような気がしたので、これはちょっと応援したいなっていうのと、あと僕の持ち方にすごく合ってる。後ろの方を持って長く持つので。ほら、きだてさんの好きな前から後ろまで全部グリップだよ、みたいな。

【きだて】まあ、その辺持てればいいので。

【高畑】前から後ろまで全部グリップっていうのも悪くないねっていう。最近、こういうかたちを作るのがなかなか難しいと思うので、実にいい感じに。ちょっとある意味で90 年代ぐらいに戻った気分になるんだけど。この特徴の出し方がね。80年代終わりから90年代ぐらいの感じのとんがり方。

【きだて】そのノックノブのかたちの遊び具合とかはそれぐらいっぽい。

【高畑】あるよね。90 年代ぐらいの時の、筆記具がデザインでそれぞれ個性を競ってた時代の。「ZOOM」自体がその時代を引きずってるっていうのはある意味では当然ちゃ当然なんだけども。でも。80年代とか90年代のレトロじゃないんだよね。

【他故】レトロじゃないよね。

【高畑】そこがなんかね、ちゃんと新しくしてるんだよね。上手いなっていうか。

【きだて】これがちゃんと売れてるようで良かったなって思うよ。

【高畑】本当にね。これがなかったらもう「ZOOM」終わりかもっていう話してたもんね。

【きだて】トンボも相当無理してると思うんだよね。これ出すのに。

【高畑】色々頑張ってるんじゃない。

【きだて】新しい素材使ったチャレンジしてみたりとかさ。メーカーとしては怖いことやってると思うんだよね。その心意気は汲みたいし、よかったと思うし、そうなるとハイエンドも期待したいし。

【高畑】「クルトガダイブ」とはまた全然違う方向に、日本の筆記具らしさをちゃんと出してくれるといいな。その中では「L2」は一番安いしね。ちょっと品薄らしいけど、定番品なので多分待ってれば出てくると思います。

――他故さんも、そのうち入手していただいて。

【他故】はい、必ず買います。

【高畑】日本発ブランドがすごく本当にいい感じになって復活してほしいよね。せっかくここまで来たから復活してほしいし、これは海外の筆記具メーカーの筆記具とも似てないと思うんだよね。だから、オリジナリティのあるいいかたちになったなと思うので、僕は大好きだなということでした。

――はい、ありがとうございました。

プロフィール

高畑 正幸(たかばたけ まさゆき)
文具のとびら編集長。学生時代に「究極の文房具カタログ」を自費出版。「TVチャンピオン」(テレビ東京系列)の「文房具通選手権」では、3連覇を達成した。サンスター文具に入社し商品企画を担当。現在は同社とプロ契約を結び、個人活動も開始。弊社が運営する文房具のWebマガジン「文具のとびら」の編集長も務めている。著書は『究極の文房具カタログ―マストアイテム編―』(ロコモーションパブリッシング)、『究極の文房具ハック』(河出書房新社)、『そこまでやるか! 文具王高畑正幸の最強アイテム完全批評』(日経BP社)、『文具王 高畑正幸セレクション 一度は訪れたい文具店&イチ押し文具』(監修/玄光社)、『究極の文房具カタログ』(河出書房新社)、『文房具語辞典』(誠文堂新光社)と、翻訳を手がけた絵本『えんぴつとケシゴム』(KADOKAWA)。
https://bungu-o.com/


きだて たく

小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」が好評放送中。ラジオで共演しているふじいなおみさんとのユニット「たこなお文具堂」の著書『文房具屋さん大賞PRESENTS こども文房具 2022』が発売中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/

「ブング・ジャムの文具放談・完全収録版~2022年Bun2大賞を斬る!~」〈前編・後編〉をコンテンツプラットフォームnoteで公開中。

【文具のとびら】が気に入ったらいいね!しよう