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【文具時評】万年筆のブルーブラックインクを書き比べ

ナカバヤシは、高級筆記具ブランド「TACCIA(タッチア)」から、万年筆用ボトルインク「すなおいろ・インク」を2018年9月に発売した。同社初の万年筆インクということで話題となったが、「まずはベーシックなカラーからスタートしたい」との意向で、定番的なカラー13色をラインアップしている。実は、発売前にこのインクを試す機会があったのだが、その時に一番印象深かった色がブルーブラックであった。詳しいことは後述するが、何というか“堅実”という言葉が思い浮かぶようなしっかりとした感じの色味である。

以前、ゲルインクボールペンのブルーブラックの色味比較をして記事にしたことがあったが(記事はこちら)、今回は万年筆インクのブルーブラックを比較してみようと思う。ボールペンであれだけの色味の違いがあったのだから、万年筆もそれ以上に面白い結果になるのではないだろうか。

今回、試し書きを行ったインクは、国内メーカーでは、パイロット、セーラー万年筆、プラチナ万年筆の万年筆メーカー3社のインクとナカバヤシ「すなおいろ・インク」、海外メーカーはモンブラン、ペリカン、ウォーターマン3社のインクで、合計7点のブルーブラックインクを比較した。すべて筆者が個人的に所有しているインクを使用している。

公正を期すために、全て下写真の佐瀬工業所のガラスペンで試し書きを行った。用紙については、先日、東京・銀座の伊東屋本店で行われたインクイベント「INK.Ink.ink! ~インク沼へようこそ~」の取材時にいただいたイベント限定の「特製試筆用ノート」(非売品)があったので、それを使用させてもらった。

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*ボトルを開封してから時間が経っているインクもあり、購入時より若干色味が変わっている可能性もありますので、ご了承下さい。

パイロット

パイロット1.jpgパイロットコーポレーションの万年筆インクというと、最近は「色彩雫」が有名だが、今回使ったのは定番的なブルーブラックで、写真のインクは一番小さな30mlボトル。


パイロット2.jpgその色味はこんな感じ。割とブルーが強めだ。前回のボールペンのブルーブラックの色味比較では、パイロットの「ジュースアップ」は渋めの色だったが、万年筆は青に近い色なのが意外だ。同じ会社ながら、ボールペンと万年筆で傾向が違うところが面白い。

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プラチナ万年筆

プラチナ1.jpgプラチナ万年筆も、最近は個性的なインクを色々と発売してきており、中には自分が好きな色に調合できる「ミクサブルインク」もあるが、ここでは定番的なインクで試し書きをする。ただし、同社のHPの商品情報をみると、写真のボトルのものはすでに販売されていないようで、ボトルデザインが新しくなっている(こちらを参照)。プラチナ万年筆の染料系の定番インクはブラック、レッド、ブルーブラックの3色で、何故かブルーはラインアップされていない。

プラチナ2.jpgそのブルーブラックの色味は、パイロットと同様に青味が強い。先ほど、「プラチナ万年筆の定番インクには青がない」と述べたが、そのために青に寄せた色にしているのだろうか。

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セーラー万年筆

セーラー1.jpgセーラー万年筆といえば今年、実に100色ものインクをずらっと揃えた「万年筆用ボトルインク インク工房 染料 20ml」を発売して大きな話題となっているが、ここでは定番インクを取り上げる。写真のインクボトルは古いタイプのもので、今は角型で厚底のおしゃれなボトルインクになっている(こちらを参照)。

セーラー2.jpgその色味は、前の2社に比べて濃い目の色で、青味と黒味も充分なブルーブラックらしい色(あくまでも個人的な見解です)。これぞ「ザ・ブルーブラック」と言ってよいのではないだろうか。

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すなおいろ・インク

ナカバヤシ1.jpgナカバヤシ・TACCIA(タッチア)ブランドの「すなおいろ・インク」は、すべて漢字一文字で色を表現しており、ブルーブラックは「黝」と書いて「あおぐろ」と読むのである。ちなみに、パッケージのイラストは、万年筆画家・サトウヒロシさんが描いたものだ。


ナカバヤシ2.jpgこのインクのブルーブラックの色味は黒味が強く、セーラー万年筆に近い色味になっている。「すなおいろ・インク」はベーシックなカラーという方向性なので、ベーシックな「ブルーブラックらしい色」であるセーラーのブルーブラックの色に近くなったのではないだろうかと想像している。とにかく、手堅いしっかりとした色味である。

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モンブラン

モンブラン1.jpgここから海外メーカーのインク。まずはモンブランから。モンブランのボトルインクといえば、キャップにモンブランを象徴するホワイトスターをあしらい、まるで靴のようなかたちのボトルが特徴だが、中のインクが少なくなってきたときに、かかとの部分にインクをためることでインクを吸入しやすくできるという実用的なデザインでもある。

モンブラン2.jpgモンブランのブルーブラックは「ミッドナイトブルー」という名前だが、インクの色味も「ミッドナイト」の名前の通り黒味が強い。セーラーやナカバヤシはそれなりに青味も感じられるのに対して、モンブランのインクはまず黒味が目に付く。これまで取り上げてきたどのインクよりも黒味が非常に強いといえる。

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ペリカン

ペリカン1.jpg100年以上の歴史があるペリカンの「4001」インク。ペリカンも近年は、厚底の凝ったボトルで個性的な色を揃えた「エーデルシュタイン」というインクを展開しているが、ボトルインクといえばこの「4001」を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。ちなみにこのインクのラベルは現行の商品には使われていない、古いタイプのもの。

ペリカン2.jpgペリカンのブルーブラックは、一言で言えば「渋い」。発色の傾向はセーラーやナカバヤシに近いが、この2つに比べて黒味や青味がやや抜けた渋めの色になっていると感じた。

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ウォーターマン

ウォーターマン1.jpgウォーターマンのインクボトルは、多面体で個性的なかたちだが、これはインクが少なくなってきたときに、ボトルを傾けて吸入しやすくするためのものだそうだ。このブルーブラックは「ミステリアスブルー」という名前だが、万年筆ファンに人気のある色らしく、以前取材した万年筆コレクターの人もこのインクを愛用していると言っていた。なお、このラベルは現行のものとは異なるデザインである(ラベルが汚れていてすみません)。


ウォーターマン2.jpgファンが多いその色味はどんな感じかというと、まず書いたばかりの色味は実に鮮やかな青味が勝ったような色だ。それが乾いてくると、かなり色が変化していくのだ。


ウォーターマン3.jpgこれが、しばらく経ってからの色味。最初の色から随分変化したのではないか。ブルーブラックというよりは、ターコイズとかそっちに近いのかもしれない。インクは基本的に、乾けば色が多少は変化するものだが、ここまでインクの色味が変わるのは珍しいのではないか。まさに「ミステリアス」で、今回取り上げた中では一番個性的な色だろう。

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まとめ

ボールペンを比べたとき以上に、メーカーによって色の傾向に違いがあるのではと感じた。ウォーターマンは別格として、青味の強いパイロットやプラチナのブルーブラックと、黒味が強いモンブランのブルーブラックでは、同じブルーブラックを名乗ってはいても、色味にかなりの開きがある。こういうところがインクの面白いところで、だからつい色々なインクを集めたくなる人が多いのかなと考えてしまう。

今回は、あくまでも定番の色で比較したが、最近のトレンドのインクにもブルーブラック系の色があるので、興味のある人はぜひ書き比べてみて下さい。ただし、インク沼にどっぷりとはまらぬよう、十分にお気を付け下さい。

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