【連載】文房具百年 #71「小さいものを調べてみたら~インデックスラベル~」
小さい紙を眺めていたら
先日、自分の小さい紙関係のコレクションを整理する機会があった。「小さい紙関係のコレクション」とは、ラベル、値札、封緘紙、アルバムに写真を貼るときのフォトコーナー、それにインデックスラベルなどである。どれも箱や中身が可愛らしかったり洒落ていたりで、骨董市で見つけるたびに一つ二つと買い集め、それなりに集まっている。当時のデザインに加えて道具としても今後失われていくもの達なので、何らかの形でどこかで紹介したいと思っているがなかなか難しい。
そんな中、インデックスラベルの以前の名称が「口取紙」であることがふと気になった。口取紙という名称は知っていたが、どういう意味なのか調べたことはなかった。
そうだ。「口取紙」という名称の由来と、持っているインデックスラベルの写真だけでも紹介しよう。ちょっと短くなるかもしれないが、まぁいいだろう。

いつからあるのか
さて、「口取紙」の由来は何なのか、、、いや待て。それだと本当に2、3行で終わってしまいそうだ。それではあんまりなので、一応歴史から調べてみよう。まず日本発祥ではないだろう。今回アメリカのカタログを見てみたら「INDEXING」というワードが使われていたので、それで調べてみた。するとAIがまとめてくれた内容は以下であった。(「Indexing history」で検索して日本語に翻訳)
◇ ◇
■インデックスの歴史
アレクサンドリアの古代パピルスタグから中世のコンコーダンスまで、印刷機とともに主題索引へと進化し、後に検索エンジンによってデジタル化されましたが、常に情報を容易にアクセスできるように整理する役割を果たし、手動リストから概念と場所をマッピングする複雑なアルゴリズムに移行しました。(中略)
*古代ローマ/ギリシャ
「インデックス」(ラテン語で「示す」) という用語は、最初はパピルスの巻物に付けられた小さなタグを指し、タイトル、メモ、または内容を識別し、巻物を見つけるのに役立ちます。(後略)
◇ ◇
なんと!古代ローマのパピルスまで遡ってしまった。つまりインデックスラベルは情報整理あたりの歴史の中で語られるものなのか。調べると面白そうだが、自分の興味の範囲としては現物が手に入りそうな時代の文房具、大体1800年代後半以降なので、古代ローマの話は触れずにおこうと思う。なお、インターネット上には、古代ローマのインデックスラベルや説明らしき画像もあったので、興味のある方は調べてみることをお勧めする。
紀元前の古代ローマから2000年ほど時代を飛ばして、日本に入ってきたのはいつなのかから調べることにした。日本発祥で無いものは、大体明治初期に海外から輸入されている。インデックスラベルは小さいものなので、インデックスラベルのみの情報は見つけにくいと思い、関連するものから辿ってみることにした。
インデックスラベルの使用シーンや関連する文具事務用品は何か。名称もおそらく最初から「口取紙」ではないだろう。
思いつくところとして使われたのは「帳簿」であり、名称は「見出紙」だろう。改めてインデックスラベルの箱を見ると、口取紙ではなく、「帳簿」「見出紙」の文字が見つかった。
*商品名が「見出紙」のインデックスラベル。時代不明(推定戦前)
帳簿で使われたということは、明治初期に複式帳簿が入ってきたときに一緒にインデックスラベルも入ってきたのではないか。そこで明治初期に銀行業務を立ち上げるためにイギリスから呼ばれたお雇い外国人のアラン・シャンドの「銀行簿記精法」、同時期の福沢諭吉の「帳合之法」、この2つの書籍について「見出紙」や「口取紙」という言葉があるか調べてみた。
シャンドの「銀行簿記精法」には「見出を付けたるものなり」という表記があり、もしやと思ったがよく読むと見出し紙をつけるという意味ではなかった。また、福沢諭吉の「帳合之法」にも該当するような表記は見当たらない。
そこで、国会図書館デジタルコレクションでざっくり検索すると、明治21年以降、役所や警察など公共機関や銀行などの帳簿のつけ方マニュアルのような資料に「見出紙を付し」「見出紙を貼付し」といった表記や見出紙を貼り付けた図が掲載されていることが分かった。おそらく公共機関・金融機関の帳簿のつけ方マニュアルのベースとなる資料があり、それに倣って広がったのであろう。
*『福井県現行諸令達』第1冊,福井県,明25-26. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/788707 (参照 2026-01-19)
そして「口取紙」はというと、こちらも明治22年の福島県の会計処理マニュアルに「帳簿は各項目に口取紙を付し」という表現が出てくるが、他の公共機関・金融機関で「口取紙」の表記は見当たらない。「口取紙」の表記は、昭和に入ってから目立つようになっている。
アメリカと日本のインデックスラベル
明治20年代以降、帳簿のマニュアルに「インデックスラベルを付けよ」といった説明があったことはわかったが、肝心のインデックスラベル自体はどこから来たのか。帳簿の付属品として一緒に輸入されたことを推測したが、その気配はない。それというのも、日本は最初から紙製のインデックスラベルが使われていたようだが、アメリカではインデックスラベルは紙製ではなかったようなのだ。
小さいものだからか、汎用的なものだからかアメリカでもインデックスラベルについて複数の名称があり、カタログには「Indexing」「Index tag」「Index tab」などの言葉が出てくるし、日本のカタログでは「Indicator」という言葉を当てていることもある。名称が定まらないと情報を見つけづらく、見つかったものをベースとした説明になるが、具体的な形態は1900年頃のカタログでは金属のプレートに紙を差し込んで、それをクリップのように紙にとめるものが主流であったとみられる。
金属以外の素材もあるが、革やセルロイドと布などで、全体が紙製のものは見当たらない。また、インデックスとなるものを取り付けるのではなく、あらかじめ用紙の一部を切り抜いたようにインデックスと紙が一体化しているタイプもある。
*1902年アメリカ文具卸商のカタログ
では日本のスタンダードなインデックスラベルはどこから来たのか。
明治20年代の資料を見ると、白い紙を貼り付けていたように見える。明治44年の台帳のようなものの広告でも、白い紙が貼られている図が描かれており、自分のコレクションの大正時代の帳簿にも手作りのインデックスラベルが付いているものがあった。スタンダートであったのかはわからないが、紹介しておく。
*「加除自在町村事務期日表」広告、明治44年

*大正4~5年頃の帳簿。比較的厚手の和紙を長方形に切って貼り付けている。インデックスラベルに書かれているのは屋号と思われる。
二つ折りにして紙を挟んで貼るインデックスラベルは、大正4年の伊東屋のカタログに、掲載されているのを見つけた。
*伊東屋カタログ(大正4年)
この時点で、赤枠と青枠があり、形も今と変わらない。ちなみに明治43年の伊東屋のカタログでは見当たらないので、この「紙製二つ折り貼り付けタイプのインデックスラベル」が登場したのは、明治の終わりから大正初期であろう。
なお、この時期に帳簿を扱っていた大手文具店である銀座文祥堂の大正9年のカタログにも、同様の商品が掲載されていた。
*文祥堂、記帳用品目録、大正7年
伊東屋、文祥堂それぞれのカタログに掲載されているラベルは大変よく似ているので、同じメーカーが作ったものかもしれない。メーカーは不明で、特許データベースでも、該当するような特許は見つけられなかった。ただ、輸入品をもとにしたのではなく、日本独自のものであることは間違いであろう。つまり、今でも定番のインデックスラベルは、110年ほど前に日本で生み出された超ロングセラー商品なのだ。
口取紙・見出紙
さて、3行で終わってしまいそうなところを寄り道したら、意外と長くなってしまった。調べると色々出てきたので、つい楽しくなってしまったのだ。そろそろ「口取紙」という名称について調べた結果を紹介しよう。
最初「口取紙」で検索したところ、AIは「お菓子の詰め合わせで、お菓子同士がくっつかないようにする仕切り紙」「“一口取る”という意味から分ける、区別すること」といった結果が出て来て、「要するに区切って分けるということが、なるほど」と思った。さらに調べると、料理・食品にまつわる意味合いもないわけではなさそうだが、それだけではないようだ。
前出のアラン・シャンドの「銀行簿記精法」には「口取勘定」という言葉が何回か出てくる。意味を調べるとAIは以下の回答だった。
◇ ◇
「口取勘定(くちとりかんじょう)」とは、江戸時代の商習慣において、売買の仲介者(口入屋や仲買人)に対して支払う「手数料」や「口銭(こうせん)」のことを指します。
主な特徴は以下の通りです。
• 意味: 商品の売買が成立した際に、仲介をした者へ報酬として支払われる金銭のことです。
• 由来: 「口取(くちとり)」には、馬の口を引く(先導する)という意味のほかに、物事の仲立ちをするという意味がありました。
• 現代での呼称: 現在の「仲介手数料」や「コミッション」に相当します。
◇ ◇
江戸時代に使われた言葉という意味では時代感は一致するが、今一つ信頼性に欠ける気がした。ただ「銀行簿記精法」に「口取勘定とは」という説明を見つけられないので、明治初期の時点で会計関係において日常的に使われていた用語なのかな、とは思った。
読解に苦戦しながらも、銀行簿記精法の「口取勘定」の記載個所を読んでいくと、取引先の口座といった意味で使われているように読める。確かに銀行の帳簿作成マニュアルを見ると、見出紙のつけ方として取引口座毎などの記載もあり、あながち間違いではない気がしてきた。
つまり、会計関係で使用されていた「口取」の意味は今一つ明確ではないにしろ、「口取紙」の語源はこの「口取」という言葉からきている可能性がある。

*商品名が口取紙のインデックスラベル。時代不明(推定戦前頃)
なお、「見出紙」「口取紙」の他に、「ヒビロ」という名称が出てきた。特許データベースと国会図書館それぞれで数件見かけたが、これについてはカタカナ以外の表記や語源について情報が探せなかった。
古いインデックスラベルの紹介
この後は私の所有しているインデックスラベルを画像で紹介しよう。インデックスラベル自体のデザインはあまり変わり映えしないが、紙質や印刷の色、活版印刷特有の凹凸、それに箱のデザインに味わいがあるので、是非見てほしい。
*コクヨのインデックスラベル。
*左;TS印のインデックスラベル。TS印は現在のTSノートのメーカー。右;うづまきのインデックスラベル。現在のうずまきブランド(菅公工業)
*シダダシレッテルのインデックスラベル。以前のラベル類は切手のように水糊が付いており、それを舐めて貼ることから来たブランド名と商標と思われる。シタダシレッテルは、値札やラベルを幅広く扱っており、古い紙ものを集めているとよく出会うメーカー。
*商品名なしのインデックスラベル。ラベル類は箱に直接現物が貼り付けられているものも多かった。
*左:印刷により、紙に凹凸ができている。右:水糊が付いているため、時間の経過とともに丸まってしまう。くっついて離れなくなってしまうことも多い。
*海外のいインデックスラベルは、好きな長さに切り取って使うタイプが多い。また、あらかじめアルファベットが印字されたものが付いていることも多い。
*コクヨの切り取り式とセルロイド等で出来ているインデックスラベル。
*福井商店(現ライオン事務器)の切り取り式インデックスラベル。商品名の「ドンコ」は魚の名前で、ルーズリーフタイプのファイル穴がドンコの巣を連想させることからついた名称。切り取り式のインデックスラベルは、ドンコ帳簿用として販売されたもの。(カタログは昭和12年だが、ドンコ見出しは推定昭和20~30年代頃のもの)
余談~金属製カード見出器と博多織~
さて、今回インデックスラベルについて色々調べていた中で見つけた、ちょっと面白かったことを紹介して、終了としよう。
文祥堂の大正9年のカタログに掲載されている金属製カード見出器について、特許の番号が掲載されていたので、調べてみた。
*文祥堂、記帳用品目録、大正7年
すると、福岡市竹若町の竹若伊右衛門さんが明治39年に出願した特許であることが分かった。
竹若町の竹若さん?住所と名字が同じとはただモノではない気配を感じ、「竹若伊右衛門」さんについて調べてみることにした。するとAIはこんな回答を返してきた。
◇ ◇
竹若 伊右衛門(たけわか いえもん)は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけて活躍した筑前(現在の福岡県)の織工であり、「博多織」の創始者の一人として知られる人物です。
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えっ、安土桃山から江戸時代初期??明治39年の300年以上前だよね???
最初の古代ローマといい、今回いろいろ驚かせられる。
つまり博多織の創始者に竹若伊右衛門さんという方がいて、おそらく代々名前を継いでその何代目か後の方が、この金属製カード見出し器の特許を取った竹若伊右衛門さんであろう。竹若町の町名も初代竹若さんが由来らしい。調べると、明治時代の竹若伊右衛門さんは、学術機関に竹若家の家系図を提出している履歴もあり、子孫であることは間違いないだろう。ちなみにこの明治時代の竹若伊右衛門さんは、発明家であったようで、望遠鏡付きステッキなどほかにもいくつかの特許をとっている。
インデックスラベルという小さな文房具から、時代とカテゴリーを超えて安土桃山時代の博多織創始者につながるというスケールがなんとも愉快であり、いろいろ調べられる今の時代に感謝である。
はい。余談も本文も以上である。そういえば、もともと紹介しようと思った「口取紙」の名前の由来ははっきりしなかったが、調べていろいろわかったので、ご容赦いただきたい。



