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【連載】他故となおみのブンボーグ大作戦!Bootleg  #48 小学生が卒業制作で、地元の魅力を詰め込んだ万年筆インクを作った話

ふじいなおみ

30分間、文房具の話題だけをお送りするラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」のパーソナリティ「なおちゃん」こと、ふじいなおみです。

番組では毎週たくさんの文房具が登場します。その中から、他故さんとなおちゃん2人で選んだ商品をピックアップ。より掘り下げてご紹介していきます。

photo1.jpg完成したインクをお借りしました


今回は、2025年03月09日OA の「なおちゃんの使ってみた」でご紹介しました、北海道にある中富良野小学校6年生が作った万年筆インクについてご紹介します。

なおちゃんの地元・北海道で素敵なことが行われていた

今年の2月に配信されたあるプレスリリースに目が止まりました。発行元はオカモトヤ。東京・虎ノ門にある老舗の文具店です。そして内容は「北海道にある中富良野小学校の6年生がラベンダー色のインクを販売する」というものでした。

photo2.jpg中富良野町はこの辺りにあります

中富良野町とは、北海道のほぼ中央に位置し、富良野盆地の自然と景観に恵まれた町です。農業を中心に発展し、今ではラベンダー畑をはじめとする美しい自然景観を楽しみに年間約110万人が訪れる、自然あふれる街です。

このインクは2025年2月18日に中富良野小学校で販売済み。2026年夏に開催される「なかふらのラベンダーまつり」でも販売予定です。

本格的なプロジェクト

インク作りは「総合的な学習の時間」で行われました。「総合的な学習の時間」は、文部科学省のホームページで調べたところこのように書かれています。

”総合的な学習(探究)の時間は、変化の激しい社会に対応して、探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目標にしている……(以降略)”

オカモトヤが関わった授業の一つとして「デジタルとアナログの違い」という話題があったそうです。そこで挙げられたアナログな文具の一つとして「万年筆インク」がありました。万年筆インクは児童にとっては初めて見聞きするもので、彼ら・彼女らはとても興味を持ったようです。そこから、卒業制作としてインクを作って販売してみたいという目標ができました。

中富良野小学校の6年生のインク開発は一般企業で行われるようなこのようなプロセスで行われました。

1.写真・現地調査・インタビュー
地元風景画像や地域の方へのインタビューを中心教材に、中富良野町の強みを知る。
2.商品作りの授業
商品製作に必要なコンセプトやストーリーを考え、商品の方向性を決める。
3.色づくり体験・デザインの授業
調色という技法を学び、制作する色を決める。グループに分かれ、パッケージや販促物の制作を実施する。
4.まとめ
販売会を開催し、商品化されたインクを販売する。

プロジェクトの中では様々な悩み事にぶつかったようです。
その中でも印象的だったのは商品のコンセプトを決める時の悩み。インクは「ラベンダー色」に決まったものの、調べてみるとすでに多くメーカーから「ラベンダー」と名のつくインクが発売されていたのです。それを受けて児童たちはどのようなラベンダー色のインクを作ればよいかわからなくなってしまったのです。

なおちゃんも試しに「ラベンダー」と名のつく万年筆インクを自分のインク管理簿やインターネット検索で調べてみました。
まずは道内。北海道・小樽にある北一硝子がオリジナルインクとして「想い出のラベンダーインク」(https://www.kitaichiglass.shop/shopdetail/000000000963/)を販売中。
他にも国内ではナガサワ文具センターのKobe INK物語に「布引ラベンダー」、プラチナ万年筆のクラシックインク「ラベンダーブラック」がありました。外国のインクでも例えばエルバンからはラベンダーの香り付きインクが発売されているようです。

ご当地インク研究家が考えるご当地インクの魅力とは?

なおちゃんは万年筆インクコレクターの中でも、いわゆる「ご当地インク」と呼ばれる万年筆インクを集めています。「ご当地インク」とは文具店がその地域の特色を生かして作ったインクのことです。

そんな私がご当地インクにとって一番大切だと思っていることは、色の裏側にしっかりとしたストーリーがあることです。つまり、ラベンダーを摘み取ってきてその色と全く同じ色を再現すればよいかというとそうではなくて、「自分たちにとってのラベンダーとはどんなものなのか?」が揺らがずに持てるということが大事だと考えています。

彼らのオンリーワンのラベンダーの色は身近にありました。学校の目の前には「北星山」という街のシンボル的な存在であり、かつラベンダー園もある山があります。その山のラベンダーが咲き誇る景色は児童たちの自慢の場所でもありました。

photo3.jpg実際に8種類の紙に塗り、スキャニングしたもの(環境により色が異なることがあります)

そして、苦戦していたコンセプトは「夏の始まりに北星山に登り、朝日に照らされたラベンダーを見た」時のエピソードと決まりました。
その景色は観光客がほとんど知らない、地元に住んでいるからこそわかる自慢の景色なのです。
そうして中富良野小学校オリジナルの万年筆インク「初夏〜朝日に照らされて〜」が誕生しました。

オカモトヤと中富良野小学校の出会い

photo4.jpg箱の中にはオカモトヤのロゴと中富良野小学校の校章が印刷されています


ここで一つ不思議なことがありました。東京・虎ノ門にあるオカモトヤと北海道の中心部にある中富良野小学校の出会いです。こちらはオカモトヤの担当者に問い合わせました。

オカモトヤが現在取り組んでいることの中に「acane Project」というものがあります。一般社団法人casaという団体と共同でも行っているもので、「使われなくなってしまった文具やまだ使えるのに廃棄せざるを得ない文房具を必要な人に届ける」活動です。その活動の中で中富良野小学校の総合学習を担当している渡辺先生とも出会い、そこから総合的な学習の時間に関わることになったそうです。

また、実際にオカモトヤの社員の方が小学校まで出向いて授業も行ったそうです。

後日談:インクの販売日のお話

photo5.jpg大きさの対象としてタミヤの10ccの角びんを置いてみました


2025年2月18日火曜日の午後。中富良野小学校の体育館で「総合的な学習の時間イベント」が行われ、4年生以上の「総合的な学習の時間」での成果物がお披露目されました。その様子は中富良野小学校のnote(https://nakafurano-es.note.jp/all)のページに書かれています。

この日は、100名以上の方々が来場しました。4年生は「中富良野観光すごろく」を公開。5年生はSDGsを合言葉に商品の作成に取り組み、配布をしました。

そして、6年生はもちろん、ほぼ1年かけて取り組んだオリジナルインクの販売です。インク販売のブースには長蛇の列ができたそうです。

photo6.jpg小学生らしい文字で書かれた学校の名前にも目がじんわりと……


noteに書かれたイベントの記事を読んでいて、なおちゃんは涙が溢れてきました。最後までやり遂げたことを、保護者目線で感じ取ったのだと思います。

今の児童たちは私たちにはなかった分野も学びます。多分私が知っているのはその中でも一部ですが、自ら興味を持ったことを学んでいく「自主学習」であったり、中学生が地元企業の協力を得て仕事を体験する「職場体験」であったりは私の頃はありませんでした。当時小学3年生だった娘の授業参観では、一人一人がタブレットでスライドをつくりみんなの前でプレゼンをする姿も見ました。

「自主学習」「職場体験」「プレゼン」……大人になった今ならば、楽しそうで将来にも役立つ内容に感じますし、「羨ましいなー」なんて気持ちも湧いてくる学習に見えますが、実際に経験する児童・生徒の皆さんにとってはその「楽しそう」に隠れている自分の苦手なことを乗り越える力、悩んで悩んで問題を解決をするための力など、真剣に取り組めば取り組むほど苦しいものかもしれません。しかし、乗り越えれば乗り越えるほど良いものが出来上がる・経験値が上がるものなのでしょう。

この卒業制作は令和7年度の6年生も取り組むと伺っています。ラベンダーで有名な町ではありますが、自然がたっぷりで山の生き物や農作物、町中に溢れる緑など、たくさんの中富良野町の魅力をぜひオリジナルインクでも発信していってほしいと願っています。

ブンボーグ大作戦!こぼれ話

4月からブンボーグ大作戦!は、放送の一部を除いてPodcastで配信します。

今まで「ラジオ番組はラジオ番組らしく、放送しておしまい」という気持ちと「せっかく貴重なゲストさんのトークや、素敵な商品の紹介を聴くチャンスが2回しかないのは……」の二つの考えのはざまで悩んでいた”たこなお”ですが、ついに決めました!4月6日放送分から番組終了後に「他故となおみのブンボーグ大作戦!」をPodcastとして配信します。

週1回、再放送(毎週水曜日昼11:30から12:00)終了後に配信をしていきます(しばらく更新タイミングが安定しないと思います……が、頑張ります)。

配信場所は
1.ナナコライブリーエフエムのYouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@775fm3
2.今まで、番組終了後のトークを配信していた「たこなお文具情報室のお話」の
Spotify・Amazon Music・Apple Podcast 各プラットフォーム
※「たこなお文具情報室のお話」で検索すると出てきます!

これで、聴き逃しても大丈夫!
ですが、日曜日の放送中(夜7:30から8:00)に行っている実況大会(番組の紹介文具情報やリスナーさんからの感想などを「#ラジブン」をつけてポストする)は続けます。
また、2025年3月以前の放送を遡っての配信は致しません。

今までよりも聴きやすくなった「他故となおみのブンボーグ大作戦!」をお楽しみに!!

プロフィール

【ふじいなおみ】
1979年北海道札幌市生まれ。ラジオパーソナリティ/文房具プレゼンター
ナナコライブリーエフエムで放送中のラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」のパーソナリティ及び制作・技術を担当。万年筆インク(中でもご当地インク)コレクター。
他故壁氏さんとユニット「たこなお文具情報室」として、文房具の楽しさを伝える活動を行っている。
2015年生まれの娘とともに知育・学童文具を使用しているため、リアルな声を届けられる数少ない存在である。
そして、きだてたくさんと色物文具をひたすら紹介する動画コンテンツ「イロブンの引き出し開けていこう」もYouTubeにて配信中。

【他故となおみのブンボーグ大作戦!】
埼玉県朝霞市のコミュニティFM「ナナコライブリーエフエム」にて放送中の30分間文房具の話題だけをお送りするラジオ番組。
パーソナリティーは他故壁氏&ふじいなおみ。
放送時間は毎週日曜日19:30~20:00/毎週水曜日 11:30~12:00(再放送)
FMラジオ77.5MHz(埼玉県朝霞市・志木市・新座市・和光市とその周辺地域)の他、パソコンやスマートフォンではListenRadioのサービスを利用すると気軽に聴くことができます。

詳しい聴き方は番組Webページへ
https://daisakusen.net/howto/

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