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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.46 新春スペシャル ブング・ジャムの2021年文具大予測!?(その2)

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は「新春スペシャル」として3日連続で、ブング・ジャムのみなさんに「2021年の文具はこうなる!」という予測を語ってもらいました。

第2回目は他故さんの2021年予測です。

写真左から他故さん、きだてさん、高畑編集長*2020年11月7日撮影
*鼎談は2020年12月14日にリモートで行われました。

M5が来る!

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――では、次は他故さんお願いします。

【他故】そんなに立派なことは、毎年言ってないのですが(笑)。

【高畑】他故さんはいつも、自分にギュッとフォーカスしたような感じだよね。

【他故】あ~。でもね、今年はちょっと違うの。今年は、「みんなの手元にM5が行くぞ」という話。

――あー!

【他故】もう、マニアのフォーマットではなくて、今年はおそらくいろんな人の手元にM5が行くんじゃないかと思ってるんですね。

【高畑】なるほどね。

【他故】システム手帳が久しぶりに流行るんじゃないかという風に思うぐらい、去年はバインダーも売れましたけど、手帳メーカーじゃないところがM5のリフィルを出し始めているんですよね。

【高畑】増えたね。

【きだて】カミテリアとかも出してるよね。

【他故】そうそう。すごく増えたので、今年はいろんな紙メーカーが、この大きさのものを出してくるんじゃないかと、すごく思ってるんですよ。紙の種類が増えれば、書きたくなる人が絶対に増えて、バインダーがあるんだったら試してみたいという人がいるというのが一つ。それと、去年後半になって「プロッター」のM5(写真)が出た。これが出たことで、今までM5を持ってなかった人が、意外と「持ってる」というのをいろんなところでつぶやいたりし始めて、「それって何?」と聞く人が増えたんですよ。

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【高畑】ああ、確かに。

【他故】「そんな小っちゃい手帳があるんだ。それなあに?」と聞かれることが増えたので。そこから先「いろんな紙があるんですよ」という話になったら、恐らく字を書きたいというタイプの人だったら、これは流行るんじゃないかなと、すげー思っております。

【きだて】今、みんな「M5、M5」って言ってるじゃん。その根拠はなんなのかな?

【他故】根拠?

【きだて】何でそこまでM5を欲しがる?っていう。何に惹かれてM5なの?っていうのが、まだピンときてないんだ。

【他故】いろんな人のいろんな意見があるから、僕がズバリと言えるわけじゃないけど、恐らく単純に言えばかわいいからでしょ、この大きさが。サイズがかわいいってことだよ。

【きだて】手帳のミニチュアとしてなんだ。

【他故】まずそこからだと思う。

【きだて】なるほどな。

【他故】それプラス、ポケットに入るので便利なので。便利というのが後からついてきているんじゃないかなと、僕は逆にそういう風に思っている。だから、女性人気がすごく高いのもすごく分かるし、小日向京先生みたいに「M5は何冊あってもいいです」という人がいるくらいで(笑)。

――ははは(笑)。

【他故】バインダーを増やす必要はないけど、紙の種類は絶対増える。種類が増えたら、どんどん使いたくなるなというのもあるし、持ち歩ける紙の大きさとして、このくらいだったら誰でも持ち歩けるんじゃないかなって思うんですよね。名刺よりちょい大きいぐらいで。

【きだて】俺は「ツイストメモ」のA7ハンドメモが書くもののサイズ感としてわりと好きなんだ。だから、小さいのが欲しいなら手帳じゃなくてハンドメモのほうが安いよ、とすら思ってたんだけどね。なるほど、他故さんの「かわいい」というので、そこはストンと腑に落ちた。

【高畑】「ツイストメモ」で全然構わないんだよ。「ツイストメモ」で長く愛せる素敵な表紙やリングのものが出てくれたら、それはそれでアリだと思うんだけど。俺は、このサイズでずっと使えるメモ帳はM5が初めてかなと思っていて。他にないんだよ。それまでは「ダイヤメモ」でいいかなと思っていくらいで。普通は、使っているうちにボロボロになるから買い替えるけど、そういうのがないのがいいし。

【他故】まあ、そうだね。

【高畑】インク収集帳なら、インク1色塗って、色の名前を書いてちょうどいいくらいのサイズ。

【きだて】「ダイヤメモ」とかじゃなくて、パーマネンスに使えるという話になってくると、それもまた質感の話になりそうな気がするな。

【他故】まあ、あるかもね。愛着というのも、当然こういうものには必要という気もするのでね。

【高畑】それだと、M5じゃなくてバイブルだって長く使えるのは必要なんだけど、M5が急に流行るのを考えると、このサイズが書くのにちょうどいいというか、キングジムの「暮らしのキロク」ぐらいのことを記録できるんじゃない。映画を観た感想とか本を読んだ感想なんて、これぐらいでちょうどいいんだよ。だから、バイブルサイズでもデカいくらいなんじゃないの。

【きだて】そらそうだよね。以前から、「1日1ページ手帳を埋められる人間はそうそういない」という話をしているけど。

【高畑】きだてさんの言うそれだよ。

【きだて】確かに、そのサイズでいいというのは、俺も認めるよ。

【他故】2、3行ポンと書くだけでいいんだよね。

【高畑】だとしたら、小型化した理由は、書くことが少なくて済むからなのか(笑)。

――ははは(笑)。それか(笑)。

【きだて】コロナだなんだで時間にゆとりができて、書く余裕ができたという話ではないんだね。

【高畑】その代わり、書くネタの収集に出られなくなったんだよ。

【きだて】あ~なるほど。

【高畑】外出すれば、毎日のように違うカフェに行って、そこで食べたものとかを書けば、それっぽくなるけど。日常のちょっとしたレジャーがなくなったから、書くことがないんじゃない。「今日も家から出てないし、何を書こうかな」みたいな。

【きだて】じゃあ、やめちまえ(笑)。

――ははは(笑)。

【他故】でも、書きたいんだよ。そういう気持ちだけはあるんだよ。

【きだて】とにかく書きたいんだ。面倒くせえな(笑)。

【高畑】その素敵なノートは持ちたいんだよ。だから面倒くさいんだよ。

【他故】この素敵な手帳に、素敵な万年筆で、素敵な色で書きたいんだよ。書く事ないけど。

【きだて】やっぱり、それはフェティッシュな部分だな。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】M5にこれだけ書ければ、写真撮ってSNSにアップできるじゃん。

【きだて】はいはい。

【高畑】誰かの名言を1個書けば埋まるじゃん。

【他故】誰かの名言(笑)。

【きだて】紙面がスカスカだと、写真撮ってアップするのも恥ずかしいしね。

【高畑】だから、これ1枚くらいなら埋められるかなと思うので。俺は今年、手帳全部こんなに小さいんだよ。これぐらいでよかったかなと思って。スケジュールは別だけど、日々の1日1ページはこれで充分と思って。1日分がこの大きさで足りたんだよね。

【きだて】1日1ページはこのサイズがベストだよ。

――ふふふ(笑)。

【高畑】カバンから出すのが億劫で書かないというのがこれまではあったんだけど、これポケットにずっと入れてるから、出してすぐ書けるというので、書く頻度が上がったんだよ。

【他故】あ~、それはあるね。

【きだて】最悪、「おおきめシール」(写真)を貼れば、1行書くぐらいで埋まっちゃうから。

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【他故】ははは(笑)。

【高畑】「大きめシール」のシール帳にしかならないじゃん(笑)。

【他故】シール貼りきれないかもしれないじゃん(笑)。

【きだて】はみ出しちゃうか。

【高畑】方や、書ける人はA5サイズに行ってるじゃん。

【他故】そうそう、今は極端なんだよね。たくさん書きたい人はA5サイズに行くし。

【きだて】他故さん的にM5の魅力とか、「M5を使ってよかった」話はないの?

【他故】M5の魅力ね。他のシステム手帳にリフィルを綴じることができるから、これ外したリフィルを他でストックすることができる。

【きだて】はいはい。

【他故】システム手帳って、上三つまでの穴のピッチは共通なんですよ。M5のリフィルは無加工でミニ6とA5に入る。

【高畑】入るよ。

【他故】バイブルだとほんのちょっとだけ引っかかる、上と下のところが切り欠けられてるアシュフォードのリフィルを使うと、バイブル入るのね。だから、システム手帳を元から使ってた人も、そっちを母艦にすることができて、こっちをメインに使うことができるので、すごく便利。自分が書いたことを捨てたり、なくしたりするのがもったいない、どこかに取っておきたいという人は、例えばA5サイズのものを持っていれば、そこにA5リフィル入れることができるから、そういうのはすごく便利。

【きだて】うん。

【他故】まあでも、僕はいつも言っているけど、やっぱり紙がいつも手元にあって、いつでも書けるというのが、システマチックにできるようになったので、それはそれですごく嬉しいんだけどね。

【高畑】かわいらしいリフィルが増えたのは、魅力としてあるんじゃない。今旬なリフィルがすごく増えたのって、やってみたくなるよね。

【他故】まず紙を見て、「この紙が使えるバインダーが欲しい」という逆流現象が起きているから。

【きだて】紙の種類が増えると、そこでシンギュラリティが起こるわな。

【他故】そう、起きるよ。

【高畑】いやぁ、システム手帳はしばらく辛かったものね。

【他故】密かなブームで終わってる感じがずっとあったからね。

【高畑】昔、8穴のバインダーを使ってたんだよ。日本初のやつ。

【他故】「システムバインダー」だな。

【高畑】その「システムバインダー」を、リフィルがなくなってやめたんだもの。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】リフィルの種類がだんだんなくなってきてさ、僕が使ってたカレンダーのリフィルまでなくなったんだよ。

【他故】あ~。

【高畑】やっぱりね、紙が増えるって重要だよ。種類が増えるって大事だよ。

【他故】すごく大事だと思う。やっぱり、システム手帳は、紙ありきなんだと思う。今回のこの増え方は、久しぶりにブームっぽい感じで、いろんな人の目にこのM5が触れると思うので、今年は絶対に面白いぞという感じです。

【きだて】ここ数年の、「紙博」とかの紙ブームからも上手く流れてきた感じで面白いね。

【他故】それはある。今度は「いいかげんノート」のいいかげん罫線でM5のリフィルが出るので、よくやるなぁと(笑)。

【きだて】出るんだね(笑)。

【高畑】あと、いろんな紙を集めたら、紙見本帖みたいになるじゃない。この大きさで、かわいいよね。

【きだて】はいはい。

【高畑】昔、ファンシーブームの頃って、女の子たちがメモ帳のリフィルを何枚かずつ交換してたじゃない。

【きだて】やってたね。

【他故】ミニ6はそうだったよ。

【高畑】あの頃の人たちが、多分今40代くらいなんだよ。その人たちにとってみたら、あの頃の懐かしさをちょっと感じると思うんだよ。

【他故】それはあるかもね。あとは、ズバリ5穴というパンチがまだなかったんじゃないかな。

【高畑】あ~確かにない。

【他故】なので、どこが作るのかなというのもちょっと楽しみ。

【高畑】カール事務器あたりに作ってほしいというのはあるな。もうちょっとブームになって、安心して作れるぐらいになれば(笑)。

【他故】そうだね(笑)。

【高畑】一過性で終わると、作った人が大変。

【きだて】パンチ、デザインフィルが「プロッター」のシリーズでやりそうな気がするけどね。

【他故】「プロッター」で頑張ってくれるんだったら、今年中に出るかもしれない。

【高畑】でも、今回流行らしているのは、明らかに女性なんだよね。

【他故】そう。

【高畑】あの「プロッター」がM5を作ったのは、誤算だったと思うんだよ。最初は、すごいカッコいいおじさんだけでよかったんだよ。でも、M5があんまりにも売れているので、これは作らないと言っていたのにさ。

【他故】結局は作っちゃったからね。

【高畑】それは、絶対負けたんだよ。

【他故】それでめちゃくちゃ売れて、品薄になったという話だからね(笑)。

――他故さんがさっき、「使ってますという人が増えた」と言っていたのは男性の方ですか?

【他故】いや、女性ですよ。「今までそんなもの見たことがなかった」と言われるんですよ。「こんな小っちゃい手帳があるなんて」って。そういう意味では、システム手帳ってあんまり知られてないと思うんですよ。何となく知ってたけど、ブツを見たことがない。本当に大きい文具店じゃないとM5は置いてないので。だから、「M5って何?」というところから始まるんですよ。「どうやらM5はかわいいらしい」って。

【高畑】僕らの周りではすごい増えた気がするけど、まだまだだと思うんだよね。

【きだて】知名度としては、まだ全然じゃん。

【高畑】多分、まだアーリーアダプター的な人が楽しんでいるところだと思うので、それがアーリーマジョリティにいくかどうかは今からだと思うので、まだ今の時点では、コアなファンがやっていて、すごい流行ってるとは言えない。ここからだよね。

【他故】ここからだね。

【高畑】希望も含めて、流行ってほしいよね。

【他故】僕はそう思う。

【きだて】とはいえシステム手帳って、だいたいいつも流行る流行る言いつつ、キャズムの谷に落ちていくよね(笑)。どうかなと思うんだけど。

【高畑】いや、いつもいつも落ちてきたんじゃなくて、あるところを境に落ちたんだよね。昔のファイロファックスが流行った時代には、ビジネスマン全員が持っていたから。

【きだて】あれが唯一じゃないの? アーリーマジョリティを超えたのは。

【高畑】あの時は、スマホにアプリを入れるみたいに、手帳にリフィルを入れてたわけだよ。

【きだて】そうそう。

【高畑】あれを引きずって、今まで何回も失敗してきたんだよ。

【他故】そう。システム手帳のシステムのところで頑張ろうとしたから失敗してきたんだよ。

【高畑】ここ2、3年のブームは違うんだよ。あの時のおじさんたちを全く知らない世代の人たちに流行ってきているから。

【きだて】システム推しじゃなくて、“かわいい”で来てるの?

【他故】かわいい推しだよ。

【高畑】中身が入れ替えられるというのは、もちろんメリットとして見ているんだけど、“入れ替えられるかわいい手帳”なんだよ。昔の“できる手帳”から、“かわいい手帳”に変わってきてると思うんだよね。

【きだて】そういうことなんだね。

【高畑】かつてシステム手帳を使ってきた人たちは、そろそろ手帳を卒業する歳になりつつあるわけですよ。残念ながら。

【他故】「昔こんなことがあってのう」という人たちはもういいの。

【高畑】ファイロファックスが入ってきたときにバリバリにビジネスマンだった人たちは、僕らよりももうちょい上で、そろそろ引退という歳になる。

【きだて】もう定年とかそういう感じだよね。

【高畑】その次の世代の人たちは、「便利」というところでスマホになっちゃったじゃないですか。そこはもう入れ替えは終わっていて、多分別物なんだよね。

【きだて】うん。

【高畑】今の万年筆のブームと一緒じゃん。万年筆やインクのブームって、昔は物書きをしている、上質を知っているおじさんたちという感じだったのが、今はもっともっと楽しんでいる人たちが多いじゃないですか。やっぱり、雰囲気が変わってきているから。多分、システム手帳は、そっちにシフトできたら、もうちょっと行けるし、それに失敗すると、「システム手帳って何?」という時代になっちゃうのかな、という可能性はある。

【他故】そうだね。

【高畑】いや、頑張ってほしいんですよ、システム手帳には。

【きだて】M5のエモさでも谷が越えられないんだったら、システム手帳はもうダメだぞ(笑)。

【高畑】これは結構希望なんですよ。ルーク・スカイウォーカーみたいなやつなんですよ。「新たなる希望」だよ。

【きだて】なるほどね(笑)。

【高畑】ここにフォースを感じてくれるかなんですよ。

【きだて】「M5とともにあれ」。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】まあでも流行ってほしいし、案外いいものだよということで。

【他故】うん、そんな感じです。

*次回はきだてさんの2021年予測です。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。

たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。

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