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【連載】『小粋な手紙箱』 #41 今の時代になぜ手紙を書くのか?

(社)手紙文化振興協会認定・手紙の書き方コンサルタントの田丸有子さんは、子どもの頃から「手紙魔」と呼ばれるほどの手紙好き。コンサルタントとして手紙文化を広めるために活動している田丸さんに、手紙の書き方のコツや手紙に関するトピックなどを毎月紹介してもらいます。

手紙で気持ちを伝えよう!

残暑お見舞い申し上げます。
厳しい暑さが続いておりますが、お変わりありませんか?

私のよく見ているテレビ番組に「100分で名著」という1冊の本について1ヶ月かけて読み解いていくという番組があります。今月のテーマはミヒャエル・エンデの『モモ』。名作なので読んだことがある方も多いことでしょう。2回目の番組の中でざっくりと次のようことが話されていました。

「テクノロジーの発展により世の中がどんどん便利になった分、人々には“時間のゆとり”が出来るはずなのに一向にその実感はわかない。節約した“時間”は人の手元には残らない。余計なもの、欠けているもの、無駄なことを排除し、完全無欠のものを与えることで想像力は育たなくなり、同時に充実感や幸福感というものも失われていく。その結果、不機嫌で、くたびれて、怒りっぽくなり、トゲトゲした目つきになる。」

ちょっと極端かもしれませんが、これを聞いて私はメールと手紙の関係性みたいだと思いました。『モモ』には時間泥棒を働く「灰色の男たち」が登場します。彼らは時間を節約するように人々を誘惑し、挙句、節約した時間を奪っていきます。灰色の男たちから見れば、メールは時間を節約するもの、手紙は時間を浪費するものになるでしょう。手紙を書くことは即刻やめてその時間を貯蓄するように言われるに違いありません。

灰色の男たちが、時間を浪費しているから手放すよう人々に促す、面倒くさいこと、手間がかかること、無駄なこと。実際にはそのようなことこそが心の豊かさを生んでいるのが真理だとしたら、決して便利ではなく、時間も手間もかかる手紙は心の豊かさの入り口にあるものかもしれません。便利なものも不便なものも否定するのではなく、バランスが大事ですね。様々な通信手段がある今の時代になぜ手紙を書くのか、『モモ』の中にその答えを見たような気がしました。

手紙トピック

へレーン・ハンフの書簡小説『チャリング・クロス84番地』(中公文庫)を読みました。

1950〜1960年代、ニューヨークに住む書物を愛する女性とロンドンの古書店の人々とのユーモアたっぷりな手紙のやりとりを一冊にまとめたもので、実話を元にしたノンフィクション小説です。最初の数ページを読むだけですぐに引き込まれました。翻訳されている日本語の表現が少し古めかしいのがまた良くて、ちょっとした言い回しなど手紙文の書き方としても参考になります。文章が本当に生き生きとしているので、登場人物たちが目の前にいるように感じられます。

翻訳なさった江藤淳さんが後書きにこう書いています。

「『チャリング・クロス84番地』を読む人々は、書物というものの本来あるべき姿を思い、真に書物を愛する人々がどのような人々であるかを思い、そういう人々の心が奏でた善意の音楽を聞くであろう」

“人々の心が奏でた善意の音楽”という表現がまさに言い得て妙。久々に素晴らしい本に出会えました。手紙好き・書物好き・文学好きにおすすめしたい本です。

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今月のマキシマムカード

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テーマ: 南の島
葉書: 柿本幸造「どんくまさん みなみのしまへ」
切手: 日豪交流年
風景印: 鹿児島県・与論郵便局

お知らせ

★手紙やメールの書き方の基本について通信講座があります。
忙しい人でも自分のペースで学べます。
楽しく学んで手紙上手になりましょう!

入門講座 /通信講座「手紙の書き方講座」
ビジネスメール講座 /通信講座「仕事で差がつく!メール・文章の書き方講座」
美文字講座 /通信講座「仕事で差がつく!実用美字・美手紙講座」


★ 体験講座も有ります!

(社)手紙文化振興協会 体験講座スケジュール

プロフィール

田丸有子 (たまるゆうこ)

(社)手紙文化振興協会認定・手紙の書き方コンサルタント

子供の頃から「手紙魔」と呼ばれるほどの文通好き。でも手紙の何がそこまで自分を魅了するのか、深く考えたことはありませんでした。講座を受けて一番良かったことは、手紙が私の憧れを実現する手段であると気付いたことです。自分を表現することで人に喜んでもらいたい。叶えるために出来ることは何かずっと探してきました。その表現方法こそ私にとっての手紙であり、魅かれる理由なのだと気付いた瞬間、「やっと見つけた!」そんな気持ちになりました。

また、郵趣のコミュニティに参加したことで、手紙にも色々な楽しみ方が有ることを知りました。私が今夢中になっているのは、葉書と切手、消印をコーディネートするマキシマムカード。いかにセンス良く仕上げて個性を出すか、考えるだけでワクワクします。

奥深い手紙文化を通して自分の世界が広がっていく面白さを沢山の人たちと共有し、心を豊かにしていきたいです。

ブログ「Cordially yours

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