【連載】月刊ブング・ジャム Vol.24 その2
第2回目の今回は、ゼブラのボールペン「ブレン」を取り上げます。
ブレない・鳴らない・滑らない
――次は「ブレン」です。
【きだて】去年の9月ぐらいにあった展示会で初めて見たんだけど、そのときは展示ケースに集音マイクを仕込んであって、書かせながら「ほら、カチャカチャ音がしないでしょ」ってやってたんだよ。当時はそうやって音でブレなさを確認させてたんだけど、このあいだのハンズのイベントでは、ついに視覚的にブレ抑制を確認させるシステムを作ってたね。
【高畑】CCDカメラだよね。
【きだて】プレゼンの仕方が進化しているのがちょっと面白かったんだけどね(笑)。
【高畑】それは面白い。
【他故】どう伝えるのか、すごい考えているんだね。
【きだて】実際にCCDで見ると、「おおっ、確かに」って分かるくらいにブレが少ないから。というよりは、普通のノック式ボールペンが、「こんなに揺れてたんだ」というのが分かった。
【高畑】言われてみれば、これぐらい揺れてるのねっていう。
【きだて】そこまで見せないと、普通のボールペンで振動はそこまで気にしてないし。
【他故】気になるかならないかというと、そこまで気にしてなかったし。
【高畑】中には、それが気になってテープを巻いているという人はいたけどね。
【きだて】それは、鋭敏過ぎるかノイローゼかどっちかじゃないか。
【高畑】物によるよね。多色タイプだと、書く度にカチカチ音がするから、気持ちは分かるよ。
【他故】あ~、はいはい。
【高畑】でも、単色だとそこまで気になる人は多くないかもね。
【きだて】俺はLivescribeのスマートペンとか使い過ぎちゃって、その辺りの感覚が麻痺しちゃった。あれはすごいブレるのよね。
【他故】なるほど。
【きだて】それだからこそ、「ブレン」を使っても、瞬間的に「あっ違う」というのは、分かりにくい気がするんだよ。
【高畑】大概の人はそうじゃない。
【他故】そうだと思うよ。
【きだて】ただ、10分ぐらい使っていると、ふと「あれ、違う」という瞬間があったのよ。今までと違う楽さがあるという感じで。前にこれの紹介記事で書いたんだけど、高級車の剛性感って、走らせはじめた瞬間はよく分かんないんだよね。でも長時間運転してると疲労が溜まりづらいので「これかー」って気付く。あの感じに近いなと思って。
【高畑】俺はBOSEのノイズキャンセリングヘッドホンを使っているけど、あれってノイズキャンセリングを始めたときには分からないんだよ。たいして効いていない気がする。でもしばらくしてノイズキャンセリングをオフにした瞬間に、「周りはこんなにうるさかったの」ってなるんだよ。
【他故】なるね。
【高畑】だから、あんな感じ。
【きだて】「ブレン」を10分使ってみてから、普通のボールペンに戻ると、明らかな揺れを感じるし。
【高畑】そこが良くなったことにしばらくは気がつかないんだけど、離した瞬間に「あっ」てなるんじゃないかな。
【きだて】ツイッターなんかを見てても、「試し書きしてみたけど、良さが分からなかった」という人が何人かいて、「違うの、あと10分使ってみて」って思うよ。
【他故】一つ、二つ書いても分かんないんだよね。
【きだて】分からないんだよ。
【他故】確かに、これをずっと使っていると、他のを持った瞬間に「違う」と感じるもの。それは間違いないよ。
【きだて】だから、罪なペンではあるんだけど。
【高畑】罪なペンって(苦笑)。
――でも、「ブレン」って売れてるんですよね。
【きだて】売れてるでしょうね。
【高畑】デザイナーが絡んだ商品でしっかり売れているというのは、ありがたい話だよね。
【他故】ペン先は0.7㎜と0.5㎜のどっちが好き?
【高畑】俺は太い方かな。
【きだて】これは、太い方が面白いと思う。
【他故】大抵のペンは0.5㎜とか細い方が好きなんだけど、これに関しては太い方が好きなんだよね。
【きだて】俺も他故さんと全く同じだね。基本は0.3とか0.4㎜の細字じゃないと嫌なんだけど。
【他故】0.5㎜も買ったけど、0.7㎜ばっかり使ってるよ。
【きだて】これはね、エマルジョンインクとブレないというのの組み合わせが、0.7㎜で一番気持ちよく発揮できているような気がする。
【他故】そんな気がするよね。
【高畑】そうかも。
【他故】今までエマルジョンインクのボールペンを正直それほどいいとは思ったことがなかったけど、このペンだけ特別にいいというのはどういうことだ(笑)。
【きだて】だから、「ブレン」によって初めて、エマルジョンの性能がガッツリ発揮されたのかなと思うけど。
【他故】そういうイメージがあるので、「ブレン」というボールペンは大好き。
【きだて】ようやくこの時点で、「ジェットストリーム」の対抗馬になりえたのかというぐらいの感じではあるね。
【高畑】それは分かる気がする。
【きだて】値段的にも、「ジェットストリーム」にブチ当ててきたのは明白なわけじゃない。
――どっちも150円ですものね。
【高畑】こんだけやって150円というのは、他のに比べたら随分とお得感があるけど。コスパ的な感じでいくと、これはこれですごいなと思うけど。
【きだて】大分戦略的なものを感じるけど。
【他故】逆に、たくさん売れてくれないと困るんじゃないかという気もするけど。
【きだて】純粋に、パーツだけの話をしてもさ、今までにない新造パーツがたくさん入っているわけじゃない。
【高畑】そうだね。
【きだて】それだけでも、150円でいいんすかという感じだけど。さらにnendo代が入ってくるわけじゃん。
【高畑】それは大分きてると思うよ。
【きだて】お安くないと思うよ。だから、パーツ的にいうと、先端の抑えパーツと、ウエイトと後ろのバネか。それと、リフィルも新規じゃん。
【他故】そうだね、専用だものね。
【高畑】バックスプリングだけじゃなくて、ここら辺のパーツも1個ぐらい多いと思う。
【きだて】だよね。
【高畑】この振って音がしないというのも、気にならない人にはどうでもいいことなのかもしれないけど、意外とね。
――あ~、ノックの部分がカチャカチャいうのがね。
【他故】ノックがフリーになって鳴るのを嫌がる人がいるんですよね。
【高畑】いるいる。
【他故】書いているときだけじゃなくて、普段持っているときにカチャッてなる音が嫌いという人もいて。
【きだて】それに関しては、筆記時のブレとはは関係ないわけでしょ。だけど、わざわざパーツ増やしてまでそれをやってる。ノックノブが揺れたところで「ブレン」って名乗っても特に問題ないわけでさ。なのに、そこまで含めてトータルで「ブレンシステム」って言ってるのが興味深いなーと思って。
「ブレンシステム」の構造 (a) ノックして書く時に中芯の先端をホールドする部品を搭載しペン先のブレを防ぐ(b) 金属製のオモリをグリップ内部に入れ重心を下げる事で筆記のブレを防ぐ(c) ペン内部の各パーツの隙間をなくしペン内部のブレを防ぐ。
【他故】「ここブレてるんじゃないですか」って言われるのが嫌だったんじゃないかな。
【きだて】ツッコミ潰しね。
【高畑】「音を静かにする」というのをすごく言っているから、ノックしたときにカチカチいう音を放っておいたら、さすがに「ほらね」って言われたときに、ツッコまれるところがあり過ぎだろ。
【きだて】そんなのさ、「行儀悪いからやめなさい」ってゼブラが言えばいいんだよ。
【高畑】それを言うんだったら、先端のウエイトだって、なくたって構わないわけだよ。まあ、手の動きに対してブレにくいというのはあるけど。
【きだて】ということではあると思うので、ウエイトに関してはまだ「ブレン」だと思うんだよ。
【他故】ノックの方は関係ないということだね。
【きだて】全く関係ないじゃん。
【他故】本来は関係ないね。
【きだて】関係ないんだけど、でもそこまで徹底してくれたからこそ、俺は諸手を挙げて「ブレンが好き!」と言えるんだよね。
――ノックのカチャカチャは気になってた方ですか?
【きだて】ノックがカチャカチャいうのはもちろん分かってたけど、それをあえて鳴らすようなことはしないでしょ。他人から見たらうるさいに決まってるんだから。意図的に鳴らしてるとしたら、それは迷惑な人だよ。
【高畑】別に、そういうものだと思っていればそれで済んだことを、この製品がそうだと言っちゃったがために、他のものは鳴るということになっちゃったわけじゃないですか。
【他故】「そういえば、俺のは鳴るよな」って、みんな気がついちゃったわけだ。
【きだて】全てにおいて、要らんことをしてくれているんだよ(笑)。
【高畑】他のボールペンからしてみたら、「お前が言わなければ、そういうものだと思ってくれていたのに」って思うよ。
――これ、きだてさん的に手汗はどうなんですか?
【他故】そんなに気にならない?
【きだて】そんなに気にならないんだよね。
【高畑】このグリップの樹脂がさ、俺はもうちょっとサラッと気味でもいいんだけど、きだてさんにはネチッて感じがいいのかな。
【他故】ものすごくネバるものね。
【高畑】ちょっとネチっこいかなと思うけど。
【きだて】えー、そう?ネチッとまでは感じてないんだよな。俺の手は本当に滑るんだな。
――わはは(笑)。
【高畑】俺からしてみると、ニュートラルよりもネチっこい方に寄ってるの。
【他故】俺もそうだよ。ガッチリ止まるなぁって。
【高畑】ガッチリ止まるというか、ペトペトくっついている感じがする。
【きだて】そんなに?
【高畑】だから、僕はもうちょっとサラッとしててほしい派なんだけど、そこら辺は好みが分かれるところだから。
【他故】まあね。
――グリップのラバーが、割と先端の方まできているので。
【きだて】そう、先っぽ持つ派なので、俺としてはこれはいいよ。
【高畑】段差がなくてしっかりグリップするというのは、きだてさんみたいな人にはいいんだろうね。
【きだて】本当に、三菱鉛筆の「シグノRT1」と、パイロットの「スーパーグリップG」とかのあの辺のラインの持ちやすさではあるよね。
【他故】どれも先端まできているからね。
【きだて】そういう意味では、本当に快適に使える。
しっかりと握りやすく、長時間使用しても疲れにくい。
【高畑】普及して、安定して売れてくれればね。
【きだて】俺は生態系の多様性が保たれている環境を好ましく思うタイプなので、現状のジェットストリーム1強の時代はなんとなくイヤなのね。もちろん子どもの頃はファミコンではなくてセガユーザーですよ(笑)。
【他故】「マークⅢ」だね(笑)。
【きだて】実は「SC-3000」からなんだけど。
【他故】わはは(笑)。
【高畑】だから、つい2番手を応援したくなるんだね。
【きだて】そうなの。携帯も今までドコモと契約したことないもんな。
【他故】一番強いところには行かないんだ(笑)。
【きだて】そういうところもあるし、ジェットの書き味が苦手というのもあるんだけどね。
【高畑】ジェットは苦手でも、これはいいんだ。
【きだて】書き味でいうと、得意な書き味ではないんだ。でも、滑りすぎて疲れるかなと思ってたんだけど、意外と大丈夫。やはり振動が少ないからかな。
【高畑】インク性能もあるかもしれないしね。
【きだて】筆圧が強いので、10分も集中して書くと手がプラプラしてくるんだけど、それが少ないというのが驚きだったね。
【高畑】ゲルの方はまだ変化球が出てるけど、低粘度油性に関しては出揃った感があって膠着状態だったけど、ここにきてドスンと重たいのを出してきたから、今後が楽しみだよね。
【他故】そうだよね。
【きだて】ブレンシステムを採用した「サラサ」が出たら素敵と思うけどね。
【高畑】これ、形状は近いけど、サラサのリフィルは入らないんだよね。
【きだて】「サラサブレン」出ないかな。
――出そうと思えば出せるんじゃないですか。
【他故】その時には、リフィルが新造になるんだね。
【きだて】「サラサブレン」が出たときに、俺はこれを本当に「愛する」と言おうかな。何なら、「RT1」から乗り換えてもいいよ。
――随分、上から目線ですね(笑)。
(一同爆笑)
【他故】「俺のために作ってくれよ」って(笑)。
――まあ、期待しましょう。
(明日は「GLOOスティックのり」を取り上げます)
プロフィール
きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/
他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/
*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。
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