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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.72 最新機能系シャープをブング・ジャムがチェック!(その2)

文具のとびら編集部

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は、最新の機能系シャープペンを取り上げました。

第2回目はぺんてるの「オレンズATデュアルグリップタイプ」です。

写真左から他故さん、高畑編集長、きだてさん*2022年11月9日撮影
*鼎談は2023年2月28日にリモートで行われました。

「自動芯出し機構」搭載シャープがよりお手頃価格に

ぺんてる.jpgオレンズATデュアルグリップタイプ」(ぺんてる) ノック1回でずっと書き続けられる「自動芯出し機構」を搭載したシャープペン。最初のノック1回で芯が1本無くなるまで書き続けることができる「オレンズネロ」の自動芯出し機構が金属製ボールチャックだったのに対し、同シャープペンでは金属同等の耐久性を持つ樹脂製ボールチャックを新開発。この樹脂製ボールチャックを採用したことで、量産化と低価格化を実現するとともに、軽量化にも成功した。加えて、芯の減り具合に合わせて、ペン先のパイプがスライドする「オレンズシステム」を採用。パイプで芯を守ったまま書き続けられるため、芯が折れない。さらに、機能とデザインを両立したラバーと金属からなる、ぺんてる独自のデュアルグリップも搭載。芯径は0.5㎜、税込2,200円。

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――じゃあ次は「オレンズAT デュアルグリップタイプ」です。

【高畑】まだデュアルグリップタイプしかないんだけどね。

【他故】まだこれしかないんだけど(苦笑)。

【高畑】だけど、「デュアルグリップタイプ」と言っているということは、じゃないタイプもこれから出すのかな?

【他故】どうなんだろうね。「オレンズAT」というけど、価格帯がもっと安くなっていくのかな。単純にオートマチックの「AT」という意味で。

【高畑】メーカー自体が言ってたけど、オートマチックということを今後普通にしていきたいと。変わったアイテムというよりは、オートマチックを標準にするぐらい量産するんだと言ってたけど。

【きだて】普及品を目指すとしても、ATはまだ2,000円するんだね。

【高畑】そうそう、まだ安くはない。

【きだて】若干インパクトに欠けるな、というの最初の印象なのよ。

【高畑】なるほど。

【きだて】「オレンズネロ」が3,000円で、「安くてオートマが使えるのが出ました」と言って2,000円だから、それはあまり変わらないねという印象ですよ。

【高畑】確かに、1,000円台ぐらいに抑えて欲しかったっていうところがあるね。

【きだて】その辺の立ち位置のブレが気にはなるんだけど、とはいえ素直に良いシャープペンだなというのもあり、俺の中でATの評価は難しいんだわ。正直、かなり好きなんだ。

【高畑】普及させる割にはとんがったデザインだなというのが、俺が初めて見た印象だな。

【他故】ああ、そうだね。

【高畑】形がすごい人を選ぶというか、割ととんがった印象じゃん。もちろん、これが好きな人はいっぱいいると思うし、僕が中学生男子だったらこれは全然アリなんだけど。

【他故】うん。

【高畑】最近、いろんなものが中性的なデザインになってきている中で、また結構ゴツいのを作ったなという気はする。

【きだて】その辺は、すでにぺんてるの「スマッシュ」なんかを使っているファン層に向けての製品なんだろうな。

【他故】間違いなく、買ってくれる人を想定してるよね。ぺんてるのファンで、ちゃんとお金を出してくれる人。

【きだて】それはそれでいいんじゃないという気はするし。

【高畑】うむ。

【きだて】まあ、デュアルグリップ滑るけどね。

【他故】えっ? 俺は、これ割といいなと思ってるんだけど。

20230120pentel2.jpg

【きだて】良いんだけど、金属の面積が割と大きいので、ゴムとゴムの間で滑るんですよ。

【高畑】これは、ゴムのでこぼこに引っ掛けるのではなくて。それでも滑る感じ?

【きだて】滑るね。

【高畑】あとは、凸と凸の間の面というか、前後のすき間もあるけど、左右で凸と凸の間。

【きだて】しかもこれ、ゴムが角から出てるじゃん。だから、平面部分に指を置こうとすると滑るんだよ。

【高畑】だから、意図的に山の部分を持つと滑らないんだけど、山と山の間のすき間の部分を持つと、凹んでいるところに指を置くと滑るんだ。

【きだて】そうそう。だからこれは、デザインを優先させ過ぎてないかと思ってる。

【高畑】なるほど。

【きだて】見た目的にこっちの方がカッコいいのはすごい分かるんだ。シールドマシンのドリルっぽくていいじゃん。

【高畑】シールドマシンのドリルというか、鬼の金棒というか。

【他故】ははは(笑)。

【きだて】個人的にはすごく好きなヴィジュアルなんだけどね。中二病の人にもオススメ的な。

【高畑】中に円柱じゃなくて、12角形を持ってきたあたりがね。

【きだて】うん。

【高畑】全体的には短くなったんだよね。他のモデルよりは。

【他故】ネロよりちょっと短いんだっけ?

【高畑】ちょっとだけ短いんだよね。

【きだて】それは、中の機構的に短くしたのか、それともバランス的に短くしたのか。どうなんだろうね?

【高畑】バランスの問題と、あとはノックパーツを小っちゃくしたと言ってるらしいよ。

【他故】確かに、わずかに短い。

【高畑】だから、持ったときに全体的には小柄な感じがする。それこそ、「ドクターグリップ」持った後だと、すげー小っちゃく感じる。

【他故】ああ、分かる。大分違うよね。

【高畑】だから、中に入るんじゃないかぐらいの。

【きだて】着ぐるみ的な(笑)。

【高畑】そうそう。ひと回り隠れるぐらい。それぐらい大きさが違うから。今回のは小っちゃいって感じがする。

【他故】確かに小っちゃいね。

【高畑】「グラフ1000」なんてこれより細いけど、長いじゃん。

【他故】そう、「グラフ1000」は長い。

【高畑】これがめちゃ長いシャープペンかというと、標準的な製図シャープだから。それからすると、これが短いんだよね。それでちょっと太いから。コンパクトで重たい感じがする。マッチョなんだけど、小柄で締まった感じ。そこら辺も、他にない感じだな。

【きだて】面多めの構成だから、割と締まってみえる。

【他故】まあ、そうだね。

【高畑】ギュッてしてる感じがする。

【きだて】その辺は上手いなという気がする。肝心のオートマはどうなんですかね?

【高畑】可もなく不可もなくというか、オートマとしては充分効いていて、これで量産できるんだったら全然アリだよね。樹脂チャックなので、保持力が弱いというのは確かにあるんだけど。これ、わざとものすごく筆圧をかけてギュッて押したら、下がるは下がるよ。それはネロだと下がらないんだけど。ネロは止めるようになってるからこれ以上は下がらないんだけど、これは後端まで下がるようにできてるので。それは構造が違うからあれなんだけど、芯をギュッて押したら後ろに下がるようになってて、そこは仕方ない気がするんだけど。ただ、「そんな使い方するなよ」という感じだし、「デルガードを使え」という話になるので。

20230120pentel3.jpg

【きだて】そんなの、あきらかに悪意のある使い方じゃん。

【高畑】だから、普通に使ってる分には。それに0.5㎜だし、ガイドパイプがあろうがなかろうが折れる感じではないので。0.5でもポキポキ折れる筆圧で、ギュッて押し込んだら。それでチャックが弱いと言っている人は、あきらめてネロを買ってとなるんだけど。

【きだて】そこまでなると、「きみ、シャープペンに向いてないよ」という話でしょ。

【高畑】「普通に考えたらこうだよね」という幅で使うんだったら、よほど変なことをやらないんだったら、このATで充分だし、機能としてはこれで充分だと思う。気になるのは、この新しい機構が、量産のために新しく作った構造なんだけど、0.3や0.2に転用できるか問題はまだ分からないじゃない。「オレンズ」だったら、0.3も一緒に出してたと思うんだけど、出て来なかったのは技術的な問題もあると思うんだよね。マーケティングもそうだけど。

【他故】まあ、そうだね。

【きだて】不安もあるんだろうね。

【高畑】0.3になったとき、芯をちゃんとくわえてくれるかどうかとか、もしかしたらそういう課題があるのかもしれない。

【きだて】でも、出したからには、ある程度の目処も立ってるような気がするんだけどね。

【高畑】今後の展開を考えるとね。だからこのユニットは、0.5用として、今後普通の0.5用のユニットとして作っていく可能性はなくはないけどね。0.3や0.2をオートマにしようとしたら、ネロのようなパーツが必要なのかもしれないけど。

【きだて】何だかんだ言って、ボリュームゾーンは0.5じゃない。

【高畑】それで全然いいと思うけど。

【きだて】オートマを普及させたいんだったら、それでいいと思うし、それよりも数を作って、1,000円代のシャープペンに搭載できるまでのスケールメリットをはやく出せるといいな、という。

【高畑】そうだね。それはそうなんだよ。だって今回は、こんなに分かりやすくユニットが外れるんだよ。これさえどこかに入れられれば、他のシャープペンでもボールチャック機能が使えますよというユニットが、こんなに簡単に分離できるので。ということは、そこだけ空けておけば入るので、割といけそうな気がするんだよね。今回、チャックがシンプルなんだよ。本当に、パーツ点数が減らしてあるので。そこが面白い。

【きだて】それで安くしたなという感じだし。

【高畑】カチカチするノックのパーツが省略されている部分があるので、「だからノックすするな」という話なんだと思うけど。

【きだて】それもすごい話だけどな。

【高畑】まあ、好みの問題ではあるんだけど、オートマチックを普及させるために、あえて樹脂でチャックを作ったんだけど、そのために構造を大分変えたんだけど、チャレンジとしては非常に面白いんじゃないかな。むしろ、このあと出てくるボディのバリエーションには期待できるんだじゃないかな。このシャープで他のが作れるんじゃないかな。

【きだて】ぺんてるは、今後10年のためにATを作ったという雰囲気があるので、気になるんだよ。

【高畑】中に入っているパーツは、共通で使えるからね。

【他故】そうだね。

【高畑】今回は、ボディの良さが出ているんだけど、同時に芯がリニューアルされているのが大きいと思う。いいよ、新しい芯。



Pentel Ain(ぺんてるアイン)

【きだて】あれ、いいね。

【高畑】僕は好きかな。

【きだて】書き比べてみると、滑らかさは体感できるよ。

【他故】これ、何か良いよね。

【高畑】僕はキシキシいう芯が嫌いなので、この芯は割と好きな方。まあ、柔らかめを使ってるから、ちょっとというのはあるけど。この新しい芯はいいし、それと両方相まって、いい感じで書き心地は良くなってる気がするね。

【きだて】滑らかで崩れにくいので、オートマとの相性がすごくいいよ。

【他故】ああ、そうだね。

【きだて】その辺も大分考えて作ってるんだろうね。

――発売は、ほぼ同時期ですよね。

【他故】そうですね。

【高畑】オートマチックだと、ガイドパイプが擦れるのを抑えるのがどうしても難しいので、芯はなるべくそれのジャマをしないようなかたちにしたいのかな。それで開発できたのかどうかは聞いてないけど、芯はたまたまできちゃったとは言ってたけどね。

【他故】ははは、たまたま(笑)。

【高畑】たまたまというか、できるとは思わなかったけど、やってみたらできたという話だったけど。常識では考えられない、最初からオイルを混ぜて焼くというのをやってみたらできたという話なんだけど。

【きだて】開発のベテラン勢が「できるわけないじゃん」って言ってたけど、やってみたら「あ、できちゃった」という話らしいね。

【高畑】「一回こけるのも勉強だ」と言ってたら、すごいのができてビックリしたという。

【きだて】その結果、こんな画期的と言っていいぐいらいの芯ができたので、まあたいしたもんですよ。

【高畑】シャープペンのポリマー芯を最初に作ったメーカーとしてのプライドもあるだろうし。

【他故】ああ、そうだね。

【高畑】ただこの芯は、めっちゃ力かけると縦割れするんだよ。

【他故】縦割れ?

【高畑】薪みたいにこう割れる。力がかかると、パキンて折れるんじゃなくて、折れ目がささくれるの。縦にヒビが入って割れるの。この芯は、ちょっと不思議な感じがする。

【他故】すごいな。

【高畑】縦方向というか、繊維方向に、何かしらの剛性があるのが分かる。

【きだて】さけるチーズみたいな感じのがあるんでしょう。

【高畑】割れ方も、芯によってクセがあるみたいだけど。まあ、普段使ってるときに意識することではないので。

【他故】折れたことないので。

【高畑】他の芯径もあるからね。ATは0.5だけだけど、他の芯径も入れ替えだから。ケースが黒くなったのもいいじゃん。

【他故】あれはカッコいい。

【高畑】ケースの使い勝手もすごいいいし。シャープもすごい良いんだけど、これは併せて芯を使ってほしいというか、むしろ芯の方が革新的な感じがするので、一回この芯を使ってほしいね。

【きだて】ATとは必ずセットでしょう。

【高畑】ATに入れるんだったら、この芯がいいし、他のシャープペンでもこの「ぺんてるAin」を入れてみるといいね。全方向に良いし、とんがったところが全然ない。書き心地もマイルドだし、書いてるときの筆記音もマイルドだし、色も濃いし。だから優等生だよね。

【きだて】久々にね、シャー芯で HB 使って満足してるよ。大体2Bを使う派なんだけど、HBでもなめらかで、そこそこ濃いという。なかなか面白い芯で。ATが割と普通に良いシャープペンというところなんだけど、この芯によって印象を底上げしてもらってる感もあるよ。

【高畑】そうかもしれないね。

【他故】最初からこの書き味というね。

【きだて】割とシナジーがちゃんと出ているという感じもあるので。

【高畑】ATのことで言い忘れてたけど、小柄だけどめっちゃ先重だよね。低重心設計というか、かなり重いよね。これも特徴的だなと思う。好みもあると思うけど、グリップのところに重さが集中してる感じがするので。

【きだて】デュアルグリップがちゃんと効いてるのか。

【高畑】立て気味に書いた方が芯がきれいに出るので、そういう意味では低重心で縦にして書いてくれたらいいのかな。設計としては、これはこれでいいんだけど。そつなくていいんだけど、割としっかりとした主張もあって。

【他故】書きやすいっすよ。

【高畑】ATは今後普及するんですかね。もうちょっと値段が下がらないとね。

【他故】2,000円だからね。

【きだて】ATがもうちょっと売れてくれないとじゃないの。

【高畑】頑張って作ったので、2,000円というところなんだけど、やっぱり1,000円クラスでATを搭載した安いやつが出たり、やっぱ量産型ができて。

――これめちゃめちゃ売れてるみたいですよね。なんか品薄みたいで。

【高畑】むしろこのユニットが、今後横展開されるかどうかっていうのがすごい気になるね。

【きだて】それはされるだろうから、それを楽しみに待っとこうという感じじゃない。

【高畑】あと、これも0.3ができるんだったら欲しいな。

*次回は「クルトガダイブ」を取り上げます。

プロフィール

高畑 正幸(たかばたけ まさゆき)
文具のとびら編集長。学生時代に「究極の文房具カタログ」を自費出版。「TVチャンピオン」(テレビ東京系列)の「文房具通選手権」では、3連覇を達成した。サンスター文具に入社し商品企画を担当。現在は同社とプロ契約を結び、個人活動も開始。弊社が運営する文房具のWebマガジン「文具のとびら」の編集長も務めている。著書は『究極の文房具カタログ―マストアイテム編―』(ロコモーションパブリッシング)、『究極の文房具ハック』(河出書房新社)、『そこまでやるか! 文具王高畑正幸の最強アイテム完全批評』(日経BP社)、『文具王 高畑正幸セレクション 一度は訪れたい文具店&イチ押し文具』(監修/玄光社)、『究極の文房具カタログ』(河出書房新社)、『文房具語辞典』(誠文堂新光社)と、翻訳を手がけた絵本『えんぴつとケシゴム』(KADOKAWA)。
https://bungu-o.com/


きだて たく

小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」が好評放送中。ラジオで共演しているふじいなおみさんとのユニット「たこなお文具堂」の著書『文房具屋さん大賞PRESENTS こども文房具 2022』が発売中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/

「ブング・ジャムの文具放談・完全収録版~2022年Bun2大賞を斬る!~」〈前編・後編〉をコンテンツプラットフォームnoteで公開中。

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