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文具王がくもん出版の新製品「くもんのはじめてのはさみ」について聞いた

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高畑正幸

2023年1月、出版物、知育玩具・文具を開発・販売するくもん出版から、はじめてはさみを使う子どものためのはさみ「くもんのはじめてのはさみ」が発売された。同社が得意とする幼児向けドリルにも使用できる製品で、これまで培ってきた幼児教育に対するノウハウや思いが込められた製品のようだ。

202302kumon9.jpg「くもんのはじめてのはさみ」税込880円



そこで、今回は、私、文具王・高畑正幸編集長が、くもん出版に訪問し、「くもんのはじめてのはさみ」についてマーケティング部マーケティングチームリーダーの小川修司さんに話を聞いた。

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手先を自由に使えるようになる練習として、はさみがある

202302kumon2.jpgくもん出版の小川さん㊧と文具王




【高畑】
まずは、このはさみの開発の経緯をお伺いしたいのですが、あの公文式教室と関係があるんですか?

【小川】
弊社は公文式教室を運営している公文教育研究会のグループ会社です。公文式の理念やメソッドなどのナレッジを生かして出版物、知育玩具・文具を開発・販売しています。

文具の開発においては「くもんのこどもえんぴつ」という鉛筆を販売しています。子どもが学習するにあたっても、やはり最初は運筆力が必要で、一本の線を引くところから始めます。でも、その一本の線を引くことも、まだ鉛筆の使い方に慣れていない子どもにとっては難しいんです。開発を始めた当時一般的に流通している鉛筆では、子どもの小さな手では扱いづらいという状況がありました。そこで、子どもがにぎりやすい、少し太めの三角形にし、長さも短いものから段階的に用意することにしました。芯は、当時、6Bの鉛筆は一般的ではなかったのですが、モニターをしたときに、筆圧が弱くても力強い線を引けたという子どもの自信、喜びを目の当たりにし、6Bからを採用しました。こちらは40年を越える販売期間の中で多くの方にご利用いただいています

また、弊社では公文メソッドの考え方を生かして幼児向けのドリルを刊行しています。もじやすうじなどを練習するもののほか、きる・はる・おる、といった動作を取り入れたドリルの展開もしています。これには鉛筆を持って書くために充分な手先の器用さや握力などを身につけるという目的もあります。

はさみを扱うドリルは販売してきましたが、それを切るはさみについては、くもん出版からは長く提案できていなかったんです。ですから、子どもに、使いやすくて早い時期から達成感が味わえるはさみを開発したいという思いは以前からありましたし、実際、お客様からも、どんなはさみを使えば良いんですか、というお問い合わせや、このドリル用のはさみはないですか、というご要望も多かったんです。それをうけて、くもん出版としておすすめできるはさみを開発し、ようやく発売に至ることができたというところです。

【高畑】
なるほど。書くことと並行して、手先を自由に使えるようになる練習として、はさみがあるんですね。

【小川】
はさみを使うことによって、自分の思うように道具を動かして作業をする。それによって、手先の巧緻性を高められるということがまず重要だと考えています。それと集中力ですね。作業を通して集中力を養う。それがあることによって学習がよりスムーズに進められるようになります。

小さい頃からはさみや玩具、ジグソーパズルなど、手先を使う遊びを通じて、相乗効果的に学習につながる力が身についていくと考えています。

幼児ドリルとセットで使ってもらいたい

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【高畑】
特にはさみに着目された理由はありますか?

【小川】
2~3歳ぐらいのころに、はさみに憧れてくる時期があります。そのような子どもにはさみを渡してみると、初めての道具というところが楽しいみたいで、黙々と切り続けるんです。はさみを通じて、育てたい手先の力だったり、集中力だったり、後は、ちゃんと使うときの姿勢など、子ども自ら興味を持って学ぶことができるものの一つでした。そんな子どもの様子も見て、幼児ドリルとセットで使ってもらいたいと考えました。

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幼児ドリルと「くもんのはじめてのはさみ」

はじめてはさみを使う子どもでも切りやすいものに

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【高畑】
じゃあ、今度はどんなはさみを作ればいいのか、という話になると思うんですが、大人用とは当然、求められるものが違うわけですよね、どんなところが開発のポイントになるんですか?

【小川】
子ども用のはさみは、パッと見た感じどれも同じに見えるんですが、持ち手の部分と刃先の開き方が違うんですね。持ち手を開いても、刃先の部分の開きが小さかったりして、そうすると、上手く紙を挟めなかったり、狙えなかったりします。

子どもでも上手に使えるものというのは、小さい手で開いた寸法でも刃先が充分に開くものです。大きく開くものが子どもには使いやすかったです。はさみは大きく開くようにすると、テコの力が働きづらいので、切れ味としては悪くなるのですが、はさみを使い始める頃においては細かいものや、固いものを切るわけではないので、大きく開くようにしました。

刃先を大きく開くといったときに子どもにとって難しいのは、手を開く動作です。握る動作に比べて開く動作が難しいんです。ですから開きをアシストするばねは入れたいなということで、この黄色い部分をひっくり返すと刃を開く方向にばねが効くようになっています。実際子ども達に使ってもらっても、本当にひたすらちょきちょき切るのがいちばん気持ちよさそうだったので、それがシンプルにできることが良い点ですね。

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ばねによって刃先が大きく開くのが特徴



もう1点、ご家庭ではさみを使うシーンのお話を聞くと、なんだかヒヤヒヤして見ていられない、と言うんですね。持ち方が違ったりすると、横からああじゃない、こうじゃない、と言ってしまって、親も子も楽しくなくなってしまう、という話も聞きました。なので、持ち手の色を分けて、こっちの青い方に親指を入れるんだよとか、親御さんも指導しやすいように、工夫をしています。

はじめてはさみを使う子どもでも切りやすいものにしたいというのがまずあって、さらに、親御さんへのサポートも必要だろうということも含めて仕様を決定しました。はさみと一緒に親御さん向けのちょっとしたミニガイドもつけました。はさみの良さはもちろんですが、使用シーンを想定したものになっていると思います。

202302kumon14.jpg親御さん向けのミニガイド




【小川】
はさみの安心安全というのは、正しく使えるかどうかというところが大きくて、慣れるまではお父さん、お母さんと一緒に使おうね、とか、座って使おうねとか、しっかりとお約束した上で、使い方を教えることが大事なのかなと思っています。

はさみは切ることができて便利な道具だけれど、正しく使わないとケガをしたり、ひとを傷つけてしまったりする危ないものでもあるんだよということを伝えてあげる方が、これから他の道具でも、もっと複雑なことができて楽しいことにつながるのではないかと考えます。

【高畑】
なるほど。それは道具を教える上で、本質的に重要な話だと思います。しかしこれは、親御さんにも理解していただく必要のあることなので、親御さんに伝える努力や工夫も必要ですね。

刃を補助ばねで固定できキャップが要らない

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【高畑】
あともうひとつ、特徴的な機能として、このばねの位置をこの状態にすると、カチッと刃がロックされますね。これは他社製品で見かけない気がします。面白いですね。

202302kumon15.jpg黄色いばねがロックの役割を果たし、安心して持ち運べる


【小川】
ロックの部分は、独自の機構で、実用新案を出願中です。刃の部分を全体的にプラスチックのカバーで覆っているので、さや状のキャップを付けることができません。持ち運びの時とかに、鞄の中でぱかぱか開いてしまうのはよくない、ということで、この補助ばねを利用して固定する形になりました。これならキャップがなくても勝手に開くことがないので、安心です。

【高畑】
子どもの力でも外せないほど固いわけではないので、子どもが勝手に使えないようにするというよりは、キャップがいらないという方向なんですね。キャップをなくす心配がないし、持ち運びが簡単で良いですね。

この持ち手の穴の大きさとか、長さとか、ハンドルの形とか、仕様は、どんなプロセスで決めたんですか?

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【小川】
設計に関しては、人間工学のノウハウがある設計会社さんに協力してもらって、相談しながらデザインしました。最初は粘土で作った持ち手のサンプルを見せながら説明し、そこから三次元CADでモデルをいくつか作り、子どもに実際に試してもらいながら進めました。

持ち手の形によっては、違う穴に親指を入れて持ったりする子どもいたんです。結局、特別な形状ではありませんが、正しい持ち方をしたときになじむように、ということで、ハンドルのカーブの部分など工夫をしました。

3年かけて、くもん出版らしいはさみを開発

【高畑】
開発にはどのくらい時間がかかりましたか?

【小川】
3年ぐらいかかりました。少しかかりすぎに感じるかもしれませんが、弊社は、発売時期を早めることよりも、とにかく子どもにとって良いものを出そうという考え方が強くて、それに自信を持って応えられるものがようやくできたという感じです。

また、すでに子ども用のはさみは多く流通していますので、これまでの製品も参考にしつつ検証に時間をかけられたので、良い製品ができたと思いますし、親御さんがどんな関わり方をするのが良いかというところも、併せて提案できる、くもん出版らしい商品を開発できました。

【高畑】
今後のバリエーション展開などは考えられていますか? たとえば、もう少し大きくなった子ども用とか、左手用とか。

【小川】
まずはようやくこのはさみが提案できるところまできた、というのが正直なところです。今後検討していきたいと考えています。

【高畑】
今後の目標のようなものはありますか?

【小川】
このはさみを使って、たくさんのご家庭で子どもたちが道具を使う楽しさや、学びの土台となるような手先の運動能力の向上がはかれるよう、情報発信など、必要なサポートを行っていきたいと思います。

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まとめ

子ども用のはさみは既にたくさん存在しているが、長年にわたって子ども達に教育を実践してきた公文式の知見と、幼児ドリルを展開してきたくもん出版のノウハウに裏付けられた丁寧な開発によって、製品だけでなく、それを使う親御さんのアシストや、ステップアップしていく学びのサポートまでが、一つながりの体験として考えられており、製品スペックには表れない厚みをこのはさみに与えているように感じられた。


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