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【文具王が注目!】パイロットの油性ボールペン「アクロボール」に0.3mm登場!

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高畑正幸

パイロットコーポレーションから2020年11月24日に「アクロボールTシリーズ03」が発売された。パイロットの油性ボールペンとしては、これまでで最も小さな直径0.3㎜のボールを搭載。ゲルインキを含めても、パイロット史上最も細い筆記線幅のボールペンの登場ということで、前回の「フリクションポイントノック04」(こちらの記事を参照)に続き、今回もパイロットコーポレーション本社を訪問し、概要等について、商品企画を担当した、商品企画部筆記具企画グループ課長代理の伴野晃さんにお話を伺った。

今回も同社の意向で、編集長の文具王に自由に書いて欲しいとの依頼を頂いたので、個人的な見解や要望も含めてざっくばらんに質問をさせていただいた。
アクロボール.jpg「アクロボールTシリーズ03」は、なめらかな書き味とカスレのない書き出しが特長の低粘度油性インキ「アクロインキ」を採用。ボディカラーは、ガンメタル、ネイビー、ホワイト、コーラルピンク、グリーンの5色に加え、数量限定でピンクとパープルを加えた7色で展開している。税抜150円。(関連記事はこちら

筆記線幅はパイロットのボールペンでは最も細い

0.3㎜というと、1994年に発売されたハイテックC以来、ジュースアップなどにも採用されている、ゲルインキではもうお馴染みのボール径だからそれほど珍しく感じないかもしれない。しかし、それが油性ボールペンとなると話は別だ。インクが紙に滲みにくい油性インキでは、同じ「激細」に分類される0.3㎜でも実際に筆記した筆記線の幅は、明らかにゲルよりも細く、これまでパイロットから発売されたボールペンの中では最も細い線が書けるボールペンだ。普通に文字を書くにはむしろ細すぎるぐらいの印象だが、手帳などに筆記する際には、これまでよりもさらに一段小さな文字を書く事が可能となるので、これには喜ぶ人も少なからずいるはずだ。

実際に筆記したのがこの写真。紙によって多少の違いはあるものの、どの条件でもゲルインキの各製品よりも細いことが見てわかる。

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なぜ今「油性」の極細なのか

【高畑】そもそもなぜここまで細い油性ボールペンを開発したんですか? 何かキッカケはあったんでしょうか?

【伴野】我々は、筆記具について、常に市場調査やアンケート調査などを行っていますが、その結果、年々細書きへのニーズが高まっているのを感じていました。特に社会人になって活躍し始めた若いユーザーの中で、学生時代に極細シャープペンシルを使い慣れていた人達からは、より細く書けるボールペンが欲しいとの声が増えている傾向にありまして、特に女性ユーザーを中心に、「細い線の方が文字がキレイに見える気がする」とか「細い文字は他人に見せても恥ずかしくない」といった意見もいただいています。ですから、消費者のニーズがより細い筆記へ徐々にシフトいることはわかってきました。

もちろん、そういったニーズに対して、ジュースアップなど激細タイプのゲルインクのボールペンは以前から用意していて、評判も良いのですが、私としてはボールペン市場の主戦場である油性ボールペンというフィールドに極細の新製品を投じたいという思いがどうしてもありまして。

【高畑】なるほど、あくまで油性ボールペンをボールペンの王道としての油性でニーズに応えたいということですね。

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あえてコーンチップを採用

【高畑】しばらく使ってみたんですけど、気になるところがたくさんあります。まず気になるのはこの先端形状です。パイロットの激細ボールペンと言えば、以前にレポートさせていただいた「フリクションポイントノック04」等に採用されているシナジーチップ(*編集部注:コーンチップとパイプチップという2つのチップの長所を掛け合わせたパイロット独自のペン先)が思い浮かびますが、「アクロボール03」のリフィルに採用されたのは、従来と同じ円錐型のコーンチップですね。これはやはりシナジーチップは油性インキには向かないということですか?

【伴野】いえ、じつは開発初期段階では、ペンチップの候補としてシナジーチップも上がっており、もしかしたらシナジーチップを使った激細油性ボールペンを作ることも技術的には可能だったかもしれません。ですが、今回の開発では、あえてコーンチップにこだわりました。

理由の一つは、これまで0.7㎜、0.5㎜で培った書き心地の良いチップ作りのノウハウを活かすことで、信頼性の高い製品開発を目指したこと。もう一つは従来のアクロボールと同一形状のチップを採用することで、定評のあるアクロボールシリーズの中の1製品であることを示すとともに、ゲルインキのジュースアップやフリクションポイントノック04、あるいは他社の激細ボールペンとの見た目の差別化も図りたいという目論見もありました。

もちろんこれまでと同じコーンチップと言っても、油性インキに最適な0.3㎜のチップの開発は簡単ではなく、これまで以上に高い加工精度なども要求されるので、開発もそうですが、量産できる体制が整うまでには随分と時間がかかりました。

7.jpg※0.5/0.3㎜ ペン先の比較
既存品と同種のコーンチップを使ったとはいえ、0.5㎜から0.3㎜にするとボールの表面積は約36%、体積は21%と、激減するから、安定して筆記できるようにするには、インキ特性にあわせた設計の修正と、これまでよりもさらに高い精度の加工技術を要するのは当然だろう。

インキはもちろんなめらかな書き味の「アクロインキ」

【高畑】もちろん採用されているインキはアクロインキですよね。これは0.3㎜用に組成を変えたりしているんですか?

【伴野】仰る通り採用されているインキはアクロインキです。パイロットを代表する低粘度油性インキですから、このインキしかありません。インキに関しては特に変更は加えてなくて、全く同じものを使っているんです。

【高畑】え!そうなんですか、なるほど。じゃ、そこは同じように書けるのはチップの技術なんですね。確かに書かれた線の色味とかは、ゲルインキで時々見られるような太さによる違いはないように思えます。


5.jpg今回採用された0.3㎜のリフィルに使われたインキは、0.5㎜のものとまったく同じとのこと。発色の良い黒さで定評のあるアクロインキのキリッとした黒はそのままに線幅が細くなったことで、特に細かい文字などを書いた際にはさらにギュッと詰まったような緻密な印象を受ける。(*上写真はアクロボール0.7/0.5/0.3の筆跡を比較したもの)


【高畑】それにしても確かに細い分、紙に当たる手応えは若干硬い印象はありますけど、ここまで細い割には書き心地が滑らかだし、筆圧に対しても動じない安心感がありますね。

【伴野】ありがとうございます。もっとカリカリするって言われるかと思いましたが、安心しました。高畑さんは比較的立てて書かれてるので。

【高畑】そうですね。あまり寝かせると座金のエッジが引っかかるかもしれませんけど、傾きが適正な角度の範囲内なら、ボールが転がる抵抗自体は、アクロボールの滑らかさをそのまま感じられる気がします。

これは失礼かもしれませんが、なんていうか、良い意味で…すごく普通。150円のアクロボールがそのまま小さくなった感じ、というか、0.7があって、0.5があって、0.3があります。というだけみたいに感じます。なんか、頭ではこれまでにないすごい技術だって思うんですけど、体感的には、全然特別感がないというか、前からあったような気さえします。

【伴野】それはある意味狙っているところではありまして、我々としては数年後、最終的には特殊なものではなくアクロボールの芯径の選択肢の一つとして認知されることを目指していますので。


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あえて書き心地を表現するなら、アクロボールをそのまま縮小したような印象で、まるでアクロボールのミニチュアのような感覚。ペン先が鋭く尖っているので、自然と手の動きも筆圧も速度もちょっとずつ小さくなる感じだ。ボディの大きさは同じだが、自然とこれまで0.5㎜を使って5㎜角ぐらいの文字を書いていたのをこのペンで書くとそのまま3㎜角ぐらいに落とし込める。そしてその書き心地にはアクロボールの滑らかさを感じる事ができるのがすごい。


8.jpg先端が尖っているぶん、傾きの許容範囲が従来のボール径に比べるとシビアで、傾けすぎるとボールを支えている座金で紙を引っ掻く感じがでて線もかすれてしまうので、引っかかる感じのする人はペンを立て気味に持つよう気をつける必要があるが、垂直から30°程度の範囲内では、小さな文字だけでなく、大きな文字も問題ないし、かなり速い速度で流してもインキがかすれることはない。筆圧をかけすぎるのはあまり良くないが、小さなボールが紙にめり込まない限りはかなり筆圧がかかった状態でもスムーズに筆記できる。極端に細いということを除けば、総じてごく自然な低粘度油性ボールペンの書き心地。良い意味で拍子抜けするほど普通のボールペンなのだ。

「アクロボール」らしさにこだわって同じボディを採用

【高畑】とにかく書き心地が「普通に細いアクロボール」なんです。それでね、さらに今回気になったのは、このボディなんですよ。色こそ違うものの、形はアクロボールTシリーズそのままじゃないですか。油性ボールペンとしてこれまでにない細さを実現した、ある意味ではパイロットのボールペンに新たなジャンルを広げるぐらいの革新的な製品であるにも関わらず、その見た目は、従来品と全く同じというのはどうなんですか?これでは気付かない人も多いんじゃないかと、心配です。

価格にしたって、従来品と全く同じ150円で、リフィルも100円というのは、ちょっともったいないんじゃないかって思っちゃいます。

【伴野】そうですか…そこは正直迷ったんですけどね。でもアクロボールと言えばこのボディだ!というこだわりがあって。今回は、やはり細書きということで、特に女性に人気のTシリーズで、本体には転写印刷を施して、高級感のある仕上がりにしています。

【高畑】いや、わかりますけど、それだっておなじ150円のアクロボールのシリーズだし、グリップとかシルエットほとんど同じじゃないですか! ここはあえてグリップだけでもタイヤパターンとかじゃなくて、もうちょっとシュッとしたのに…。

【伴野】いや、このタイヤパターンこそがアクロボールの書き心地の重要なポイントでもあるし、アクロボールらしさだということで、ここを残したんです。とにかくやはり最終的には「アクロボール」というものをもっと知ってほしいし使って欲しいんです。なので、別物ではなくアクロボールにこだわりました。価格についても、今は新しい製品ですが、数年後には同じアクロボールの芯径の一つとして普及して欲しいという思いもありますから、そこは企業努力ということで…。

【高畑】確かに持ちやすいんですけどね。でもやっぱり正直、文具マニアとしては、せっかくのすごい新技術・新ジャンルだし、できればこのリフィルを知らしめる上でも、新しいボディを見たい気持ちはありますね。0.3㎜は従来の0.5や0.7に比べたらむしろグイグイ筆圧をかけない方が快適だし、特に女性を中心とするスッキリとした細字を求めるユーザー層を意識しているのであればなおさら、イメージ的にももうすこしスマートなものが欲しくなってきますね。あ、そうだ。じゃあやっぱりアクロドライブクラスの高級軸ですね。やっぱりこの細さだとアクロドライブのボディはちょっと重すぎる気がするので、03にぴったりの高級軸を!

【伴野】ご意見ありがとうございます。高級軸はいいですね。

【高畑】そういう意味ではあえてこのリフィルをアクロ300に入れて使ってみたんですけど、これはこれでいい感じなんですよ。

【伴野】それはよさそうですね。

【高畑】この極細線の華奢なイメージにはやはりスマートなアクロ300のボディが似合うと思うんです。もちろんアクロ1000でも同じ形にはなるんですけど、やっぱりこのリフィルには軽量な300の軸がぴったりな気がします。

【伴野】なるほど。たしかにボディによって雰囲気もかわりますね。

アクロボール2.jpg〈アクロボールの中級・高級ライン〉
アクロボールには、「アクロ300」「アクロ1000」「アクロドライブ」という、中・高級軸もある。こちらは全体的にアクロインキの流れる雫をイメージしたなめらかなボディラインを持っている。*写真上 アクロドライブ、写真下(左から)アクロ1000、アクロ300


【高畑】あと、もう一つ、せっかくの機会なんで、要望を言っておいてもいいですか?


【伴野】はい、なんでしょう。

【高畑】やっぱり赤・青・緑のカラー芯が欲しいです。激細ボールペンといえば、手帳に書き込みやすいのがウリですから、多色・多機能化は必須だと思うんですよ。そうすれば、アクロボール2、アクロボール3、アクロボール4も、激細化できるわけで、そうなったらかなり手帳ユーザーには嬉しいと思うんです。

【伴野】なるほど。鋭いですね。たしかに多色化のご要望が増えてくることは、充分想定されますね。

【高畑】今コメントできないこともあるかもしれませんが、勝手に期待しています!!

結論:「あたらしい普通」が感じられる、細くて書きやすいボールペン

実際にサンプルを使って見て、企画担当者に直接話を聞いてもみたが、とにかく、この製品は書き心地から仕上がりまで、良い意味でごく普通のボールペンだった。価格もボディもそのまんまアクロボールで、書き味までもがアクロボールで、違うのは芯径だけだ。きっとこの製品は、特別文房具にこだわりを持つ人や一部のファンだけのためのものではない。数年もすれば、ごく普通のボールペンとして、次世代の当たり前の一つとなっていくのだろう。それでもやっぱり、この細さがなんでもないごく普通に感じられるということ自体がすごいことだと私は思う。

ごく普通の150円のボールペンだ。機会があったら手に取って書いてみて欲しい。私の感じた、「あたらしい普通」を感じて貰えたら幸いだ。

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