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【連載】パイロット指輪物語/第10話「新しいものを作るのは、作り方も作ること。」

文・イラスト/ヨシムラマリ

※この記事は、横浜YAMATOのウェブサイトに掲載されたものを再掲載しました。

第10話「新しいものを作るのは、作り方も作ること。」

 さっそく、切削や磨きをテスト。想定以上に結果は上々。しかしまだ、これで完成!とはならず。「せっかくの新素材なのに、今までと同じデザインでいいのか?」という声が上がったのだ。たしかに、素材の違いだけでは、お客様にはなかなか伝わらない。見た目にも新しさがなければ…。
 そこで開発チームは、それまでパイロットにはなかった、幅広デザインにチャレンジすることに。といっても、基本的な手順は同じ。デザインが違ってもなんとかなるだろう…と試してみると、これがまた、意外にも大変だったのだ。
 たとえば、第4話で紹介したシームレス加工の場面。幅広でボリュームがある指輪は、拡張する際の器具に今まで以上の負荷がかかり、折れて壊れてしまうトラブルが発生。
 また、幅広になると第5話の内甲丸加工もハードルが上がる。内側の曲面をゆるやかにすると装着感がよくなく、きつくすると加工が難しい。そもそも、曲面の頂点がきちんと真ん中にくるように仕上げるのも大変だ。しかもこれは結婚指輪。内側に刻印をするためのスペースを残すため、全部曲面にすることも許されない。
 デザインのほんのわずかな違いで、結局は器具も方法も新しく専用に開発しながら、加工できる条件を手探りで確立することになった。こうして、プラチナと金が1対1の新素材で、高硬度、幅広デザイン、内甲丸と、全てがそろった唯一無二のリング、「Ptau」が誕生したのである。

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プロフィール

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ヨシムラマリ

神奈川県横浜市出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。現在は会社員として働くかたわら、イラスト制作や執筆を手がける。

著書『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)

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