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【連載】文房具百年 #66「社史に登場する古文房具」~キングジム「鷲」より~

たいみち

調べものの副産物

 昨年末ごろ、知人からの頼まれごとで調べものをしていた時に、色々なメーカーの社史も参考にした。その際、自分が持っている文房具が、社史で紹介されているのをいくつか見つけた。
 私が古い文房具を手に入れるときは、大体が見た目や機能、時代に注目しており、メーカーにとっての重要度や背景などは知らないことが多い。それが、実は社史で紹介されるような歴史やストーリーをまとうものであることがわかると、その文房具に関する解像度が上がり、より大事なものになる。
 つまり、もともと持っていた物ではあるが、自分の中でその文房具の価値が変わり、コレクションがより充実したように思えるのだ。これは調べものを手伝ったことによるちょっとした副産物と言えよう。今回はその副産物の一つであるキングジムの社史に登場する文房具を紹介しよう。

202502taimichi1.jpg*左:キングジム60年史「鷲」昭和62年、キングジム発行。右:キングジム旧社名「名鑑堂」時代の鷲のマーク。キング三号型人名簿より。

人名簿

 この文具のとびらの読者に、キングジムについて改めての説明は不要であろう。多くの事務用品を産出しており、代表的な製品であるファイルやテプラは、私も仕事をする中でたくさん使ってきた。そんなキングジムの社史「鷲」は、60年史として昭和62年に発行された。
 この社史に、最初に出てくるのが人名簿である。人名簿とは何か。言葉の通り、人の名前や住所、電話番号をまとめたものだ。「アドレス帳」「連絡先リスト」というところだろうか。この人名簿の不便さを改良したところから、キングジムが始まる。

202502taimichi2.jpg*台紙に印刷されたタイプの人名簿。(キングジム製品ではありません)



202502taimichi3.jpg*製本されており、台紙の移動ができない人名簿。(キングジム製品ではありません)



 創業者の宮本英太郎は材木業を営んでいたが、ある時名簿帳(人名簿)から目当ての情報を探し出せないことがあり、その不便さが気になった。当時の人名簿は、名前・住所・電話番号を書き込む枠が印刷された紙を製本したもので、後から追加や変更があると後ろに書き足したり書き直したりすることになり、情報が溜まるほどに目当ての情報にたどり着きづらくなる。そもそも1件ずつ情報を書き足していくのも手間がかかる。それを何とかしようと考え出されたものがキングジムの人名簿だ。
 まず一番の着目点は、郵便はがきの差出人欄がどれも同じ大きさであること。ここを切り抜いて再利用することで、名前や住所をわざわざ転記しなくて済む。更に、切り取ったものはカード状になっているので、台紙に切れ込みを入れて差し込む形にすれば、追加や変更があった時に入れ替えや並べ替えが容易にできる。そして最後に台紙自体も製本してしまうのではなく、入れ替えができる形にしておけば、並べ替えや台紙を増やすこともできるというものだ。
 初期の人名簿は、カード状の名簿は差し込み式で移動できたが、台紙は製本されていたので動かすことができなかった。その後、製本ではなく金具を使った綴じ方に改良し、台紙の入れ替えも可能になった。発明品によくあることだが、キングジムの人名簿もいきなり最良のものができたのではなく、改良に改良を加えてより良いものになっていた。

202502taimichi4.jpg*キング三号人名簿。表紙を開くと最初に説明が付いており、特徴がわかり易い。右側の方が古そうだが殆ど違いはない。



 人名簿がキングジムの創業時の製品というのは知っていたが、今回社史を読んで新たに分かったことがある。まず、文房具メーカーの名鑑堂(キングジムの創業時の社名)の初期に作られたものだと思っていたが、名鑑堂創業よりも前、材木商時代に作り始められていたものだったことだ。材木商時代に自分で作ってみて、いいものだったので紹介したところ、譲ってほしいという声が多く、製造して販売していたという。その後、材木商をやめて名鑑堂を起こし、本格的に人名簿の販売を始めたのが昭和2年なので、最初に人名簿が作られたのは大正14年から昭和元年頃だろうか。
 もう一つは、人名簿の台紙は最初から入れ替えができる形式だったと思っていたが、初期は違ったという点だ。ファイル式になっている人名簿はいかにもヒットした商品らしく、古文房具としても比較的見つけやすく、私も二冊持っている。だが、それ以前のバージョンがあるとなると、欲しくなるのがコレクターの性分だが名鑑堂以前の人名簿、製本されていた時代の人名簿はなかなかハードルが高そうだ。

202502taimichi5.jpg*大正14年の職業別名簿に、「建築材料丸星商店 宮本英太郎」として紹介されていた。「京浜間職業別電話営業便覧 大正14年版」、国会図書館デジタルコレクションより



202502taimichi6.jpg*人名簿の表紙



202502taimichi7.jpg*人名簿の中身。台紙に切れ込みがあり、そこにカード状の名簿を差し込む形。



202502taimichi8.jpg*創業者が着目したはがきの差出人名欄は、現代でもサイズは変わらない。キングジムの人名簿には、切り取るためのセルロイドの板が付いている。



202502taimichi9.jpg*実用新案登録番号137689号は「人名簿」昭和4年登録。192435号は「ルーズ手帳」というタイトルで、台紙を入れ替えられる金具について。昭和8年登録。



202502taimichi10.jpg*登録年と内容から、おそらく「137689号人名簿」に該当する実用新案。(近年いつの間にか特許データベースで登録番号による検索ができなくなってしまった特許が多く、これも特定できなかった。)



 なお、名鑑堂の人名簿は切り抜き式だけでなく、カードに書き込んでファイルに差し込むタイプも販売されていた。台紙の切込みの形が洒落ていて、見た目が良い。せっかくなので紹介しておこう。

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202502taimichi12.jpg*名簿部分のカードは縦長で、はがきの差出人欄とはサイズが異なる。



202502taimichi13.jpg*台紙の切込みの形が洒落ている。ファイルにはインデックスも付いている。



202502taimichi14.jpg*左:表紙の裏側の紙が剥がれてしまったので、見ると布や紙を貼り合わせて作られており、手作業で一つづつ作っていた当時の様子が想像できる。
 右:手前の人名簿は鋲で止めてあり、台紙の入れ替えはできない。奥(道側)は台紙が入れ替えできるタイプである。

切手葉書帳

 人名簿に続いてもう一つ社史に登場している商品を紹介しよう。「切手葉書帳」だ。実は「切手葉書帳」としては社史では詳しく紹介されていないので、この連載のテーマである「社史に出てくる古文房具」としては少し(かなり??)弱い。それでも紹介したかったのは、社史に出てくる戦時中の商品「郵便セット」につながるものと思われたからだ。
 「郵便セット」は、戦時中に紙や金属の入手が難しくなった時に、金属は無理でもせめて紙だけでも入手しようと考案された商品だ。物資が統制管理されている中、統制品を管理している軍に納める商品を作ることで、紙を手に入れやすくしたのだ。
 兵士にとって家族との手紙のやり取りはとても大事なことだから、葉書や切手を一緒にしまっておけるケースを作れば、軍が採用してくれるのではないか。そう思いついて作られた郵便セットは、ヨミが当たり、軍に採用され、商品を作るための紙を入手できるようになった。
 社史に掲載されている「郵便セット」の写真は不鮮明ながら、これらの切手葉書入れとよく似ている。同じものではないかもしれないが、戦時中という時代背景のもと、商品を作り続けるための工夫に工夫された商品につながるものとしてイメージするには足りるであろう。
 余談だが、戦時中の物資がない統制下、いかに原料を確保し商品を作って売るかについては、メーカーそれぞれの苦労がある。それに代用品として使われたものなども興味深く、いつかそのあたりの事も調べてみるのもいいかもしれないと思っている。
202502taimichi15.jpg*切手葉書帳3種。戦時中に紙を仕入れやすくするために軍に納品した「郵便セット」はこれらとよく似たものと思われる。
 


 「切手葉書帳」という表記は昭和12年頃の記述に出てくる。特許はおそらく昭和8年に登録されている実用新案「手帳型切手葉書入れ」に基づいている。そして戦時中に作られた「郵便セット」は、切手葉書入れの基本構造を改良し、見せ方を変えたものであろう。
202502taimichi16.jpg*おそらく左が一番古く、中央、右と作られた時代が少しづつ後になると推測。(折り目のところに左は実用新案の番号無し、中央は申請中、右は登録番号が印字されている。)



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*切手・印紙を入れる部分。丸い穴が開いており、中に切手・印紙が入ってるかの確認が、外から見てできるようになっている。



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*中央の切手印紙はがき入れにはダミーの印紙が入っていた。名鑑堂の鷲マークデザインで、よくできていて洒落ている。



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*ダミーの印紙を入れたところ。



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*左:右側の切手印紙葉書入れの切手のイラストの写真は創業者だろうか。左:切手入れの裏側は、住所氏名が書き込める。



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*郵便料金表。満州、大連などの地名があるところに時代を感じる。



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*「手帳型切手端書入」の実用新案。

コガネ式ファイル

 最後にもう一つ紹介しておこう。人名簿の説明で、最初は台紙が固定されていたが、入れ替えや追加ができるように改良されたと紹介した。台紙を入れ替えられる仕組みは「コガネ式」という実用新案特許で、この形態にしたことで人名簿がますます人気になったとある。
 金属製の仕組みだが「コガネ」は「小金」ではなく「コ」の字型の金具を使っているところから来ている。実用新案の説明図の「第二図」の金具の形を指している。

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*コガネ式の実用新案特許の図説。登録は昭和8年。



 このコガネ式は人名簿だけでなく当時のキングジムの商品に広く使われていたようで、社史の中に何度か「コガネ式」が出てくる。私は社史を見て初めて「コガネ式」というものであることを知ったわけだが、今回この連載のためにコレクションの中からキングジムの商品を探しているときに、一つのスクラップブックを見つけた。

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*「KOGANE H BRAND SCRAP BOOK」。中に挟まっているものを見ると、昭和22年頃のものと推定される。



 「あれ、KOGANEと書いてある。」
 そう、表紙に「コガネ」と書かれているファイルだ。だが「H BRAND」とあり、どこにもキングジムの旧社名である「名鑑堂」やトレードマークの鷲のマークもない。
 「これは名鑑堂のコガネ式?別物?」と考えているときに目に入ったのが特許の番号で、なんだか既視感のある番号だ。

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 確認すると、やはり人名簿に表示されている番号と同じだ。なるほど!ということは、名鑑堂とはどこにも書かれていないが、どうやら名鑑堂の商品らしい。するとこれも社史に出てくる古文房具に含めていいかな。ちなみに、金具の形を確認したところ、人名簿と同じような「コ」の字型だった。
 「名鑑堂」と表示されていない名鑑堂の商品というのはなかなか珍しい。このスクラップ帳はいつ頃どこで購入したものなのか、全く記憶にないが、これを購入した過去の自分を褒めつつ、社史を見なければ気づくことがなかったわけで、発見できた偶然にも感謝である。

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社史は面白い

 今回はこの辺で終了だ。ちょっとしたきっかけでキングジムの社史を読む機会を得て、中に古文房具が掲載されているのを見つけて連載に書くことにしたわけだが、改めて社史って面白いと思った。創業の経緯や苦境に陥った時の突破力、時代の波に乗った商品や変わっていく時代背景など、熱いストーリーが繰り広げられている。もちろん、社史と言っても各社それぞれ書き方というか、伝えようとしていることは異なるので、一概には言えない。なお、自分としては自分が興味を持っている明治から昭和30年代くらいまでの創業時や戦時中の内容に興味を覚えることが多い。

 キングジム60年史「鷲」は、長年探していてやっと最近手に入れた資料で、中々楽しめた。そういえばもうすぐ創業100周年ではないか。100年史は出るのだろうか。

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*クリップ手帳用のリフィル。これも社史の中で商品が紹介されていた。特許登録番号216590号、昭和30年登録。

プロフィール

たいみち
古文房具コレクター。明治から昭和の廃番・輸入製品を中心に、鉛筆・消しゴム・ホッチキス・画鋲・クレヨンなど、幅広い種類の文房具を蒐集。
展示、イベントでコレクションを公開するほか、テレビ・ラジオ・各種メディア出演を通して古文房具の魅力を伝えている。
著書「古き良きアンティーク文房具の世界」誠文堂新光社
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